クロスロード
中編

 は身内に甘く、身内とは失いたくないと思える人間全て。それが自他共に許す認識であり、はいつでも身内を守るために動いていた。
 それは今回のキラ事件に関しても同じこと。知っていればこそ、動かずにはいられなかった。
 ――そう、知っているのだ。全てではないが、は一部の未来に起こることを詳細に記憶している。記憶、だ。ユニのように未来を視るわけではなく、あらかじめ知っていたということ。
 何故なら、それはにとっては前世の記憶と呼ばれる類のものであり、自分がその世界へと転生トリップしたことを理解していたから……これが、誰も知らないの真実だった。
 まさか沢田綱吉の成り代わり転生をする羽目になるなどとは夢にも思っていなかった。だが、早々に腹を括り楽しみつつ原作を引っ掻き回して、自分の望み通りの未来を手に入れた。――その矢先、まさかのまさか。『DEATH NOTE』の世界とも繋がっていようなどとは、誰が予想し得ただろう。
 マフィアである自分たちは、キラにとって排除すべき悪。そして神を気取るキラにとっては、己に逆らう存在もまた悪……そんな自分の行ないを棚に上げた独裁者の存在を放置できるはずはない。
 と、すれば、未来を知っているというのは大きな強みであるはずだった。だが、有り得ないことが既に起きている以上、己の知る通りの展開になるとは限らない。
 ユニならば変化していく先の未来をその都度視ることが可能なのだろうが……そんな能力のないが取れる有効な対策は、現場にいてその目で確認していくしかない。だが、ボンゴレⅩ世という立場が足枷となり、それすら今のには実行不能な対策と成り果てた。
 それに、何より一番の足枷は自由に動けないことではなく、守るべき身内が増えすぎたこと……
 それ故に、は、キラを、許せない――……



「では早速ですが、今までのキラに関する捜査資料とこのテレビ局に送られてきた一般には未公開のビデオを観てください。全ての資料等の持ち出しやメモを取ることは禁止です」
 Lがライトの前に姿を現わして、しばし後。第二のキラが現われ、ライトは捜査協力者としてキラ対策本部に招かれることとなったのだが……初めて本部となっている高級ホテルの一室を訪れたこの日、ライトにとって衝撃的なことが待っていた。
 来て早々、示された資料をまず見始めて――すぐのこと。
「りゅ、竜崎……っ! あ、あの、あれ!?」
 松井(確か本名は松田)の慌てた声が集中を妨げた。
 信用できる者しか入ってこれないこの部屋で、何を慌てているというのか……
「どうしました……って、何て格好で出てくるんですかさん!?」
 資料から顔を上げたライトが松井の指差した先へ目を向けたのと、珍しく大声を上げて焦りを露にした声音で竜崎ことLが第三者の名を呼んだのとは、ほぼ同時だった。
 思わずライトは固まった。
 どこかの部屋へと通じているだろう扉の前に、バスジャック犯をいとも簡単にのしてしまったあの少女が、バスローブ姿で立っていたのだ。
 ――何故……
「おはよー竜崎ー」
 あくびをしながら少女が挨拶を口にする。緊張感どころか危機感すらもまるでない。彼女の実力を知っていればそれも頷けるが、だからといって容認できる事態ではないだろう。
 ライトと同じ認識でいたらしいLが彼女に注意を促す。
「もう午後です。そして着替えてから出てきてください。ここが捜査本部だということは話しましたよね」
「着替え持って来てなーいもーん」
「知ってます。だからワタリが買ってきて部屋に置いてあったはずですが」
「スカート嫌いー」
「わがまま言わないでください。男だらけのこの場にそんな姿でいるほうが危険です」
「返り討ちは得意だから平気だもーん」
「それも知ってます、が、間違っても実演はしないでください。命懸けでキラを追う覚悟を持った数少ない捜査員を使い物にならなくされては困ります。そして、そういう問題ではなく、女性としての危機感を持ってくださいと言っているんです」
