「必要となるのが第8属性の炎だとはな……」
「それは……ある意味当然のことではないですか?」
現アルコバレーノを犠牲としない継承方法をチェッカーフェイスと話し合っていた時、彫金師タルボの登場によってアルコバレーノという人柱そのものが必要なくなる可能性が見えた。
それが成立するかどうか――そういう流れだったはずの話は、ユニのこの言葉によって方向を変えたのだ。
全く理解できず見当もつかない、そしてどこかユニらしくないその言葉に、全員の視線が集まる。
「『夜』の持つ属性は恨みや憎しみではありません。夜の闇は眠りの腹。それは明日への英気を養う休息の時。つまり『夜』の真の属性とは、安らぎと回復なのですから。生命力のバランスを補正し生命を育むトゥリニセッテを維持するには、これほど最適な力はないはずです。それとも、後悔しているのですか?」
「何?」
「『夜』の力は、あなたが捨てた、元々はあなたのものでしょう? チェッカーフェイス……いいえ、闇主」
聞き慣れない、名前かどうかもわからない名称でチェッカーフェイスを呼んだ瞬間、ユニの体は宙を舞っていた。
腹部から血を流し、そして全身を炎に包まれた状態で……
一瞬の出来事に誰もが反応できない中、更に混乱させるような事態が起きる。
炎に包まれていたユニの姿が、滝の如く流れ落ちたようにぶれたかと思うと、あとにはいつもの姿があって。
「姫!?」
「大丈夫、無傷です」
「時蛟か!?」
γの腕の中に落ちたユニは、本人の言葉通り一滴の血の跡もない完全な体だったのだ。
何が起きたのか……その答えは、チェッカーフェイスの憎々しげな独白が告げた。
しかし、それすらも新たな疑問を呼び起こすだけのもの。
いくつもの疑問が浮かぶ中、今一番気になるのはチェッカーフェイスの変貌だ。
圧倒的な力の差ゆえの余裕なのか、それまでは感情をあまり表さない淡々とした印象しかなかった。仮面によって表情がわからないから余計にそう感じたのかもしれない。
しかし今は違う。声に明らかに負の感情がこもり、炎に殺気が満ち、余裕が完全に消えてしまっている。
自分の同族だといったユニをあっさり殺そうとするぐらいには……それは、本性を現したと表現できるほどの豹変ぶりだったのだ。
そのチェッカーフェイスの暴挙ともいえる言動は、更に加速する。
「渡さぬ……っ。現アルコバレーノよ、おしゃぶりを返してもらうぞ!! これは私のものだ!!!」
「きゃあっ!?」
「「「 ぐっ!? 」」」
「「「 うわぁっ!! 」」」
「みんな!?」
チェッカーフェイスの宣言と共に、現アルコバレーノたちのおしゃぶりから大量の炎が抜き取られ、チェッカーフェイスの手へと集まっていく。
次々に倒れていくアルコバレーノに、誰も何もできない中、それは起こった。
「不完全ゆえに呪いという形に歪みし輝きよ。完全さを取り戻すため、在るべき場所へ戻れ」
「何っ!?」
静かな声に従い、チェッカーフェイスの下に集まりつつあった炎は行き先を変えた。
倍の速さで集結していく炎の先にいたのは――雲雀だった。イェーガーから受けたはずの傷がどこにもない姿で立つその前に7色の炎は集まり、虹色に輝く小さな球体の形になった。
雲雀はその球体を、あろうことか、大きく口を開けたかと思うとあっさり飲み込んだではないか。
その瞬間、光が雲雀の体を包み込んだ。
ふわり、と。音がしそうな様子で、まず豊かに波打つ金色の髪が光の中から現れた。そして透き通るほどに白い肌のすらりと伸びた腕が現れ、完全に光が消えたそこに立っていたのは、中世ヨーロッパかゲームキャラを思わせる豪奢な衣装を身にまとった見たこともない大人の女性だった。
「光帝……っ」
驚愕に染まるその場で、チェッカーフェイスの憎々しげな声が妙に響いて聞こえた。
