書 き 殴 り ・ 15

 カサスや亜人の子供たちと楽しく過ごした日の、真夜中――騒動が起きた。
、起きて」
「ん~……」
 揺り起こしてくるアルバの声に、夢現に返す。
「……なんだ?」
「泥棒が入ってきたみたいで、捕まえるの手伝って欲しいってフェアが」
「どろぼーぐらいおまえらでどーとでもできるだろー……」
「いや、まあ……そうだけど……万一敵の刺客だったら……」
「てきならけっかいがはんのーする……」
「あ、そうか」
 納得したらしいアルバの声に、目も開けずにいたは再び安眠に入ろうとしていた――が。
《いいから起きろ》
 ――ドフッ。
「ぐっ!?」
 腹部に来た圧迫感には、完全に目が覚めて。
 咳き込みつつそうした当人――フィルを睨む。
「なんだよ、フィル……つーか踏むな」
《さっさと起きないからだ。……随分と懐かしい魔力を感じるんだがな》
「――は?」
《アルバと同じ時期に覚えたモノだ》
「アルバと同じって……サイジェントか? あそこのヤツらん中で、泥棒に入るような真似するのなんか三人しかいないだろ」
《だから、放っておいていいのか?》
 がしがしと頭を掻いたあと、はようやくベッドから下りた。
「わーたよ。どつきに行きゃいいんだろ」
「えーっと……フィルの言葉はわかんないんだけど、ひょっとして嫌な予感いっぱいだったりするのか?」
「おー、100パーセントの確立で当たるだろうな、それ」
「な、なんか、ヤだなあ……」
 とアルバは顔を見合わせ、そして揃って溜息をついた。
 そうして部屋を出た先、丁度件の泥棒は二階へと来ているらしく、フェアとの話し声が聞こえてきた。

「ふざけんなーっ!」
「うひゃあぁーっ!? ごめん! ゆるして! 見逃してぇーっ!?」

 ぶちきれたフェアの怒声と、非常に情けない泥棒の悲鳴。思いっきり聞き覚えのあるその声に、とアルバはやはり、と。また揃って額を押さえた。
「コーラルっ!! アルバっ!! っ!!」
「情状酌量……余地無し、かと」
 泥棒の逃げ道を塞ぐようにコーラルが角から姿を現して。
「仕方ないな」
 とアルバも、別の道を塞ぐように廊下へ出る。
 そうして泥棒とご対面。
 向こうは気付いていないようだが、あらかじめその可能性を考えていたこちらには疑いようもなくその正体が分かった。
「か……っ、かくなるうえは強行突破っ!!」
 悪あがきにボウンッ、と。周囲に煙を発生させて、その泥棒は窓から外へと逃走していく。その後をフェアも――こちらは玄関から追う。
 はアルバと共に下にいた者たちと合流してから外へと出た。
 そこで騒ぎを聞きつけたグラッドとも合流して、後を追おうとする彼らの中、アルバとだけはのんびりモード。
「おや、アルバ殿。どうしたんです? いつもなら真っ先に追いかけていくのが貴方らしいのに」
「あ、うん……言いづらいんだけど、おいら、今の泥棒知ってるっていうか、知らないフリをしていたいなっていうか……は、ははは……っ」
 シンゲンに言われ、アルバは視線を泳がせ、乾いた笑い声をこぼす。もあらぬ方を見ていて。
「そういえば、賊がばら撒いて逃げたトゲトゲですけど、マキビシっていう鬼妖界に伝わる道具なんですよねえ。それも、用いるのは特殊な修練を積んだ御仁のみとか……」
「う……っ」
「さらに、二階でも逃走の際使ったのも煙玉といって、同じく特殊な修練を積んだ者のみ使用可……」
まで……」
「……あいつは全くもって成長ってもんをしなかったようだな」
「……すっごい返答に困るんだけど……」
 ぽつりとこぼした素直な感想に、本日三度目。とアルバは顔を見合わせて、そして揃って溜息をつき、フェアたちの後を追った。

 街の外で、泥棒を追い詰めたフェアたち。
 流石に夜中な上に逃走経路的に騒ぎが届いていないらしいブロンクス姉弟とポムニットはいない。ついでにミントもいないが、人数的には一対多数。囲い込みに成功した――の、だが。
