抜けるような青空に、ふわりふわりと浮かぶ雲。
熱を感じる陽射しとは裏腹の、ひんやりと涼しげな微風。
こんな気候の日は、室内にいるのはもったいない。だから、外へと抜け出そう。
何をしても最適だろうけど、することは決まっている。
それは……一番楽しいこと。
せめぎ合うふたつの木刀。
握り手の一人は二メートルを超える身長の大男。対して、もう一人は一般的に見ても小柄な――少女。
どう考えても少女が負けると思えるのだが……どころがどっこい、その小さな身体のどこにそんな力があるのか、少女は男の木刀を見事弾き返した。
その後も幾度となく対等に切り結び――間合い。両者動きを止めた。
「ほォ……女のくせに、なかなかやるじゃねえか」
「うわーい♪ 剣ちゃんに褒められた~♪」
男・更木剣八の感想を聞いて、少女・は満面の笑顔で答えた。その様は、年相応で可愛らしくもある。
「あたし、どっちかっていうと体動かすほうが得意なんだ! もともと十一番隊希望だったしね」
彼女の実力を知った今ではこの言葉には納得できるが、流石に統学院出たてでは無理だったのだろう。外見も外見だし。……まあ、十一番隊には例外とも言える、よりも小さな少女が副隊長としているのだが。
「なら、今からでも異動するか?」
「あっは~♪ なかなかに魅力的なお誘いだぁ」
十一番隊隊長である剣八からの勧誘。
受け入れ側である隊長がその気なら、いつでも、いくらでも異動は可能なのだ。職権乱用すれば本人の意志すら無視できたりもするのだが、今回その気は剣八にはない。
問題の勧誘を受けた当人の反応はというと……
「……でも」
明るさ一変。鋭く剣八を見据えて、一気に踏み込んだ。
再び激しくぶつかり合った木刀。仕合開始を告げるその音と重なって、勢いよく修練所の戸が開け放たれた。
「見つけたぞ、」
低い声と結構な霊圧。不機嫌――というよりは怒りを無理矢理抑え込んでいるような銀髪の少年が立っている。
外見は少年だが、剣八と同じく隊長の座に就く彼の名は日番谷冬獅朗。実はの上官だったりするのだが……
は驚くこともなく、けろっとして。
「隊長自らサボっちゃダメじゃん、ひっつん」
「その呼び方やめろっつったろ! そしてサボってんのはおまえだ!」
「サボりじゃなくて、修練中」
「仕事終わらせてからにしろ! それ以前に、何で他隊舎の修練所を使うんだ!?」
「いつ来ても誰か彼かいるのは十一番隊だけだからねぇ」
「だから――って!?」
上官を軽くあしらった挙句に逃走を図る。
冬獅朗がいる出入り口とは正反対方面にある窓へと猛ダッシュ。窓辺で心得たように彼女の荷物を差し出している弓親と、何も持たない手を広げている一角の間を走り抜けて、はあっという間に姿を消した。
「待て! !!」
僅かに遅れて後を追う冬獅朗。
まるで嵐のように二人が去った後、修練所は僅かな間の静けさに満ちる。
「毎度のことながら、賑やかだね」
「よく飽きねーよな」
手ぶらになった弓親と、が投げ渡してきた木刀を受け取った一角の呟き。
静けさに終止符を打つこの遣り取りも、もうおなじみのものだ。
が初めてここを訪れたのは半年ほど前。珍しい客に絡んだ男共をあっさり倒してしまった彼女に興味を持ち、一角がその相手をしたのが始まりだ。
以来、たびたび顔を見せる。やるたびに目に見えて強くなっていくのが面白くて、一角もつい相手をしていたのだが、その終了は毎回冬獅朗によって決められていたのだった。
「日番谷隊長の言う通り仕事終わらせてから来りゃあ、思いっきりできるだろうに」
「そりゃ、無理だな」
何でそうしないんだ、と。疑問を乗せた呟きは剣八によってあっさり否定された。
怪訝な眼差しを向けたのは一角だけではない。
剣八は、にやり、と。それらに笑みを向けて。
「あいつ、アレを楽しんでるだろ」
十一番隊修練所に、なんとも言えない……納得、といった空気が満ちて。同時に十番隊長に対する憐れみも滲んでいた。
「ちゃん」
「およ? ギンちゃん」
十一番隊修練所を飛び出し、屋根上を移動中のこと。呼び掛けと同時に隣を並走してきたのは、三番隊隊長・市丸ギン。
「また、ちっさい隊長はんから逃げてはるん?」
糸目のおかげで感情の読めないギンから出たのは、ほとんど確信の込められた問い。
十一番隊同様、彼にとってもおなじみの光景だからだ。
「ギンちゃんこそ。吉良りんから逃走中?」
そしてそれはにも言えること。慣れた様子で聞き返せば、あっさりと是が返る。
「あたりや。こないええ天気やのに、詰め所で仕事するんもったいないやんか」
「やっぱり!? ギンちゃんもそう思うよね! なのに、ひっつん、あったま固いんだもん」
「せやなァ……ウチの吉良も、もうちょっと砕けてもええと思うねん」
二人はそれぞれに堅物の上司と部下を思い浮かべ、同時に溜息をこぼした。
自分たちの不真面目さは完全に棚に上げて。
けれど、すぐにの顔には笑みが浮かぶ。
「あ、そうだ! ギンちゃん、よかったらお昼一緒にどう?」
手にしている風呂敷を示す。どう見ても一人分には見えないくらい膨らんでいるそれに、ギンは重い空気を払って喜色を――見た目には非常にわかりにくいが――浮かべる。
「ええねぇ。どこで食べる?」
「双極の丘! あそこなら眺めもいいし、人も来ないしね!」
「ああ……確かになァ」
あらかじめ用意しておいた答えを返せば、少し上を向き思い出すような仕草で同意するギン。
双極の丘は掟に背いた重罪死神の処刑場所。誰も好んで行きたがる場所ではない。――故に、穴場中の穴場なのだ。
単純に景色や自然を楽しむだけなら、これほど良い場所はない。
くふふっと笑い声を洩らした――刹那。背後に近付いてきたふたつの霊圧。
はギンと顔を見合わせると、笑みを刻んだ。
「ほなら、鬼を撒いた後でな」
「うん、健闘を祈る♪」
隊長である彼が本気を出せば、副隊長に捕まるようなことはない。けれど、彼もまた自分と同じものだから。
――即ち、この鬼ごっこを楽しんでいる。
これがやりたくて、仕事中に抜け出してきているから。
最後に一度目配せをし、同時に正反対へと跳ぶ。その後を、それぞれに鬼役が追ってきているのを感知して、は笑った。
捕まらない程度に力を抑えて逃げ回り鬼と少し遊んだら、適当なところで瞬歩を使って完全に撒く。その後にはまた、楽しい楽しいお昼ご飯。
程よい運動の後は、食事もより一層美味だから。
外で食べるなら、自然が更に食事を美味しくしてくれるし、誰かと一緒ならもっと良い。
だから、晴れた日には外へ抜け出すに限るのだ。
天気は呆れるくらいの快晴。汗を飛ばしてくれる心地よい微風もアリ。
瀞霊廷は本日も、鬼事日和ナリ。
END