光帝、と呼ばれた女性の姿が、ふっと消える。更に驚愕が深まる中で次に女性が姿を現わしたのは――
「コロネロ! しっかりしろ!!」
「心配はいらぬよ」
「何、を……っ」
「呪いを解くだけだ」
ラル・ミルチの前。
自らの指先を切り血の滴るそれをラルの額に滑らせ何かの紋様を描いた光帝は、その上に軽く口付けた。
その瞬間、ラルの体が大きくなり始め、瞬く間に本来の姿へと変わったではないか。
驚くラルが何かを言うより先、光帝は背を向け手をかざした。そこには殺意に満ちた炎をまとう拳を突き出すチェッカーフェイスの姿が。
「おしゃぶりを返せ、光帝!!」
「返すも何も、これは元々私のものだろう。おまえが私から奪ったりなどするから、不完全な形に歪んでしまっていたのだろう?」
「黙れっ!!」
チェッカーフェイスの攻撃を難なく防ぐ光帝の、下へと下げられたままの手から7つの光が落ちていくのをラルは目撃した。
チェッカーフェイスからは丁度死角となる場所での出来事。7つの光の内、6つは地面に溶けるように消え、ひとつは――ラルの目の前、コロネロの体に吸い込まれていく。
程なくして、コロネロの瞼が震えて、目が、開いた。
「コロネロ!!」
「ん? ……ラル!? おまえ、呪い……っ」
「ああ、あの女が解いたようだ」
同じように、他のアルコバレーノの元にも光は届けられ、意識を取り戻していく。
「ん……」
「姫!? ご無事ですか!?」
「はい……これで呪いも解けたはずです」
「……よかった」
意識を取り戻したユニの言葉に、笑顔に。心底安堵するγ。
二人の視線は他のアルコバレーノに、そしてチェッカーフェイスと対峙する光帝へと向く。
「う……っ、生きてるのか、オレは……」
「リボーン!」
起き上がり軽く首を振ったリボーンの首から、復讐者たちのと同じように石化したおしゃぶりが外れ、落ちた。
珍しくも驚愕を露にしたリボーンは、周囲をざっと見渡して状況を確認すると己の生徒を見上げて、問う。
「これは……っ、ツナ、一体何が起きた? あれは誰だ?」
「……ヒバリだ。おしゃぶりから抜き取られた全ての炎の塊を飲み込んであの姿になった。チェッカーフェイスは彼女を『光帝』と呼んでいる」
「こう、てい、だと?」
リボーンの無事を確認した綱吉は、再び目をチェッカーフェイスと光帝に向けて簡潔に答えた。
それ以上のことは、誰にもわからない。知っているのは当人たちだけだろう。
リボーンも綱吉に倣い、凄まじい炎を以って対峙する二人へ視線を向けた。
タイミングよく、チェッカーフェイスが声を荒らげる。
「今やその力はこの世界に完全に組み込まれている!! 貴様が奪えばこの世界は滅びるぞ!」
「その滅びのシステムをこの世界に組み入れたのは、他ならぬおまえ自身だろう? 闇主」
「何を言う!? 生命の生まれていなかったこの世界に生命を誕生させたのが私だ! その力だ!!」
「……『光帝』の司る力は『生命』そのものだからな、その点に間違いはないだろう。しかし、不完全な力の故に歪みをもたらしたのもまた事実。アルコバレーノという人柱を生み出したのも、この世界のためなどではない。おまえがこの力を使いこなすための生贄を求め続けた結果であろう?」
淡々と光帝の口から語られた内容に、ほぼ全員がチェッカーフェイスへ疑惑の目を向ける。
先程チェッカーフェイスが語ったトゥリニセッテ誕生の話と、今の光帝の話……どちらが真実かなど、二人の態度を見れば全員が光帝側を信じるだろう。
だが……『光帝』という存在そのものへの疑惑も残る。元が雲雀だからこそ、その目的が全く見えないから。
とはいえ、この圧倒的な力の差の前に、二人の対峙に割って入れる者など存在しないのも事実。
結局、見守るしかなかった。
「それで、おまえは何を得た? 望みを叶え得たのか?」
