――我が力、必要あらば呼ぶがいい――
――いつ、いかなる時でも、どこにいようとも、我はそなたの呼び声に応えよう――
目が覚めてからしばらく、アメルは少し古ぼけた感じのする木の天井を眺めていた。
見えたものを正しく認識していたのかは定かではない。夢心地が強く残っていたから。
どれくらいそのままでいたのか。喉の渇きを覚えて、ようやく体を起こした。ぼんやりとしたまま視線を巡らせて、サイドテーブルに置かれた水差しを見つけ、手を伸ばす。
喉を通る冷たい感触、体に染み渡る水分。
体の欲するまま水分を補給したことで、ようやく覚醒が促される。
つい最近にも、似たようなことがあった――と。やっと思考回路が回り始めた。
熱を出した翌朝、が与えてくれた。熱が出たのは、雨に打たれた所為。雨に打たれたのは……祖母のいる村へと向かう途中――
「……あ……」
そこまで考えて、今までのことを全て思い出した。思い出して……両手で顔を覆った。
祖母のいる村を目指して辿り着いた先は、人間が住めない禁忌の森だった。信じていたものが粉々に砕かれて、みっともなく取り乱した。
絶望の中で何も信じられなくなって、全てを拒絶して……そう、義弟すら拒んだ。
それから――?
「バカなこと考えてるならやめなさい。誰もあなたを拒絶してはいないから」
不意に聞こえた声。それは何故か自分のすぐ傍で聞こえて、目を向ける。己の傍ら……同じベッドの中の、本当にすぐ間近に朱髪の少女が横たわっていて。
全てを見透かすような金の瞳が、咎めるように見上げていた。
「、さん……でも……あたしは……」
「自分を守ろうとしただけ。今まで溜め込んできたものを、派手にぶちまけただけだよ。みんな、心配してるわ。これまで取り乱さなかったこと、それだけで偉いって思ってるし」
「偉くなんかッ!」
「うん」
否定の言葉を紡ごうと上げた声は、静かに肯定された。
予想だにしなかった反応に言葉を見失ってを見れば、金の瞳がきゅっと細められて――笑う。
「アメルにその気がなくてもね、傍から見てる者はそう思うの。特に、自分にはできないと自覚している人にとってはね。強いなって、そう思えるんだよ」
強くなんてない。本当に強かったなら、弱音なんて吐かないし、他の人に迷惑をかけることもないのに。
そう考えていたら、見透かしたようにが言った。
「アメルは強いよ。弱い人間っていうのはね、自分の弱さを認められない奴だから。認められずに強がって、結局潰れちゃうようなのがそうだから」
諭すように語られた言葉。けれど、どこか自分に言い聞かせているような風にも聞こえて。
自分を見ていない金瞳を注意深く見てみると、案の定、自嘲的な色が見え隠れしていた。
――もしかして、また体験談なのだろうか、と。
だからこんなにも心にすんなりと届くのだろうか、と。半ば確信を持って凝視していると、気付いたのか目が合い、は曖昧に笑った。
その笑顔が、なんだかとても悲しく感じて……不意に蘇ってきたのは――
「……夢……?」
「何?」
ぽつりと無意識にこぼれた呟きに、疑問が返ってきて。
「あ、いえ、さっき見ていた夢が急に思い出されちゃっただけです」
「あたしも夢見たよ。なんだか不思議な夢」
「あたしもです。誰も、何も見えないのに、声だけが聞こえてきて」
「その言葉が、嬉しいような悲しいような感じで……」
怪訝な面持ちで、二人は顔を見合わせる。まさか、という思いが湧いてきて。
「『我が力、必要あらば呼ぶがいい』」
「『いつ、いかなる時でも、どこにいようとも、我はそなたの呼び声に応えよう』――って……」
また顔を見合わせて、ほとんど同時に天を仰ぐ。
「同じ夢を見たってこと?」
