第 2 話
戦利品

「へぇ~、割と大きいのね。ここなの?」
「……多分な」
「彼らはゼラムから来たと言っていましたし、王都のほうが安全ですから」
 翌日、双子に案内された場所。聖王都ゼラムというこの国の要となる町にて。
 写真や映像で見た外国の街並みによく似ていて、ゆっくり観光していきたいところだが、そういう場合ではない。
「とりあえず、約束果たさなきゃねー」
 呟いたの言葉に、自分たち以外のものも含まれている気がして疑問の眼差しを向けてくる二人。気付いたはこれまたあっさりと返す。
「あたしもあの子に約束したのよ。あなたたちを無事に送り届けるって。一人足りないけどね」
 そんな会話を交わしつつ街中を歩いていた三人。……まあ、双子の格好が格好なだけに自然と人気の少ない所に足は向くのだが。
「……さて、どうしたものかね」
 工事中とおぼしき場所に来た三人に声が掛かった。ある意味天の声。
「あー! おまえらー!!」
 やたらとでかいその声に振り向くと、身長もかなり大きい一人の男。
「あ、テメエは!?」
「よお! 生きてたか!」
 どうやら知り合いに出逢えた模様。
 そのまま三人は、これまた大きな邸宅へと導かれた。


 不安に押し潰されそうだった。
 炎の中に残してきてしまった大切な家族と、彼らを守ると言ってくれた会ったばかりの少女。
 自分を守り、ここまで導いてくれた優しい人たち。
 守られているだけの自分が辛くて。彼らの無事を祈ることしかできないのが歯痒くて。
 自分を連れ去るためだけに村人を殺したあの黒い兵士たち。
 自分の所為で誰かが傷付くのが嫌で……
 自分の中に膨らんでいく黒い、昏(くら)い感情に呑み込まれてしまいそうだった。
 でも、それをわかってくれた人がいた。励ましてくれた。
 だから信じようと思った。
 今の自分にはそれしか出来ないから。
 自分を励ましてくれた彼らの言葉を、迎えに来ると言った家族を。そして何より、不思議な温かさを持っていたあの黄金の瞳の少女を……信じようと。
 思った矢先の出来事。
 鮮やかな朱色の髪の少女が振り返った。
 昨晩の……あの炎の中で別れた時と同じ笑顔で。
 ほんの少し悪戯っぽく微笑むと、紳士のように優雅に礼をしてみせて言った。
「約束の品、お届けに参りました」
 そうして示された先には、見慣れた二つの顔。
 傷だらけではあったが、それでも二人は優しく自分を待っていてくれた。
「よかった……二人とも、無事で……」
「心配かけたね、アメル」
 そう言ったロッカに笑顔を見せ、それから朱の髪の少女に頭を下げた。
「本当に……ありがとうございました」
「……顔、上げて?」
 少し沈んだ声が聞こえて顔を上げる。そこには声と同じように沈んだ表情があった。
 少女はアメルを抱き寄せるように肩に手をまわし、別れ際と同じく額を合わせてきた。
「ごめんね。一人足りなくて……でも三人の中では一番軽傷だったし、黒騎士の手にかかってないのは確かだから……生きてはいるよ。大丈夫……」
「……いえ、二人を無事に連れてきてくれたことだけで充分ですから……ありがとうございます……本当に」
 それから、家主にも促され、二人の手当てのために家の中へと入っていった。