「言い訳だったら詰め所の牢屋で聞いてやる。さあ、観念しろ!」
「冗談じゃない。捕まったりしたらお師匠から……もっと、きっつーいおしおきをされるに決まってる……ごめん、それだけはマジ勘弁だから」
 ぶつぶつ呟いた後、懐からかなりの数の紙を取り出して。
「奥の手、使わせてもらうよッ!!」
 宣言、光。そして煙と共に泥棒がその数を増やした。
「「「 ふっふーん♪ 見たか! これぞ忍法分身の術ぅーっ!! 」」」
 増えた全員が得意げに言った。
 それに対しの思いはというと(アホか……)というものだった。
 とりあえず、タネを知っている以外のためにセイロンが説明した。
 ヒトカタの符というモノに気を通わせて、本物と瓜二つの姿と能力を持つ分身を作り上げる術だということ。しかし、本来は龍神や鬼神に仕える者のみの術であるということを。
「貴様、どうやってこの符を手に入れた?」
「「「 知り合いのお店でまとめ買いしたのよ! 」」」
 即答で返ってきた言葉に、セイロンの目が点になった。
 まあ、本来神聖な位に就く者がもつモノをどんな邪道な手を使って手にしたのかと疑ってたら、そんな呆気ない答えではそうなるのも当然だろう。
「……酒瓶数本と交換か?」
「樽よ樽! 酒樽二樽と交換したの!!」
 ぽそっと訊けばこれまた即答。
 何となく、そんなモノを持っていて簡単に売りつけるような相手に思い当たって、カマをかけただけなのだが、本当に当たるとは思わなかった。
「あののんべえが……」
「お心当たりがおありなのですか?」
「ああ。あとでどつきに行ってくるわ」
「まあ、それはさておき……これで、はっきり確信できましたよ。貴方、鬼妖界からやってきたシノビですね?」
「「「 ぎくっ!? 」」」
「何驚いてんだよ。シルターン出身者がいる前で、あれだけ証拠残した挙句に、自分で忍法とか言っておいて、ばれないわけがないだろう」
「「「 うぐっ!? 」」」
 ばっさり切り捨ててやれば、わかりやすいリアクションでショックを受ける様を表わしている。やはり、忍には向かない娘だとつくづく思う。
「「「 ……あっはっは! バレちゃったんならしょうがない!! 幸薄き、旅する薬売りの美女とは世を忍ぶ仮の姿。その正体は、せくしぃクノイチ・アカネさんよ!! 」」」
 挙句には開き直って自ら名乗るし。やはり忍じゃない。
「せくしぃ……せくしぃ、とはどういう意味だ?」
「さあ。鬼妖界の言葉ではないのは確かですね」
「名も無き世界の言葉だ。あいつには当てはまらないと思うがな」
「――え?」
「おい、おまえさ、そこにいるセルファン――有翼亜人を前にしても、自分が美女だとかセクシーだとか言えるのか?」
 ピッとアロエリを指して訊けば、きょとんとするアロエリと自分を見比べてアカネは「うっ……」と言葉に詰まって。
「ミントがいれば一番よかったんだが……」
「で、結局どういう意味なの?」
「肉感的。噛み砕いて言えば、男がスケベ心を出すような体形や服装の女性をさす言葉。ここのメンバーで当てはまるのはミントとアロエリぐらいだろ」
 さらっと何でもない風に言うと、納得顔の男三人とは別に女性陣は顔を赤くして複雑そうな表情になった。
 その内の、名指しされたアロエリが思いっきり否を唱える。
「おい! 何でそれにオレが当てはまるんだ!?」
「そこそこ胸が大きくて露出度が高い服装だから」
「セ、セルファンの戦士は皆同じような服だ!!」
「まあ、それはそうだろうけど、馴染みのない他種族には結構刺激的だと思うぞ。少なくとも、そこの男三人の反応的には、な」
 くいっと顎で示した先。グラッドは気持ち頬を朱に染め、シンゲンとセイロンもどこか嬉しそうな表情でアロエリを見ていて。
 アロエリは顔を真っ赤にして、三人のほうへと弓を構えた。
