人が感じた痛み――それは当人以外には、推し量ることしかできないモノ。
けれど、似ていると……そう思ったのだ。
一昨日の雨の名残もすっかり消えた街道を、アメルの祖母がいるという村を目指して一路北上する一行。
その中程を、仲間を気にしつつ進んでいるネスティへと、はさり気なく近付く。
「ネスティ、平気?」
囁くように、ただ前を見たまま問いかけた。
ネスティは、一瞬だけこちらに目を向けてきて。
「ああ、問題ない」
主語のない問答。二人だけに通じる会話……互いだけがわかればいい内容。
それは、他のものには気付かれたくないモノだから。
余計な心配を掛けたくないという思いと、今はまだ知られたくないという恐れ。相反するようなそれらを抱える苦しさを知っているからこその、声量と言葉。
のその気遣いに気付いているネスティの顔は、本当に穏やかなもので。
安堵を覚えた、刹那――
「なんだか、二人だけいい雰囲気~」
「、ネスと何話してるんだよ?」
双子召喚師、トリスとマグナが乱入してきた。
「別に大したことじゃないよ。もう随分歩いてきたわねって話してたの」
特に取り乱すこともなくいつもの調子で、先程とは全く関係のない、それでいて現状に差し支えのないことを口にすると、ネスティもいつもの仏頂面に戻してそれに合わせてくれる。
「ああ。それにしては一向に村は見えてこないな、と」
「そういえば……このまま進むと森の中だね」
誤魔化しを素直に信じてくれたらしいトリスが、前方を見つつ言った。ネスティは地図を取り出して、方位磁石と見比べて。
「方角は間違ってないはずなんだが……」
「なら問題ないなーい。そのうち見えてくるだろうって」
「そうね……あたし的イメージは『村』イコール『森の中』。レルムの村も森に囲まれてたし」
お気楽なフォルテの後を肯定的意見で続けてみれば、一同納得顔。ぽむっと手を打つ者もあれば、少し上を向いて記憶を探る者もあり。レルム組みは焼き討ちされる前を思い出しているのか、懐かしいような、それでいてどこか苦しげな表情を垣間見せている。
ともあれ、ネスティのことは綺麗さっぱり忘れてくれたので、次なる問題は村探し。
一行は今、北東へ続いていた街道の終着点、すなわち森の入り口で歩みを止めている。
森の中に村がある。それは別にいい。問題は、森のどこに村があるのか、だ。
冒険者であるフォルテが一通り森を見ていたようだが、道らしきものは――獣道すら――なかったようだ。
どれだけの規模なのかも把握できない森の中、目標となる物がないのはかなり痛手なのだが……
「アメル、その村には目印になるようなものはないのか?」
「ごめんなさい、そこまでは……」
頼みの綱は切られた模様。それを口悪く言ったバルレルが、召喚主に思い切りゲンコツを喰らっていたのは割愛して。
「そうなると、この付近を一通り回ってみるしかないか」
皆の心を代言したネスティの意見を皮切りに、誰ともなく森へと踏み込んでいった。
手分けしたほうが効率的なのは誰の目にも明らかで、誰が何を言わずとも自然にいくつかのグループに分かれていた。ただし、はぐれたりしないように一グループを中心に見える範囲で、だったが。
その中心グループになっていたのは、守られる立場であるアメルと、目印として最適な朱髪の持ち主、。
周囲に散らばる仲間を気にしつつ村を目指していると、不意に誰かに手を握られた。確認するまでもなく、それは隣にいたアメルで。
「さん……なんだか、あたし不安です……」
ぽつりと呟くように言葉をこぼしたアメルの手を、は少し力を入れて握り返す。
「何に対しての不安?」
「おばあさんの、ことです……」
森に目を向けたまま問い返せば、アメルは俯いたまま答える。とても、弱い声で……
目を合わせないまま交わされるその会話は、先程のネスティのものと似ている。――否。おそらくは、同じ想い。
他の者には心配を掛けたくない……けれど一人では不安を抱えきれない。
