―――いつか、くるときのまえまで。 …見守ってたって、いいでしょう? エールを送らせて「金田、最近ヘン」 は金田一郎の小学生からの友達。 同じく聖ルドルフに通う中学2年生であった。 ずっと同学年で小学校の時は同じクラスでもあったは金田と随分フランクな仲だった。 は別クラスであるが、金田の顔はよく見る。 まあそれは、ちょっとした目の保養に 男子テニス部の練習風景を見にいったりしているからなのだが……。 「え、ヘンって何が」 友人にそんなことを言われ、意表をつかれた金田は訊く。 は言葉を探してうーん、とうなった。 「………なんか、気もそぞろっていうの?」 近頃、金田はよくボーッとしていることがある。 そんなところを旧来からの友人、はめざとく見つけていた。 「……え。そ、そうかな……」 「うん。なんだろ。恋する乙女みたい」 「ぇえ?!」 ―――なぜ、赤くなるの。 冗談のつもりで言ったは、すこし後悔する。 「冗談だって」 が言うと、金田は「あ、あたりまえだろ!」とこたえた。 ―――恋、ねぇ。 は少し考える。 ―――恋。 …まさか、金田が? うっそだあ。 は、心の中でそんなちょっぴりひどいことを思った。 はいつも放課後、学校のテニスコートに行く。 そして男子テニス部のファンの中に埋もれながら、 まわりと同じように黄色い歓声を上げているときに。 ふと、視界の隅にいる金田にも、エールを送るのだった。 声にはださず、そっと心の中で。 いつも、頑張っている。 それって地味だけど、それなりに素敵だ。 がんばれよ。金田一郎! 「ねえ、金田は高校に行ってもテニスを続けるの?」 ふと、なんの気なしには訊く。 金田は聞いて、少し顔を曇らせた。 「………うん、続けたい。けど」 「けど、何?」 「オレ、そんなに強くないから。続けられるかな」 言いながら金田は眉を下げ、ムリに笑う。 は口から、え、と漏らした。 「………なに、言ってんのよ。金田は強いじゃん」 言われて、金田は意外そうに返した。 「オレが?」 「前の……ええと、黄金ペアにも、勝ったし」 「あれだって」 苦笑しながら金田は言う。 「わからなかったんだ。本当は勝てるかどうかなんて。 正直、負ける確率の方が高かったし。 勝てたときは自分でも信じられなかった。 運が良かったんだよ。今度試合をしたら、負けるかもしれない。 そんな実力じゃ続けてたってな」 とつとつと金田は言う。 金田は本心からの気持ちを隠しながら、 それでも事実を話している。 だがには、それが気にくわなく 「………それでも、勝てたんじゃない? なに弱気なこと言ってるのよ! 続けなさいよ、テニス。 自分が、続けたいんでしょう?!」 おもわず、叫んでいた。 金田はびっくりした顔をして、を見る。 「………ゴメン、いきなり怒鳴って」 は謝った。 硬直が解けた金田も、はっとして返す。 「………いや、いいよ。ありがとう」 ―――なんで。 ―――なんで、そんなに辛い顔して、笑って、言うの? …やっぱり、金田はこのごろヘンだ。 は、胸のあたりをぎゅっとおさえた。 ■■■ 「ねえ、金田」 帰り道。 通学路が同じなので、金田と一緒に帰ることになったは話しかける。 「ひとりで、悩まないで」 夕闇。 金田の顔はちょうどからは影になって見えない。 「うん。ありがとう。いつでも相談させてもらうよ」 ―――うそつき。 は心の中でそう言った。 だけれど、口にはださない。 ―――それを言ったら、きっと金田は傷付くから。 「ね、金田」 「ん?」 「手をつなごう」 「え?! な、なんで」 「なんででもいいじゃない? たまには」 は無理矢理に手を取って、ぎゅうっと握りしめる。 金田は夕日の光のせいだけではなく顔を真っ赤にして、にひっぱられながら歩く。 ―――だって、今だけでしょう? は心の中でつぶやく。 ―――今だけしか、こうやってできない。 …冗談みたいにじゃれあうことなんて、いつかできなくなってしまう。 少ししくっとした痛みは、あるいは恋とかいうモノかもしれないけれど。 は、冗談めかして笑うのだ。 いつか、くるときのまえまで。 *あとがき* 石蕗柚子、金田同盟参加ということで、 金田ドリームを書かせていただきました。 金田大好きです。 スマッシュヒットでははえぬき組ばかり育成してます。 重傷です。だいぶ重傷です。 2ではきっと、ありえないほど強くします。 赤澤部長を。(金田じゃないのかよ!) 2004.03.05 石蕗柚子 <<戻る |