「わ――っ!? 待て待て!! 今はそこの泥棒を捕まえるのが先だろ!?」
 本気だとわかったグラッドが、慌てて矛先をアカネへ向けさせた。
 それには、アロエリよりもフェアが思い出したようにはっとして。
「そうよ! せくしぃだとかクノイチだとか、そんなことはこの際どうでもいい! 問題は、あなたが人の親切を無下にしたってことよ! 許さないんだからッ!!」
 ビシッと大勢のアカネを指差してはっきり怒りを口にしたフェアに、言われた当人たちの頬に一滴の汗が伝う。
「「「 ちょっと、ねえ? まさか、あんたこれだけの人数のあたしを相手に戦おうなんてこと思ってんの!? 」」」
「そうね、一人一発はひっぱたいてあげないと気がすまないわ。覚悟しなさいッ!!」
「「「 ちょ……っ!? 待って、そんなの想定外だって!? うひゃあぁっ!? おたすけぇーっ!? 」」」
 数増やせば戦意喪失すると踏んでいたらしいアカネの目論見は見事に外れ、情けない悲鳴が響く。
 とはいっても、仮にも忍者。そう簡単にやられるつもりはないらしく、応戦はしているが。
「フェア、本気で全員のすつもりか?」
「気持ち的にはそうしたいけど、その隙に本人に逃げられちゃったら無意味よね……」
 どうしよう、という呟きには、セイロンがより先に答えた。
「本体を倒せば分身も消えるぞ」
「その本体は、どうやって見分けるのよ!?」
「簡単だ」
 あっさり言って、はある一人のアカネの上に巨大タライを落とした。
 セイロンやアルバと同じく声も出せずに蹲ると同時に、周囲にいたアカネの半分ほどが煙に包まれて消えて。
「あれが本体」
「どど、どうしてわかったの!?」
「よく見ろ。分身には狸か狐の尻尾が生えてるから」
 近場の一体を指差して言えば、その一体は「ぎくっ!?」と言って己の尻尾を隠そうとして。その行動自体が正解を告げているようなものだ。
 他の者たちも本体がわかったことでか、俄然戦意を増して。
「よっし! 本体を逃がさないようにして、他もぼっこぼこにしちゃえ!!」
 フェアの言葉に、ほとんどの者が同意の声をあげ、アカネに向かっていて。
「な、なんかさ……自業自得とはいえ、アカネねーちゃんが哀れに思えるよ、おいら」
「どうせ、大して懲りやしないんだ。それに、シオンにやられるよりはマシだろ」
 とアルバだけは静かに傍観していた。

「きゅううぅ……っ。ま、まいりましたあ」
 宣言通り、本体を逃がさず他の分身をぼっこぼこにしたフェアたちに、アカネはようやく観念した。
 二度と盗みはしない、と。約束したアカネを、グラッドが連行しようとした時、アルバはそれをすかさず止めた。
「捕まえるのはさ、許してやってくれないかな?」
「大した罰則でもないんだし、別に捕まえときゃいいじゃねえか。丁度いい薬だろ」
……」
「そうだぞ、アルバ。未遂だったとはいえ、泥棒は泥棒なんだ。ちゃんと罰しないとまた同じことを繰り返しかねん。わかるだろう?」
「だ、だから……あーっ、もぉ……」
 説得は不可と悟ったのか、単にいい方法が思いつかなかったのか。アルバはわしわしと頭を掻いて叫んだ後、アカネに向き直って。
「なんでこんなことしたんだよっ!? アカネねーちゃん!」
「へ?」
 言われた、懐かしい呼び名にか、アカネは思いっきり目を丸くしてアルバを見つめて。
「もしかして、あんた、アルバだったりする?」
「そうだよっ! おいらだよっ!!」
「さっきから、他のやつらが散々アルバって呼んでたのに気づいてないとはな。そんなんだから、未だに半人前だってシオンに言われるんじゃねえのか?」
「もう! はさっきからどっちの味方なんだよ!?」
「どっちでもねえよ。強いて言えばそいつの馬鹿さ加減に頭にきてるだけだ」
「ってゆーか、って、まさかあの!? ハヤトたちと一緒にエ」

 ――ゴインッ。