 双子の手当ても済み、一通り自己紹介も済んだ応接室。
 話題は当然『どうやって逃げてこれたのか』になる。そしてやっぱり返答を求められるのはになるのだが……
「周りが炎じゃなきゃ、最後までやりたかったんだけどねぇ……とりあえず蹴り飛ばしてきたよ」
 双子に答えたようにあっけらかんと言うに、やはり一同呆れ返ってしまう。
「……そもそも君は何者なんだ? 何故空から落ちてきた?」
「自分の置かれている現状を全く理解していない人間に、状況説明求められても困るんだけど?」
 ネスティの問いににっこり笑って答えた後、は表情を一変させ片手を軽く上げる。
 何だ? と一同に見守られる中、溜息と共に言葉を洩らす。
「その話、聞きたいのは山々なんだけど、その前に謝らなきゃいけないみたい」
「…………何を?」
「案の定って言うか……余計なお客さんも連れてきちゃったみたいなんだよね」
 窓際から外を窺ったフォルテの舌打ちが聞こえた。
「そのようだな。団体さんがおいでだぜ」
「やっぱりあの時追手がいやがったのか!?」
 怒鳴るリューグに悠然と答える。
「風が変わったのは本当よ。その直前に妙な気配を感じたんだけど、その後見事に気配消してくれちゃったものだから、ほっといた」
「ほっといたって、テメエな……!」
「あのねー。戦力外の怪我人二人も抱えて、数も実力もわからない相手に突っ込むほどあたしは馬鹿じゃないの」
「まあ、適切な判断だろうな」
「それより、これからどうするの?」
「幸い、向こうはこちらが気付いていることを知らない。私が行って注意してくることにしようか」
 穏やかな中に、どこか不敵さを含んだ笑みでギブソンが言った。
 彼の相棒は心得たように申し出る。
「じゃあ、私はこれからアメルちゃんを連れてお散歩してこようかな」
「裏口からだぞ」
「わかってるわよ。ケイナさんもどう?」
「行って来いよ。オレは旦那の護衛で忙しいからな」
「うん……わかった」
「トリスも行くんだ。マグナ……君も」
 兄弟子の言葉に対し、二人の反応は正反対のものだった。
「俺はここに残るよ。ハサハはトリスと一緒にアメルを守ってあげてくれ」
 小さな妖孤はこくんと頷き、トリスのほうへ駆けて行く。
 トリスは代わりとばかりに自分の護衛獣に言った。
「じゃあ、バルレルはここでみんなを手伝ってあげて」
「ケッ……しょーがねえな」
 ……って言うか、護衛獣を交換する意味はあるのか? という疑問は、まだこの世界についてよく知らないには言いようのないことだったが。
 残りは三名。
 はもちろん残る気満々で、誰も止めようとはしていない――もとい、できないでいるのはいいとして、問題の双子は……
「俺は残るぜ。あいつらが村を襲った連中の仲間ならただじゃおかねえッ!」
「よすんだリューグ! 僕たちが出て行ったら、あいつらの思うつぼじゃないか?」
「今更関係ねえだろ! 兄貴はアメルんとこ行けよ……俺はゴメンだがな」
 二人のやりとりを聞いていたは声を立てて笑った。
「あなた早死にするタイプだね~!」
「なんだと!!」
「言い争っている時間はなさそうだ。連中が動き出したぞ」
 ギブソンの言葉を口火に、それぞれが屋敷の外へと出た。

 外で待ち構えていたのは金髪の色白美人。
 ギブソンと言葉の駆け引きをしている彼の手元を見て、
「あっ」
 小さく声を上げたを、近くにいたリューグとネスティが同時に振り返り……怪訝な顔をする。
 ――宝物を見つけた子供のように、嬉々として瞳を輝かせていたから。
 それを訊ねるよりも先に先方が叫んだ。
「総員、行動開始! 速やかに対象を確保せよ!!」
 そして両者が動き出す中、奇妙な動きをしたのはもちろん
 片手を元気よく伸ばし、仲間に告げる。
「あたし、あの金髪の人が持ってる槍が欲しい!!」
「……は?」
「と、言うわけで、行ってきます!」
 突飛な発言に固まってしまった味方をすり抜け、は敵陣へ踊り出た。
 単身向かってくる少女に、もちろん攻撃の的は集中する。それを流れるような動きでかわし続け、ついでに通り抜けざま数人に手刀というお土産付で、見事目的の人物の前まで辿り着く。そのまま突っ込んでいくを迎え撃つべく薙ぎ払われた槍は空を切っただけで。攻撃対象であった彼女の体躯は、高く宙を舞っていた。
 疾風の如く走り抜けたにお土産をいただいてしまった兵が倒れるのと、が目的の人物の真後ろに着地を決めたのは、ほぼ同時だった。
 あまりの早業に、その場にいた全員が――動きを、止めた。


