コーセルテルの自称最弱竜術士

 コーセルテルは、山と谷に守られた幻獣人と竜の国。そこに住む人間は、竜術士のみ。
 竜術士とは、竜に力を借りて術を行なう者であり、代わりに、まだ弱く未熟な竜の子を預かり育てるため、またの名を『子守り術士』とも呼ばれている。
 現存する竜の種は、火・水・地・風・木と星に属する五種と、光・くらやみというそらに属する二種の計七種。コーセルテルに住む竜術士は一竜族につき一人と決められており、その理由のひとつは、どの属性の力を扱えるかという術資質は生まれつきのものであるためだ。
 複数の資質を持つ者は珍しくはないが、普通は五つが最大となる。何故なら、星の五竜と天の二竜の資質を一緒に持ち合わせることができないためだ。
 しかし、ゼロではない。
 かつて、コーセルテルが竜の都であった時代には、七種の資質を持つ術士が存在した。その術士は、竜王を育てられる竜術士――竜王竜術士と呼ばれていた。

 コーセルテルが竜都でなくなってから三千年経った現在、コーセルテルには八人の竜術士が住んでいる。
 そう……三千年ぶりに竜王竜術士の資質を持つ者が現れ、七種の子竜を預けられて育てている真っ最中なのである。

 ――が。





「資質があることと、術を使いこなせるかは、まったくの別問題だとアタシは思う! そもそもが親竜は自分の子竜たちに術を覚えさせるために竜術士に預けるんでしょ!? 竜社会じゃ竜術士のもとで学ぶことが最高学歴になるとかで、将来族長だの守長だの里での要職候補が各竜術士に預けられるのが伝統だとか言うけど!! 都がなくなって竜王なんてものが必要とされていないご時世に、ただその資質を持ってるからってだけで竜術士として独立させて、いっぺんに七人も預けるとかアホちゃうの!?」
さん、言葉がおかしくなってるよ……顔色も良くないけど大丈夫かい?」
「大丈夫じゃないから話しまくって気を逸らせてるんです!! ので、ご依頼の腰痛の薬が出来上がるまで愚痴につきあってください!!」
「え、ええ、それはかまわないけど……愚痴って自覚はあったのね……」

 ごりごりごりごり、と。ほとんど力任せにマッハな勢いで薬草を乳鉢ですり潰しているよわい十八の少女こそ、現在の竜王竜術士である。
 相談役や医者としての役割も担う竜術士。いつもの薬を頼みに来た幻獣人の老婆フルアデラの言葉どおり顔色が良くないのは、必要な薬草の葉だけを種から作り出すという木竜術を使用したためだ。

 術士という肩書上、術を使うことはできるのだ、一応は。ただ彼女の場合、ほかの人間に比べ、体にかかる負担が半端ではないため、できることなら使いたくないというのが正直な思い。
 だが、そうも言ってられないのが竜術士という仕事の悲しいところ。
 竜は子供のうちから成竜並みの力を持っているが、自らの意志で使うことができない。竜術士はその力を成竜以上に引き出すことができ、子竜は術士に力を預けて一緒に扱うことによって術の使い方を覚えていくのだ。
 しかも、竜は精霊に近い存在。人間とは違って、時間が経てば成長するというものではなく、環境と本人の精神年齢・知力・体力などによって成長速度は変わるのだ。その上、一定段階で止まりもする。理由は、変化とも呼ぶべき成長期には他者の力を必要とするためだ。卵から孵る時と、幼竜から少年竜へ変わる時――つまり子供の間は、何をどうやっても他者の手を借りねば成長できないというわけだ。
 なので、親元へ帰せる段階まで育てるには、できるだけ多くの竜術を使わざるをえないのである。

 そんなにつらい思いをするくらいなら、そもそも竜術士にならなければよかったのでは――という疑問に関しては、彼女の言葉でお察しいただけよう。
 見習いとして修業を始めるまでは、ここまで体質的に合わないなどと知りようもなく。判明した時には既に、三千年ぶりに現われた竜王竜術士に我が子を育ててもらいたいと、すべての竜の里が大盛り上がりしていたわけで。
 つまるところ、すべての竜族長たちのごり押しの賜物というわけである。
 とはいっても、本人が完全拒否していたならいくら数で押してもどうにもならなかったのであり――

