永遠


          ボク達の手の中には、確かなものなんてないよね。
          いつもすれ違って、間違ってばかりだね。
          取り返しのつかないような過ちを何度もしたし、誰かをたくさん傷つけたね。

          なのにどうして、想いを止めることができなかったんだろう。

          ボク達は永遠にそうやって生きていくんだろうか。
          永遠に自己満足で、どこまでも盲目。

          でも。
          今さら誰かに責められて諦められるぐらいなら、君の手を取ったりなんかしなかったよ。

          だから。
          永遠にボクは君のもの。

          確かなものは何一つもない。
          それでも。
          いつまでも。
          何があっても。

          ボクは君のものだよ。





          抱き合うと、触れている部分のどこからでも相手の鼓動が伝わってくるんだ、と思えた。

          一歩は宮田に抱き締めてもらう時いつも、「もっと」と思っている。
          それは「もっと深く」だったり「強く」だったり、「長く」だったり。
          宮田の抱擁はとても暖かくて、そして気持ちいい。
          そうやって一歩をうっとりとさせる。
          だからこそ控え目なものでは満足できない。
          二人で触れ合う時、宮田の瞳の中に灯る熱い想いの塊を知っているから、それをそのまま叩き付けてさえ欲しいと一歩は思っているのに。
          宮田はそうしなかった。
          腕を解いてすぐに体温も忘れてしまうほどの弱さではないけれど、"決して離さない"というほど強くはない。
          その微妙な強さは、いつも変わらないから。
          初めの頃はわざとそうしているのだと思っていた。
          しかしそのうちに分かってきた。
          これは抱き合う時の、宮田の癖だ。
          無意識。
          (…宮田くんは)
          不器用な人だ、と一歩は思う。
          宮田はこうしている今も迷っている。
          そして、腕の中にいる一歩が迷っているのはないかと言う事も疑っている。
          愛す事にも愛される事にも慣れていない。
          一歩もそうだが、宮田はもっとそうなのだろう。
          人の目を避けて逢瀬を重ね、余韻に酔う事も許されず別れる。
          そんな時間をこれまで二人で何度も過ごして来たから、想い合う事自体の是非を確かめる余裕もろくになかった。
          つらい事を全て後回し、後回しにしてきた。
          いつかのその付けが回って来るのかも知れない。
          (いつかって、いつだろう…)
          けれどそれは少なくとも今ではない。

          一歩は宮田に溜息だと思われないよう、静かにゆっくり深呼吸をした。
          宮田は相変わらず弱くもなく強くもない力を込めて一歩を抱く。
          時折一歩の髪に鼻先を埋めて、溜息を吐く。
          (また、不安に思ってるの?)
          言葉にして問えば、きっと否定されるから。
          口にはしない。
          つまり一歩は肯定を真実であると思っている。
          こんな事は有り得ないが、もしも宮田がその内側の全てをさらけ出して見せるような事があれば、どうか。
          一歩は喜んでそれを受け入れるだろう。
          宮田の弱さを庇い、両手で包んでそこへ大切に閉じ込める。
          どんな悪意にもその指先を触れさせないように。
          (宮田くん)
          してあげるのに。
          なのに宮田は虚勢を張り続け、まるでそれを崩す事を、忌避した。
          一歩を抱き締めて、そして痛みに耐える。
          もう何年、そうやって抱き合って来ただろう。
          いつか不安の消える日が来るのか、それを宮田は望んでいるのか。
          果たしてそれは、別れと言う手段によるものなのか。
          それとももっと他の、別の何か?
          「宮田くん」
          瞼を閉じて、名前を呼ぶと。
          「…何だ?」
          今、夢から覚めたような声で宮田が答えた。


          今、夢から覚めたような声で。


          (!)
          思わずまた目を開けてしまった。
          (…ああ)
          一歩は微笑む。
          (そっか…)
          途端。
          胸の中に甘い想いが広がる。

          不安で、溜息を吐いても。
          安心に至るには幾分か心許ない強さで一歩を抱き締め続けるにしても。

          確かに今、一歩と同じ夢を、宮田も見ていたと言う事に違いはない。

          ずっとこのまま、いつかなんて、来ない。

          不安なままでも、ずっと来ない。

          永遠に。

          (ボクは君のものでいられるんだ…)

          もっと深く強く長く、できる事なら抱いていて欲しい。
          何もかも見せ合って、弱さを許し許されて。
          二度と離れられないほど交じり合いたい。
          不安に怯える事もなく。
          (だけどボクも、君も。それを選ばなかった)
          その代わりに、全ては二人が夢見た通り。
          いつか、なんてずっと来ない。
          永遠に二人は不安で、それ故お互いを、他の誰かを、傷つけ続けるだろうけれど。

          それでも世界が終わる日は来ない。





          だから永遠に来ることのない、世界が終わるその日まで。

          ボクは君のものだよ。












          2004.1.8


          昨年の冬コミ原稿中、素敵なクリスマスプレゼントで私の心を癒して下さったみすみ様へ。
          夢見過ぎポエムで申し訳ありません(汗)



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          月面模造ハイダウェイ様からお返しに頂いたSS。(月面模造ハイダウェイ改め、岩棚様は現在は閉鎖されています)
          管理人が宮一にハマったのも、この方の小説を読んでからでした。本当に大好きな、大好きなサイト様でした。

          若林様、ありがとうございました!