「……いい。こいつの相手は僕がする」
 近くにいた一人の兵が、我に返り少女に向かっていこうとしたのを、イオスは制した。
 彼の言葉に、各々役目を果たすべく動き出した、その只中。動かないのはイオスと
 イオスは知っていた。目の前の少女を。
 昨晩、炎の村で自分の上司と互角に渡り合っていたこの少女を。
 イオスは……見ていた。
 あの光景を思い出し、静かに口を開く。
「僕の名はイオスだ。おまえの名は?」
 昨晩と同じ問いに驚いたのだろうか、一瞬目を丸くした少女は次の瞬間には笑って、言った。
「あなたも騎士? ひょっとしなくてもルヴァイドって人のお仲間かな?」
「……おまえの名は?」
 余計な情報を与える気はないので、同じ言葉を少し強い口調で繰り返した。
 それを気にした様子もなく、少女は笑顔のまま答える。
、よ」
 言って剣を構える。
「あたしね、あなたの持ってる槍が欲しいの。だから……」
 笑顔を不敵なものに変え、更に瞳に鋭い光を宿して、は地を蹴った。
 直後、響き渡る金属音。
(――速い!)
 イオスの驚きを余所に、は自分の目的を告げる。
「その槍、もらうわね」
「……ッ、それは、僕に勝ってから言え!」
「もちろん」
 鋭いイオスの突きをしなやかな動きでかわし、一気に間合いを詰めようとする
 それを読み、距離をとって自分の間合いを保とうとするイオス。
 まるで舞いを踊っているかのような二人の戦況に、一人、また一人と動きを止め、ついには敵も味方も、全ての人がその戦いに見入ってしまっていた。

(何故……)
 イオスは思った。
 何故この少女がルヴァイドと互角に渡り合えていたのか、と。
(速さは確かに少々厄介だが、追えないこともない……力とてたかが知れている……)
 何より致命的な欠点がにはあった。
 無意識か故意か。攻めに転じる一瞬、剣を握っている手が僅かに緩むのだ。
 まるで何かを恐れているような……戸惑いを感じ取れた。
(所詮は、戦場を知らない只の武芸か……)
 ルヴァイドとやりあえていたの実力に興味があったのだが……イオスは心の中で溜息を洩らし、気持ちを切り替えた。
 自分にはやらねばならない任務がある。これ以上時間をかけるわけにはいかない。
 が攻めてきたその瞬間、イオスは全てを終わらせるために動いた。
 高い金属音と共に、の手から剣が離れた。
 勢いを殺さずに繰り出される第二撃。

 これで、終わる――はずだった……

 しばらく、イオスは何が起きたのか把握することが出来なかった。
 目に映るのは整えられたレンガ。腹部には鈍い痛み。嘔吐感。
 視線を上げてみれば、自分が繰り出した状態のままの槍を両手で挟み込むように持ち、片足を上げたままのの姿――


