■重箱の隅をつつく話:ジャンパー栓受けの取り付け方

国電や私鉄高性能電車の前面裾に据え付けられているジャンパー栓受け。ひとつひとつは小さいながら、車輛によってはいくつも並んだ栓受けはものものしく、車体にじか付けされた栓受けは、この時代の電車「らしい」表情を演出するパーツのひとつといっても過言ではないでしょう。

さてこのジャンパー栓受け、ご存知のとおり形式や用途によって多くの種類があり、たとえば113系や115系に3つ並んで取り付けられているものをKE76型といい、165系で2つ並んで設けられているもをKE64、103系で取り付けられているものをKE70と呼びます。これ以外にも汎用部品として各地の多くの系列で使用され、ものによっては海外の鉄道車両で使用されている部品もあります。この名称は本来ジャンパー連結器そのものの名称であり、模型製作の上でより目立つ栓受け部分固有の名称ではありません。この栓受け部分はジャンパー連結器の保持が目的ですので、外観と中身の組み合わせは外野から見ている我々趣味者には区別がつかないバリエーションがありそうです。
ここではあくまで模型製作用の資料製作が目的であり、見たものに対する外観上からの分類についての話題を記します。

思いつくまま記すと、113系、115系、415系、107系、東武8000系更新車(栓受けの形式名は異なるかもしれませんが、外観は同じです)などにはKE76が3つ並んで装備されています。他にも417系や413系などで他の形状の栓受けと併用されていますし、103系3500番台(西)や3550番台では、恐らくワンマン機器関係の引通し増設に絡むものでしょうが改造落成時にKE70の横に装備されています。
また113系でも初期車には2つだけの装備の場合もあり、冷房改造の時期や配置区所、その車両の使われ方などで形状が変化しており、大変興味深いですし、房総の113系1000番台や1500番台は中央寄りからKE70、KE76×2の変則配置となっており、他の113系とは印象が異なります。

ここでは実際に撮影したジャンパー栓受けのうち、主に国電や、一部私鉄の電車に使用されているものについてのバリエーションを紹介します。Nゲージくらいのサイズの模型を製作する上では、どーでもいいこと、かもしれませんが、こだわりをお持ちになった方に参考にしていただければと思います。同じ栓受けながら、取り付け方はさまざま・・・で、ここで取り上げた以外にもさまざまな車両に取り付けられています。

冒頭に記したとおり、模型を制作するために取材した・・・のが基で、どの栓がどう機能するとか、機構的なことは全くの素人です。
この項では現状の例を紹介するだけ、とご理解ください。間違い(だらけでしょう・・・)にお気づきの方はご指摘いただければ幸いです。

KE76栓受けが三つ、同じ台座に、同じ角度で取り付けられているタイプ。113・115・415系のうち、ユニットサッシ化されたグループは原則としてこの形状で、いちばん標準的な形状といえるかもしれません。丸窓の車両でも冷房改造や冷房車と組成する車輛には、この形状が装備されることが多いです。

クハ111-5255 下関駅
郡山で前面強化したクハ401の例ですが、ステップの位置が上の写真と比べて低いですね・・・。
ホースを外した状態がおわかりいただけると思います。

クハ401-83 上野駅
同じ取り付け方法ですが、クモハ113-5300はスカートが前に張り出しているのにあわせるように、若干浮き上がりが大きいように見えます。

クモハ113-5300 福知山駅
いわゆる鉄仮面方式で前面強化された場合は、加工工場により仕上がりが異なりますが、だいたいの場合は改造前の台座がそのまま生かされているようです。クハ401-83より張り出しが大きいようにも見えますが、これは前面強化車のステップの張り出しが小さいため、相対的に外に出ているように見えるためで、台座自体は同じものと考えられます。

クハ411-300 上野駅
三つ並んでいるがそれぞれが独立しているタイプ。三つともそれぞれの取り付け高さや角度が異なることがわかります。連結・解放時の操作性を考慮してのものと思われます。
113系、115系、415系のシートピッチ拡大車〜115系3000番台では奇数向き先頭車に必ず装備されています。同じ設計の運転台ブロックを装備したクモハ115-500なども同様で、初期型丸窓の大目玉車両でも同様の形状の車両も存在します。
一部は方転改造された際に、ジャンパー栓受けとホースが撤去されたものの台座が残された車両もおり、形態分類をする上で確認が必要な項目となるでしょう。

クハ115-3118 徳山駅
上のクハ115-3118と同じ形態の車両です。ホースを外した状態で、横から見たときにかなり取り付け角度が異なることがわかります。

クハ411-100 秋葉原駅
いっぽう、クハ411-1500は、415系初期車や115系300番台と同様に、3つまとめた台座を介して整列しています。211系では電連による引き通しを行っているので、211系の顔でこのジャンパー栓を装着するのは415系だけとなります。2階建て試作車のクハ415-1901にも、このジャンパー栓が装着されていました。

クハ411-1500 秋葉原駅
クモハ113-3800の場合は三つ装備されますが独特です。もとの構体や前面の構造物に支障のない場所を探して取り付けた・・・という印象です。しかもいちばん外側のものは気動車のように栓受けの台座に凹みがつけられています。ここまで再現してもNでは見苦しくなってしまうでしょうか・・・。

クモハ113-3800 福知山駅
クハ111-1000番台の例。中央寄りにKE70が装着されており、ホースはKE70のみ装備されているので、KE76は使用されていないようです。このように3本並んだうち1本ないし2本だけホースがぶら下がっている例も見かけます。
前面強化改造も受けていますが、台座はそのまま存置されているようです。

