今後は、ほかの御使いたちが見つかるまで、リビエルとコーラルを宿で匿うということに決定した。
色々と不安はあったが、そのひとつ――コーラルの身を守る術については、リビエルが先代から託された遺産によって魔力と知識を得ることで一応解消された。
人型になったコーラルは、どこか昔の自分に似ている――と。
そんなことを思いながら、は自室のベッドに転がっていた。
「……まずいなぁ……」
体が、酷く重い。
アプセットとの戦いでその兆候が表れて以降、急速に悪化していた。
「何か手を打たないと……本格的に、動けなく、な……」
呟きも最後まで続くことはなく、襲い来る睡魔に囚われていた。
どのくらい眠っていたのか。
明らかに眠りを妨げるような、よく知る魔力に、は無理矢理体を起こした。そして、荷物の中からひとつの包みを手にすると、重い体を引きずるようにして階下へと向かう。
食堂ではまた何か一騒動あったらしく全員が集まっていて、話していた。
どうやら、異界の者と人間との認識の相違による問題が起きたらしい。
「もう知らないっ! 勝手にしてよっ!!」
何やらぶち切れたフェアが店を飛び出して行って。
「さすが15歳……やっぱり子育てには、まだ少し早かったか……」
そんなことを呟きつつ食堂に顔を出せば、真っ先にリシェルが食って掛かってきた。
「何のんきなこと言ってんのよ! ってか、あんた今まで何してたの!?」
「寝てたんだよ」
「寝てたって、あんたは――っ!!」
「ねえさん、落ち着いて!! 怒る相手が違うよ!!」
弟に宥められて一応黙ったりシェルにかまうことなく、は出入り口へと向かって歩く。――と、近くまで来たとき、コーラルが見上げてきて。
「あなたも、ボクの考えは間違っているって思うの……?」
真っ直ぐに見つめてくる無垢な瞳に、足を止めては溜息をこぼす。
「オレ個人としては間違ってないと思うし、おまえの意見には賛成だよ。方法の是非はあるだろうがな。……けど、悪いな」
「……?」
「あの時、こうあることを望んだのはオレたちだから。今のオレにはおまえの行動をどうこう言う資格はないんだよ」
恐らくが言わんとしていることが分かるのは、ミントとリビエルぐらいだろう。
コーラルは……受け継いだ知識次第か。
「さん……それってどういうこと?」
ルシアンの問いに苦笑を向けただけで答えない。――否。答えられないからそうしかできなかった。
「それじゃ、オレ少し出かけてくるわ」
「って、こんな時にどこ行くってのよ?」
「ひょっとして、フェアさんを探しに行くの?」
「いや、わざわざ迎えに行かなくたって、あいつは自分で帰ってくるだろうさ。オレの個人的な用事だよ。なんか、呼ばれてるみたいだからさ」
「呼ばれてるって、誰に?」
はコーラルに向けて手を伸ばすと、触れることなく何か――紐のようなものをすくう仕草をして、目を細める。
「コーラルにこれだけ魔力まといつかせてくるなんて、どう考えてもオレへのあてつけにしか思えないからな。会ったんだろ? 長い耳に丸メガネかけて赤い服着た、ふたつに結ったお団子の間からひょっこり角生やしたシルターンの龍姫に」
問えばコーラルはこくんと首肯して。ふぅ、と溜息ひとつ。
「そういうわけだから」
「さま!」
扉に手をかけたところで、リビエルに呼び止められる。は顔だけ振り返って先を促す。
「何故、あなたは……あなたさま方はその選択をなされたのですか?」
非難――とまではいかずとも、理由を求めるその瞳から目を逸らして、扉を開ける。
「……可能性に、賭けてみたかったんだよ」
去り際にそう言い残して、店を後にした。
「……なんつー格好してんだ、メイメイ」
魔力を辿って着いた店で、店主を見るなりは呆れ気味に言った。
当の店主はと言うと、いつも通りに「にゃははは」と笑って。
「いらっしゃ~い、二代目ぇ。ちなみにこの姿のときは『シャオメイ』ちゃんね♪」
「『小妹』って妹って意味だろ? それとも小さいメイメイだからシャオメイか?」
「にゃはははっ♪ さすが二代目。シルターンの言葉をよくご存知で♪」
「そんなに知ってるわけじゃねえよ。オレよりトウヤのほうが詳しいだろ。……で? 何でここにいるんだ?」
