妄想小話。
SSSにも満たない、短いお話。
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『xxxVERY.』
「…あっ……」
一歩は思わず声を上げてしまった。
小さく呟かれたその声は、自分と彼の間の静寂に静かに溶けていった。
赤く、熟れた小さな果実の先端に、やや黄みがかった白いとろりとした液体が落とされ、ゆっくりと垂れて流れてゆく。
「………どうしたよ?」
先程の一歩の呟きを、どうやら聞き逃していなかったように問い掛けると
宮田は片方の口の端を少し上げて、戸惑う一歩の表情を眺めた。
「だ、だって……。こ・こんなに…、宮田くんに……たくさん…掛けられるなんて…」
一歩はその果実から流れていく、とろみのある液体をただ見つめるしかなかった。
普段の量から考えると、宮田が一歩に施したそれ、の量はどう考えても多いように一歩は思えた。
「……良いじゃねぇか…。…お前、スキだろ?たっぷり掛けられるの」
手にしていたそれ―、から白濁した蜜を最後の最後まで絞リ出すようにして出すと、宮田は息を吐いた。
「で、でも…」
まだ少し納得していない一歩を宥めようと、宮田は一歩の顎に手を掛けた。
「そっちがイヤなら…、オレの…食べさせてやろうか?」
そう言うと、宮田は自分の熟れ赤黒くなったものを一歩のふくよかな唇に押し当てようとした。
「…みっ…、宮田…くんっ…」
宮田のその行動は、衝動的で、ますます一歩を悩ます結果になってしまった。
「だめ…。…だ、めだよ…」
「何がダメなんだよ」
一歩は迫ってくる宮田のものから逃げるように、後ろへ身体を退く。
彼の強引さは一歩は嫌いではなかったが、それは時と場所と―――――、状況にもよる。
「ほら…、クチ……開けよ」
そんな逃げ腰な一歩に対して、宮田は尚も身体を乗り出してくる。
「宮田…く…ん…」
「……ほら…」
観念したのか、一歩の固く結ばれていた唇が僅かに開き、宮田の瞳をじっと見つめると
彼に対してこう言った―――――。
「だ、か、ら!宮田くんの分のイチゴはボク食べられないっていってるでしょーーーーー!!」
「うるせえな!少しくらい練乳掛け過ぎたからってグダグダ言うんじゃねえよ!!オレだってそんなにいらねえよ!(減量の事を考えて)」
半ば無理やり一歩に食わせようと、宮田は一歩の顎を鷲掴みしている。
「ダメ!宮田くんはお客様なんだから、お客様の分にまで手は出せないよ!!ちゃんと同じ数で分けてあるんだし!」
グググ…と、宮田に掴まれた顎をどうにか引いて一歩はイチゴから横向きになって抵抗する。
「だったら黙って、テメェの分食えばいいだろ!」
「だからって、これはちょっと掛け過ぎだよ…。そりゃ〜、ボク甘い物嫌いじゃないけど…」
テーブルの上には、赤と白色をした、真ん中に牛の絵の描いてあるチューブの練乳がペタンコになって転がっている。
その隣には、ガラスの器に綺麗に盛られた、赤い果実にこれでもか、と言うほどの量の練乳が掛かっていた。
「中身を最後の最後まで絞ってないのに、それで捨てるのは勿体無いだろうが!!」(さすがA型乙女座の几帳面)
「そんなコト言ったって〜〜〜〜」
お茶を二人に持って行こうと台所に居た寛子が、そんな二人の小学生並みの会話を耳にして、暢気に一言
「ホントにあの二人、仲良いわね〜…」
とか思ったとか思わなかったとか。
幕之内家の居間には、情けない一歩の声が響いていた。
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本日の幕之内家のおやつ: お店のお得意様から頂いたイチゴ、8粒ずつ。(一歩:練乳掛け 宮田:そのまま)
管理人は宮田くんと同じでそのまま食べる派。でもごくまれに、牛乳+砂糖です。
タイトルの『xxxVERY.』はBERRYとかけてみました。
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