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謎の集団生活と謎の呪文の謎に迫る

 東京都の多摩地区に居住する男性(57)が、若い女性と結婚・離婚を繰り返しながら不自然な集団生活をしている問題で、男性は25日、集団生活の場となっている民家で報道陣の取材に応じ、「12人で生活している。男は私だけだ」などと話し、女性らとの同居の事実を認めた。

 男性は占いをしていたといい、「占いの女性客たちに呪文(じゅもん)を唱えると、女性たちが居着くようになった」などと、集団生活を始めた経緯を説明した。(2006年1月25日 読売新聞)


こういうネタにはあまり反応したくないのですけど、事件をセンセーショナルにしたがるマスコミが騒いでいるのが気になるのでカウンターバランスを取るために記しておこうと思います。

マスコミとの仮想問答

質問:催眠を使えば今回のようなことは可能ですか?
回答:催眠は大して重要ではありません。というか、今回のようなことをしたければ催眠なんか使わないほうが早いです。

質問:でも被害者の女性は「光を見つめさせられて催眠術にかけられそうになった」と話していますよ。やっぱり催眠術を使っていたんでしょう?
回答:それは容疑者の失敗ですね。実際にはそんなことをしなくても良かった。面と向かって催眠術をかけたところで信念に大きな変化は起こせません。それよりもっと強力な影響はたくさんありますよ。
 たとえば、細木数子に夢中になる人は細木本人に催眠誘導されたわけではありません。でも催眠術にかかった人よりもよっぽど強力な信念体系をもっています。身内や親戚の説得になんかまったく耳を貸しません。また、テレビ局のスタッフも面と向かって催眠誘導されて「あなたにとって視聴率が一番大事です」という暗示を上司にかけられたわけではありません。でも強力な視聴率至上主義にはまっています。


質問:それって催眠術じゃないんですか?
回答:別にそれを催眠と呼んでも構いませんが、あなたが最初に言っていた「光を見つめさせる」とか、面と向かって「あなたは○○する」と暗示を与えるような催眠術とは全然別物ですよ。

質問:容疑者自身が「催眠術を使った」と話しているんですよ。それでも催眠術ではないと?
回答:容疑者の勘違いです。効果を及ぼしたのは他のところにあります。

質問:じゃあ、催眠術ならどこまでできるんですか?
回答:あなたの「今回の事件は催眠術のせいに違いない。そうしなければ面白い記事にならない」という信念は、今ここであなたをどんな深い催眠状態にしても変えられません。ですが、上司の「おい、今回の事件は催眠術なんかは関係ないという記事を書け。そのほうが目立つ」というただ一言があれば、あなたの信念は根本的に変化するはずです。つまり、催眠術の効果とはその程度のものです。


3分で理解! 簡潔な理論的説明

催眠かマインドコントロールか
よく催眠とマインドコントロールは混同されるのですが、催眠状態にすればマインドコントロールができるわけではありません。逆に、催眠を使わなくともマインドコントロールすることは可能です。もっとも、現時点の情報を見る限り、マインドコントロールと言えるかどうかも怪しいところです。もっとも、マインドコントロールという言葉自体も実はビミョーなのですが。

謎の「呪文」とは
メディアをはじめとして、世間の気を最もひきつけるのは「呪文」の内容のようです。容疑者の話によると「夢で教えられた呪文を唱えたら急にモテ始めた」とのことで、これがどんな呪文なのかをぜひ知りたいと世の男は思うわけです。

結論:その呪文とやらが効果を発揮したのではありません。

もしかしたら必殺の口説き文句とか周到な催眠暗示・間接暗示があるのでは、と思ってしまいがちですが、後述するように、それよりもはるかに重要で簡単なことがあります。

ターゲットの選別
どうやって11人の共同生活者を集めたのでしょうか。容疑者は占い師らしいので、おそらくカウンセリングまがいのこともしていたでしょう。これらを肩書きにして、悩んでいる人や占いに興味をもっている人にターゲットを絞って宣伝を打ちます。言い方は悪いですが、ゴキブリホイホイ戦法と言えばわかりやすいでしょうか。呪文とか以前に、これが最も重要です。