「黙れ!! まだだ……っ、まだ手はある!! 何故なら光帝! 貴様が来たからだ!! 貴様の魂を媒体とすれば、その時こそその力は私のものとなる!! 私が!! この世界を支配する『光帝』となるのだ!!」
「……愚かな。例え私の魂を用いたとしても、おまえがこの力を使いこなせるなどということはあり得ぬよ」
静かに双眸を閉ざした光帝は、チェッカーフェイスの攻撃を止めるためにかざしていた片手をぐっと握り締めた。
たったそれだけで、殺気に満ち荒れ狂っていた炎が霧散し、チェッカーフェイスの仮面が粉々に砕けてしまった。
仮面の下から露になったのは――『川平』としての顔ではない。黒髪紅眼……光帝同様、初めて目にする男だ。恐らくはこの顔が、『闇主』と呼ばれる者の姿なのだろう。
「第一、光帝は世界の支配者などではない。そんなことも忘れてしまったのか……」
「おのれ……っ」
隠すものがなくなったチェッカーフェイス――否、闇主の顔は、声同様激情に歪んでいて。どこまでも静かな光帝とのコントラストで、より一層醜く見えた。
と、前触れもなく、再び光帝の姿が消えた。空気から溶け出すようにして姿を現わした先は、倒れ赤ん坊の姿に戻ってしまっているバミューダの傍ら。
「バミューダ。『夜』の力を受け継ぎし者よ。おまえの望みは何だ?」
「――え?」
「まだあの男を倒したいと思うか? それとも……おまえは、どうしたい?」
「あの男からトゥリニセッテの主導権を奪いたい!! あの男がこれほどまでに執着するおしゃぶりを奪い、もう二度とアルコバレーノが生み出されないように夜の炎を灯し続けてやる!!」
「バミューダ……」
「ふっ、流石だな。それでこそ『夜』に属する者だ」
闇主に目を向けたまま、脈絡なく発せられた問いに誰もが首を傾げた。だが、バミューダから返された答えで驚きに変わった。
復讐という名の破滅を望んでいた彼が、まさか新たな犠牲を避けるために自らを捧げるとは……
皆の驚きとは反対に、バミューダを振り返った光帝は実に満足げに笑って。そして彼の額にラルの時とはまた別の紋様を血で描いて口付け、言った。
「バミューダ・フォン・ヴェッケンシュタインよ。己が望むまま調律者としての務めを果たすが良い」
そして、バミューダにだけ告げた。唇の動きだけで。
――行け。器に炎を灯せ、と。
「させぬぞ!!」
察した闇主が光帝へと襲い掛かる。
無防備に晒された光帝の背に、闇主の手が届くかに思われた。だが、まるで見えない壁でも存在するかの如く、ある一点で止められていた。
悠然と立ち上がる光帝の陰で、バミューダはショートワープによりタルボの元へと移動する。それでも闇主の目は、今だおしゃぶりの炎を身の内に宿す光帝にのみ向けられていた。
ゆるりと振り返った光帝は、やはり静かな眼差しを闇主に向けるだけだ。――しかし。
「闇主……まだ、わからぬのか? おまえでは決してこの力を扱うことができぬということが……故郷を滅ぼし、すべての民の魂を生贄として使い捨て、数多の世界にここと同じように滅びのシステムを組み入れて尚、それでもまだ認められぬのか?」
「!? 貴様……何故それを知っている!?」
「おまえが使い捨てた全ての民の魂は私が回収し、滅びのシステムも破壊してきたからな」
「まさか……そのために時蛟と契約したのか!? あのまま国と共に滅びていれば楽に死ねただろうに……狂ったか!?」
「……今のおまえには理解できまい……それが『光帝』の名を冠す者だ!!」
初めて光帝が声を荒らげた。それにより炎とも知れぬ力が一気に広がり、闇主をその力ごと弾き飛ばした。
けれど――何故だろう。その力はチェッカーフェイスの時のように綱吉たちを煽るようなことはなかった。むしろ守られたようにすら感じる、あたたかなものだったのだ。