「竜崎が珍しーいこと言ってるー」
「あなたに何かあったら、あなたの守護者に私が殺されます。私はまだ死にたくありません」
「あははー」
「笑いごとではありません!」
 苦情が多大に含まれた、極々一般的な常識を促す忠告にも、少女はどこ吹く風。笑って受け流しはしたが、それでも出てきた扉の向こうへと姿を消した。恐らく着替えに行ったのだろう。
 少女が去って後、Lは盛大な溜息をついて肩を落とした。基本ポーカーフェイスの彼としては、かなり珍しいほどの感情表現だ。室内にいる捜査員のほとんども、驚き、また信じられないものでも見るような目をLに向けている。
 ライトも、驚いた。だが、その驚きの向かう先は少女だ。
 海外暮らしの彼女と、まさかまた会えるとは思わなかった。だが、よりにもよって何故この場所なのか。特殊部隊に所属していると思われるその立場故に、Lとの繋がりもあったということか。しかし……あのLにこれだけ感情表現をさせられる間柄が、その程度のものだとは思えない。
 まさか、Lと少女の関係は――
「竜崎、彼女は何者だ?」
「ひょっとして竜崎の彼女ですか!?」
「松井……」
 ライトの頭にも浮かんだその可能性を、松井が嬉々として直球で尋ね、相原が呆れた眼差しを向ける。
 やっぱりこうなったとでも言いたげにLは松井を一瞥して溜息をつくと、椅子に座って口を開いた。
「違います。彼女は私の命の恩人です」
 また、思いもよらない単語が出てきたものだ。
 驚きというよりも疑わしげな目が向けられ、却ってLはポーカーフェイスに戻った。
「命の、恩人?」
「はい。以前、少々ドジを踏みまして、ある犯罪組織に捕まり殺されかけたことがあったんです。それを救ってくださったのが、彼女とその守護者の方々です」
「守護者?」
「彼女専属の護衛をそう呼ぶそうです」
 それはライトも前回のスペースランドで聞いたことだ。
 命の恩人……なくはない、か……彼女の所属する特殊部隊が壊滅作戦を行なった先の犯罪組織に、偶然Lが捕まっていた、とか。……有り得る、な。
 出会いはそれで納得はできるが、今に至る関係がまだ不明瞭だ。そこも……松井が好奇心を前面に押し出した表情で問い掛けてくれる。
「それで助けられて恋に落ちちゃったんですか?」
「違うと言ったはずですが」
「じゃあ、どうして彼女ここにいるんです? どう見ても出会って浅い関係には思えませんでしたよ、さっきの会話」
「付き合いはそれなりにありますからね、職業柄」
「……職業柄、ですか?」
「私は彼女の顧客です。自分で調べるには困難な情報を彼女から買っています」
 さらりとLが告げた言葉に対する反応は、驚きに目を丸くする者と、疑わしげに眉を寄せる者とで二分した。ライトは、前者。
「それって、いわゆる、情報屋ってことですか彼女!?」
「まさかキラ事件に関しても情報を?」
「はい。主に海外のキラ被害者についての情報を。ICPO等の警察関係機関が取りこぼしていたものがかなりありました。それはともかく、ライト君はそっちをお願いします」
「あ、ああ……」
 ピッ、と。指で示されるというおまけつきで話を振られ、ようやく手が止まっていたことに気付いた。しかも、ばっちり目が合ってしまっては誤魔化しようもない。自分がこの話題に関心があることがLに気付かれてしまった。
 ライトに好意的な捜査員たちならどうとでもなる。ライトが自ら動くまでもなく、松井なら勝手に男女の問題に勘違いしてくれるだろう。
 だが、初めからキラとして疑ってきているLは、そうはいかない。まして少女が情報屋だったとするなら、あの日のこともLに筒抜けになっていると見たほうがいいだろう。
 とはいえ、結局あの時は空振りに終わっている。尾行していたFBIの始末には別の手を使ったし、証拠は何もないはずだ。
 そうだ、だから逆に考えればいいんだ。これは少女のことを知るチャンスだ、と。事実、今新たな情報が得られたではないか。
