獣皇の正体等が発覚してから三日、フェア、コーラル、が不在の中で他の者たちは今まで知りえた情報を整理した。
その途中のことだった。三名の不在に気付いたのは。
フェアについては行き先はわかった。コーラルも恐らく彼女の許だろう。とすると、残る一人は――
「……で、フェアたちはいいとして、はまた寝てるわけ?」
何やら少し怒ったようにリシェルが呟いたが、アルバがそれを否定する。
「いや、部屋にはいなかったから、どこかに出かけてるんだと思うけど……」
「例の、龍姫って人のところ?」
「さあ? とりあえずフィルたちは上にいたから、危険なことはしてないと思う」
「何よそれ?」
「一人で危険なことは、あの三人が絶対にさせないからね」
「……三人って?」
「フィルとエルとガルマ。サイジェントにいた時から、誰か一人は必ずの側にいたよ」
何となくそれを聞いた面々の顔は、納得したものになっていた。
三日前のギアンに対するエルとガルマの行動や、普段のフィルとの遣り取りから察せるものがあったということか。
「そういや……ギアンは変なことを言っていたよな……がこの世界で生まれた人間じゃないとか……」
連鎖的に思い出したのか呟かれたグラッドの言葉に、アルバは内心ギクリとした。
「もしかして彼も、シンゲンやアカネと同じく、召喚術によって呼ばれてきた別の世界の人間なのか?」
「それは――」
「うん、そうだよ」
何とか……の意向を確かめるまでは誤魔化そうとしたアルバの思いも空しく、アカネがあっさり肯定してしまった。
「アカネねーちゃん……」
「何? 言っちゃマズイことだったの? ハヤトたちは別に隠してないじゃん」
「それはそうだけど……今まで言わずにいたなら、は隠したかったんじゃないのかと、おいらは思うんだけど……」
「いーじゃん。どうせバレてんだしさぁ」
「……今のなら、いくらでも誤魔化しようがあった気がする」
「で、あいつってば、どこの出身なわけ? アカネたちと同じシルターン?」
「違う違う。たちは名も無き世界から来たんだって」
「アカネねーちゃん!!」
リシェルの問いに、またもあっさり答えたアカネ。
アルバは頭を抱えたくなって――やめた。
「おいら、知らないからな! またタライ喰らったって!!」
「ぅえっ!? こんなことでもタライ落下するの!? どど、どうしよう、アルバ!?」
「だから知らないってば!! おいら、ねーちゃんのフォローなんてしきれないよ!!」
「そんな殺生な!?」
「自業自得だろ!? ガルマ、いる!?」
「呼んだか?」
アカネを無視してガルマを呼べば、二階の吹き抜けからすぐに顔を出してくれて。
「久し振りに剣の稽古付き合ってもらえないかな?」
「良かろう。どれだけ成長したのか見せてもらおうか」
「うん」
「小娘、貴様もどうだ?」
「いいい、いい!? 遠慮しますぅ!!」
何故かガルマが苦手なアカネは、あっさりと引き下がって。
責任は自分で負ってもらうことにしたアルバは、もうアカネには構わずにルシアンへと声を掛ける。
「ルシアンも一緒にどうだ?」
「え!? えっと……」
「別にそんな怖がる必要はないって」
「あら、じゃあ私が相手なら問題ないのかしら?」
そう言って降りてきたのはエル。
彼女の申し出にか表情を緩めたものの、ルシアンの表情はまだどこか硬い。
「エルもガルマも教えるの上手いからね。自分で気付かない癖とか欠点とか教えてくれるし、ためになると思うよ」
「そうなの?」
「そうよ。だって、に剣術仕込んだの、私たちだもの」
「え――――――っ!?」
思いもよらぬ告白に、食堂には盛大な叫びが幾重にも谺した。
これはアルバも知らなかったので吃驚だ。――流石に叫びはしなかったが。
「そうだったんだ」
「ああ。は元々無手――武器を使わぬ戦闘スタイルだったが、それでは武器を持つ相手には不利だからな。旅の合間に叩き込んでやった」