「そうなりますね。こんなことって、あるんでしょうか?」
「さあ……少なくとも、あたしたちが証人になれるんじゃない?」
別々の人間が同じ夢を見た。そんなこと、普通ではありえない気がする。
もしそれが共通の記憶――思い出だとするなら、偶然の一致もありえるだろうが。生憎とそんなものではない。
の態度を見る限り、憶えのない夢のようだし、自分だってそうだ。何のことなのかもわからなければ、見たのも――初めて、ではないかもしれない。
ふと脳裏に浮かんだのは、熱を出した時のこと。あの時見た夢は未だに思い出せないが、感じた思いは、同じだった気がする。
蘇ったきっかけも――同じくの笑顔で……
「あ、そうそう。夢といえば」
何か関係があるのだろうか、と。考えた時にが話しかけてきて、疑問は形になる前に霧散してしまった。
「ここ、ルウの家の一室で、あれから一晩経過してるから」
言われて改めて周囲を見渡す。
モーリン宅とは全く異なる石造りの壁に、木製の扉と天井。壁に掛けられた天井から床まである不思議な模様の織物が目を惹く。今まで見たことのない、異国の雰囲気の満ちる室内。
自分の体に目を向ければ、寝やすくするために脱がされたらしく、下着姿で。未だ横になったままのも同様で、二人の衣服は足元の布団の上に綺麗にたたんで置かれていた。
「一晩中、ずっと一緒にいてくださったんですか?」
改めて状況整理をしてみると、そうとしか思えなくて。全てを拒絶した自分を、それでも見捨てずにいてくれたということを実感して……嬉しくて。
は苦笑する。
「ただ一緒に寝ただけだよ」
照れ隠しのようなそれが、嬉しさを倍増させて。
目頭が熱くなるのをこらえて、アメルは笑顔を向けた。
「ありがとう、ございます……っ」
礼に応じるようには笑って、アメルの髪を梳くように撫でた――刹那。
「おいアメル、起きてる――ぶぁっ!?」
ノックもせずにいきなり扉を開けた義弟に対して、アメルの行動は早かった。手近に合った枕を投げつけたのだ。見事に顔に当たり、リューグはおかしな声をあげる。
「……ッ、いきなり何す――」
「リューグ? あたし、前にも言いましたよね? いくら兄弟とはいえ、年頃の女の子の部屋に無断で入らないでって」
枕をはがして反論しかけたリューグの言葉を遮り、にっこり笑って言った。途端に、リューグは硬直して引きつった表情になる。
「忘れちゃったんですか? 罰として二週間おイモさん料理のフルコースにしてあげたのに」
「あっ、いや、その……」
「しかも、今はこの部屋にさんもいるんですよ?」
反論を許さずに言いながら、ベッド脇に立てかけてあった槍を手にして、シーツを一枚身にまとってベッドから降りる。
ゆっくり歩んでいけば、リューグはじりじりと後退り、廊下の壁に到達する直前に何かにつまずいて尻餅をついた。
――丁度良い高さ。
蒼ざめて顔を上げたリューグに極上の笑顔を向けて――
「おしおきです♪」
アメルは手にした槍をリューグの顔の真横へと、勢いよく突き立てた。ガッ、と。鈍い音を立てて壁に突き刺さった槍はそのままにして、アメルは部屋の扉を閉める。
中には未だベッドに潜って呆れた様子のがいて。
「……それ、あたしの槍……」
そんな彼女の呟きを笑顔で黙殺し、リューグに対するお仕置きを、一ヶ月おイモ料理のスペシャルフルコースにすることを決めたのだった。
――ざわり、ざわりとざわめくのは、果たして結界を抱く森か。それとも、己の心か……
「ネースティ」
アルミネスの森と呼ばれる、禁忌の森の手前。村探しの手順を話し合う仲間たちから少し離れた位置に佇み森を見つめていると、不意に馴染んだ声に呼びかけられた。