 これは、チャンス。偽キラについて以外に、Lと少女の情報を得られる、絶好の機会――……
 なのに……何故だろう。苛立ちにも似た思いが胸にくすぶっているようで、ライトの気分は決して良くはならなかった。
 キラとしてのボロを出さないためにも、捜査資料に目を通し頭に入れ終え、次に偽キラが送ってきた非公開のビデオを見るという時になって、少女が戻ってきた。白を基調としたシンプルで上品な印象を受ける服装の少女は、初めて会った時とはまた違って見えて新鮮に感じたのは事実。けれど、その直後から見たビデオの出来の悪さに、また気分は最悪なほど落ちていった。
 更にはビデオの送り主がキラではないという推理をしなけれが疑いが深まるというような目で見られ、その通りの推理をしてやればキラを演じて偽キラに対する返事を書くよう依頼までされて。
 断れるわけのない状況に、気分はどん底まで下降。情報収集どころではなかった。
 内心で盛大な溜息をついた、その時。
「竜崎ー」
 それまで、ただ黙ってその場にいるだけだった少女が、間延びした声でLを呼んだ。
「はい? どうかしましたか?」
「この第二のキラって……女の子だよ」
 テレビ画面を見たまま誰のほうを見ることもなく告げられたその内容に、室内の空気が一瞬で凍り付いた。ライトも思わず少女を見た。
 何故、わかる。女……それも女性ではなく女の子、と。
「なっ……女の子って」
「それも既に調べてあるとでも言うのか?」
 思う疑問は誰もが同じらしく、色めき立つ捜査員たちをLは手で制して少女に真偽を問う。――しかし。
「それは、あなたの勘ですか?」
「うん、勘。直感」
「わかりました。その方向で捜査します」
「「 なっ!? 」」
 裏付けなど何もない単なる直感だと少女は言い、Lはあっさりそれを受け入れ捜査方針に組み込んでしまった。
 自らの足で情報を集めて回って証拠を固めていく捜査を基本としている捜査員たちにとっては、到底理解できることではないだろう。ライトの父、総一郎が声を荒らげLに疑問をぶつけた。
「一体どういうことだ、竜崎!?」
「彼女の勘は絶対に外れません。100%の確率で当たります。私自身が実験して立証済みですから」
 非難にも似た問いに、けれど何でもないことのようにLは答えて。捜査員たちに更なる衝撃が走った。
「じ、実験……」
「100パー当たる勘って……」
 呆然と呟く彼らが向ける複雑な感情の入り乱れた視線に、Lも少女も全く関心を示すことはなく、ただ混乱が生じただけだった。
 ライトも、然り。新たな情報を得た喜びよりも、その信憑性に対する疑いなどから困惑の色のほうが強くて。ひとまずそれらは脇に置くことで心を鎮め、偽キラへの返答を考えることに集中した。
 然して間もなく原稿を書き上げ、一部を除いてLからの太鼓判ももらい、捜査員がそれをビデオに作成し始めて、ようやくライトに余裕ができた。すっかり冷えてしまった紅茶を一口飲んで一息つき、少女へを目を向ける。
 先程の発言以降、少女は全く動きを見せていない。以前会った時のような明るさは鳴りを潜め、どこかぼんやりとした様子で椅子に座っている。その、違いが、ひどく気になった。
 観察と言っていいほど人をよく見ているLもそれには気付いているのだろう。彼女に視線を向けたかと思うと、紅茶に口をつけてから、ぽつりと言った。
さん。私はあなたの勘を信用しています」
 それは、先程の発言を信じなかった捜査員たちの反応に傷付いた少女を慰めるかのような言葉。けれど……ライトは、違うと、そう思った。少女はそんなことで傷付くような人物ではないし、またLもそれを承知しているはずだ、と。
 事実、少女は変わらず、ただ事務的に「うん……」と呟いただけで。
 そしてLは真っ直ぐに少女を見つめ返して、続ける。
「同じように、あなたの判断が最善であることも私は信じています」
