そば処きくちのそばうんちく そばの知りたい情報はそばうんちくで調べよう!

そばうんちく(薀蓄)

そば打ちは感性がものをいう

一番粉から、三番粉のうち、どの粉をどういう割合で使うか、あるいは挽きぐるみの粉にするかは、そばを打つ人間の感性によって決まります。昔から、手打ちの技術習得に必要な期間については、「包丁三日、延し(のし)三月、木鉢(捏(こ)ね)三年」といわれてきました。また難しさの順番を「一捏ね、二延し、三包丁」と云い伝えられてきました。

【つなぎでそばは変身する】

小麦粉などのつなぎを入れる目的は打ちやすくするためと、口当たりをよくするためでもあります。口当たりについては意見の分かれるところですが、つなぎを嫌う人も結構います。しかし、粗挽き粉につなぎを入れてもなんら違和感はありません。それは醸造用アルコールを添加した日本酒の大吟醸にたとえ得ます。重厚剛直な純米主がアルコール添加によって端麗で口当たりの良い酒に変身するのによく似ています。

【包丁で切る】

麺の長さについて、昔から、こう云い伝えられています。「うどん一尺、そば八寸」。そばは八寸(約24cm)が食べやすいとされてきました。また、太さについてもこういう云い伝えがあります。「切りべら23本」が並そばの定法とされてきました。「切りべら」とは延した生地の厚みより包丁で切る幅の薄いことで、「切って薄べったくした」と言う意味です。生地一寸(約3cm)幅を23本に切るのが標準とされてきました。その場合、麺一本の幅は約1.3mmになります。切りべらに対して、「延しべら」と言う切り方もあります。切りべらの逆で延した厚みより広い幅で切ったものです。

【茹でる】

大きな釜に沸かして茹でます。麺を入れても沸く湯が静まらない程度の量を茹でるのがよいとされています。そば粉の割合と麺の太さによって茹で時間が違います。昔、そば屋では最適の火加減を「そばの三返り」と言ったそうです。お釜に入れたそばが3回返った時に茹で上がるのが最もよい火加減であるといわれています。

【盛る】

お釜から揚げた麺に冷たい水をかけて粗熱を取ります。これを「面水を打つ」といいます。次によく洗ってぬめりを取り、氷水をかけてそばを締めます。これが「化粧水」です。盛り方も麺が重ならないよう、隙間があるように盛るのがよいとされてきました。

【そばつゆのこだわり】

そばの汁は「タレ」と呼ばれていたそうです。そばが登場したころは、各地で独自の漬け汁が工夫されていました。ここ山形では、「そば汁(つゆ)」のことを「タレ」と言います。そば汁の作り方は「かえし」と「だし」を別々に作り、用途に応じて混合することに要約されます。混合の割合は、辛つゆ(つけ汁)なら「かえし」1に対して「出し」2~3、甘つゆ(かけ汁)なら1:9~10を目安とし、好みで加減します。だしをとった鰹節で二番だし(ばかだし)をとり、本がえしと割って甘つゆを作ることもあります。かえしは作り方の違いにより「本がえし」、「生がえし」、「半生がえし」に分かれます。かえしとは、煮かえしの略です。返しは一週間程度寝かせ、熟成させてから使います。

【本がえし】

「本がえし」は醤油を加熱し、砂糖やみりんを加えて作ります。醤油を煮立たせないよう注意することが大事です。

【生がえし】

「生がえし」は砂糖やみりんを加熱して水あめ状にし、これを生の醤油に混ぜて作ります。

【半生がえし】

「半生がえし」は砂糖を溶かす分だけ醤油を加熱しこれを生の醤油に混ぜたものです。

【御膳がえし=上がえし】

「御膳がえし」は「かえし」にさらにみりんを等量混ぜたものです。

【だしをとる】

だしは、水を煮立たせ、鰹節を入れて作ります。作業は使用する当日でいいですが、鰹節の削り方や煮詰める時間は店によってさまざまです。真鰹(まがつお)の節の他に「宗田節(そうだぶし)」、「鮪(まぐろ)」、「鯖(さば)」、「鰯(いわし)」、「鰺(あじ)」、「あご(とびうお)」などの雑節を併せて使う店もあります。昆布や椎茸を加える店もあるそうです。鰹節は製法の段階により荒節(鬼節)と枯節に分かれます。荒節は似た魚を燻(くすぶ)らせて乾燥させたもの。枯節は荒節の表面を削って(裸節)カビづけしたもの。

