書 き 殴 り ・ 8

「しかし、そなたは肝がすわっているな。我も含めてこの場には、人間ではないものたちがこんなにも揃っておるというのに」
 昼食直後、律儀にも先日助けられたことの礼を言いに来た騎士見習いの少年・アルバに、セイロンはそう言った。
 アルバはきょとんとした後、得心がいったように「ああ、そのことか」と理由を言う。
「おいら、小さい頃から色んな世界の人たちと暮らしてたからさ。慣れてるっていうか、気にならなかったんだ」
「そうなの?」
「うん。それにさ、違う世界の人たちだからって何にも変わらないさ。変に構える必要なんかないって思ってるよ」
 屈託のない笑顔でそう言った彼の言葉は、確かに本心だとわかって。
「あっはっはっは! 気持ちのいい若者だ。あっぱれであるぞ」

「まあ、そういう風に育っててくれなきゃ、オレたちは今頃あの時の選択を後悔してるだろうさ」

 セイロンの後、呆れた感じで呟いたのは、まだ寝ていたはずの
「おはよう、お寝坊さん」
「おはよう、食いしん坊さん」
「残念でした。今日の食いしん坊はあたしじゃなくてアロエリだもんね」
「だからッ、しつこいぞ!!」
「いいことじゃないか」
「「 え? 」」
 予想外の返答にリシェルとアロエリのみならず、ほとんどの者が注目する。
「フェアの作ったものを抵抗なく体に入れれるぐらいには、警戒されてないってことだろ」
「あ、そっか!」
「なるほどね~。信頼度を量る基準になるってわけか」
 アロエリの人間嫌いを知るほとんどの者が、今度は彼女に注目して。
 アロエリは顔を赤くして怒鳴る。
! からかうなッ!!」
「事実だろ」
「ぐッ……」
 言葉に詰まったアロエリに、皆笑みが浮かぶ。
 その中。
「なあ、。さっきのって、どういう意味なんだ?」
 怪訝そうな問いかけが、アルバから発せられた。
「あ?」
「ひょっとしておいらたち、メチャクチャ責任重大だったってこと?」
「こっちが勝手に期待してたんだ。おまえは変なものを押し付けるな! って怒っとけばいいのさ」
「……なんだよ、それ」
 しれっとした答えとむすっとした呟き。それは、どちらからともなく笑い声に変わって。
「久し振りだね、。元気そうでよかったよ」
「おまえはぼろくそだな、アルバ」
「う……」
 喉を鳴らして笑うを恨めしげに見ていたアルバは、次には不思議そうな顔になって。
「はぁ……話には聞いてたけど、やっぱり物凄く違和感あるよな……」
「そりゃ、お互い様だ」
「違和感って、何で?」
 それまで事の成り行きを見守っていたルシアンが問いを投げ掛けて。
 アルバはを見、は……コーラルへと目を向けた。
「ん~……今のコーラルくらいの姿しか知らないからな、お互いに」
「……ってことは……! そんな小さい頃から一人旅してる上に、今まで音信不通にしてるの!?」
「あー……」
 しまった、という顔であらぬ方向を見る
 代わりにアルバがフェアに答える。
「そうだよ。薄情だと思わないかい? 手紙くらいくれたっていいのにさ」
「それはが悪いわよ」
「どうして手紙出さなかったの?」
「……読書は好きだけど、文章書くのは好きじゃない……」
「筆不精!?」
「それでも一言二言何か書いて送ればいいじゃない」
「嫌だね。手紙なんか出したら消印を頼りにあいつら絶対追ってくるだろ」
「あ~……それは否定できないな……」
 アルバは視線を泳がせた後、ずいっとに顔を近づけて。
「そもそも、がちゃんと説明していけばよかっただけの話じゃないか」
 も負けじと顔を近づけ、額でがっちんこ。
「当時のオレにそれを求めるか」
「じゃあ今ならいいってことだよな。何で旅に出たんだよ、一人で」
「リプレから聞いてないのかよ」
「聞いてないから今訊いてるんだよ」
「帰って聞け」
「い・や・だ」
 ごりごりごりごりと額合わせた至近距離でのにらみ合い。
 終止符を打ったのは、話に加わった第三者。
「探しものがあるからだって言ってたぞ」
「――え?」
「グラッド兄ちゃん、知ってるの?」
「ほら、前に話したって言ったろ。あの時に聞いたんだ。何を探してるかまでは知らないが」
 答えを与えたグラッドから、アルバは再びへと目を向けた。
 その顔は、今までのふざけた感じは抜け、真剣そのもの。
「探しものって、、まさか……」