普通の人でもキムタクを超えられる
たとえば、街を歩く人に「私と結婚してほしい」といきなり申し込んでも、同意する人はあまりいないでしょう。仮にここでは3%の成功率とします。これがキムタクであっても、いくら良くても10%〜20%ぐらいでしょう。あくまで確率は仮の値です。

さて、街で結婚を申し込んで3%の成功率だった普通の男性であっても「私と結婚してくれる人募集」と詳しいプロフィール付で広告すれば、申し込んできた女性が結婚に応じる可能性は急激に上がるでしょう。そりゃそうです。結婚しようと思って申し込んでくるわけですから。普通の人でもキムタク超えです。

催眠や暗示もこれと同じです。普通の人と達人では効果が違いますが、それよりももっと重要なものがあるということです。その一つが前述したターゲットの選別です。

催眠の限界
そのようなわけで、いくら催眠の手法を工夫したところで、5%の確率が10%になることはあっても、5%が100%近くになるわけではありません。

占い・カウンセリングから共同生活への転換法
では、占いやカウンセリングにやってきた女性をどうやって共同生活に勧誘したのか。ここも興味があるところだと思います。

結論:宗教や悪質な宣伝で使われる一般的なテクニックです。(詳細はこちら

「このままでは大変なことが起きるが、こうすれば大丈夫」などの「脅迫と救済」が用いられた可能性が高いと思います。ちなみに、細木数子はこのやり方の典型例です。(その後の警察の取調べで、やはり脅迫と救済の手法を用いていたことを認めたそうです)。

ただ、前述したように、テクニックよりも、集まってきた女性のほうに共同生活が成立する要因の多くが内在していることを忘れてはいけません。もともと占い師が行うようなカウンセリングに興味がある人であれば、一般人が理解できないようなことにものめり込む可能性が高いです。

また、共同生活していた女性を使って他の女性を勧誘していたというところもポイントです。相手が男性であれば警戒するかもしれませんが、女性であればつい安心してしまいます。マルチ商法やネズミ講でよく使われる方法です。

さらに、家族内不和や家庭での居心地の悪さに悩んでいる人は、居場所を求めて、あるいは逃避的目的・プチ家出感覚で共同生活に応じる可能性が高いです。彼女たちにとっては、ゴタゴタのある実家よりも共同生活のほうがずっと居心地がいいのです。このあたりはなかなか心理学的です。


まとめ
・占いなどに興味を示す人、家庭内問題などで悩んでいる人などのスクリーニング
・女性を使って勧誘することで安心させる
・「脅迫と救済」という占い師がよく使う精神的揺さぶり
・ウソやハッタリの経歴による「権威」

図太さと非常識さがあれば誰でもできる

容疑者のやったことは誰も知らないような秘技ではなく、ヤクザやインチキ治療家や詐欺師や教祖などが日常的に用いているテクニックです。これらは誰でも真似できますが、その一方で真似しにくくもあります。というのも、いつ逮捕されても構わないとか、失うものは何もないというような人でないと完璧に使いこなすことは難しいからです。この「図太さ」や「非常識さ」がポイントです。普通の人は「捕まらなければオレもやってみたいものだ」とまでは思うかもしれませんが、「人生終わってもいいからやってやるぜ」とまでは思いません。

逆に言えば、捕まっても全然困らないというような人が続出すれば、今回のような事件は容易に起きるという潜在的危険もあります。

成功する人の条件
成功する人といってもいろいろ種類がありますが、普通の人であれば良心の呵責が起きてしまってやれないようなことに平気で足を踏み入れることによって成功する人もいます。この場合の手法は驚くほど単純です。誰も知らない特別な技術を使ったのではとか深読みする必要はありません。


補足資料

容疑者本人の言葉
「女性のほうからやってきた。声はかけていない」
→実際には声をかけていた

「私は特殊能力をもっている。米軍の超能力施設で雇ってもらっている」
→事実なし

「あなたはミイラにとりつかれている。お払いをしなければならない」
→他にも霊感商法的な脅迫をされたという証言あり

「中曽根元総理のいた団体で務めたことがある」
→事実なし