「でも子竜たちみんな、かわいらしいじゃない?」
「かわいいよ! かわいいですともさ!! むしろラブでさぁ!! だからこそ自分の体質が恨めしいやら情けないやらこの子たち独り立ちするまで何年かかるんだって思ったら嬉しいやらうんざりやら複雑極まりない心境だってことなんじゃいワレェ!!」
「言葉遣い、言葉遣い」
「すんまそん」

 名前に竜人化術を込め、名を呼ばれることで人型を保つようになった竜族は、ほとんど本来の姿――元竜に戻ることはない。
 幼竜はその名が示すように人間の幼児ほどの姿で、バランスを取るため足が大きくしっぽがあったり、角や、一部翼を持つ種もいるが、それが却って愛らしく見える。
 興味深そうに無垢な瞳で己の手元を覗いてくる七人の幼竜を煩わしく思うほど冷淡なの正確ではないは、結局子竜の愛らしさに負けて竜術士となったのであった。

さん、郵便でーす」
「はぁーい……うっ」
「だ。大丈夫かい、さん」
「だいじょうーぶです……」

 出来上がった薬を袋に入れていると、ノックとともに声がした。条件反射で返事をして立ち上がったの体が、一瞬傾ぐ。テーブルに手をついて転倒を防いだ彼女は、心配するフルアデラや子竜たちを制して、ふらふらと玄関へ向かい、扉を開けた。
 秋独特のひんやりとした空気が入り込んできたのを大きく吸い込み、少しだけ回復したは、待っていた郵便屋の青年に向き合う。

「ご苦労さまです」
「なんか急に寒くなってきましたね。もう冬が来るんですかねぇ」

 受け取り印を押して手紙を受け取り、郵便屋の青年を見送ってから扉を閉めつつその表書きを確認したの眉根が寄った。
 中央にでかでかとした字で書かれていたのは――『果たし状』の四文字で。

「今年も冬が近づいて来ました。我ら冬の使者の駐留地に今年はコーセルテルが選ばれましたので、コーセルテル最強の術士である貴殿と我が軍の代表とで駐留地での主導権をかけて勝負をしていただきたくさうらふ……って、なんだそりゃアホか冬軍とやらはアホの集団かーっ!?」
「おや、懐かしいね、冬将軍の果たし状かい? 前に来たのは何十年前だったかねぇ。さっそく村の連中に知らせねば♪」
「ちょ、フルーさん!? 薬忘れてかないでっていうかなんでそんな楽しそうなんだ、こっちもアホばっかかー!?」

 未だ残る気持ち悪さを誤魔化すべく声に出して手紙を読み上げた
 聞いたフルアデラは、嬉々として立ち上がると、腰痛持ちとは思えぬ足取りで去っていってしまって。
 の叫びは、むなしく室内にこだまして、消えていった。





 そんなことがあった数日後の朝、コーセルテルは一面銀世界に変わっていた。
 前日までは秋の気配が濃く残っており、一晩でこんもり雪が積もるほどの冷え込みはなかったのに、だ。ついでにいえば、コーセルテルには四季を司る精霊から大体の予定は通達されるのが通常であり、本来はまだ秋のはずなのに、だ。
 コーセルテルでは時折、子竜たちの術の暴走によって様々な異変が起ったりもするが、これは明らかに竜術ではない。何故なら、雪や氷を作り出す元、冷気を作る術は暗竜と水竜の同調術だけであり、現在それが使えるのはだけだからだ。
 心当たりのないは、訪ねてきた幻獣人の各村の代表者に開口一番宣言した。

「アタシ暴走させてませんよ!?」
「それは疑ってませんよ」
「そうじゃなく、冬将軍の果たし状を受け取ったと聞いて、何か知ってるんじゃないかと思って来たんです」
「あー、アレね……それなら……」

