いつも言いそびれてしまう言葉。


*感謝の気持ち*




 それだけ伝えるのもむずがゆくってなんだかそのままにしてきた。
 だけど言いたいのはそれなんだ。

 金田はいつも他人の面倒をよくみる。
 どうやらそれは無意識のうちにやってしまうことが多いらしく
 金田は 『その言葉』 を言われる前に次の作業を初めてしまい
 は肩すかしを食うばかりだった。

 そう、だから。
 一年最後のこの日に精一杯の 『おかえし』 をしなくちゃいけない。



「あれ、も来たのか?」

「うん、たまにはと思って」


 聖ルドルフテニス部の集まり。
 なにかとスクール組とそうでない者とで分かれてしまうこの部の志気を高めるためなのか
 部のマネージャー・観月はじめは大晦日の日に部員を呼んだ。
 場所は近所の神社という微妙なロケーションではあるが
 冬の冷たい空気と周りのさわがしい雰囲気がいつもと違う何かを予感させた。


「そういえば俺、三ヶ日には大体この神社に来てたな」

「元旦には金田はどうしてたの?」

「家で家族とのんびりしてたよ」


 こういう話をするとき金田はとてもにこにこしている。
 彼は家族が好きなのだ。

 そうこうしている間に部長である赤澤がなにかをしでかしたらしく
 境内の方で大きな音がした。
 「部長!?」 と誰よりも早くその現場にかけつけるのはいつものごとく金田なので
 はぽつんととりのこされるのだった。


 冬の日が暮れるのはとても早い。
 野村が一番星をみつけた。
 はなんとなくとりのこされたままで元旦をむかえようとしていた。
 もちろん体はテニス部の面々と一緒にいさせてもらっているのだが
 『お客さん』 である立場であるとか、そういった様々な間にある空気がをとりのこさせていた。

 大丈夫。今日は最後にあの 『おかえし』 が出来れば万々歳だ。


 神社にいる人が全員なにかを待つ。
 ふっと空を見上げた人もいた。
 時計をじっと見つめる人がいた。
 はそろそろ頃合いだ、と思った。


「金田」

「ん?」

「誕生日、おめでとう」




 周りの人間が、わっとわく。
 新年があけたのだ。


「……あ」

「金田、新年あけましておめでとう!」
「あけましておめでとう」
「金田あけましておめでとうだーね!」
「今年もよろしくおねがいしますよ」
「よろしくね」
「よろしくたのむぜ!」


 いろんな声にかき消されて金田の言葉はひっこんだ。


「あけまして、おめでとうーっ!」

 は今年一番にとてもさわやかな挨拶をするのだった。








2004.12.31 石蕗柚子




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