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催眠に関する情報の現状
インターネットと一般書における情報の信憑性

有力な催眠の学会(日本催眠医学心理学会や日本臨床催眠学会)は、会員以外への催眠の教授を倫理規定で禁じているので、インターネットでの情報発信も事実上制限されています。では誰がインターネットで精力的に活動を行っているのかというと、そうした有力な団体に所属していない人々です。

彼らが正確な情報を発信してくれれば最高なのですが、なかなかそうはいかないようです。催眠にはたしかに有効な側面もあり、当然のことながら限界もあります。しかし、催眠の限界を少なく見せかけ、効用を現実以上に大きく見せかける誇大宣伝や個人的体験談がインターネットには溢れているのが現状です。そして、学会が黙殺しているのをいいことに、大金を取って催眠を教えたり素人催眠療法を行っていたりします。

催眠というと何となく通常の意識状態とはかけ離れた状態に思えるかもしれませんが、それほど特別な体験ではありません。1900年代の膨大な催眠研究によって、催眠だからこそできる特異的なことはないことが明らかにされました。催眠に特徴的な不随意的行動は催眠など用いずとも起こせる(Hilgard & Marquis,1940)、催眠を用いずとも後催眠暗示と同じことが可能である(Patten,1930, Kellog,1929)、退行催眠を用いずとも一部の人はありありとした退行現象を経験することができる(Barber,1961,Correnti,1958,Sarbin,1950,Spiegel,1945) など。

派手な催眠現象を目にしたことがある方もいるかもしれませんが、演出上のテクニックでそのように見せることは簡単です。少し腕があれば、大槻教授にも「私はいま催眠にかかっていた」と思い込ませることができるでしょう(催眠を使わずに)。つまり、催眠を使わずに催眠現象と同じ現象を引き起こす(あるいは引き起こしたと錯覚させる)ことは簡単です。これを使って「私は奇跡の催眠術師です」と宣伝することもできるでしょう。実際に、まともな専門家を装った非専門家が数え切れないほどweb上には存在します。

インターネットでの出来事(誤情報の氾濫)は実社会においても起きています。その主な発生源は一般向け書籍です。一般書は専門家の審査を受けることなく出版することが可能です。内容が正しいか間違っているかではなく、売れそうか売れなさそうかで出版されるか否かが決定されます。そのため、最新の研究を無視した個人的体験や個人的理論が一般書には横行しています。

話は飛びますが、養老孟司氏の著書に『バカの壁』という本があります。言わずと知れたベストセラーです。この本の第1章は、部分的にはおかしな点があるものの、素晴らしい内容です。しかし、その後は近所の高校生が書いたと言っても通用しそうな稚拙な内容です。なるほど、前書きによると、どうやら養老さんがブツブツつぶやいたことを誰かが書き取って適当に本として仕上げたらしいのです。たとえ専門家であっても、思いつきで本を出版するとこうなってしまうんだという良い見本です。

ただし『バカの壁』は、著者自身が「これはただの独り言エッセイだ」と冒頭に断り書きしています。そういうわけで世間の評価もまだ寛大ですが、もしもこれが「脳科学の入門書」とかいう触れ込みで出版されていたとしたら、それこそボコボコに批判され養老氏の評価も地に堕ちたことでしょう。

催眠の一般書の多くも、専門家による研究を都合よく無視している点で『バカの壁』と同じですが、そのことを断り書きしている著者はいません。そのため、多くの人がでたらめだらけの一般書の内容を信じています。しかも、催眠業界というマイナーな世界にはこのことを指摘する人がほとんどいないので、だまれている人が「だまされている」と自覚できる機会がないのが現状です(映画『マトリックス』の世界のようです)。

もちろんweb上にも信頼のおける情報はごくわずかに存在しますが、それを上回る勢いの誤情報に惑わされないためには、自分にとって都合の良い情報だけを選択的に収集しないことが重要だと思われます。インターネットには好きな情報を自由に検索できるという長所がある反面、自分の興味に沿った内容だけを恣意的に選んでしまうという欠点もあります。偏りなく情報収集することが必要です。

日本における代表的な催眠関連学会の倫理要綱

日本催眠医学心理学会倫理綱領

 日本催眠医学心理学会は、催眠の科学的研究の進歩とその臨床的利用の拡大に寄与しようとするものである。本学会の会員は、これらの目標追求のために、専門的活動を行おうとするさい、この倫理綱領に従わなければならない。

1.本学会の会員は、催眠の実験的研究および臨床的利用にあたって、被験者やクライエントの人権を守り、その福祉に反しないよう、最大の努力をしなければならない。

2.本学会の会員は、催眠の実験的研究および臨床的利用にあたって、被験者やクライエントの安全確保に、有能な専門家として責任をもたなければならない。

3.本学会の会員は、催眠に関する専門的活動において得た個人的情報を守秘する義務があるものとする。実験的研究および臨床的業務において得られた個人的情報の公表は、専門家による学問的検討のためのみに限定される。そのさい、プライバシーを侵害することのないよう、適切かつ最大の配慮がなされなければならない。

4.本学会の会員は、つねに、催眠に関する最新の科学知識と専門的情報を獲得し、専門性の向上に努めるものとする。ただし、会員の催眠に関する専門的活動は、催眠技法に有能であることのみによって認められるものではない。

5.本学会の会員は、実験的研究および臨床的業務のため以外の目的に催眠を利用してはならない。本学会の会員が催眠を娯楽の対象とする計画・活動に参加・協力することは認められない。また、本学会の会員が本学会の会員たりうる条件にない非専門家に対して、催眠にかかわる計画・活動のコンサルタントとして協力したり、催眠技法の訓練をすることも認められない。

6.本学会の会員がこの倫理綱領に違反したときには、日本催眠医学心理学会会則第8条第2項が適用される。

7.本倫理綱領は平成2年7月8日より適用する。


日本臨床催眠学会倫理綱領

1. この会の会員は催眠の臨床的適用および実験的研究にあたって被験者やクライアントの安全確保に有能な専門家として責任を持たねばならない。

2. この会の会員は催眠の臨床的適用や実験的研究において得た個人的情報を守秘する義務があるものとする。専門家による学問的検討のためにのみ公表は許されるが、その際プライバシーを侵害することのないよう、適切かつ最大の配慮がなされなければならない。

3. この会の会員は自己の専門以外の領域で催眠を適用してはならない。暫定会員および学生会員は正会員の監督のもとでのみ催眠適用が許されるものとする。

4. この会の会員はこの会の会員たる条件にない非専門家に対して催眠技法の訓練を行ってはならない。

5. この会の会員は催眠の臨床適用および実験的研究以外の目的に催眠を利用してはならない。また、娯楽の対象とする活動に参加・協力することは認められない。

6. この会の会員がこの倫理綱領に違反した時には会則第3章、第9条が適用される。