堀愼吉資料室

Kへのオード

君は孤独からさしのべられた空の時刻に感応する目だ
リリシズムの石の沈潜 必死の退屈が語る
不幸の彩は君のシアリアス
君は不毛を臆病な衝動に自爆さし
透明な感情の饒舌で飾る<これは言葉ではない>
<雲にそれが浮かんでいられないだけの重量を与える>
君に所有されたパラドキシカルな公理
希みの不可視な衝動の旅
不毛には新鮮な欲望のみちづれを想像する正当
答え 欲望の従者でなく 破戒する
公理が世界に味方した刻を装塡せよ
その刻 実体は理由なき君の生
虚妄は 他人に投げ与えられた君の欲望の理由
君は唯君であるにすぎないのに レッドグリーンの交わりのなかで
混線する公理の証明に
誰でもなくなる君を 所有するのか
君の所有権は君へと発動された自由Kと名付けられた神話
論理はいまと永遠にしかけられたわな
君の目の外で 溶解する風景
溶けぬのは 君の体熱に武装された感受性だ
君は生きているべきだ 一つの権利として
唯それだけで充分な 勇気のために
空へ溶けよ 海
海へ溶けよ 肉
自制と欲望に架けられた波立つ熱情よ
そして時よ 明日のロートレアモン伯よりも君に加担せよ


堀 愼吉 初出:『まいね・くらいね』第11号(津軽実在一間舎1970年9月20日発行)

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