「別に二代目を追ってきたわけじゃないわよ~。でも二代目を呼んだことは確かだけど」
「どうせ乙女の秘密とかって誤魔化す気だろ」
「にゃはははっ♪ 呼んだ理由は、必要だと思ったからよ」
真面目に話し出したメイメイに、は目を眇めて先を待つ。
「相変わらず無茶してるみたいだったからね、これを渡そうと思ったの」
そういって示されたのは、ひとつの首飾り。白――というか、光の加減によって虹色に見える石がついていて……強い魔力を放っている。
「急ごしらえだからぁ、ちょ~っと使い勝手は悪いかもしれないけど、ないよりはマシでしょ」
「マシはマシだが……余計女に見られそうだな……」
「にゃはははっ♪ だ~いじょうぶ♪ あってもなくても充分女の子に見――」
――ガゴンッ、ガララララ……
つい数秒前までメイメイ――もといシャオメイのいたところに、巨大なタライが落下して派手な音を立てた。
が呼んだものだが、当たらなかったことに舌打ちする。
「あっぶないわね~……短気なところは変わってないのね」
「やかましい」
「怒らな~い、怒らない。普段は服の中に入れておけばいいだけでしょ♪」
溜息をこぼして、は首飾りを身につけた。――と、すぐに石の魔力が自分を包み込んで、体の重みが消える。
安堵の息をついて、持ってきた包み――酒瓶を差し出す。
「正直、助かったよ。龍殺しでいいか?」
「にゃは♪ うんうん、もちろん!」
「……って、その姿でも酒なのか?」
「あ~、フェアおねえさまからは飴玉もらうことにしてるわ~。お酒の次に甘いものが好きだからね。でも、二代目からはお酒がもらいたいわ」
「――太るぞ?」
「にゃはははは。だ~れ~に、向かって言ってるのかしら~?」
「初代の親友である龍姫殿に」
「……そういう切り返し、王にそっくりよ」
「オレの中に初代の影を求めるな」
「にゃはは♪ ああ、そうそう。さっきも言ったけどソレ急ごしらえだから、2・3日に一度はここに来て魔力の補充してってね~♪」
「…………おまえ、酒ほしさにやってんじゃあねえだろうな」
「まっさか~♪ メイメイさんにだって力に限りってものがあるもの。シャオメイちゃんなら特にね」
「わかったよ。じゃあ、また近いうちにな」
「はぁ~い、待ってるわ♪ おにいさま♪」
「……ソレ、やめろ……」
元を知るにとっては、気色悪いことこの上なかった。
「フェア、アレ御使いか?」
「! 用事はすんだの?」
「ああ」
「そっか。うん、新しい御使いのセイロンだって」
戦闘後、対面できた御子に挨拶している赤い髪の男に、ひょっこり現れたが聞いてきた。
フェアは簡単に説明する。
と、済んだのか御使い――セイロンがこちらに向き直って。
「……と、いうわけだ! 童よ、以後しばらくは我もおぬしの所に厄介になってやるのでな、光栄に思うがいいぞ。はっはっはっは!」
「なんつーか、すごい性格だな」
「で、でしょ?」
「んん? そこにおられるのはリン゛」
――ドゴッ!
を見て何かをいいかけたセイロンは、頭に何かをぶつけられてその場に倒れた。
その何かは……
「オヤカタ!?」
なんとミントの護衛獣で。
「ったく、油断も隙もありゃしねえ」
「じゃないでしょ! いきなり何するのよ、あんたは!?」
「オヤカタ、大丈夫!?」
「ムイ、ムイムイイッ!」
完全にのびているセイロンとは違い、帽子と言うかメットというかのおかげか、それともオヤカタ自身が石頭なのか。オヤカタは割りと平気そうに戻ってきて、己をぶん投げた張本人であるに抗議するように鳴いて。
「ああ悪かったな。手近に丁度いい大きさでいたからついよ」
「ついじゃないでしょ! もぉ……」
誰の非難も気にすることなく、すたすたとセイロンの元へ行くと、はその足をむんずと掴んで。
「オレ、こいつ連れて先に戻ってるから、おまえらはここの後始末でもして、ゆっくり帰って来てくれ。じゃあな」
そのままは、セイロンを引きずって宿へと戻っていった。
しばらくその姿を見送っていた面々から呆気にとられた空気は抜けなくて。
「な、なんだったの……?」
「さあ……」
そんな呟きが出る。
一部では。
「まあ、アレは仕方がないですわね」
「ですねぇ。方法に問題はありましたけど……」
呟きの後、顔を見合わせて溜息をこぼす女二人の姿があったりもした。