「てめえも余計なこと口走ろうとしてんじゃねえよ」
 二度目のタライ直撃で再び蹲るアカネ。は静かに怒りを表わした。
「う~あ~……ショックだぁ……物静かな子がこんな可愛げなく育ったなんてぇ……」
「やかましい。大きなお世話だ。つーか、てめえに言われたくねえ!!」
 本気で頭にき始めている所為で、段々言葉遣いも荒くなってる。
 そんなの様子に、一部引きつつも、フェアが代表して言った。
「えっと……三人は知り合いなの?」
「オレ的には他人のふりをしていたいな」
「う……おいらも少しそう思った、けど……アカネねーちゃんはさ、鬼妖界から召喚されてきたクノイチでさ、おいらたちの仲間なんだよ……」
「な、なんだってぇ!?」
 グラッドの叫びは、恐らくその場の全員の心を代弁したものだろう。
 ほとんどの者が驚きをその顔に刻んでいた。
「ともかく、みんなにちゃんと謝らなきゃダメだってば!!」
「はい……ふかぁーく反省しておりますので、どうか牢屋だけは堪忍してください。ってゆーか……お師匠に知られたら生きていけなくなるし。いや、マジで!?」
「だったらはじめからやらなきゃよかただろうが。馬鹿そのものだな」
「うう……だって、悪人からなら巻き上げても因果応報でいいと思ったしぃ……」
「って、わたし悪人に見えたの!?」
「だだ、だって、あんな高い薬ほいほい買ってくれたからぁ……!」
「洞察力、観察眼が全くなし。私利私欲で盗みに入る時点で忍としても失格だな。半人前どころか見習い以下に逆戻りして、シオンにその腐った根性叩きなおしてもらえ」
「いやあ――!! こんなこと知られたら、マジ殺されるぅ――!!」
「殺されはしないだろ。死んだほうがマシだと思うような目にはあるだろうが」
「いやあ――!! もっといや――!!」
 本気で泣きが入っているアカネに同情心が湧いたのか、フェアの表情から怒りが消えて。
「……わかったよ。特別に今回だけは見逃してあげる」
「ほ、ホントにっ!?」
「おいおいっ! そんなこと、勝手に決めるんじゃ……」
「被害者であるわたしが届け出をしなければ事件にはならない。そうでしょ、お兄ちゃん?」
「そりゃ、まあ……理屈ではその通りなんだが……」
「ありがとう、フェア! 恩に着るよ!」
「……甘いぞ、フェア」
「そんなことないよ、。その代わりにひとつ、こっちの出す条件を聞いてもらうよ?」
「うんうんっ♪ お師匠にナイショにしてくれるんなら、なんだって言うこと聞いちゃうってば」
 二つ返事で了承したアカネにフェアは、とりあえず詳しくは明日説明するから、と。本日は寝ることにしたのだった。

「ありがとうございます。どうぞ、またお越しくださいませーっ♪」
 翌日の昼下がり、忘れじの面影亭・食堂にて明るい声が響く。
 フェアの出した条件――それは宿屋の手伝いをすること、だったのだ。
 昼時最後の客を見送ったアカネの口からは溜息がこぼれ出る。
「あーあ。まさか遠い旅の空の下にやってきてまで店員さんをすることになるなんて……」
「自業自得でしょ?」
 アカネのぼやきに、リシェルがあっさりと切り捨てた。
 昨日御使いたちに八つ当たりしたらしい彼女は、今朝早くにやってきて仲直りをし、ついでに昨夜の出来事を聞いたようだ。
「そうだぞ。真面目に働いたら帰りの旅費だってもらえるんだからさ。むしろ感謝しなきゃ」
「はじめっから、そうやって旅費稼げばよかっただけの話だろ。仕事を選り好みなんかするから、どつかれた挙句に、シオンのおしおきを受けることになるんだ」
 アルバのあとに呆れた様子で言ったの言葉で、アカネがぎょっとして目を見開く。
「ちょちょ、ちょっと、何でお師匠がそこで絡んでくるわけ!?」
「……おまえは、自分の師匠をどこまで侮れば気が済むんだ?」
「はい!? 何!? どういうこと!?」
「本当に気付かれずに済むと思ってる時点で、やっぱり未熟者だよな」
