【 赤 翼 の 涙 】
存在肯定

 僅かな呻き声と共に、闇に鮮血が舞う。
 目の前に崩れ落ちるのは、ただの肉塊。もう、動くことのないもの。
 まだ温かな血に濡れている手には、一本の刀。
 身体が、覚えている。戦うことを――命を、奪う方法を。
 身体は、慣れている。けれど――心は、未だ慣れない。

様、後始末は我々が引き受けます」

 目の前に肉塊と似た服をまとい、白い面をつけた男がそう言った。
 それに対し、何の感情も見せぬままひとつ頷いて、その場からかき消えるようにして立ち去る。
 真夜中の闇の中、更に深い闇が支配する森の一角で、唯一光のきらめく場所へと向かう。
 そこは、小川。月の光を反射させている水の中へ、刀ごと手を浸した。
 任務の後の儀式。
 ただ、返り血を洗い流すだけのことだけど。
 この、冷たさが。熱に浮かされた頭を、冷やしてくれる。

 未だ、慣れない。人を殺すことも、知らない名前で呼ばれることも。
 というのは、この身体の名前。木の葉の里と呼ばれる、忍者たちが暮らす場所の――守り神だという。
 その役割は、里を守ること。即ち、里に害なす他自国の忍を抹殺すること。
 闇に生き、血に汚れた存在。
 ただ、命を奪うためだけに在る殺戮人形のようだ。
 心を、必要とはされていない。
 様、と。呼ばれる度に。
 自分が、消されていく気がする。
 誰も、本当の名では呼ばない。――否、呼べない。
 彼らは知らないから、というのが種族名であって、固体名ではないということを。
 そして、今この身体を動かす意志が、かつてのそれと異なっているということを。
 彼らは知らない。知ろうともしない。だから言いもしない。
 だって、心は求められていないから。
 必要なのは、守り神という名の殺戮人形。
 人としての意識は、いらない。

 ならば、何故それは存在するのだろう。
 誰に認められもしないのに。
 答えは――ひとつ。
 求めているからだ。求められずとも、見つけたたったひとつの希望を。
 だから……

 ――だから、お願い。わたしの名前を呼んで――

 言葉にすることのない、小さな祈り。
 川の中、月を見上げていた腕を、誰かの手が引いた。

「何やってんだ、!?」

 金髪の、少年。自分よりずっと小さな、けれど強い意志を宿す瞳の持ち主。
 彼は強く腕を引き、水の中から引き上げてくれた。

「またおまえはこんなに体冷やして……っ。あんま、心配かけさすな」

 川辺に座らされ、その頭に大きなタオルがかぶせられる。そして、少し乱暴に髪を拭かれた。
 に対しては誰もこんなことはしない。こんなことは言わない。
 は、川の中。今ここにいるのはという人間。
 だから――儀式。
 殺戮人形から人間に戻してくれる――唯一のヒト。

「……ナルト」
「んだよ、

 名前を、呼んでくれる人。
 ようやく、戻れる。感情を、表わせる。
 それでもぎこちなさは残ってしまうけれど。
 精一杯に微笑んだ。

「ありがとう、ナルト」