「そいつが断わったからだよ。その子守り術士の不戦敗で、駐留地での主権は俺たちのものになったからさ!!」

 頭上から降り注いだ声。不遜な物言いが示すままに高い宙に浮いて地上を見下ろす一団。同じ服装と言葉から察するに、冬軍――冬の精霊だ。
 その中で一番若い外見の青年が、言った。

「俺の名はカシ。冬将軍配下、寒波隊の隊長だ。コーセルテルの住人はこの冬、俺の命令に従うことになったんだ。そうだな、まずはもてなしの準備でもしてもらおうか」
「……いい? みんな。人の話は落ち着いて、最後まで、きちんと聞かないとダメだよ? じゃないと誤解したり、その人が何を望んでいるのかもちゃんと知ることができないでしょ?」
「子守りしてる場合か!! おまえこそ俺の話聞けよ!!」
「相手を敬う気持ちも忘れちゃいけないよ。上司を敬いもせず、むしろ自分のわがままを無関係な人に押し通すために、上司の意に反して勝手にその権力とかを使うのはとっても悪いことだし、それを平気でやってるアイツみたいな迷惑なヤツのことを『とらの威を借るきつね』っていって嫌われる性格のひとつだからね?」
「誰がとらの威を借るきつねだ!! 俺は冬将軍なんぞの権力に頼ってなんかいねえ!!」
「ほらね? 上司の悪口言ってるでしょ? ああいうの、絶対真似しちゃダメよ?」
「るせえ!! てめえこそ言いたいことも面と向かって言えねえような卑怯者じゃねえか!!」

 勝手なことを並べ立てた冬の精霊カシに背を向けてしゃがみ込み、は子竜たちに向けて話し続けた。
 その内容に腹を立てたカシの言い分に、深々と嘆息しつつ立ち上がったがやっと真っ直ぐにカシを見て口を開く。

「どこからそんなガセネタを仕入れてきたのか存じませんが、アタシは竜術士というものがこの星に誕生して以来、おそらく最弱の竜術士です」
「あ?」
「そんな相手と勝負して勝ったところで、そちらの名声が地に落ちるだけだと思うのですが、それでもよければいくらでも受けますが? ――と、アタシは冬将軍に返事を出した。そうしたら、冬将軍のほうから断わりの返事が届いて、別の人を選び直すとも書いてあったわね。それを知らない時点で、アナタが上司の話をまともに聞かない人物だという証拠でしょ? 知っていてこんなことしたんだったら、弱い者いじめでしかアイデンティティーを保てないような、まさしくとらの威を借るきつねさんな証拠」

 の正論で反論の言葉が出てこないカシへと、部下の一部から疑惑の眼差しが向けられた。各村の代表としてこの場に居合わせた幻獣人や、子竜たちからも。
 それらに耐えかねてか、カシが歯ぎしりして。

「だったら、コーセルテルで最強の竜術士ってのは誰なんだよ!?」
「そもそも、その最強の基準って何よ?」
「最強ってのは一番強ェってことだろうが!? そんなこともわかんねえのか!?」
「……やっぱりアナタって、人の話をちゃんと聞く能力がないのね……」
「話聞かねえのはてめえもだろ!! 勝負しに来てんだから勝負の強さに決まってんじゃねえか!?」
「何の強さを競いたいのかによって基準は変わるでしょうが」
「術士に勝負挑んでんだから術力に決まってんだろ!!」
「あー、もう、ホントに理解力のない男……」

 片手で顔を覆い、は深々と溜息をついた。寒さのせいで白く現れてはすぐに消えたそれに、カシの怒りゲージがさらに上がる。
 しかし彼が何か言うより先に、キッと見上げたが大きめの声を放つ。

「質問です! 竜術とは、どういう種類の術でしょうか!?」
「あ゛あ!? 竜術は竜術だろうが!」
「答えになってない! ほかに答えがわかる人どうぞ!」
「えっと……竜の力を借りて行なうもの、ですか?」
「正解!」