「アルバくんっ! グラッドさんっ!」

 勢いよく開かれた扉から、怒った様相でやってきたミントに話は中断された。
 彼女の怒りの理由が、アルバが無許可でこの場に来たこと――そしてそれがアルバの身体に相当負担であることがわかって、は盛大な溜息をひとつ。
「アルバ……『急がば回れ』って言葉、トウヤから教わってないか?」
「知らないけど……何?」
「急いで事をする時は、遠回りでも安全で確実な方法を選んだほうが、結果として早く目的を達成できるって意味なんだが……今のおまえにぴったりな言葉だとは思わないか?」
さんの言う通りだよ。とにかく、今すぐに横になって休まなきゃいけません!」
「はい……」
「クァッ」
 大人しく追従の意を示したアルバの傍らに、それまでの側でじっとしていたフィルが膝をつく。そして軽く翼をはためかせてアルバを見た。
 フィルの意を察したアルバは苦笑して。
「フィルの背に乗せてもらうのも、久し振りだな」
 杖をついて歩いているような状態なのでまたがることはできないが、アルバはフィルの背に座り、首に腕を回して安定を図る。杖はミントが持った。
 アルバがしっかり乗ったことを確認すると、フィルは立ち上がって。
 視点の高くなったアルバをは見上げる。
「アルバ、さっきの話だが、おまえが心配しているようなものじゃないぞ」
「本当に?」
「その気があったら傀儡戦争の時に、とっくに実行してる」
……」
「オレの探しものは、おまえが思ったのとは正反対のものだ。だから余計な心配してないで、おまえはその怪我をさっさと治せ。あいつらに、追いつくんだろう?」
「ああ、絶対に!」
「よし、いい返事だ。じゃあ、ひとついいことを教えてやろう」
「いいこと?」
「剣じゃなくていい。何か棒状のものを握ったり放したりってのを繰り返しやってみろ」
「――え?」
「それなら横になっててもできるし、身体にさほど負担もかからない。けど、続けていれば、少なくとも握力と腕力が落ちることはないぞ」
 アルバの顔に、明るさが戻る。彼は満面の笑顔をに向けた。
「ありがとう、! やってみるよ!」
 ひらひらと手を振るに見送られる形で、アルバはフィルの背に運ばれ客室のほうへと姿を消した。
「……なんか、あいつって、の前だと子供っぽくなるわね」
 ぽつりと、リシェルが素直な感想をこぼし、はしれっとして。
「ま、当然だな。あれはオレの弟みたいなもんだから」
「そうなの?」
「あれから聞いてないのか?」
「一緒に暮らしていた家族だとは、私たちは聞きましたけど」
 リビエルがそう答え、は納得顔。
 とりあえず、アルバとの関係はそれでいいとして。
さんの探しものって…………見つかりそうなの?」
 ルシアンは、そう言った。何、とは聞かずに。
「そうだなぁ……見つかりそうでもあり、見つからなさそうでもある、か」
 で答えを濁したまま。
 フェアは苦笑を浮かべた。
、お昼どうする? 食べるなら、すぐに作るけど」
「いや、いい。出かけてくるか――ら……」
 ずっと立ったままだったに昼食のことを聞いたフェア。否を返したは外へと歩き出して。