ガルマの言い方だと、なんだか物凄くスパルタな気がしてならない。
真偽はこのあとの稽古でわかるだろうけど……少し怖いかもしれない。
「それで、どうするのだ?」
ガルマに聞かれ、ルシアンは少し迷ったあと。
「それじゃあ、お願いしてもいいかな?」
「構わぬ」
「ええ、もちろんよ」
意向も固まり、アルバは彼らと共に裏庭へと向かった。
一方その頃、不在中のフェアは忘月の泉にてコーラルに、泉と両親について話していた。
切ってはいけないはずの古木を切った所為で、呪われ濁ってしまったと言われている泉。濁ってしまう以前に、何故か自分と妹を生んですぐに亡くなっているはずの母と共に水遊びをした記憶があること。父親が嘘をついているかもしれないことに気付いてはいても、母親との思い出を否定されたくないがために、真実を聞けずにいることを。
今まで誰にも話せずにいたことを話しているうちに、大分気もまぎれてきたようだ。
フェアはふと気付いて、コーラルを振り返った。
「でも、あなた、よくわたしの居場所がわかったわね?」
「ニオイで、ばっちり」
「ニオイって……」
「誤解、よくない。わかるのは、腕輪。魔力のニオイ」
「腕輪の魔力?」
「あたたかい魔力が、いつも守ってる。『遺産』から感じた先代の魔力と同じ、とっても優しい力」
「この腕輪にそんな魔力が?」
半信半疑で聞き返せば、真顔でこくこくと頷くコーラル。
お守りとしての効果はしっかりあるらしい。
「それに、腕輪がなくても、わかるよ。元気ない時、すぐ顔に出るから」
「あなた、もしかしてそれを心配したから、ここに……」
「……ボクだけじゃ、ないよ?」
照れてるらしく少し頬を赤くしたコーラルは、そう呟いて。
「――へ?」
「お父さんも、心配してる……と、思う」
「はい? ?」
こくんと頷いたコーラルは視線を横へとずらした。
その視線をフェアも辿ってみて――とある木の陰から、細い紫煙が昇っているのを見つけてしまった。
「ぃ――!? いつからそこに!?」
「ボクが来た時には、もういた」
「ウソぉ――!?」
全く気付いていなかった。よくよく探れば、確かに気配を感じるのに。
本当に、どれだけ周囲が見えていなかったかを思い知らされて頭を抱えていると、ようやくは姿を現わして。
「……言っておくが、ここに来たのはオレのほうが先だぞ」
「そ、そう……」
心配して後をつけてきたわけではない――と。そう言外に言われて、何故か少し落ち込んでる自分に気付いた。
何故、と疑問に思ったが、すぐにそれを消して話題を変える。
「な、何か用があったの? ここに」
「いや、別に。静かな場所ならどこでも良かっただけだ」
「……一人で、考え事?」
「まぁな」
いつもの秘密主義発動中と思っていいだろう。
フェアは溜息をつくと、コーラルへと向き直って。
「宿へ戻ろうか?」
首肯を確認してからもう一度へと視線を向ける。
「はどうするの?」
「もう少しここにいる。何となく、居心地がいいから」
「そう」
町の人間も今では敬遠し、コーラルも不気味と称したここが、居心地がいいとは……
の感覚はやはり特殊だと、改めて思った。
フェアはコーラルと共に歩き始めて――足を止め、振り返る。
「ねえ、。ひとつだけ、訊いてもいい?」
「……何だ?」
「ギアンが言っていたこと……もアカネたちと同じく、この世界の人間じゃないって本当なの?」
それは奇しくも宿のほうでも話題に上がったこと。
そんなことを知る由もないフェアは、ただを見つめて返答を待つ。
はというと……泉に視線を固定したまま。
「ああ。オレは名も無き世界から来た人間だよ」
静かに、それだけ言って口を閉ざした。
これ以上は何もないことを察し、フェアは黙って踵を返した。
「あれ? フェアさん、そんなに急いで何かあったの?」