 少女が顔を上げた。怪訝というよりは、どこか泣きそうな表情でLを見る。
 Lは真っ直ぐに少女を見つめ返して、続ける。
「あなたが誰よりも身内に甘いことを知っています。だからこそ、あなたは犠牲が出ない最善の策をいつも考えているはずです。たとえその結果、最低限の犠牲が出てしまったのだとしても――彼らはあなたを恨むことはないと思います」
 ゆらり。少女の瞳が揺れて。
「……何故、そう言い切れるの?」
 すがりつくような色をにじませた声音で、Lに問う。
 少女の視線を受けたLは、迷うことなく答えた。
「滅多に会わない私でもあなたの為人ひととなりはすぐにわかりました。ならば、ほぼ毎日側にいるあなたの部下があなたのことを理解していないとは思えません。あなたは決して部下を駒と見ることはない。そして、犠牲となった部下のために流す涙を持っています。そのような上官の下で働く者は、そのことに誇りを感じることはあっても恨むことはないでしょう」
 ゆらゆら。少女の瞳が複雑な色に揺れ、けれど素直に認めたくないのか、涙をこらえるように顔を歪ませ悪足掻きのように再度問い掛けた。――しかし。
「……というか、どうして部下を失ったと思ったの?」
「あなたが落ち込む理由が他にありますか?」
 即、問い返されて、少女は言葉に詰まり俯いた。図星、だったのだろう。俯いて椅子に座る少女の姿は、小柄な体をより小さく見せていた。
 Lが小さく溜息をついて立ち上がった。大して距離があるわけでもない少女の側へとゆっくり歩き、正面で足を止めると、俯くその頭にぽんと手を置いて。
「ここにあなたの部下はいません。ならば上官としての仮面は取っても問題はないでしょう。泣きたいなら泣くべきです」
 幼子でもあやすように、Lはぽんぽんと少女の頭を撫でた。
 ぽん、ぽん。リズムをつけて軽く触れるぬくもりにか、少女の肩が震えた。――と、素早い動きでLのシャツを掴んで引き寄せたかと思うと、そのままLの胸に頭を押し付けた。
 声は、一切出ない。それでも、震え続ける肩が少女が泣いていることを物語る。
 Lは特に拒むでもなく、彼女の頭を撫で続けていて。
 ライトは、気分が悪かった。恐らく本日――否、今までの人生で最低最悪ではないかと思うぐらいには、不愉快だった。
 何故だ? ――自分に問う。
 目の前にある光景が気に入らないのは考えるまでもない。では、それのどこが、何が、気に入らないのか。
 Lは少女を恋人ではないと断言した。命の恩人であり、今は情報屋と顧客という関係でしかない、と。
 だが、これはどう見てもそんな表面上の浅い関係には見えない。
 それが気に入らない? 何故? 新しい情報を得られたはずなのに?
 自問自答を繰り返して、間もなく。気付いた。これは、嫉妬だと。
 自分の知らない少女をLが知っていることへの嫉妬。そして少女が弱さを見せるほどにLに頼っていることへの苛立ち。
 それがわかってしまえば、もう二度と会うこともないと思われていた少女を忘れることもなくこれほどに関心を持っていた理由も、自覚できた。
 自分は、この謎だらけの少女を好きになっていたのだ――と。
 自覚してしまえば余計に目の前の光景が面白くなくて、ライトは顔を背けた。
 そして、目を瞠る。黒い革靴とスーツが視界に飛び込んできたから。
 ここにいる捜査員のものではないのは明確。出入り口となる扉の前に立つことから、外にいるという他の捜査員の一人かという考えが過ぎり、努めて冷静に問う。
「誰だ?」
 だが……よく見ると、年の頃はライトとそう変わらない青年だ。スーツ姿ではあるが、どうも警察関係者には見えない。ライトの警戒した問いに、まるで気付いていないかのように人懐っこい笑みまで見せたし。考えられる可能性としては――
さん。お迎えが来たようです」
 ライトがその可能性に思い至ると同時に、Lの声が正解を告げた。
 やはり、少女の関係者。前回のオッドアイの青年とはまた違うが、恐らく『守護者』と呼ばれる護衛の一人だろう。