そんなアメルの心が見えるようで、はただつないだ手だけで彼女に応える。
「あたし、おばあさんの顔も……名前すら知らないんです。村が見つかっても、本当におばあさんに会うことができるんでしょうか……今まで会ったことのない孫娘のあたしを、本当に受け入れてくれるんでしょうか……?」
不安を全て口にして、アメルはきゅっ、と手に力を入れる。少し汗ばんできているその手が、彼女が今、言葉を欲していることを物語っている。
は、ふっと肩から力を抜いて。
「その時はその時ね」
さらりと返した。
投げやりとも言える言葉にアメルが戸惑っているのがわかって、笑って彼女のほうを向いた。
「血のつながりがあったって、結局は自分以外は『他人』だからね。誰が何を考えて生きているかなんてわからないものだよ。現に、離れて暮らすことになった事情をアメルは知らないし、向こうも今のアメルの現状を知らない。当たって砕けるしかないんじゃない?」
「それは……そうかもしれません、けど……」
「そう不安がることはないと思うけど? しっかりした後ろ盾があるんだし」
言いながら、視線を周囲に向ける。条件反射のように倣うアメルの目に映る、村を探す仲間たちの姿。
の言いたいことを察したらしく、不安さのなくなったアメルに、それでもはっきりと告げてあげる。
「砕けた時は砕けた時で、また別の道を考えればいいだけのコト。あなたは、一人じゃないんだから」
「――はいっ!」
やはり、言葉の持つ力は強い。
途端に笑顔を取り戻したアメルを見て、そう思った。
「ねえ、みんな! あそこから昇ってるのって、煙じゃない?」
グッドタイミングというべきか、少し離れた位置から聞こえてきたトリスの言葉に、二人は顔を見合わせて笑いあったあと、期待に胸を膨らませて声のした方角へと走った。
――その期待が裏切られることになろうとは、この時誰が予想できただろうか……
辿り着いたその先、少し開けたそこには、一軒の家と小さな畑がある他は、森しかなかった。
『村』とは程遠いその場所で、ひょっこりと現れたのはオレンジ色の丸っこい生物。
「へっ、召喚獣?」
こちらに気付いたその召喚獣は、驚いたように急いで家の中へと入っていった。
「今のはサプレスの召喚獣だったな。おそらく、この家の主人の護衛獣か何かだろう」
ネスティの推測は疑問を呼ぶ。
今現在、ほとんどの召喚師が派閥に属する中、何故こんな人里離れた森の中にいるのか。『村』を庇護している召喚師なのか。
疑問も推測も、当人から聞けば済む話、と。割り切った彼らの前に姿を現したのは、男性陣は目のやり場に困りそうな衣装の若い女性で。
「アフラーンの一族が、古き盟約によりて、今、命じる……」
こちらが何かを口にするよりも先に、現れた浅黒い肌の女性は静かに威厳に満ちた言霊を紡いだ。
その言葉と、それに呼応して密度を増す魔力に、召喚師組が顔色を変える。
「呪文の詠唱だと!?」
「みんな、散って!!」
「来たれっ!!」
トリスの指示と女性の詠唱が重なり、一泊遅れて光と共に何かが降り注ぐ。
すさまじい爆音と砂煙のおさまったそこには、光り輝く五本の剣が深々と刺さっていた。――そう、つい数秒前まで、自分たちのいたその場所に。
「あ、あぶねぇっ」
「危ないどころじゃないわね。殺す気満々?」
蒼ざめる一同の心を代言したのは、レナードと。
冷や汗を流しつつ焦りを露にしているレナードに、目を眇(すが)めただけで至って冷静なと、全く正反対の反応だが、向こうさんにはそんなことはどうでもいいらしい。
「うそ、外れた……?」
吃驚の言葉からも、仕留める気満々だったのが窺える。
黒の旅団以外に、初対面の人間に襲われる覚えはないのだが。一体何がしたいのか、この傍迷惑娘は。
「いきなり何するんだ、君は!?」
蒼ざめたまま送還された光の剣を見送ったマグナが大声で訊く。