珍しく息を切らせて走ってきたフェアに、アルバやエル、ガルマと剣術の稽古をしていたルシアンは、きょとんとして訊ねた。
フェアはひとまず呼吸を整えてから口を開く。
「先生、見かけて、追いかけてったら、『教授』と、『将軍』たちを、見つけちゃったの……大石橋を、爆破する気よ!!」
「ええ!?」
「なんだって!?」
「早く止めなきゃ……お兄ちゃんとかには、コーラルが知らせてるけど……は?」
「出かけたまま戻ってないと思うけど……居場所、わかる?」
フェアの問いに答えた後、アルバはエルとガルマを振り仰いで訊いた。
二人は一瞬、虚空を見つめて。
「居場所は、わかる……けど……」
「飛べぬな」
「は?」
「飛べないって、どういう意味?」
「の許へ行けぬという意味だ」
「は常に路を開いた状態にしていることが多いから、いつでも、どこからでも私たちはの許へは空間を飛んでいくことができるのよ」
「その『路』が閉じてるってこと?」
「ああ。意識がない状態と見ていいだろう」
ガルマが何気なく口にした言葉に、ルシアンたちはぎょっとした。
「それってマズイ状態ってこと!?」
「いえ、単に寝てるだけじゃないかしら? いるもの、あっち……リシェルちゃん曰くドブ池だと思うし」
「あのままあそこで昼寝してるって訳ね……」
エルの言葉に、フェアが呆れたように呟いた。
それに対し、ルシアンが疑問を発するよりも先に、羽音が耳につく。
「とにかく、呼びに行ってくるわ」
エルがそう言い残して空へと高く舞い上がって行って。
「おまえは姉を呼びに行かなくて良いのか?」
「――あっ!」
ガルマに言われ、ルシアンはそれまでの疑問をさっぱりと忘れてしまい、姉を呼びに屋敷へと駆け出したのだった。
空を飛び、あっという間に目的地へと辿り着いたエルは、目の前の光景に言葉を失ってしまった。
マナの溢れる巨木の麓、光り輝く水面の泉がそこにはあったのだ。
それだけならまだいい。
問題なのは、その巨木に半ば埋もれるような形でが眠っていることだ。
眠っている――はず、だけど……その姿はまるで、巨木が育つための養分にでもされてしまっているようで……
「なんてこと……、起きて!」
呼びかけるが、は応えない。
エルの中に焦りが生まれる。
「――起きなさい! !!」
大きな声で、呼びかけて。
ぴくり、と。の瞼が震えた、次の瞬間。幻想的とも言えた光景は一瞬で消え去り、あとには町の人間たちがドブ池と呼ぶに相応しい荒涼とした風景があるだけだった。
そうして、の赤茶の瞳が姿を現わし、エルの姿を捉えた。
「エル……? どうしたんだ、そんな蒼い顔して」
全くもってなんでもない風体で訊いてきた。
それまで見えていたものが幻だとわかって、エルは一気に脱力した。
「あなたこそ、こんなところで何してるのよ……」
「あー……何かよくわからんが居心地がいいから……波動が合うのかもな……しばらくそれを感じていたんだが、いつの間にか眠ってたらしい」
「そう……」
「で、何か用か?」
「例の軍団さんが、また何かしようとしてるみたいよ。フェアが招集かけてるわ」
「へいへい。――エル、頼むわ」
「了解」
求めに応じて憑依し、高く舞い上がったエルも、そしても気づきはしなかった。
が座っていた大きな切り株から、小さな芽が出ていたことに。枯れたはずの古木に、再び生命の息吹が――宿ったことに……
フェアが知らせた大石橋の爆破計画。皆が着いた時は、まさにその準備が終了したところで。
町にとって重要な橋を壊そうとする、その真意を問い質すフェアたち。けれどゲックからの回答は、知らぬの一言。
ギアンの言葉はエニシアの言葉。黙って従うことしかできない――と。
その事情を問い質してみても、頑として理由を言おうとはせずに。
フェアが切れ気味になっている中、も静かに不機嫌度を高めていっていて。
「惑わされるなッ!!」
――ギィンッ!