 の勢いに押されて、先程カシへと疑惑の目を向けた冬軍の一人がおずおずと挙手をして答えた。
 は拍手を送り、さらに言う。

「では、現存する竜は何種でしょう!?」
「七種だろうが! その全部を扱えるてめえが最強じゃなく最弱たぁ、どういう了見だって話じゃねえか!!」
「資質があることと使いこなせることとは別問題でしょうが!! 確かに使える術の数ならすべての資質を持ってるアタシが一番多いだろうけど、威力が平均以下な術をアンタは最強と称するワケ!?」
「……言わねえな」
「一種族の術しか使えなくてもそれに特化してて強力な術が使える人のほうが、アンタの求める勝負に適した人じゃないの!?」
「だからそれはどいつだって聞いてんじゃねえか!!」
「七種のうちでアンタが勝負したい項目に適した竜術士でしょ!? 自分で選ぶ能力もないほど無能なの!? それともそれぞれが何を司るかも知らない無知なの!?」
「悪かったな無知で!!」

 勢いで無知と認めたカシ。
 盛大な溜息をこぼしたのはだけではなかった。その中の一人である冬軍側のカシより年上そうな外見の男が進言した。

「竜の中で最も司る力が大きいのは暗竜で、竜都が滅んだのも暗竜の竜王の暴走が原因だとも伝わっているほどですよ、隊長」
「なら暗竜術士が最強ってことか!?」
「でも暗竜術士は、もうそろそろ『おばあちゃん』って呼んでいい年齢に差しかかっている人だけど、そんな人と勝負したいの?」
「ぐ……っ、じゃあ、誰なんだよ!?」
「どんな環境でも冷気を作り出せることを強さの証明としたいなら火竜術士、風の強さを競いたいなら風竜術士じゃないの? 火竜術士も結構いい年齢になってるけど、火竜はケンカっ早い気質の子が多いから、さっきそこの人が答えたように竜術は竜の力を借りるものだし火竜のほうをその気にさせられれば術勝負ならできるんじゃないの? 風竜んトコは面白がって受けると思うよ」
「最初っからそうやって言やぁよかったじゃねえか!! 回りくどいことしやがって!!」
「もとはと言えば、冬将軍の話をきちんと聞きもしなきゃ、その決定を待つ忍耐力もないアンタの自業自得でしょーが。八つ当たりまでしてどこまでも迷惑なヤツ……」
「うるせえ!! で、そいつらはどこにいる!?」
「どっちも高い山のあるトコ。あとは自力で探せば?」

 しっしっ、と。虫でも追い払うかのように手を振って話を終わらせたは、改めて周囲を見渡して、うんざりとした様子で肩を落とした。
 一面の雪景色。しかも、ちょっとやそっとで融ける量でもない。冬の精霊は、冬にするのが仕事であって、降らせた雪を融かす能力はあろうはずもない。
 つまり現状を変えるには、竜術に頼るしかないということで。

さん、とりあえずこの雪をどうにかしてもらえませんか?」
「えぇー、アタシがやるの~?」
「畑もまだ冬支度前だったんです。早く秋に戻してもらわないと、来年の収穫にも影響してしまいますよー」
「あー、だよねー、そんなときのためのはずの木竜術士は、畑で竜術使うの嫌いだもんねー」
「はい。それに各竜術士さんに頼んだのでは時間もかかりすぎてしまいますから。どうかお願いします」
「うぅ~……っ」

 本音を言えば、断りたい。コーセルテル中に降り積もった雪を融かし、災害が起きぬよう水の流れを導いて、ぬかるんだ土を整えて――と、秋の状態に戻すには、相当大掛かりな術となる。たったひとつの、基本中の基本の小さな術でさえ体調を崩してしまうにとっては、負担が大きすぎるからだ。
 とはいえ、幻獣人の訴えももっともであり、そもそも子育てなんてものは親の犠牲の上に成り立つものか――と。