どんな理由かと身構えていた一同に、次の彼女の言葉はある意味最大級の衝撃を運んだ。
「お、お黙りなさいっ、悪魔の手先のくせに!」
一瞬、その場が沈黙に包まれた。非常に不可解且つ微妙な気まずい沈黙。
「……はい?」
真っ白になった思考のまま問い返したトリスに、けれど女性は一人息巻く。
「とぼけたってダメよ。ルウはちゃんと知ってるんですからね。キミたちが禁忌の森に封印された仲間の悪魔を解放して、悪いことをしようと企んでるってことを!」
仲間の悪魔って……どこをどう見たらこちら側が悪魔に見えるのでしょうか、彼女は。まあ、一人悪魔はいるが、このちびっ子の手先になった覚えは――誰にもなかろう。
「誤解ですっ! あたしたち、そんなことしに来たんじゃ……」
「そうだよ。俺たちはちょっと道を聞きたかっただけ――ってえ!?」
アメルとマグナの説得も空しく、二発目の召喚術投下。
「だまされるもんですか! そうやって油断させるのが、キミたち悪魔の得意技だもの」
全く聞く耳を持たない状態に、は嘆息して近場にいたネスティに問いかける。
「ネスティ。確か召喚術って、集中力がなくなったら使えないのよね?」
「あ、ああ……その通りだが……」
何をする気だ、と。そう問う鋼の瞳に、挑戦的な笑みを返して元気よく片手を挙げた。
「二度と悪さができないように、ルウが懲らしめてあげるわ!」
「はーいはいはい! あなたに提案!」
いつぞやの槍が欲しい発言よろしく、びしっと挙手を決めたには流石の女性――ルウも呆気に取られた模様。
一瞬ぽかんとしたあと、気を取り直してを見る。
「な、なに?」
「あたしと一対一(サシ)の勝負をして、あなたが勝ったらあたしたちはこのまま森を去る。あたしが勝ったらこちらの要求を聞いてもらう――ってのは、どう?」
相変わらずの突飛な発言に、免疫のない面々はどう反応していいのかわからないまま固まり、慣れているものたちは揃って溜息をついた。
その反応が面白くて仕方がない。
くすくす笑っていると、ネスティが近付いてきて……
「君はバカか!? どうしてそう、いつも一人で突っ走るんだ!」
「被害も疲労も最小限が一番でしょ?」
「精神的疲労が溜まりすぎるんだ! 君の場合は!!」
「それはネスティが神経質なだけ」
「君の行動に問題があるんだ!」
「あらいやだ。それって信用がないってコト?」
いきなり始まった口論は、ネスティが言葉を詰まらせたことであっさり終了。まだ何か言おうとした彼を弟妹弟子が押さえつけたのが決定打。
ようやく静かになったところで、返答を聞くべく向き直って。
「受ける?」
「キ、キミたちが約束を守る保証は……」
「怖いの?」
にやり、と。意地の悪い笑みで挑発してみれば、案の定頭にきているようで。
「な、なにが!?」
「召喚師であるあなたが、使役するべき召喚獣(悪魔)に負けることが」
「怖くなんてないわ!!」
「じゃあ、自信がないんだ。何なら、あたし武器なしで行ってあげようか?」
駆け引きを成功させるコツは、自分のペースに持っていくこと。もしくは相手のペースを乱せるだけ乱すこと。
の読み通り、駆け引きにも――人間と悪魔の見分けができないあたり、召喚師としても未熟だと思われるルウは、簡単に怒ってくれた。
「いいわよ、やってあげるわ! ルウを怒らせたこと、後悔させてあげるから!!」
「じゃ、行ってくるから、みんなは下がってて。あと、コレよろしく!」
召喚術が発動する前に仲間たちに注意を促し、ついでに己の得物である槍を、危険回避のため既にネスティから離れていたマグナに投げ渡して地を蹴った。
三度目の召喚は時間差で来た。五本の剣がバラバラに降ってきたのだ。それを紙一重で全て避け切って、勢いを殺さずルウの前まで一気に進む。
召喚師は接近戦には弱い、と。そう言われているが、なかなかどうして。彼女はその欠点をきちんと克服していた。