見張りでいなかったはずのレンドラーが、こちらの存在に気付いたのか戻ってきて繰り出した斧を、フェアをかばっては片手で受けた。
「!?」
普通なら体重差で吹き飛ばされてしまうだろうが、今は平然とレンドラーと競り合う。
理由は――憑依。にはエルが、そしての持つ剣にはガルマが憑依しているからだった。
「『将軍』……」
「迷うでない、『教授』よ。例え、他人が欺瞞と呼ぼうとも……我らは『姫』の幸せを願い、この道をゆくと決めたのだろう!?」
「邪魔をしないで! わたしは――」
「黙れ、小娘! 見透かしたような口を利くなッ!!」
フェアへと怒鳴ると同時、斧へと力が加わって。はフェアの腕を掴んでいた左手も柄に添えてそれに耐える。
「貴様に何がわかる、貴様如きに……虐げられた者たちの、裏切られた者たちの、深い怒りや悲しみが! それを味わったこともない貴様にわかるとでも言うのかッ!? こうして守られ続ける貴様などに!!」
「な……っ!」
ギリギリと、加重が増す中、は受ける一方だったそれを、押し返し始めた。
「……ならば、逆に問う。おまえたちにはわかるのか? 望まぬ形で願いを叶えられた者が背負う、悲しみと自責の念が」
「なんだと!?」
「わかるわけがないだろう、それがどんなに重いか……そんなもので幸せになどなれないということが……おまえたちは、自分が知りえない重荷をエニシアへ負わせようとしている」
「黙れ!! 貴様如きにあの方の何がわかる!!」
「そんなこと知ったこっちゃねえ!!」
ギンッ――と。とうとうは、レンドラーの斧を弾き返した。
距離をとったレンドラーを、鋭く睨みつける。――かなり、頭にきていた。
「あの娘の事情もてめえらの事情もオレの知ったこっちゃねえよ……だがな……こんな重いものを背負うのはオレ一人で充分なんだよ……ッ」
何かを……誰かを犠牲にして叶えられた願いなど、重すぎて幸せになどなれはしない。そうさせた自分を、いつまでも責め続けてしまうから……
――だから。
「力づくでも止めさせてもらう。てめえらの目が覚めるまで、何度でもなッ!!」
レンドラーへと斬りかかり、再び斧と剣とが激しくぶつかり合った――刹那。
橋に不釣合いな警告音が鳴り響いて。
そして、セクターが姿を現わし、ゲックへと向かっていった。
ローレットにより庇われ、後退したゲックの前へと、と対峙していたレンドラーが割って入ってセクターを止める。
そうして、言った。
自分たちが食い止めている間に、橋ごと爆破しろ――と。
救われた命だからこそ、救ってくれた者のために使うのだと……
そんなこと、何が何でもさせるわけにはいかなかった。残された者の痛みを知るが故に、には見過ごすことはできなかったのだ。
「ローラ! その辺の爆薬に水ぶっ掛けといてくれ! なんだったら橋から落としてくれてもいい!」
「まかせて!」
水に関してはローラに任せるのが一番と、まず手近な爆薬から頼み、は真っ先に駆け出した。
「って、ちょっと、!? 一人じゃ無茶だってば!!」
フェアの声を背に受けながらも、そのまま単身敵陣に突っ込んだ。
とにかく、最短距離を目指して直進する。立ちはだかる『剣の軍団』兵は適当に素手で沈め、機械兵器は足に当たる部分を破壊し、追撃できないようにして進んだ。
中心部へと向かうほどに多くなっていく爆薬のコードも、出来る限り切断した。――と。
――! 前!!――
鋭いエルの声に視線を向ければ、グランバルドが丁度大砲をこちらへと放ったところで。
避けることは容易。けれど、のすぐ側には結構な大きさの爆薬が――
「チッ、エル! ガルマ!」
呼びかけると同時、は避けずに真っ直ぐ前へ腕をのばして。
――ドオォンッ!
目の前で起こった爆発の煙から、上空へと逃れる。
三人がかりで張った結界のおかげで、も橋も無傷で済んだが……流石にきつい。
更に上空を飛行するへ向けて、グランバルドとローレットの銃弾が放たれる始末。これを避けるために走ってきたのに、最後の最後で失敗した。
とにかくかわし続けて、何とか距離を縮めるが――ゲックの召喚術まで発動し、起爆装置にはなかなか近付けない。
――、我が行こう――
どうしたものか、と。思った時、ガルマがそう言ってきた。
「……加減はしろよ。橋まで壊しちまったら本末転倒だ」
――わかっておるわ――
一応注意してから、は起爆装置へ向けて一気に降下を始める。銃弾をかわしギリギリまで近付いて、召喚術が発動する直前。
「いっけえ!」
剣を、投げた。
発動した召喚術が剣に直撃する寸前、憑依を解いたガルマが己の剣を起爆装置に突き刺した。
バチバチと派手な音を立てて壊れた装置。
その側にいるゲックの顔は、驚愕一色。
「莫迦な……悪魔じゃと……?」
「残念ながら、オレは天使でもなければ、フェアの護衛獣でもないんでね」
ふわり、と。橋の上に降り立った時、エルが憑依を解いて姿を現わして。ガルマもの隣へとやってくる。