「……仕方ない、か。みんな、聞いてたとおり、コーセルテルを秋に戻したいんだけど、力貸してくれる?」
「――おい、おまえ」

 の問いかけに六人の子竜たちは元気いっぱいに、一人は仕方ないとでも言いたげに肯定を返した。
 そこへ水を差したのは、上からの低い声――カシだ。

「何? まだいたの?」
「一度冬に染めた大地を秋に戻すなんて芸当ができるやつのどこが最弱だ! 騙しやがったな!?」
「人の話まともに聞かないだけじゃなく、言いがかりまでつけてくるなんて、アンタに長所ってもんはあるの?」
「やかましいわ!! 勝負自体てめえは断わってねえってんなら、勝負しやがれ!!」
「え~? な~に~? 勝っても負けても自分の名が地に落ちるだけの勝負したがるなんて、アンタ何が目的なの~?」
「俺の実力を万人に知らしめる野望の第一歩としちゃ不足はねえ。てめえよりまだ上がいるってんなら、てめえのあとで倒しゃいいだけだ。勝負しろ!」
「ほんっとに、聞いてるようで聞かないヤツ……ということで、やること増えちゃったんだけど、みんな、いい?」

 本日何度目かわからない溜息を深々と落として、再度は己が預かる子竜たちに問いかけた。今度は七人ともが力強く頷いて。

「じゃあ、いくよ~」

 宣言と同時にに力を預けてくる子竜たち。それを己の内で安定させ、望む形へと編み上げる――その過程で、既にぐらりと世界が回っているように感じるほどの気持ち悪さに襲われたが、何とか堪えては編み上げた竜術を解放した。
 ふわり、と。暖かな風がを中心にして四方へと吹き始めて、間もなく。

「うわぁっ!!」

 熱風は渦を巻いて、周囲の雪ごと冬の精霊たちを捕らえ、巻き上げ、湖へと弧を描いて運び去っていく。

「ばいばいきーん」

 余計な障害物をさっさと片したは、本題のほう――コーセルテルを秋に戻す竜術に集中した。
 見る見るうちに秋の姿へと戻っていく周囲の景色と比例して、の顔色もどんどん悪くなっていく。

「元どおりになった!」
さん! 大丈夫ですか!?」

 ものの数分で昨日までの状態に戻ったコーセルテル。安堵と歓喜は、すぐさま心配へと取って代わられた。
 蒼白な顔でへたりこんだは、幻獣人に応える余裕もなく片手で口を押さえ、残った片手をひらひらと力なく振る。
 心配そうに子竜たちが集まり、オロオロとするだけの幻獣人。
 そこへ影と水滴が落ちてきて――

「あれで終わったと思うなよ!!」

 一人で戻ってきたずぶ濡れのカシが、匕首あいくちを構えてへと飛んでくる。
 既に自力で術を使えるようになっている年長の暗竜ナータが暗竜術で防ごうとするのを、その頭に手を置くことで制したは、先程までの体調不良など嘘だったかのような素早さで身を起こした。そして、かわすどころか自らカシの懐に飛び込んで――
 地面に仰向けに倒れるカシの肩を、膝と足で押さえ込む体勢で彼の喉元に刃を突きつけるの姿が、そこにはあった。
 一瞬の早技。現状を理解するのに時間を要するのは、以外の全員で。

「な――」
「人に刃を向けるなら、自分が斬り返される覚悟はあるんでしょう?」
「っ」

 冷ややかな目に射抜かれて動く意思すら封じられたカシとは対照的に、の体が前のめりに動く。

さ――」

 本当に刺す気か、と。幻獣人の悲鳴にも似た声に重なり、ザクッ、と。刃が突き立てられた音を発したのは、カシの体のどこでもなく、地面で。
 匕首を支えにしてやっと体勢を保っている蒼白な顔のの口から出たものは――

「……も、ムリ……おえっ」
「ぎゃー―っ!!」

 こうして冬軍代表カシ対竜術士の勝負は、の勝利で幕を閉じた。
 が始める前に言ったとおり、『ゲ○まみれにされて負けた』というレッテルを貼られたカシの名が地に落ちたことは言うまでもなく。
 逆恨み状態でその後何度も勝負を挑みにカシがやってくることになるのだが――それはまた別のお話。

END