堀愼吉資料室

 イリュージョン

   Ⅰ
ある日突然に自分の所有権に目覚めた この僕自身に
その所有権に手の触れ得ぬものだ なに一つ
自由にならない 逆説ならぬ その意味で
なに一つものにならない僕自身の自由のかたちでなった僕のものだ
この突然は機会だった 僕の前の他者の
猛烈な幻覚に襲われみちているのを視ていた僕のなかの僕におこった
すべての相対性を断ち切った精神の状態に
羨望を抱きながら 自分の意思に酔っていた
ほんとうに僕が僕に近づくとしても
それは僕の自由にならない僕が
僕自身というかたちの所有のもののせいでしかないのだから
摂理のまったき開示 すべてがすべて上手くゆかなくなるもののとき
そのある突然の開花するのは
自然の意志だ 僕は 自分の素直でなく不正義のつまりは自らの意志裏切に気付いた
それ自体がすでに無意味と化した意志だった
存在はただ自分にだけしか弁明できない
それすらも無為なことにすぎないのだが
精神・頭脳の働きの養分をそのように欲しているのもまことのことだし
そうして僕に僕の最大限の自由であって
そのほかなにもない
過去のなにもない
今もない
そうしたいかなる規範も与えられることのない
僕のならない僕の所有権への幻像が僕を
これが内的自然淘汰なる僕だ

   Ⅱ
虚空の建築よ
刻のバランスを変容する 迷路を閉じて
僕 一瞬の
あからさまな記憶の死の遠い絶えた静寂のいたたまれぬ
僕の 鼓動の 反響の
かりたてる 僕を
目に営為の闇の夢までも苦しく意志は
凝固した花 むこうの花 とるように
生きた 自分をみている自分をみる時間
僕の迷路の自由にあなたの睡りのある
僕はざわめきひきたてられ どこに
逃げ口のある 愛の日陰日向の別いりまじって
ただ つかのまのときどきのめざめるとき
いろいろにあこがれの今を断って
僕が放棄を放棄したそのことにせめられ
旅を準備し 一回限りの夢をみながら
死の堅実な生とともに息つめて睡るだろう

堀 愼吉 初出:『まいね・くらいね』第11号(津軽実在一間舎1970年9月20日発行)

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