鞘から抜いた短剣を一閃、構えて襲撃に備える動きは初心者のものではない。――が、にしてみれば、まだまだ未熟に見えるもので。
仕掛けてきた攻撃を跳躍でかわし、素早くがら空きな背後に降り立つ。
そして……
「きっやああああああっ!!」
耳をつんざく悲鳴が森中にこだまし、驚いた鳥たちが一斉に飛び立っていく。
しばし後、静寂の中でへなへなと座り込むルウへと、気持ち目を丸くしたが声を掛ける。
「すんごい悲鳴……そんなに背中、苦手だった?」
「あ……あぅ……」
もはや言葉すら出ないルウは、最後の抵抗とばかりに肩越しに睨んできた。
涙目で睨まれても可愛いだけで怖いわけはなく、しれっとルウの背筋をなぞった指をそのまま軽く左右に振って。
「ま、これであたしの勝ちということで。とりあえず、周辺にいる子たち、どうにかしてくれない?」
にっこり笑って勝利宣言。
ルウにはさぞかし性質の悪い悪魔に見えたのだろう。涙目のまま、しぶしぶ声を掛けて、マグナたちを取り囲むようにして茂みに隠れていた召喚獣たちを自分のもとに集めたのだった。
「じゃあ、本当に旅の人だったのね!?」
戦闘で被害の出ていない場所を選んで腰を落ち着けてから、こちらの事情をマグナたちが説明した。それによって、ようやく納得したルウが最後の確認とばかりに訊いてきたことに一同首肯して、ルウは力が抜けたように座り込み「なぁんだ……」とこぼした。
それを聞き流せなかったミニスが、不満をぶつける。
「なぁんだ……ってね、こっちはその勘違いでとんでもない目にあわされたんだからっ!」
少しは反省してよ、と。そう言ったミニスに、ルウは素直に頭を下げる。
「ごめんなさい。でも、こんなところに旅人がやって来ることなんてなかったから。てっきり森を荒らしにきた悪魔の手先だと思って……」
「悪魔が森を荒らすとは、どういう意味でござるかな」
「そうよ。なんで悪魔や封印なんてものが、この森と関係あるの?」
そもそもの勘違いの原因がわからずカザミネとトリスが問えば、今度はルウがきょとんとして。
「キミたち、あの森がなんて呼ばれてるのか知らないの?」
誰ともなしに顔を見合わせて、そして数人が代表して頷く。するとルウは呆れ顔になって、一人一人を見渡して答えを告げた。
「アルミネスの森っていうんだよ、あそこは」
「アルミネスだって!?」
ネスティが信じられないとでも言いたげに叫んだ。過剰反応ともいえるそれに、全員が吃驚する。ネスティ自身、その事実に驚きを隠せないようだったが、弟弟子に何か知ってるのかと問われて、浮いた腰を落ち着ける。
「封印の森だよ……あの森はその昔にリィンバウムに攻めてきたサプレスの悪魔の軍勢が封じ込められているという……禁忌の森だと、言われているんだ」
どこか苦しげに説明されたことは、リィンバウムに生まれた者を驚愕させるには充分な内容で。けれどにとっては、割とどうでもいいことだった。
歴史関連の本を読んでいなかったから、それがどれだけ昔のことで当時の時代背景がどうだったかなんて、まるでわからない。そもそも、世界単位の問題を突き出されたって、ピンと来ないし、どうこうできるものでもないからだ。
そんなわけで、完全に傍観者としてただ話を聞いていた。
天使が悪魔と戦ってできた森だとか、おとぎ話としてしか一般的には知られていないとか、アフラーンの一族は伝承を引き継ぎ、森に満ちるサプレスの力を研究してきたとか。
然して重要とも思えない内容を、一応頭の片隅に置いていく。
「けど、ここのところ森の様子がおかしいの。なんだかざわついていて、イヤな感じで。まるで誰かが出入りをしているみたいだったから……それで……」
「俺たちが荒らしてると勘違いしたワケか」
ようやく勘違いに至った経緯を聞けて、とりあえずは納得。どうしても、解せないことがあるといえば……
「しかし、なんでまた悪魔だなんて勘違いをするかねえ?」
俺様たちにゃ、そこのボーイみたいな羽根もシッポもねえぜ?