「だから何で!?」
「――あれ。あそこにいるの、シオンの忍鳥じゃないのか?」
「はあ!?」
 テラス席から見える外の、一本の木にとまっている一羽の鷹を指差してみる。
 その鷹は、先程からずーっとこちらを見つめていたのだ。ついでに言えば、夕べは梟があの騒ぎの場にいた。
「おまえ、行く先々で同じ鳥が自分の周りにいたの、気付いたりしなかったのか?」
「そういえば……何か、いたような……――って、何でが知ってるの!?」
「オレの周りにもいるからな」
「あれ? ってことは、ひょっとしてシオンさん、の居場所知ってたのか?」
「あいつははじめっから知ってるよ。知ってて黙っててくれてるんだ」
「ってゆーかさ、『にんちょう』って何よ?」
「忍が口寄せの契約を結んだ特殊な鳥。犬の場合は忍犬って言う。普通の動物より知能が高く、場合によっては人語を話すこともある」
「で、口寄せって?」
「シルターン式の召喚術って思っておけば間違いはないな」
 リシェルやフェアの問いに答えている間にアカネの顔は蒼白になっていて。
「ってことは、あたしが盗みに入った挙句捕まっちゃったりしたことも……」
「だから未熟者だって言ってるんだ。ま、サイジェントに戻る時は、覚悟して帰れよ」
「いやあ――!! 見捨てないで、ぃ――!!」
「……ああして見られてるってことは、反省の姿勢を認められれば、多少は軽くなるんじゃないのか?」
「店長っ! 次は何をすればいいでしょう!?」
「え、えっと、じゃあ、食器の片付けを……」
「了解です!!」
 ビシッと敬礼して、テーブルにあった食器を持って奥へと姿を消すアカネ。
 唖然とする一同の中、はただ一人嘆息をこぼして。
「あれがどれだけもつかが問題だよな……」
「あ、アメとムチ……?」
「ってか、アカネの師匠にばれてるって本当なの?」
「本当さ。なあ、シオン?」
 片腕を伸ばして呼びかければ、外にいた鷹が飛んできて腕にとまって。
「全く……あなたの洞察力にはまいりますね」
 鷹が、そう言った。その声は、シオンのもの。
「アカネが注意力散漫なだけだろ」
「普通は忍鳥のことまでは気付けませんよ。そのように訓練されているんですから。それに、こうして忍鳥を通して私と話せる術があることを知っていた、知識も普通とはいえませんね」
「……話せるかどうかなんて知らなかったぞ。カマかけただけだ」
 あっさり暴露すると、微妙な沈黙が返ってきた。
 ややあって、鷹はあからさまに溜息をついて。
「やはり、あなたにはかないません……」
「オレはおまえに勝てると思ったことはないがな」
「そうですか……フェアさん、といいましたね」
「あ、はい」
「申し訳ありませんが、不肖の弟子をしばらくお願いします」
「や、いえ、こっちこそ! お弟子さんをお借りします!」
 鷹相手というのも奇妙なものだが、しっかり敬語でフェアが返答すると、小さく笑ったあと再び鷹は外へと飛んでいった。
 元の位置に戻った鷹を見つめていた一同の口からは、一様に感嘆の息がこぼれて。
「シノビって、すごいんだな……」
「シオンを見るならそうだろうが、アカネを見ると真似事にしか思えんけどな」
「店長! 食器片付け終わりました!」
 タイミングがいいのか悪いのか。丁度戻ってきたアカネに全員の視線が集中して。
「確かにな」
「言えてるわね」
「同感ですな」
 ちらほらと同意を示す呟きがこぼれる始末。
 何のことかわからないアカネは首を傾げつつも、元の場所にまだ鷹がいるのを見つけて。
「次は何しましょう!?」
「じゃあ、ホールの掃除をよろしく!」
 フェアも今度はもう慣れたのか、同じく敬礼のように片手をあげて指示を出した。
 とりあえずは、しばらくアカネもサボることはなさそうだな、と。
 は掃除の邪魔にならないように、借りた本を片手に庭へと避難した。