 ――ガタタンッ。

っ!?」
 立ち眩みでも起こしたようにバランスを崩し、は近くのテーブルに手をついたが支えきれずに膝をついた。
殿! 一体どうし――」
「触るな!」
 駆け寄り助け起こそうとしたセイロンの手を、は払った。
 明らかな拒絶。
 だがセイロンは怯まずに、の手首を掴む。
「放せ……」
「何故、このような状態に……何を考えておられるのですか!?」
「おまえたちには関係ない。放せ」
殿!」
「言ったはずだぞ! オレはおまえたちの主じゃないと! 選択を誤るな! おまえたちが真っ先に気に掛けるべきはコーラルただ一人だろう! オレは、くだらない義理立てなど必要とはしていない!!」
殿……」
「放せ」
 はっきりと、言われた。拒絶の、言葉を。
 それでもセイロンは手を放さなかった。否、放すわけにはいかなかった。
 例え義理立てと拒絶されようとも、知ってしまえば放っておくことなどできるはずもない。
 ――けれど。
「放せと言って――」
 言い終わらぬうちに、彼を抱きしめるように現れた女性の細腕がセイロンの手を払った。
が放せって言ってるんだから、素直に従えばいいのよ」
 冷ややかな眼差しを向けてくる天使に、セイロンは言葉をなくした。
「エル……」
 天使を見上げたに、彼女は微笑を向けるとのうちへと宿った。
 そして、光る翼を借りた時は、テラス席のほうから外へと飛び立っていってしまった。
「だから前に言ったじゃない。あんたたちにとっては何なのかって」
「……そなたらは、知っておったのか?」
さんが、望んで手にしたわけじゃない力のために特別扱いされたくないって言ってたのは聞いたことあるよ」
 ルシアンの答えに、アロエリは怪訝な顔をして。
「おかしなことを言うな。望まずしてなれるわけがない」
「それでも、にとっては望まないことだってことでしょ」
「でしたら、私たちはどうすればいいの……?」
 途方に暮れたようなリビエルに、フェアは食器をトレイに載せながら答えた。
「リビエルたちにとってのコーラルと同じことだと思うけど」
「――え?」
「要するに、リビエルたちは『御使い』だから『御子』の側にいるのか、それともコーラルが大切だから守りたいのかってこと」
 ただ、気持ちの問題。立場が先なのか、気持ちが先なのかということ。
「ちなみにわたしは、コーラルのことが好きだから守りたいって思ってるよ。きっかけは成り行きでも、これが今のわたしの気持ち。だから、引け目とかを感じる必要はないからね」
 優しく微笑んでコーラルの頭を撫でた後、フェアは持てるだけの食器を持って調理場へと向かう。
「あ、僕も手伝うよ」
 そのあとルシアンも同じように食器を手にして追って。
 残された者は、それぞれに思いを巡らした。



 アルバの怪我が早くなるように、食事療法を試してみよう、と。
 骨折によいというキュリアンという魚を求めてやってきたルトマ湖は、ありえない氷付けの光景が広がっていて。
 そこに現れた機械人形・アプセットとミリネージ。
 湖を元に戻させようと、戦いになったその最中のこと。
 上空に現れた光。召喚術に似ていて――けれど全く異なる空間の歪み。
 その中から、現れたのは――

 ――バシャアッ、ドシャ。
「きゃあっ!?」

 大量の水と、良く知る人物。
「げほっ、げほっ……イ、メイ……何てこと、しやが……げほっ!」
!?」
「あー……?」
 思いっきり咳き込んでいるびしょぬれのは、かなり剣呑な目つきでこちらを向いて――相手がフェアだと知って、きょとんとする。
「あ? どこだ、ここ」
「ルトマ湖だよ」
「あんたって、ホント見てて飽きないわね~。何で空から降ってきてるのよ?」
「オレのせいじゃねえよ」
「何でもいいからさっさとどきなさいよ!!」
 丁度の落下地点にいて、そのまま下敷きになっていたミリネージが叫ぶ。
 言われるまま立ち上がったに、アプセットが向かって行って。繰り出されたドリルは五本の光る剣によって止められた。
「ん~、と……アプセットがいて、似たのがいて、機械兵器が大量にいるってことは、もしかしなくても戦闘中」
「他に何があるってのよぉー!?」
 更にミリネージが向かっていったのは、軽く身を捻ってかわす
 思いっきり敵地のど真ん中で悠々と状況把握するは、見ているほうの心臓に悪い。
「あーもう! ! 話はあと! 早くこっちへ!!」
「りょーかい」
 言うが早いか、先程呼んだシャインセイバーを一本手にすると、は軽くステップを踏むようにして敵の間をすり抜けながら一体ずつ確実に倒してフェアたちの元へとやってきた。
「ほい、到着~」
「お、おかえり」
「ただいま。つーか重い」
 言ってはシャインセイバーを放す。するとすぐに光となって剣は消えていった。
「まあ、普通シャインセイバーはそのように使うものではないですからね」
 呆れたようなミントの同意。
 とりあえずの安全も確保され、彼のおかげで敵の数も大幅に減ったので、フェアたちは残りを早々に片付けた。
 そして湖を元に戻させようとアプセットたちに詰め寄ったところ、またも閃光弾を使用して逃走されてしまった。
 しかし今回は逃がすわけにはいかないので追跡する。
 その間に、に大まかな説明はした。
「で、あんたは何でまたびしょぬれで落ちてきたの?」
 今度は側の事情を聞こうとリシェルが再度問えば、は眉間に皺を刻んで。
「落とされたんだよ、泉に」
「――は?」
「だ、誰に?」
「……フェアから見れば、甘党占い師」
「シャオメイ?」
「それ」
 何故名前で呼ばないのか。
 疑問を形にする前に、走るの上に影が落ちて。
「おかえり、
 エルがの傍らを飛行する。
「その様子だと、すっかり回復したみたいね」
「エル……おまえ、知ってたな」
が飛ばされた後に聞いただけよ。で、龍姫から伝言を預かってきてるわ」
「あ?」
「『文句があるなら忠告を無視して無茶しまくったご自分にどうぞ』だって」
「あんのクソババア……今度行った時には特大のタライお見舞いしてやる……」
「それは無理じゃないかしら。相手はあの龍姫だもの。かわされるのがオチじゃない?」
「避けれる場所がないくらいでかいヤツ」
「途中で引っかかるか、落ちたとしてもも喰らうことになるじゃない。少し頭冷やしなさい」