「……ぐっ……!」
 イオスが地面に片手をついたところでは我に返った。
「やだ、ちょっと、大丈夫!?」
 奪った槍を放り投げて駆け寄り、イオスの前にしゃがみ込んだ。
「ごっめーん。つい本気で蹴っちゃったよ~」
 顔を上げたイオスは痛みのためか怒りのためか、歪んだ表情で睨んできた。
「……貴様……今まで、手加減していたな……ッ」
「うわっ。言いがかり~。剣との相性が悪かっただけで手、抜いたわけじゃないもん」
「『つい、本気で』と言っただろう……ッ!?」
「蹴りはね。反射だけで動いてたから完全無意識。……ってか、本当に大丈夫なの?」
「……ッ、何故自分が倒した相手の心配をするんだ!?」
「そりゃするよぅ。女の子はお腹大事にしなきゃ。子供産めなくなっちゃうじゃない」
 ピシッ。と音が聞こえそうな勢いで周囲の空気が凍りついていた。
 止まっていた者たちの中、幾人かが肩を震わせていたりしたが、幸いそれは二人には気付かれなかった。
 爆弾発言を投下された本人はというと……低い――恐らくは自分が出せる中で一番低いであろう声で、怒りも露に一言。
「……僕は男だ……」
「あ、そうなの?」
 向けられた怒りもさらりと流しては笑った。
「そんな色白で綺麗な顔して、細い腰してたら、充分女の子に見えるよ」
 全身怒りオーラを発しているイオスに向けて手を伸ばしかけ、止めた。
 側頭部に固い感触。
 目だけそちらに向けてみて……居たのは黒い機械兵士。
「……ゼルフィルド……」
 イオスの声を聞きながら、は笑みを絶やさず言った。
「この人の仲間? 別にもう何もしないよ」
 先程伸ばしかけていた手をそのまま先へ進め、ぽんっとイオスの頭を軽く叩いた。
 何もしないのではなかったのか? と、観客と化した人々が思ったかは謎。
「うっわ~……髪の毛サラサラ~。うらやまし~」
 呟きながらイオスの髪を弄ぶに、銃口を突きつけられている自覚はあるのかと問いたそうな空気が充満していた。
 そんな空気もも完全無視でゼルフィルドが妙に響く声を発した。
「撤退スベキダ、いおす。コノ騒ギデハ、ジキニ王都ノ兵士タチモヤッテクル」
「…………やむを得まい」
 苦々しく呟くと、それでも声を張り上げた。
「総員、撤退する!」
 号令と共に我に返った兵士たちが引き上げていく中、イオスも自力で立ち上がろうとするが、動くことは出来なかった。
「あぁ~、だから無理しないほうがいいって! ねぇ、この人多分しばらく動けないと思うから、持って帰ってくれる?」
 その言葉に従ったわけではないだろうが、ゼルフィルドはイオスを片手で抱え上げると、そのまま走り去った。
 少々情けない隊長の姿を見送り、は先程放り投げた槍を拾い上げた。
 二、三度振り、構えて満足げに微笑む姿に、仲間たちはもう何も言えなかった。



