――これは、夢だ……
はそう思った。
見た覚えのない洋風の室内……決して裕福ではないけれど、とても温かみのある木造の部屋で三人分の食事を作る。
どこかぼんやりとした、独特の雰囲気。
きっと世界は、この小さな部屋以外には存在しない。
そう、感じさせるコレは、夢。
出来上がった料理を皿に盛り、テーブルに並べていると、どこからともなく聞こえてくるふたつの小さな足音。
近付いてきたそれは、この部屋に唯一の扉を開け放って――
「ただいま、おかあさん!!」
元気な声と共に飛び込んできた。
紫紺の、小さな子供がふたり……
――ほら、やっぱり……ありえない、夢……
胸中の思いとは反対に、やわらかく微笑んでは二人を抱きとめる。
「おかえりなさい。マグナ、トリス」
自分が知っている――ゲームで見たよりもずっと幼いが、この子供たちは間違いなくクレスメントの末裔で。
「うん、だたいま」
「おかあさん、おなかすいたよ」
「はいはい。用意は出来てるから、早く手を洗ってきなさい」
「はーい!」
素直に返事をして駆けていく二人……ありえない、光景。
ゲームのキャラクターである彼らと、現実で生きる自分が同じ空間にいることも。己が彼らの母親であることも。
全てが、夢だと告げている。
そう……夢。
二人と共に食事をし、他愛のない会話を交わし、おとぎ話を聞かせてあげて、二人の寝顔を見てから自分も同じベッドで眠りにつく。
そうして目が覚めた先は――
「……ほらね、夢だった」
見慣れた天井、室内――自分の部屋。
パイプベッドにテレビにパソコン……ゲーム機。
起き上がり支度を済ませ、朝食を摂る。そうして、灰色の街へ行き、虚言と不平と愚痴とに身を沈ませる日常がはじまる。
これが、現実。
あれは、夢。あたたかくて、倖せな、夢。
「わかって、いる……でも……ううん、だからこそ――」
目を開けて見えたのは、あたたかな木の天井ではなく、綺麗だけど冷たい白い天井で。隣にあるのは一人分のぬくもり。
「……お兄ちゃん」
呼ばれて、手を握る。同じ布団の中にいる、妹の手を。
「夢、だよ……」
呟く。自分に言い聞かせるように。
あれは夢。きっと、あたたかな家族がほしいと願う自分たちの願望の表れ。
夢で見たあの場所を『家』と呼ぶなら、ここは牢獄だ。
別に拘束されてはいないけど、自由など与えられてはいないから。陰口と暴言と暴力とに耐えなければならない一日が、またはじまる。
これが、自分たちの現実。
だから、あれは夢。あこがれていた、倖せな、夢。
「夢、だけど……ねえ、お兄ちゃん?」
「うん。夢だ……でも……」
「あれが現実(ホントウ)だったら、どんなに倖せなんだろう――?」
END