ゆっくりと振り返った先には、予想に違わず不敵な笑みを浮かべた朱金の少女がいて。
「君か……」
「村探し、反対したんだって?」
少しだけ安堵したように呟くと、そう問いかけられた。
動き出した仲間たちとの距離を保ちつつ、ネスティは無言で森に目を向ける。沈黙を肯定と受け取ったらしく、自分の横に並んだに対し、弟妹弟子同様理由を問われることを予測して僅かに身構えてしまう。
だが、彼女の口から出たのは、ある意味予想外の言葉だった。
「理由は――その体と関係あること?」
予想外の、核心を突いた指摘。けれど、全く予測できなかったわけではない。
は、今の仲間たちの中で唯一、ネスティの秘密のひとつを知る者だから――
ネスティはを一瞥し、周囲――声の届く範囲に誰もいないことを確認してから、重い口を開いた。
「僕は融機人(ベイガー)……機械と人が融合したロレイラルの民だ。それ故、融機人は親から子へと記憶を受け継いでいく。外的要因でもない限り、決して消えることはなく遠い先祖からの記憶がデータとして在り続ける……」
淡々と自分のことを――人間との違いを話せたことに驚いた。肝心なことは何ひとつ含んでいないが、不思議と不安や不快感はない。
洞察力に自信ありと自己申告していた彼女のそれと、彼女の持つ強さを信用しているからかもしれない。
少しの沈黙の後、は考えをまとめるように小さく唸って。
「つまり、ネスティの遠いご先祖がこの森に関わっていたか、当時の悪魔と戦ったかしたってこと?」
期待通りの答えに、ネスティはほんの少しだけ口元が緩むのを自覚する。
「ああ」
「で、その記憶っていうのが、まるで自分が体験したかのように鮮明に、すぐさま思い出せる――ってコト?」
「……ああ、その通りだ」
更に続いた言葉には感服せざるを得ない。
データという単語から、それがネスティにとってどういうモノなのかまで見極めてしまうとは。
並んで歩いていたは、一歩前へ出て足を止めた。ネスティも足を止めて彼女を見つめる。
「そう……それは、怖いね……」
上のほうを向いて呟かれた言葉は、単なる想像によるような軽い慰めなどではなかった。
人間である彼女が、融機人特有のこの苦しみを知っているとは考えられない。ならば、何かそれに類似する体験があったのだろうか。
「怖くて……つらい」
流されてしまえば、『自分』が消えてしまいそうな恐怖を。
先祖と、自分との力の差を知るが故、悪魔と対峙することの恐れを。
何よりも、このことを仲間に知られて拒絶されることへの怖さと、だから詳しく説明できない辛さ。
――知って、いるのだろう。
彼女は、この苦しみを知っている。ネスティとしての視点ではなく、自分の経験で。
の声音には、そう思わせるだけの重みがあったから。
「ああ……」
だからこそ、救われる。彼女の存在と、その言葉に。
「なら、祈りましょ? 何事もなく終われるように」
笑顔と共に振り返ったに、同じく笑みを浮かべて頷き、二人は再び足を進めた。
――けれど。
祈りはどこにも届くことはなく、森中に響く結界の唄が、運命の歯車が無情に回り出したことを告げる。
何かに呼ばれた気がして、は足を止めた。
胸騒ぎのようなものを感じて、落ち着きなく周囲へ目を向けていると、隣にいたネスティが怪訝な顔をする。
「どうしたんだ、?」
「ん……何か、聞こえた気がして……」
答えながらも視線を巡らせていると、他の仲間たちも足を止めて何やら話しているのが見えた。
「何かって……あっ」
ネスティにも聞こえたのか、驚きを含んだ小さな呟きがこぼれる。
何かが聞こえる。同時に、何かがざわめく。
それは森が? それとも自分の心が?