「憑依召喚術か!」
「そういうことだ」
言いながら後方を確認すれば、セクターを引き止めつつレンドラーたちと戦うフェアたちがいて。
「……おまえは、大切な者を亡くしたことはないのか?」
場違いな、静かな問いに、ゲックは沈黙を保つ。
「エニシアが、争いを好まず、誰かが傷つくのを嫌がる優しさをもつ者であることは、少し話しただけでわかったことだ。その娘が、おまえたちを犠牲に願いを叶えられて、本当に喜ぶと思うのか? 心から笑うことができると、そう思っているのか?」
「……」
「できるはずがないな。そうさせた自分を、ずっと……一生責め続けるだけだ。そんな状態で幸せになんか、なれるはずがない」
「あ、あなたに何がわかるというのです!?」
「言っただろう。こんな重荷を背負うのはオレだけで充分だ、と」
「あ……」
「誰かを幸せにしたいと思うのなら方法を間違えるな。最善を考えることから逃げるな」
「……逃げてなどおらぬ」
「逃げてるだろう。ギアンの真意とエニシアの願いが本当に一致しているのなら、こんなことになっているはずがないんだ。エニシアは言ったぞ。オレたちのほうから戦いを仕掛けてきた、と。エニシア自身、ギアンに騙されている証拠じゃないのか?」
「……っ」
「ギアンの真意を聞かずにただ従っている現状が、おまえたちが最善を考えていない証拠だろう?」
「黙りなさい! 教授を侮辱することは許しません!!」
「……事実を言ったまでだ」
睨みつけてくるローレットから視線を逸らす。
「自分が幸せになることも、誰かを幸せにすることも、容易じゃない。他人を力でねじ伏せて手に入るような、そんな単純なモノじゃあ、ないんだよ……」
そんな簡単なことなら、誰も苦労などしないのだ。
自身とて、そうならここには今いないだろう。
――ドオォンッ。
不意に聞こえた爆音に後方を振り返る。グランバルドが、爆薬に向けて砲撃を開始したようだが、セクターがそれを体を張って止めて。
それで諦めるかと思いきや。
「マダ……ッ、アキラメナイッ!」
「よせ、グランバルド! もうよい、それだけは使ってはならん!!」
「自爆装置、起動!!」
気付いたゲックが叫ぶも、グランバルドは聞き入れずに実行してしまった。
自分が爆発すれば、任務は完了。ゲックが怒られることもない、と。
だから逃げろと、グランバルドは言った。
「バカが……っ!」
「――!?」
グランバルドのほうへと駆け出しかけたは、傾ぐ体を支えきれずに倒れかけた。両隣にいたエルとガルマが抱きとめてくれたが、耐え切れずに膝をつく。
前にも、あった。初めて負荷が現われた時と同じ症状だ。
無理が、たたったか……
「よせ、エル」
「どうしてよ!?」
「この状態では、かえって負担になる」
「……っ」
おそらく、憑依しようとしたのだろうエルを、ガルマが制した。
前のときは憑依で何とかなったが――今は、ガルマの言う通り。悪化しかねないことは、自身よくわかっていた。
「オレは、いい……エル、結界を……っ、フェアたちを、守れ……っ」
荒い呼吸のもと何とかそれだけ言うと、僅かな躊躇いのあと、エルはフェアたちのほうへと向かった。
ローレットの言葉で、こちらへと集まる剣の軍団の者たちの間から、見えた。グランバルドに捕まったセクターと、彼を助けようとするフェアたちの姿。
「させるかよ……っ、自爆、なんて……ッ」
「、無理だ」
「……ッ、ゼルフィルドの、二の舞になんか……させて、たまるか……っ!」
「おぬし……」
ゲックの小さな呟き。それを最後に、彼らは転移によって姿を消した。
もう時間はない。
自爆命令の解除不能は、だって良く知っている。物理的にも魔力でも、どうにもならない。
けれど、今、己にのみできることがあるとすれば……
――あなたはエルゴの王の二代目。望むだけであらゆる術を使うことができるわ――
「――ッ、ロレイラルっ!!」
ありったけの望みをかけて、その名を呼んだ。
一瞬……白く細い、雷のような光がグランバルドに向かって下った気がして。
そして。
「ア……レ? 自爆装置……作動、不良?」
きょとんとした、グランバルドの呟き。
緊迫していた空気は、一気に拍子抜けしたものに変わって。
「、少し辛抱しろ」
いよいよ座っている力すらもなくなったの体をガルマが抱き上げ、仲間たちに気付かれないように空へと舞い上がった。
「はっ……はあ……トウヤには、バレた、かな……」
「そのような状態でエルゴを呼んだのだ。仕方あるまい」
「……だよな……」
ロレイラルは、トウヤの得意属性。そして、彼が最も深く関わりのあるエルゴだ。ばれないわけがない。
「どのみち、今は逃げる気もないのだろう?」
「さあ、ね……どう、かな……はあ……っ」
本気で、ヤバイ。
そう思ったのを最後に、はガルマの胸に頭を預けて――意識を、手放した。