ふだんから使用している引き通しにはホースを装着したまま運用することになりますが、房総の113系ではKE70を主に使用し、残りのKE76はつないでいないようです。このようにふだん使用しない引き通しにはホースが装着されないケースも多く、その差を分けることでもリアルさが増すかもしれません。しかしNゲージの場合他車との連結を考えると、ホースを設けるにも一工夫必要(場所によっては諦めるしかない)でしょう。

クハ111-1106 千葉駅
房総ではKE76がなく、KE70が一本のみ装備された車両がいます。おそらく他線区からの転入車を在来車と連結するために改造したものと思われます。

クハ111-210 成東駅
こちらは1500番台の先頭車です。
もともとKE76が2本取り付けられていた筈の場所には、台座だけが残されています。使用されていない状態のため、撤去されたものと思われます。
台座だけの写真をご覧いただくとわかりやすいですが、2枚上の1000番台と異なり、3本のジャンパー栓受けの台座が全て独立して設けられています。

クハ111-1505 千葉駅
宮原所属のオハネフ25のジャンパー栓受けです。
本体は上の113系1000番台などと同じKE70ですが、直角に向きを直して取り付けられており、ゴツい台座が目立っています。

オハネフ25 153 東京駅
417系でも、103系等と同様のKE70が並んで装備されていますが、房総のクハ111と異なり、そのKE70のほうが外側で、KE76が内側になります。

クモハ417
クモハ717では、中央に165系などと同様のKE64が装備され、その外側に二つ、KE76が装備されています。取り付け方は113系2000番台などのシートピッチ拡大車のように、独立して角度をつけて装着されています。413系も同様です。

クモハ717 いわき駅
107系の例です。三つ綺麗に並んでいますが、薄手の台座をかましているように見えます。日光線用の車両の場合砂箱が正面に装備されますが、その場合もうまくジャンパー栓をよける構造で、ジャンパー栓自体にバリエーションはありません。

クモハ107-100 黒磯駅
クモハ123-1は、車体に直付けされています。
2号車以降は配置区所により、KE70やKE64が装備されています。
こちらも、113系などよりも、3本の取り付けの間隔が短いように見えます

クモハ123-1 松本駅
103系3000(西)番台、3550番台はワンマン機器の分でしょうか、引き通しが増加しており、クモハ103には既存のKE70用の右側にKE76用栓受けが増設されています。

クモハ103-3500 姫路駅
汎用品として、私鉄にも同型の栓受けの採用例があります。
東武8000系・800系更新車のうち、前面形状が6050系にあわせたデザインに変更されたグループから、同型のジャンパー栓受けが装備されています。
取り付けの間隔が国電よりも若干狭いため、ぱっと見の印象が異なります。
改造年度の新しい車両のなかには、機器の増加により運転士側にもさらに一個増設されたものも存在しましたが、後に撤去されているようです。

モハ8570 曳舟駅
豊橋鉄道(現行)1800系の例です。
元東急デハ7200で、KE70用と同じサイズの栓受けが助士側に設けられています。細部が国鉄用とは異なるのが興味深いです。
車体裾下に設けられている車輛も少数ながら存在し、黒色に塗装していることからあまり目立ちません。
旧3000・5000・7000・7200系などに装着されています。
運転士側の小さいジャンパー栓受けもアクセントです。

モ1805 大清水駅
阿武隈急行8100形の例です。717系と同じKE64との組み合わせながら、KE76も一個だけの装着となっています。

AM8105 福島駅
この車両は栓受けの並び方が少し寄っていて、何かヘンです。
恐らく2本装備だったものを強引に一本増設したのでしょうか。このような例は他に見たことがありません。
ちなみにキハ52のような簡易冷房を後ろに装備したなかなか個性的なクハです。後ろにつながっているのも、クモハ115-1551以下の編成です。
クハ111-825? 尼崎駅
右端の栓受けだけわずかに色が異なります。なんらかの事情で交換したのでしょうか、このような例も模型では遊び心があって面白いのではないでしょうか?

クハ115-317 広島駅
しなの鉄道のクモハ115、169のジャンパー栓受けは、当初は黒く塗り分けられ、ちょっとしたアクセントでした。

クモハ115-1013 小諸駅
最近は車体色に塗装したままの車両が増えているようです。複数編成を持っていれば、色を変えてみると表情に差が出ておもしろいですね。

クモハ115-1066 小諸駅
ジャンパー栓の形状のあとは、ジャンパー栓の色の話題が続きます。。

常磐線→北部九州→鹿児島と南下を続けた415系500番台。
最近の現車は、ジャンパー栓ホースを色分けしています。

増解結の多い気動車ではジャンパ連結器関係の色分けも見かけますが、電車でここまで派手な例は結構珍しいかもしれません。

クハ411-513 川内駅
因みに↑の相方を務めるクハ411−613の栓収めも、同様に塗装されています。模型で再現したら結構目立つかも?なアイテムなので紹介させていただきました。

因みに両者とも、尾灯脇の手すりが本来より外側に寄っている仕様で、113系や115系でもよく見かける変形車です。

さらにこのクハ411-613は、裾のステップが左右逆に取り付けられており、ぱっと見たところ普通の415系のようでありながら結構ヘンな顔?!の車両です。

ステップが左右逆の例は、111系・153系から、北海道の721系に至るまで古今東西で見られます。しかしこの編成の反対側クハ411−513が正規の向きであることが示すように、製造ロット違いではなく個体差の傾向が強いため、一両一両現車を確認していくほかないようです。

クハ411-613 川内駅


2014年7月17日更新

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