 少女へと目を戻すと、彼女は固まっていた。とりあえず泣き止んではいるのだろうけど……ややあって、少女はLから離れた。しかし、こちらへ顔を向けることもなく俯いたままで。
「顔、洗ってくる」
 小さく言い残して、再び奥の部屋へと姿を消してしまった。
 少女を見届けたLが、ポーカーフェイスで青年に向き直る。
「お久し振りです」
「おう! 相変わらず不健康そうな顔してんな!」
「大きなお世話です」
「ははっ、そっかそっか!」
 楽天的という言葉がぴったり当てはまりそうな青年だが、この場に来る以上Lの関わる事件を把握はしているようだ。名前を呼び合うという愚は犯さなかった。
 場違いと思えるほど明るい笑い声が急に止む。
 僅かに訪れた沈黙の後、青年は真っ直ぐにLを見て。
「……サンキューな」
 突然告げられた礼に、Lのポーカーフェイスが崩れて怪訝が表された。
「何がです?」
を泣かせてやってくれたことさ」
 さらりと返された答えには、Lのみならずライトも眉根を寄せてしまった。含まれる感情は、全くの別物ではあったが。
 青年は苦笑を浮かべると、Lの疑問に答えるべく語り出す。
「あいつは、部下の前じゃ絶対に弱音を吐かねえからな。オレらの前でくらい本音を晒してほしいとは思ってんだけどよ……多分、もう、オレら守護者も、あいつにとっては『守るべき部下』になっちまってんだと思う。だから、あいつの重荷を下ろさせてくれたこと、感謝してる」
 少女が姿を消した扉を見つめる青年の顔は、苦渋に満ちた笑みになっていて。
「あいつの命を守ることはできても、オレらにはあいつの心を守ることはもうできねーのかもしれねーからさ」
 先程のお気楽な様子など欠片もなく、青年は真面目な顔で真っ直ぐにLを見つめ、言った。
「だから、サンキュー」
 青年が吐露した真情を全て聞き終えたLは、深く深く溜息をついて。
「女性を泣かせて感謝されるというのも、おかしな話ですね」
「ははっ、そーかもな!」
 素直とは程遠い言葉に、青年はまた最初の陰のない笑顔に戻った。
 何気ないそのやりとりが、ライトには面白くなかった。
 不快指数が上がり始めた頃、少女が戻って来た。やはり明るさはどこかへ行ったままだが、それでも多少は陰のようなものが薄らいでいる気がする。
 真っ直ぐにLの側へ行った少女が、彼に何かを差し出した。
「はい」
 素直に受け取ったLが怪訝な眼差しを向けているのは、一枚のMOD。恐らくは彼女が今回Lの許を訪れた本題だろう。しかし、受け取り人が、何故怪訝な顔をするのか。
 ライトのその疑問は、彼らの会話で明らかにされる。
「何です?」
「今回、私たちが壊滅させた犯罪組織のデータの中に、あなたの名前があったから」
「は?」
「どうも、そことあの国の警察、がっつり癒着してたみたいでね。しかも顧客リストの中には、国のトップに関わる人間の名前がゴロゴロあるし。で、それを隠すためなのか、彼らの犯罪を微妙に偽った事件をでっち上げたみたいな形で、そっちに依頼したみたいな感じかな? その辺は私たちには管轄外だからさ」
「ああ、なるぼど」
 ライトにとっては、少女が特殊部隊の所属だという予想が確定できた台詞に、Lは得心がいった顔で頷いてMODをポケットに仕舞う。
「わかりました、こちらで処理しておきます」
「うん、任せるー」
 ……先程の疑問は明らかにはなったが、新たな謎も増えた。今の遣り取りは、どう見てもLが依頼した情報ではないと如実に表している。悪い言い方をするなら、ある意味押し売りに等しい。……もっとも、少女が本当に情報屋ならば、だが。
 少女の本業は、犯罪組織の壊滅を主とする特殊部隊なのは間違いない。その仕事上得られる情報を必要に応じてLに渡しているというのが正しいのだろう。
 それが不正には当たらずに実行可能なほど、少女は高い地位にあるということでもある。護衛がつくぐらいだ。少なくとも幹部クラスだろう。