【塩をつける】

「つゆ」の代わりに「塩」をつけてそばを賞味すると言うのが流行っています。これがなかなか粋な風合でオツなのでみなさんも一度試してみて下さい。塩は、昔ながらの製法で手作りした自然の塩がいいです。単に塩辛いだけでなく味にふくらみがあり、微(かす)かな甘味や滋味(じみ)を感じる。それをそばに振りかけたり合間になめたりしてそばを食べます。旨いそばは、何もつけなくても旨いが、口直しに塩を舐めるとさらにそばの味が引き立ちます。

【薬味のこだわり】

そば屋では一般的に薬味として、ネギ・おろし・わさびの1~3種類を出します。その他テーブルには備え付けの唐辛子もあり、中には、一味、七味をブレンドをして出す店もあります。薬味を使う意味は食欲をそそり、そばを一層美味しく食べるためでもあります。昔は毒消しの意味が強かったらしいと言われています。ネギが含む硫化アリルやわさびは、揮発性で殺菌作用があります。また、ネギは血行をよくする効果もあります。薬味の中で最も蕎麦と相性がいいのが大根おろしです。徳川三代将軍家光の異母弟保科正之は信州高遠藩主の時、辛味大根の絞り汁に焼き味噌を溶いた汁でそばを食べ、「この世にこれ以上うまいものはなし」と言ったそうです。また、辛味大根を作るための用地を百姓に与えたと言う言い伝えがあります。有名な辛味大根は、「信州のねずみ大根」「親田(おやだ)大根」というのがあります。

【お 漬 物】

山形はそばばかりでなく『西の京都、東の山形』と言われるほど漬物の種類も豊富で、他県に類をみない、漬物文化を生み出しています。余り知られていませんが『たくあん』は山形が発祥の地だそうです。それだけ、漬物は山形では身近な存在で、人をもてなす一品としてどこの家でも自然と出されます。そば巡りに際して、漬物の味を楽しむことを一つ加えればまた、そばを食べる楽しみがふえると思います。「ぺそら漬け」「ぺちょら漬け」「おみ漬け」「大根漬け」「青菜漬け」等があります。ここからは、2013.04.09の山形新聞からの抜粋です。たくあん漬けの誕生に関しては諸説があり、その一つに挙げられているのが上山。1629(寛永6)年に上山に配流された沢庵禅師が、4年間の滞在期間中、近くの農家からもらう野菜を食べきれず、ほしてぬかに漬ける「たくあん漬け」にしたことが由来とも言われています。

【そば湯】

そばを食べた後に、そばの茹で湯を飲む風習は元禄時代に広まったと言われています。そば湯は別名「そばの後口(あとくち)」と呼ばれています。そばが美味しかったら、飲むようにすればいい。昔のそば通はそばが旨いとそば湯を所望した。そば屋にとってそば湯の声がかかると言うことは、そばをほめられたのと同じ意味だから、「ありがとうございます」と言って、喜んで湯桶を出します。湯桶とは、檜材に漆を塗った箱型の容器で、横に口がついている。ちなみに、話の途中で横から口出しする人のことを「そば屋の湯桶」と言ったそうです。そばが美味しければ、その成分が溶け出している湯も美味しい。私はそう教わりました。

【おそばの食べ方】

江戸時代のおそばの食べ方は今でも受け継がれています。そばを食べるときは最初にそばを一本、口に含みそば自体の味を楽しみます。次にお箸につゆをちょっとつけてつゆの濃さや薄さを確かめます。そうすることで、これから食べようとするそばをどのくらいつゆをつけて食べるかわかるというのです。また、わさび(又は唐辛子)などをつけるときは、おちょこにわさび(薬味)を入れるのではなく、せいろに盛ってあるそば自体に直接つけます。そうしないと、つゆ全体がわさびの味になってしまってそば本来の味がわからなくなるからです。またそばをつゆにつけるときはお好みでもいいですが、本当にそば好きな人はそばをつゆに半分つけて(又は、つゆをつけないで食べる)食べるそうです。(ここ山形県には水そば(どんぶりにそばと水だけを入れて食べるそばというのもあります。)最後にそば湯を飲みます。そばを食べた後は、必ずそば湯を飲んでください。そば好きな人はそば湯さえあればいいそうです。