*優しいキミへの贈り物*




 この時期になるときまって友人間でもその行事の話題がでてくることになる。
 決して参加しなければいけないというわけでもないのだが
 話していれば自然とそういった気分にもなるわけで
 は日頃の感謝やねぎらいの気持ちを表す意味でと誰にでもなく言い訳をし
 気が付けばデパートのチョコレート売り場にいた。

 きつめのピンクが洪水になって襲ってくる。
 視野いっぱいにそれらを受け止めては放心状態になった。
 あたりは人混みでごったがえし世が世なら戦でも起こっているのかと思うくらいだ。
 実際現代日本での戦なのだろうとは一人合点し
 すうと息を吸って買い物客の群の中に入っていった。

 むっとした熱気ときゃあきゃあとした声に包まれていると
 その商品が自分の買いたいものなのかどうかさえあやふやになってくる。
 そんなわけでははたと思い直してつかんだ煎餅型のチョコレートを売り場に戻した。

 は金田一郎がどんな趣味をしているのか思いかえす。
 まあ控えめに言って落ち着いたものを好むだろう。
 そのわりに好きな色は赤色であるという面ももつ男なので
 そのあたりを考慮しつつ渋めの赤いラッピングをしたそれを手に取った。
 ちいさなメッセージカードと一緒に。




 ただ、家に戻りベッドにもぐったあと何か違和感を感じは起きた。
 そして果たして金田はこれを貰って嬉しいと感じるかと思うと眠られないのだった。




 鐘の鳴る放課後。
 思いの外さわがしくもない聖ルドルフのバレンタインデーは
 それでも男女ともに静かな殺気を感じさせるなにかギラギラしたものがあった。
 そんな雰囲気の中でと金田の二人は相手をみるとなぜか一息をつくような心地を感じた。
 帰り道、金田はずいぶん疲れた顔をしていたのでは金田の家におじゃますることにした。
 部屋でなぐさめの言葉をかけたあと金田から事情をきいておもわず聞き返した。


「先輩とケンカ?」


 は後ろ手に隠し持ったチョコレートが溶けてしまわぬように細心の注意をはらった。


「ああ。きっかけは些細なことなんだけど……
 赤澤部長が一言なんの気なしにライオンを飼いたいって言い出したのが始まりだったんだ。
 それを観月さんがひきとめたかと思ったら
 何を思ったのか不二のやつが賛成しだして
 柳沢先輩がそれに悪ノリして
 木更津先輩が寮で飼育したらどうかって言ってきて
 その間に野村先輩はなにかを作ってた」

「どういうケンカなの」


 一言もらして金田の言葉に怪訝そうに 眉をひそめた。


「いや、俺もよくわからないんだけど……
 とりあえずそのことでここ最近眠られなくって。
 心なしか今日もちょっと胃が痛い」

「そっか」


 ぎゅうと握られたそれはそのままカバンの中に放り込まれることになった。
 なぜなら胃がやられているときにこれはちょっといただけない。
 かわりには金田の母親に一言ことわり台所を使わせてもらった。
 五分ほどした頃に部屋に戻って金田にカップを差し出す。


「いつもおつかれさま」

「あ、ありがとう」


 そういう事態のようだし今日の所はホットミルクを。
 おあずけをくらってしまったようだけれどはなぜか安心した。









2005.02.11 石蕗柚子




<<戻る