それは、生命力のバランスを補正し生命を育む力だということを実感するには、充分すぎるものだった。
だが、そんな力とは裏腹に、光帝の目に、声に、覚悟めいた激情が表われる。
「転生先は、実に楽だったよ。おまえが奪っていった力は私の魂の一部も同然。その力が私の魂を引き寄せてくれたからな。お陰で全ての民をおまえの呪いから解放でき、そして今、おまえに追いついた。あとは、おまえだけだ」
「……っ、光帝……っ」
「来い、闇主。全てを終わらせてやろう」
「終わりなど来ぬ!! ここからが始まりだ!!」
光帝の挑発に、闇主が仕掛ける。これで終わると、誰もが思った。
……これまで、明らかに光帝のほうが余裕を持っているように見えた。だから、見守っていた全員が、光帝が勝利することを疑わなかった。
なのに――体を貫かれ、血を流したのは、光帝のほうだったのだ。
何故、と。皆の頭に疑問が浮かぶと、ほぼ同時。二人から離れた場所で、凄まじい炎が噴き上がった。
「おお、成功じゃ。これで夜の炎が途切れぬ限り、二度とアルコバレーノは生まれまい」
「何っ!?」
タルボの声で、例の無人のおしゃぶりが成功したことが告げられた。
闇主が信じられない表情で振り返る。それは当然だ。求めていたはずの力が、既に光帝の中にはなかったのだから。
それがどの段階で為されていたのか、きっと知っているのは光帝のみ。
闇主は無人のおしゃぶりを奪おうと動きかけた。だが、それよりも先に光帝の手が闇主の体を捕らえる。――否、闇主の手で体を貫かれた状態で彼の背に回された光帝の手に、大した拘束力があるとは思えない。側から見る限りでは、ただ抱き締めているようにしか見えなかった。
事実、闇主も力ずくで光帝の体から腕を抜こうとした。――が。
「放せ、光帝!!」
「闇主……今でも私はおまえを愛しているよ……」
闇主の放つ炎が吹き荒れる中、甘く囁かれたその声は、不思議と全員の耳に届いた。
何を馬鹿なことを、と。そう思った者は、決して少なくはないはず。
だが、荒れ狂っていた炎が勢いを弱め、その発生源である闇主はただ大きく目を見開いて。
「へ、いか……?」
まるで眠りから覚めたばかりのような呆然とした闇主の呟きに、光帝は笑みを刻む。
そして――
「第49代光帝の名の下に、第49代闇主の魂が、今より未来永劫何者にも囚われぬ自由な魂であることを宣言する!!」
高らかな宣言と共に、光が闇主を包んだ一瞬後――バンッ、と。大きな音がしたかと思うと彼の体から、黒く淀んだ靄(もや)のようなものが弾き出され、それは時蛟と似て非なるモノへと姿を変えたではないか。
美麗なる時蛟に対し、ソレは怖気立つほどに禍々しい姿だ。
「何だ、あれは……っ!?」
「『虚無』――滅びをもたらすためだけにいる存在だ。あれを放置するならば、この世界もいずれ跡形もなく消滅するぞ。我々の故郷のようにな」
「何モデキルコトナドアリハシナイ……貴様ラ如キ虫ケラニ、何ガデキル!?」
光帝の言葉にソレ――虚無が言葉を発した。同時に黒い靄が勢いよく虚無の体から溢れ、綱吉たちに襲い掛かった。
禍々しく、重苦しい、死ぬ気の炎とは全く異質なそれ。
綱吉を始めとし、ほとんどの者が自らの炎によって何とかそれを防ぐ。
そんな、中……
「ぐっ! ……っ、かはっ」
未だ体を闇主の腕で貫かれたままの光帝が、血を吐いた。もはや死ぬ気の炎を灯すだけの力もないのか、ただ闇主の体を抱きしめ、耐えているだけに見えて。
それを見た者の心に、焦りが生まれる。
――この人を死なせてはいけない、と。心の、魂の奥から湧き上がってきた、ある意味強迫観念にも似た想いは、『光帝』の力によって生まれたものの本能だということを誰も知りはしなかったけれど。
――ドゥッ!