 ――ザバアァッ!

 ピンポイントでにのみ降ってきた滝のような水に、全員が足を止められた。
「うわっ、さん!?」
「だだ、だいじょうぶ!?」
 周囲の人間よりも水を被った本人が一番呆然としているのは、まあ当然で。
 ずぶぬれになった前髪をかきあげ、は水を降らせた人魚へと目を向ける。
「……久し振りだな、ローラ」
「お久し振り、♪ 最近全然呼んでくれないから淋しかったわ♪」
 氷の上に器用に立っている人魚・ローレライは満面の笑顔で答えた。
「水気の全くない山ん中で呼ぶわけにはいかないだろう」
「それはそうなんだけどね。ところで、頭は冷えたかしら?」
「……他に方法はなかったのかと問いたい……」
「あら? ガルマに食べてもらうほうがよかった?」
 しれっとしたエルの質問に、はうんざりと肩を落とす。
「どっちもどっちだ……」
「もう濡れてるからいいかな~って思ったんだけど」
「重いんだよ、濡れると。特に頭が。いい加減に髪切っていいか?」
「それはダメぇ――!!」
「折角リボン買ったんだからあれ全部擦り切れるまで切っちゃダメー!!」
「何年後の話だよ。別に使わなきゃ、フェアとかリシェルとかにやればいいだけだろ」
「ダメったらダメ――!!」
「……何でそこまでオレに髪を伸ばさせたいんだ?」
「「かわいいから!!」」
「フェア、ナイフ貸してくれ」
「え……うん」
 言われるまま手にしていた短剣を貸すと、は受け取った手とは逆の手で自分の後ろ髪を掴んで、そしてそこに短剣を――

「「 いやあ――――――!! もう言わないからお願い切らないでぇ――!!! 」」

 ルトマ湖に二人分の女性の叫びが谺した。
「何を騒いでいるんだ」
 上空からアプセットたちを追跡していたアロエリが戻ってきて、呆れた様子で呟いた。
 それにはリシェルが笑って答える。
は召喚獣に愛されてるわねぇっていう確認かしら」
「遊ばれてるの間違いだろう」
 結局切らせてもらえなかったは、濡れた上着を絞りながら愚痴のように反論した。
「アプセットたちの行き先、わかったの?」
「わかったことはわかったが……何か、更に濡れていないか、は」
「ちょっと色々あってね」
 ずぶぬれの上に何故かエルが後ろからがっしり抱き付いていて身動きとれない状態のに、アロエリは更に怪訝そうにしたが案内のために再び空へと舞い上がって。
 彼女の後を追っていったフェアたちはルトマ湖のほとりにある洞窟へと辿り着いた。
 そしてそのまま特攻しようとするフェアをミントが制止する。
 曰く、敵の本拠地なら戦いは避けられないだろうから、準備はしっかりしたほうがいいとのこと。
「それにさん、丸腰の上にずぶぬれですし……」
「別にオレは構わないぞ」
 同意を求められたは、あっさりとそう言って。
「何かこの辺あったかいからそのうち服も乾くだろうし、剣はエルのを借りればいい。ぶっちゃけ戻るのが面倒くさい」
 ものぐさ発言大爆発。
 呆れるもの数名、同意するもの数名で、結局のところ、そのまま特攻することになった。