「あははははは――――――!!」
「わっはっはっはっ!!」
 王都の兵も帰った後の応接室に盛大な笑い声が響いていた。
 声の主はミモザとフォルテ。他にも口元を押さえている者や肩を震わせている者もおり、数人はそんな彼らに呆れ果てていた。
 笑いの種は、もちろん先程のの爆弾発言。
「たっ、確かに、女に見えるけどなっ……くくっ」
「言わないよねー、普通! って言うより天然!?」
 未だ笑い続ける二人を無視し、ネスティが問う。
「……にしても……何故いきなり槍が欲しいと言ったんだ?」
「ん? 一目惚れ」
 にっこり笑って手の中の槍を示す。
 ミモザ・フォルテ以外の全員が『槍に?』とはっきり顔に書かれているような目でを見た。
「ん~、あとは……あたし槍のほうが得意だったし……ぶっちゃけ、剣って使ったことなかったのよね」
「なっ!?」
「ってか、剣なんかなかったし。あったって銃刀法違反になるし」
「……は?」
「こっちの話~♪」
 至ってマイペースなに皆(ミモザ・フォルテ以外)脱力する。
「……たく……テメエこそホントに女かよ……」
「失礼な。こんなに立派な胸があるじゃない」
 毒づいたリューグには胸を迫り出してみせる。
 ミモザといい勝負な感じのそれを見て、数名の女性陣が溜息を洩らしたのは……また別の話。
「そういう問題じゃねぇ!! もっと女らしくできねえのかって言ってんだ!!」
 がなるリューグに対し、笑顔を向けて近付く。
「リューグ」
「なっ……なんだよ」
「うりゃ」
 小さな掛け声を発し、はリューグの頭を抱え込んだ。当然、リューグはの胸に顔を埋める結果となり……
「んなッ!? は、放せよ!!」
「これでもあたしが男だって言えるか?」
 みっともなく暴れるリューグを余裕綽々と押さえ込む。そんな二人を見て、ようやく笑い終わったフォルテが「うらやましい奴……」と洩らしてケイナからの拳をいただいていたり。
「わかったから、放しやがれ―――――!!!」
 リューグの絶叫が屋敷中に響き渡った。
「思い知ったか」
 ようやく解放され、赤面でぜーぜー言ってるリューグに降りかかるこのお言葉。これにリューグが反論しないわけはなく、を睨みつける。
「テメエには羞恥心ってもんがねえのか!?」
「リュ~グぅ~? 窒息死、させて欲しいの?」
 いっそ無邪気な程の笑顔では自分の胸を指差す。
 解釈『さっきのグレードアップ版を喰らいたいのか、おまえは』 。
 百歩譲って黒騎士の野朗に殺されるならまだしも、女の胸で窒息死なんざ末代までの恥!! ――というリューグの心の叫びが他の者に聞こえるはずもなく。引きつった顔でじりじりと後退る彼の姿を一同冷たい眼差しで見ていた。
「……まあ、とりあえずしばらくはここを拠点にするといいよ」
「先輩命令ね。わかったかな? 後輩クンたち?」
 ギブソンの有難い申し出とミモザの先制攻撃に反論する者もなく決定した。
 残る問題は――
「……で、ロッカたちはどうしたい?」
「僕たち……ですか?」
「んなもん、聞くまでもねえだろ。相手が何だろうが構やしねえ。全員ぶっ殺してやるだけだ!!」
「そんなことできるわけないだろ。僕たちじゃ、あいつらには敵わない。それがわからないのか!?」
「じゃあ、どうしろって言うんだよ!? 泣き寝入りしろってのか!?」
「それで争わずに済むのなら、そうすべきだ」
「つくづく……! テメエって野朗は!!」
 言い争いから殴り合いの喧嘩に発展しかけた双子の間を、槍が掠め飛んだ。
 双子を止めようとしていたマグナやトリス、アメルのみならず、傍観していた面々も目を丸くして……数名蒼い顔をして壁に刺さったままの槍を見、そしてそれを投げた人物へと目を向けた。
「そこまでにしといたら? アメルが悲しんでるよ」
 本人は涼しい顔でそう言い放つ。
「テッメエ……! なら、テメエはどっちにつくんだよ!?」
「……さんはどちらが正しいと思いますか?」
 双子に問われ、その場に居る全員に答えを待つような眼差しを向けられて、は溜息を吐いた。
「あのさ、聞く相手、間違えてない?」
 座っていたソファーから立ち上がり、双子のほうへゆっくり歩いていく。
「あたしはあの村に居なかったんだよ? だからあなたたちの怒りも悲しみも……憎しみも……あたしにはわからない。何も知らないあたしが何言ったって、あなたたちの気持ちは変わらないでしょ? だったら、それぞれが一番に望むことをするのがいいと思う」
 話しながら、は双子の間を通り抜けて、壁に刺さっていた槍を引き抜いた。そのまま、誰のほうを見ることもなく言葉を続ける。
「ただね、降りかかる火の粉は払わなきゃ火傷するし、過ぎた炎は自分だけじゃなく周囲の人をも焼き尽くすものだって言うことは覚えておいたほうがいい」
 の言葉に、誰も何も言えなかった。
 何か……すごく重いものがその言葉にはあったから。
 重苦しい沈黙の中、はまた歩き出す。出入り口の前まで行き……動きを止めた。
「それとね、リューグ。『殺す』なんて軽々しく言うものじゃないよ。例えどんな悪人にだって、その人のことを想っている誰かがいるんだから……」
 それだけ言うと、は応接室から出て行った。
 明るく飄々としていたの発した重い言葉に、少なからず彼女の抱えている何かを垣間見た気がしていた。
 それぞれが彼女の言葉を受け止め……そして対を成す者の片割れが、ある決意をした。

「……ロッカが?」
「うん。アメルのおじいさん、探すって……」
 報告に来てくれたトリスの言葉には目を細めた。
「……ってことは、リューグが残ったってことよね?」
「うん」
 先程の……応接室での真剣さはどこへやら。『にへっ』と形容するに相応しい笑みを浮かべて独り言。
「じゃあ、しばらくはリューグで遊べるなァ……」
 これを聞いたトリスは、どっちが本当のなんだろうと思っていた。
 そして、同時刻。リューグの背には冷たいものが走っていたとか。


 本日の戦利品。
 イオスの槍と、当面のオモチャ、リューグ。