ひかりのゆりかご

 ずっとずっと暗闇の中だった。
 太陽の光は見えても、それはここまで届かない。
 心の中はずっと暗いままで。
 ただ……一筋の光を求めていた――……


「着いたわよ。ここがコーセルテル」
 周囲を取り巻いていた風が止んでやわらかな女性の声に導かれるまま、少女は目を開けた。
 そこは今までいた暗い部屋とは全く違う、豊かな緑に囲まれた暖かな光の溢れる場所だった。
 目の前には一軒の大きな家。
 その家に向かって迷いなく進む女性の後を、少女は慌てて追う。
「やっほー♪ ミリュウいる~♪」
「母さん!?」
 遠慮も何もなく扉を開け放ち入っていく女性に、中から驚愕の声が聞こえてきて少女は扉の影に隠れた。
 そっと中を覗くと、女性と良く似た面立ちの背の高い青年と、少女と年齢の近そうな子供が四人いて。そのうちの一人がこちらに気付いた。
「ミリュウ師匠、入り口のところに女の子がいる!」
「え?」
 室内の者が一斉にこちらに注目してきて、その視線から逃れるように身を隠す。
「ほら、心配ないから、こっちおいで」
 少女をこの地に連れてきた女性が扉のところまで戻ってきて、彼女の手を引き中へと促した。
 それでも女性の影に隠れている少女に、青年は盛大な溜息をついて。
「母さん……今度は一体、何を拾ってきたんです?」
「あはは~♪ ちょっと面白い子を見つけてね♪」
 呆れた様子の青年と、興味津々な子供たち。
 子供たちをじっと見ていた少女の目が、丸くなる。そして、子供たちも同じように目を丸くして、喜色を露に言った。
「その子、ひょっとして竜なの!? 耳があたしたちとおんなじ!」
「え?」
「でも角ないよ? しっぽはあるのに」
 子供たちの疑問に青年は少女をまじまじと見つめ、女性はただ笑って。
「この子はあたしと同じなのよ。竜を片親に持つ人間」
「まさか……コーセルテルの外で?」
「そ。その所為で、辛い思いをしてたみたいでね……この子の親竜が何属性だったのかはわからないんだけど、星の五竜の力は感じないから天(そら)の二竜のどちらかだと思うのよね。で、もし暗竜ならメリアさんの後継ぎに丁度いいし。竜術士にならなくても、せめてこの子が負った傷が癒えるまでは――と思ってね……」
「……そういうこと……」
 女性の話は少女には良くわからなかった。
 ただ、頭を撫でてくれる手と話す声が、暖かく優しくて。
 不安はまだあったけど、それでも自分を見つめる青年を真っ直ぐに見ることができた。
 その少女の前で、青年は膝を折って目線を合わせて、微笑んだ。
「初めまして、ボクは風竜術士ミリュウ。君の名前を教えてもらえるかな?」
 暖かくて優しい、やわらかい青年の笑みに、少女は少し俯いて口を開く。
「…………」
「そう。さん、ここで暮らしてみるかい?」
 青年の言葉に少女は顔を上げた。青年を見、そして女性を見上げる。
 気付いた女性は、笑っていった。
「言ったでしょ? コーセルテルは竜にとって楽園だって。ここには君を傷つける人はいないよ。君がいたいなら、ここにいていいの」
「……ほんとうに……?」
 少女の問いに女性は頷く。少女は青年へと視線を移して。
「いいの? もう、あのくらいへやに、もどらなくても……いいの?」
「ああ、そうだよ。君はもう自由だからね。好きな場所で生きていいんだ」
 少女は一歩前へ出る。青年は少女に片手を伸ばしてきて……少女はその手を取った。
 これで、少女の意志は決まった。
 それを見届けて、女性はすちゃっと片手を挙げる。
「じゃ、ミリュウ。新しい妹、しっかり面倒見てあげなさいよ」
「って、ちょ、もう行くの!?」
「娘でもそろそろ差し支えなくなってるかな」
「むすっ!? ボクはまだ25だよ!!」
「じゃ、そゆことで~♪」
「人の話を聞け――――!!!」
 嵐の如く去り行く女性に、青年の叫びが虚しくこだまする。
 少女はその遣り取りに少し驚いたけれど、含まれる暖かな雰囲気にほんの少しだけ目元を緩めた。
「師匠師匠、いつものこと。それよりこの子、これからどうするの?」
 一番年上の子供がそう言って、青年は落ち着きを取り戻してから口を開く。
「そうだね……そろそろお昼だし、ジェンさんは食事の用意を頼むよ。ロッタルクさんはさんをお風呂に入れてあげてくれるかい?」
 青年は上の二人にそう頼み、再び目線の高さを合わせて。
「お風呂から上がったら、一緒に食事をしよう。その後、コーセルテルを案内してあげるよ」
 どこまでも優しい青年の笑顔に、少女は忘れかけていた笑顔を返して頷いた。


 ずっとずっと暗闇の中だった。
 僅かに見える光に、叶わぬ夢を抱いていた。
 でも――それを叶えてくれた人がいた。
 ここは楽園。
 ずっと夢に見ていた、光の揺り籠――……

END