 そして単に情報を売買するのではなく、互いに力の及ぶ範囲で協力し合う関係――
「じゃあ、またね」
「はい、お気をつけて」
 別れの挨拶を交わして踵を返した少女と、目が合った。その瞬間、彼女の顔が苦しげに歪んだのは、泣いたところを見られたという居心地の悪さからだろうか。
 どちらにしろ、面白くない。
 Lには躊躇いなく頼っておきながら、自分には近付きもしないのが。――否、客観的に見れば、まだ出逢って二度目だ。当然な反応だというのは頭では理解できている。頭で理解はできても、心が納得しないのだ。
 Lは少女の素性を恐らくは詳しく知っている。しかしライトが知っているのは、断片的な情報を繋ぎ合わせて作り出した虚像であって真実の姿ではない。
 Lに対して、ライトに劣っている点があるというのが、何より屈辱的だ。
 少女への想いを自覚した時点で、既に少女の心の深いところに立つLの存在を突きつけられるなんて不愉快なことこの上ない――と、そう思った時、ライトは口許が緩むのを感じた。
 ひどく簡単なことに気付いたのだ。
 キラにとってLは殺すべき敵。最初からそのために動いてきたはずだ。Lを殺すメリットが増えたというだけのことだ、と。
 部下にすら頼らない少女が、弱音を吐き出せるLという存在を失えば、今よりもっと弱くなる。そうすれば、それを支えようとする相手にすがりつかざるを得なくなるだろう。
 更にはLの持つ情報網を丸々手にすることができれば、少女を探し出すことも可能になるはずだ。
 なんということだろう。こんな簡単に好きな女を手に入れられるとは。
 理想の未来を思って緩む口許を手で隠しつつ、ライトはその理想が実現するための策を練り始めたのだった。



「キラに、殺された……10人も」
 シャツにしがみつき自分の胸に頭を押し付けて呟かれたの言葉に、Lは一瞬動きを止めてしまった。しかし、すぐに頭を撫でる手の動きを再開する。
「それこそ、あなたのせいではないでしょう」
 そう言うしか、できなかった。
 ボンゴレから被害が出る前にキラを捕まえると決意し、彼女に対してもそう宣言したのに……間に合わなかったのはLの落ち度だ。他に何を言えるというのだろう。
 今回彼女がここを訪れた真の目的は、夜神月を手にかけるという、その宣言のためだと思っていいかもしれない。今後、夜神月が行方不明になったり、その遺体が発見されたなら、それは彼女の仕業だ――と……
 そうなってほしくはないのだが、夜神月がキラである証拠を未だ掴めていないLには、彼女を止める権利などない。
 そう思った、瞬間。
「あなたも……私にとっては、失いたくない身内なの……エル……っ」
 の口から出た言葉を、Lはどう解釈していいのか迷った。
 彼女の身内の定義は知っている。自分と彼女との関係が単なるビジネスライクではない自覚もある。しかし、友人と呼べるほど親しい関係だとは思っておらず、精々、のサボりの避難先だという認識しかなかった。
 それが、彼女の中では身内に含まれていたとは……驚くと同時に、それを嬉しいと感じている自分にLは僅かに戸惑った。この感情の元は何か……答えはすぐに出た。
 これが異性に対する好意――恋心というものか、と。まさかそれが自分にもあるとは思わなかった。それもまた驚きだったが、悪い気はしなかった。
 だが、喜んでばかりもいられない。
 このタイミングで彼女がこれを口にしたと言うことは、Lの命も危険に晒されているとも受け取れる。……まあ、夜神月の前に姿を現すと決めた時に、その覚悟はしてはあったのだが。
「絶対に、死なないで……っ」
 彼女が言う。それだけで改めて身が引き締まる思いがした。
 それは、また同時に、まだ夜神月に手を出さないでいてくれるということでもあるから。
「はい、必ず」
 これ以上被害が出る前に……彼女が夜神月の血などでその手を汚さなくて済むように、必ず捕らえてみせる。
 今度こそ、と。Lは決意を新たにした。