「ヌ……ッ!?」
強烈な炎が黒い靄ごと虚無の体を貫いた。
それは――憤怒の炎。XANXUSの銃撃だった。
「誰が虫けらだと? ドカスが」
「XANXUS!?」
「そーそー♪ ヘビに虫とか言われたくないな♪」
「白蘭!?」
「う゛お゛ぉぉいっ! 借りは返すぜぇっ!」
「スクアーロ!? 無事だったのか!?」
イェーガーに深手を――致命傷を負わされていたはずの三人が、無傷のままで臨戦態勢に入ってきて……光帝は血で濡れた口許に笑みをはく。
「できるさ……滅びを凌駕するほどの生命の輝きこそが光帝の力であり、それはこの地の子らに死ぬ気の炎という形で受け継がれている。私の力そのものもトゥリニセッテという形で受け継がれた。おまえが闇主を使ってまで永きに渡り消そうと試みて消せなかった力……唯一おまえの存在を打ち消せる力を、この者らは持っているのだからな!」
「オノレ光帝……ナラバ、貴様ノ肉体ヲ器ニシテ、内カラ滅ビヲ与エテクレルワ!!」
「させるかよおぉっ!!」
光帝へと向かった虚無は、スクアーロによって止められた。
その隙に、戦う力のある者が全て己の最大の炎でもって一斉に攻撃を繰り出した。
光帝が言った通り、死ぬ気の炎は虚無の体を、黒い靄を全て飲み込むようにして燃え上がり、あっという間に虚無の姿を消し去ってしまった。――だが。
――無駄ナコトヨ……我ハ消エヌ。我ハ虚無。滅ビソノモノナリ。イズレ、全テノモノハ我ガ内ニ還ル定メナノダカラナ……――
まるで頭の中に直接響くような虚無の声が、不吉な影を落とす。
本能的に不安にさせるようなそれを打ち消してくれたのは、対極に在る光帝の言葉。
「滅びは終わりではない。生命は滅びを通して更に力強く継がれていくものだ。完全なる虚無の世は決して訪れはしない」
虚無からの答えが返ることはなく、皆の心からも不安は消え、事態の終息がやっと見えた。
誰からともなく、視線は光帝と闇主の元に集まる。
闇主の体は――端から砂化して崩れてきていた。
「……光帝、陛下……申し訳、ありません、でした……っ」
「良い。対でありながらおまえの異変に気付けなかった私とて同罪だ。そうだろう?」
「陛、下……っ」
「もう、良いのだよ。全て終わったのだ。ゆっくり、休もう……」
あの憎しみに満ちた様子が嘘のように謝罪を口にする闇主。状況から見て、先程の虚無にとり憑かれて操られていたのだろう。
彼を許し慰める光帝も、ひどく穏やかで……
完全に砂になって空へ舞い上がっていく闇主と共に、光帝の姿もまた光の粒子となって消えていった。
あとに残ったのは――光帝の時と同じ傷を負ったままの、、だった。
そのの体が、ぐらりと傾ぐ。反射的に駆け出した綱吉がその体を抱きとめた。
「ヒバリ! しっかりしろ!」
「沢田、オレに任せろ! 漢我流!!」
「……晴れの炎だけでは間に合いません。内臓まで傷付いてしまっては、幻覚で一時的にでも内臓を補わなければ……できますか、マーモン」
「誰に向かって言ってるのさ、風(フォン)。癪だけど、コイツには今回、命を救われた借りがあるからね。特別にタダでやってあげるよ」
――無駄だ――
傷の手当てにそれぞれが動き出していた中、それは唐突に響いた。
の体を覆うようにして霧が立ち込め、その中に透けて時蛟の姿が現われる。
虚無と似たその姿に皆が驚愕し、警戒しかけた時、の目がうっすらと開いて。
「……っ、ミヅチ……っ、契約、は……?」
「目的を達して尚、おまえの魂の輝きは衰えぬ。契約は生きている。再び別の世界へと生まれ出よう」
「そう……っ、なら……その、時、を……楽し、み、に……する……わ……」
「ヒバリ……っ、! !? 目を開けろ!!」
時蛟だけを見上げ、荒い呼吸の下で何とか言葉を発していた。その呼吸がふぅ、と静かになり双眸も固く閉ざされる。
目の前で名を呼び頬を叩いてみても反応は返ることはなく――代わりにあったのは。
「沢田綱吉。願いがあるなら疾(と)く紡げ。我がこの地に留まれるのも、残り僅かだ」
無情な、宣告だった……