嫌なものを感じながら警戒しつつ仲間へと意識を傾ければ、どうやら何も聞こえない者もいることが判明。
何故――と、思った矢先。
――ようやく、戻ってきた――
はっきりと聞こえた、声。それは聴覚的にではなく、頭の中に直接響く。
ざわり、と。一気に増した嫌悪感に、は思わず頭を抱えた。
――戻ってきた? 戻ってきた。ならば思い出せ。目覚めよ――
矢継ぎ早に続く言葉。乱暴的とも言える程に響くそれに、は音をあげる。
「何、なのよ……この声ッ!?」
「!?」
自分を呼ぶネスティの声が聞こえた気がした。
けれど、それが最後。外の音は何も聞こえず、ただうるさい『声』だけが響いて。
そして、自分の中で自分ではない『何か』がうごめきだす。
「……るさい」
(ウルサイ……)
――目覚めよ。思い出せ。在るべき姿を取り戻せ――
(ウルサイ……ヤメロ……呼ブナ……あたしヲ、起コスナ)
うごめく何かが、にまとわりつく不快感を増長させて。一方的に大きくなっていくそれらに耐え切れず膝をついたことも、もはやわからなくなっていた。
目覚めよ、と誘(いざな)う声。
起こすな、と拒む意志。
せめぎ合うふたつの意志に、の体にまといつく――溢れ出すモノ。
思い出せと促す声。
そして、それに答えたもうひとつの声――力。
「あたしは……この森を知ってる!?」
「うるさい! 黙れえぇ――――――――――ッ!!」
ひとつの呼びかける声に対して、応える心と拒む意志――ふたつの力。
相反するふたつの力を、たったひとつが受け止めきれるはずはなく、呼びかけていたよりももっと大きな音を立てて、それは崩れ去った。
僅かな静寂。
安堵を覚える余裕もないまま荒く呼吸を繰り返していると、不意に冷気を感じた。
森の奥から流れてくる、酷くよどんだ冷気……肌に突き刺さるような、殺気。それは、森中に響き渡る咆哮と共に出てきた、古の悪魔たちが放つ憎悪の念。
普通の人間なら――否。いかに多くの修羅場を潜り抜けてきた猛者といえど、脂汗が噴き出すのも当然だといえる邪気の渦。
はその心地好い懐かしさに目を細めて、悪魔たちを眺めていた。
――懐かしい……? 何故?
疑問が頭によぎったその時、勢いよく腕を引かれた。
「立つんだ、!」
引かれるまま相手を見ようとした目に映りこむ光――召喚術。
爆音と悪魔の悲鳴をどこか遠くに感じながら、見上げた先の人物の名を唇に乗せる。
「……ネス、ティ」
「逃げるぞ」
自分を見ることなく、悪魔たちに目を向けたまま短く告げられた言葉。反射的に頷いて立ち上がると、そのまま手を引かれて走り出す。
赤い背を見てひたすら走り続ける――妙な既視感。
『お出かけですか、――――様。遠出をなさるのでしたら、僭越ながらワタクシが目的地までお連れしますよ』
『ならば連れて行け。アイツが向かった彼の地へ』
『御意に』
小さなきっかけで浮かんでは消えていく、自分の知らない会話。
『……この程度か。興醒めだな。――――も大したことはなかったか』
『なめるなッ!! オレの本気の力、受けてみやがれッ!!』
先程『声』に対して抱いた激しい嫌悪感はなく、悪魔たちに対して感じた懐かしさに近いものがこれらからは感じられて。
『素晴らしい……やはり貴女は、この地で最も強く美しい女性(ヒト)ですね』
『……つまらん』
『それは仕方がありませんよ。貴女と互角に戦える者など、極僅かですから。何なら、私がお相手致しましょうか?』
『最初(ハナ)から勝負にならない戦いなど、どこが楽しい?』
『それも、そうですね』
それは『声』が誘っていた記憶の一部。皮肉にも、目覚めを拒んで放った力と共に、表層に出てきてしまったモノ。
『何故、アタシに構う? アタシはオマエの敵だろう?』
『攻撃する意志がないのなら、今は敵ではありませんよ。でも……ん~、そうですねぇ……強いて理由を挙げるなら、貴女の声が聞こえたから――でしょうか』