バルレルを指して言ったレナードの意見には、全員が賛成。もご多分に洩れず。
外見判断でないとすると……魔力、はありえないか。皆属性はバラバラだ。他の要因は……?
「あの森の奥には結界があって、人間はその先には入れないのよ。だから……」
「ちょっと待ってくださいっ!」
なるほど、状況判断による先入観か、と。一人情報をまとめていたの耳に、アメルの鋭い声が入り込んできて。
目を向けてみて――息を呑んだ。
「ねえ、ルウさん? それだと、森の奥には人が住んでないってことですよね……」
アメルの問いに、本来の目的を思い出した者が何人いただろう。
「もちろんそうなるよ。悪魔の封印された森の側に、村なんか作れるわけがないもの」
全員が何もできずに見守る中、何も知らないルウから無情な事実が告げられて。
歪む笑顔、溢れ出す黒霧――だけに見えるソレは、アメルの体を取り巻いていく。
「それがもし本当なら、あたしの……あたしのおばあさんの暮らしてる村はどこにあるの……? おじいさんの言っていたことは、嘘だったっていうの!?」
「落ち着いて、アメルっ。きっと途中で道を間違えただけよ!」
「気休めはよしてっ!! ルウさんだって言ってたじゃない? 旅人が来ること自体が珍しいって!!」
アメルの様子が尋常じゃなくなったのは、誰の目にも明らかだ。何とか落ち着かせようとしても、それすら拒む。
今までの大人しい、我慢強い彼女はもうどこにもいなかった。
「変だって思ってたの! 村の名前も目印もおじいさんは教えてくれなかった……あたしが会いたいって言っても、おばあさんのところに連れてってくれなかった!」
いくら笑ってみせても、仲間の言葉を信じてみても、ずっと心の奥底に溜まり続けた不安に限界が来たのだろう。
不安は疑心を伴って、アメルの心を支配していて。
「おい、アメルっ! 余計なコト考えるんじゃねえっ!!」
「いや……っ!」
自分のほうを向かせようとしたリューグの手をアメルは跳ね除けて、不安の――疑いの眼差しで義弟を見る――否。その瞳は、もう誰も映していなくて。
「そんな、そんなの……あたしの信じてたことって……一体……いったい、なんだったのぉ――っ!?」
抱えていた不安を、疑心を……取り繕って隠していた想いを全てさらけ出したアメルを、は引き寄せて力の限り抱きしめる。
そうすることで流れてくるアメルの心の痛み……それを本当の意味でわかってあげることはできない。
自分は――大切な者に裏切られたことは、ないから。
でも、似ていると思う。大切な者を亡くしたあの痛みに……約束が、違えられたと思ってしまったあの時の痛みと……
だから、はアメルを抱きしめる。
「いやっ! 離して!!」
の腕から逃れようと暴れるアメル。判断力を失ったこの状態の彼女に、おそらくは誰もが危険を感じているだろう。
けれど、は大丈夫だと思っていた。
それは自分の体質のことだけじゃなくて……
「もう、イヤあぁ――!!」
「……うん。そうだね」
全てを否定してでも、自分を守ろうとしている内は、まだ、大丈夫。
「いいよ、もう……思い切り泣き叫んでいいから……」
なりふり構わず泣き叫べるなら――心は死んでいないから。
あの時……泣くことができずに壊れてしまった自分のようには、決してならないから。
「もう、何も考えなくていいから……」
徐々に抵抗の弱くなっていく体を愛しそうに抱きしめ、すすり泣く声すら聞こえなくなるまで、はアメルの肩に顔を埋めていた。
薄暗い森の中を、夕暮れの光が照らすまで……ずっと……