 洞窟の中は見事に改造され、マグマからマナを抽出して人工的にサモナイト石を作り出す工場になっていた。
 とりあえず、溶岩があるためやたらと暑く、服が乾くのに時間はかからなさそうだった。
 機械人形三姉妹に加え、新たに機械兵士まで現れた今回。更に厄介なことに……
「なに……!? あの炎の中を突っ切れっていうの……」
 ゲックたちのもとへ行く道のいたるところから炎が噴出していた。
 それは、こちらの行動を制限すると同時に、機械兵器の動きも制限するもの。即ち。
「あれが『教授』の仕掛けたトラップだったら、どこかに制御装置があるはずよ!」
「そっか! じゃあ、その装置を壊しちゃえば……」
「壊すって発想は賛成できないなぁ……とりあえず、あそこにそれらしいものがあるから、オレが行ってくるよ」
 さらっと言い、は借りた剣で途中にいた機械兵器の足部分だけを破壊して、あっさりと目的地に辿り着く。そして、下りているレバーを上げると――
「消えた! 、正解だよ!!」
「レバーを上げればいいだけだから、下手に壊すなよ」
「うん!!」
 元気な返事を聞き、は今度は少し離れた位置にあるモニター付の機械のほうへと向かう。
「さて、と……久々だが、オレの知識とこの端末でどうにかなるものかな?」
 とりあえず、パネルをいくつか叩き動作を確認する。
 何とかなりそうだったので、プラントと冷却装置の全体図を引き出し、排気管の位置を調べてみた。
「これなら何とかなるか……けど、やっぱ端末じゃこの程度が限界だな……」
 冷却装置の完全停止はメインコンピュータでなければやはり無理らしい。まあ、自分以外扱える者はいないと思ったのか、パスワードが必要なところはないのでその他の設定変更ができるのが不幸中の幸いだ。
 数年のブランクを埋めるように指を踊らせて、設定変更を書き込んだ。
「これでどうだ」

 ――ガコンッ、ウイィーン……

 入力と同時に近場から音がした。
 どうやら無事作動したらしい。
 プラント内の熱気を、湖の中を通る排気管に通して外へ出すことで、水温を上げて氷を溶かそう、という企て。
 ひとつの端末につき一ヶ所しか変更できないようなので、は借りた翼を広げ、次の端末へと向かった。


「次はここだな」
 ――バサッ、と。羽音と共にがやってきて、すぐ側にあった機械をいじり始める。
「あんた、さっきから何してるのよ?」
 戦闘に参加してないことよりも、この機械を扱えることにか、リシェルは訝しげに問いかけた。――けれど。
「ヒトヨヒトヨニヒトミゴロ」
「――は?」
「富士山麓にオウム鳴く」
「へ?」
 の口から出てきたのは意味不明な言葉たち。
「サイン、コサイン、タンジェント――っと、完成。GO!」
 最後に一度パネルを叩いた瞬間、何やら音と共に風が流れて。
「あ、涼しい」
「成功。次は……と」
 再びは翼を広げて飛んでいって。
「ちょっと、説明ぐらいしていきなさいよ!」
「いい国作ろう鎌倉幕府」
「ってか! さっきから何口走ってるの、あんたー!?」
「……カマクラってどこ?」
 ブロンクス姉弟の疑問は解決することのないまま戦闘は終了して。
 機械兵士・グランバルドの砲撃によってメインの制御装置に大穴が開き、結果として冷却装置含めてプラント内も機能停止したのだが、装置の前でがっくりと両手をつき落ち込んでいるの姿があったりもした。
 とにもかくにも。何故かプラント内に設置されていた生簀のおかげで、当初の目的であった魚は手に入ったのだった。
 ……食事療法のための料理は『漢方』のおかげで味は微妙になったようだが。