『誰かを呼んだ覚えはない』
『違いますよ。その声ではありません。生まれたばかりの……貴女の魂の産声が、「生きたい」と叫んでいたんです』
残念ながらその事実を知ることは、今のには無理な注文だった。
唯一、彼女の身に起きていることを正しく理解しているモノがいるとすれば……それは――
「ケッ! ぞろぞろと後ろからついてきてやがる……追いつかれるぞッ!?」
バルレルの警告に走りながら背後を振り返れば、濃厚な邪気をまとった数人の悪魔が殺意の鋭眼を向けているのが見えた。
その口から発せられる、反響がかった憎悪の声。
「逃ガすモノカァァァ! 忌々シき召喚師ドモ……調律者(ロウラー)の一族メェ!!」
悪魔の言葉に、急にトリスが走る速度を緩めた。
「調律者……?」
ぽつりと、呟かれた言葉。完全に足を止めたトリスの瞳はどこか虚ろで。
「トリスっ、逃げるんだっ!!」
ネスティの悲痛な叫びで我に返って振り向くトリスに、容赦なく迫る悪魔たち。
「死ねエェェイィッ!!」
「きゃぁああ!」
振り上げられたいくつもの剣。悲鳴を上げることしかできない少女。
『間に、合わなかったのか……?』
独白にも似た言葉と共に、胸裏に溢れた果てしない後悔の念。
――間に合わない……? 否、間に合わせる!!
自分のものではない想いごとネスティの腕を振り払って、はトリスと悪魔たちとの間に割り込んだ。
弾き返している時間はない。全てが一ヶ所を目掛けて振り下ろされていることを幸いに、受け止める姿勢を取って槍を握る手に力を入れた。――と。途端に、自分の意志とは関係なく『力』が流れ出し、手にした槍を炎が包んで。
――ガキィィンッ。
響く金属音。音の割に衝撃が少ないことに違和感を覚える。
だが、それよりも気になるのは、眼前の悪魔たち。
「コの、炎ハ……」
呆然とした呟き。それは、見知らぬ能力に対する驚愕などではない。
初めて間近に見た悪魔の瞳は、昏(くら)く凝り固まった憎悪で濁っていた。だが、その濁った瞳に映る紅蓮の炎が、憎悪とはまったく別の――呟きに含まれていたのと同じ感情を照らし出していて。
「ヨうやク……戻ッテこらレタノカ……」
僅かに細められた目。
一瞬――本当に刹那の間、安堵にも似た表情をした悪魔は、何かに気付き全員飛び退った。それでできた間に滑り込む、小さな赤い影。
「散れ!」
彼らと同属の、けれど彼らとは違い誓約に縛られた悪魔の少年、バルレル。
威嚇のつもりなのか器用に槍を回転させて構えるも、悪魔たちには効果がないらしく嘲笑を浮かべた。――が、それも一変。再び、かなりの距離を飛び退る悪魔と、地面をえぐる銃弾。
新たに自分たちを守るようにして現れたのは……
「深紅の……機械兵士……」
「しーるどヲ展開スル。耐衝撃ノ準備ヲ……」
機械兵士の言葉を最後まで聞く前に、は自分の体が傾ぐのを自覚した。体中から一気に力が抜けてしまい、槍もその場に落とす。
「!? 大丈夫!?」
支えてくれたらしいトリスの慌てた声も、まるで薄膜一枚隔てた先のように感じて。
それでも、何とか意識を保とうと、声を出す。
「アメル、は?」
「わからない……でも、無事だと思う」
「あたし……謝らなきゃ…………アメルに……」
あの『声』が聞こえてからのことは、状況整理ができてなくてよくはわからない。けれど、わかってることがひとつだけある。
それは、確実に自分は『声』を否定して――その存在を、壊そうとする意志を持って力を放出してしまったこと。
だから。
「結界……壊したの、あたしかも……しれな……」
言葉はそこまでしか続かなかった。
『声』の――結界との共鳴の余韻と、慣れない力の放出による疲労が、本気で限界に達して……意識を手放してしまったから。
――これは必要のない記憶だから、わたしが預かるわね……
薄れ行く意識の中、最後にそんな友の声を――聞いた、気がした。