山吹中学校には、どの中学にもつきものの七不思議がある。 それはたとえば音楽室でひとりでに鳴りだすピアノ…… 英語のリスニング授業中、ヘッドフォンから聴こえる女性の悲鳴…… しかし、山吹中運動部のひとつ、テニス部には、もっとたくさんの謎があった。 千石のあのラッキーはどこからくるのか?! 新渡戸のあの芽の正体はいったいなんだ?! 喜多のあのぐるぐるもいったいなんだ?! 伴爺は本当に七十歳なのか?! 地味ーズは本当に地味なのか?! 仮にも全国級だぞ?! ………謎というには、なにかちがうモノもはいっているが。 そのいくつもの謎の中に。 「室町のサングラスをとった姿をそういえば見た者がいない気がする」 怪があった!! ………山吹中テニス部マネージャー2年、は、その謎をつきとめるべく、 山吹中テニス部のおおいなる謎の海へ乗りだした。 室町の謎〜山吹中男子テニス部の謎を追え! (水曜特番)〜・証言1 新渡戸 稲吉の場合 「へ、室町のサングラスをはずした顔? ………いや、みたことないんじゃなぁい?」 三時限目がおわり、ちょうど休みに入ったころ。 は相方に壇 太一を引きつれ、新渡戸の教室まできていた。 山吹中テニス部三年、新渡戸 稲吉。 いろいろ謎のある男である。 (「芽」とか、「芽」とか、あと「芽」とか) 同じ謎をもつ者として、なにか知っていることはないかとは思ったのだが、 その見当は、はずれてしまった。 「みたことないんですか?」 「うん、一回も。たぶんね。ちゃんも見てないんでしょぉ?」 「うーん………一回くらいは見てても不思議ではないと思うんですけど」 考え込んで。 「う〜ん、不思議です」 相方の壇。 「不思議だねぇ」 新渡戸。 「隙アリ!!」 は隙をみて、新渡戸の「芽」を狙った!! 「今日こそその芽の正体を見破ってみせます! ほぁちゃあ!!」 妙なかけ声とともにその手が頭のそれにむかう! しかし新渡戸もむざむざやられる男ではない。 新渡戸はその手の猛攻をくぐりぬけ、背後に半歩さがる。 はそれでもなお「芽」に気をとられ、体勢をくずした。 新渡戸がニヤリと笑んだ。 みぞおちに一発。 「くっ………!」 はくやしそうに腹を押さえた。 「………負けました」 「甘いね、ちゃん。 いまのはどっちかっていうともうちょっと斜め後ろからの方がよかったね」 「っていうかなにやってるんですかセンパイたち」 壇が率直に意見を述べた。 ・証言2 喜多 一馬の場合 「気をとりなおして新渡戸のダブルスパートナー、 喜多にきいてみましょう」 「で、さっきのはいったいなんだったんですかセンパイ!」 はそんな壇の疑問を、さっくり無視した。 「はいはいはい、なんですかあ? え、室町くんの素顔? ………あれ?」 喜多はいつも明るい。ムダなほどに明るい。 その喜多が顔を曇らせた。 「ちょおっと待ってよ? 室町くんでしょ? おんなじ学年のはずなんだから、 行事やなんかではずしてる姿をみててもおかしくないハズ……」 「……覚えてないの?」 「……う〜ん、もしかしたら単にみてないだけかもしれないや。 ほらほら、行事やなんかっていっても、 そんなに熱心に室町くんの方を意識してるわけでもないし〜」 「うん、まあそうか」 「あとボク、けっこうそういった行事って馬眠りしちゃうからさ〜」 「なるほど効率的ね」 「そうじゃないでしょうセンパイ……」 壇がつっこんだ。 ・証言3 錦織 翼の場合 「え、室町の素顔? うーん……そういわれると気になる謎だね」 「私たちには錦織先輩の方が謎だけどね」 ボソッと言ったの言葉にうなづいてしまう壇。 「………キミたち、けっこうヒドいね」 ・証言4 亜久津 仁の場合 「あ?」 「あーまたタバコ吸ってるです亜久津センパイ!」 昼休み。 調査を続行している最中、 壇は校舎裏で煙を吐く亜久津を見つけた。 「……チッ、みつかっちまったか」 「ちょうどよかった亜久津先輩。室町の素顔って見たことないですか?」 は亜久津にきくが、 「知るかンナもん」 と返されてしまった。 「でも本当にタバコ、吸っちゃダメですよ? カラダに悪いんだから」 は心配して亜久津に言う。 「まったくです。やめてくださいです」 「ウルセー」 「あんまりそんなふうにしてると、またカバンにイガグリ入れますよ?」 天使のような顔でのたまう壇。 亜久津は、壇のその言葉に、小脇に抱えていたカバンをそっと隠した。 「アレ、太一くんがやったんだ……」 ・証言5 伴田 幹也の場合 「あ、伴爺伴爺ー」 職員室のソファで茶を飲みつつくつろいでいる伴田教師に、は手を振った。 「おや、さんですか」 伴爺はおだやかに返す。 「室町の素顔って知らない?」 単刀直入に訊いたに、伴田教師は微笑みながら、少し沈黙した。 「素顔……ですか」 「うん、伴爺だったら知ってるでしょ?」 わくわくと目を輝かせて言うに、伴田教師はにこにこと笑って 「さて、どうでしょう」 と意味深に濁した。 「教えてくれないの?」 「人生、一つ二つ謎があった方が楽しいものですよ?」 「そんなの詭弁だー!」 こうなってしまった伴田教師はにっちもさっちもいかないと知るは、手足をバタバタさせた。 ・証言6 東方 雅美の場合 「室町のサングラス?」 常勝ダブルスを支える死角なき名手、そして地味’S片割れ、東方雅美は言った。 「あれは部活の時だけしてるんだろ? 日差しよけに」 「それがこれまで、室町の素顔を見たって人が一人もいないんです」 「そうか。いや、そんなに詮索しないほうがいいかもな……?」 意味ありげに、東方。 は、その言い方が気になって訊いた。 「なんでですか? 気になるじゃないですか」 「誰しも秘密にしておきたいことってのはあるもんだろ? 特にアイツはけっこう秘密主義だし」 「隠されるとかえって気になります」 どうも少し意固地になっているに、東方は言った。 「もしあのサングラスをとって、目からビームがでてきたらどうするんだよ」 「………なんですかそれ?」 「………センパイ、XーM○NですXーM○N」 ・証言7 南 健一郎の場合 「室町の素顔だって?」 南はそう聞いて、少し顔をしかめた。 そしてうつむく。………なにか悩んでいるようだ。 「どうしたんですか?」 は南に訊く。 「いや………どうしても………見た気がしなくて………」 「そんな、思い詰めなくても。みんな、見たことないんですし」 「そんなことじゃいけないだろ。ほら、オレ部長だし」 「「……ああ」」 太一と一緒にうなづく。 「おいおまえら、今、思い出さなかったか……?」 ・証言8 千石 清純の場合 「あーっ、やっと見つけた! 千石先輩!」 昼休みももう終わるころ、たちは校舎の隅にいる千石を見つけた。 「ん、ボクをさがしてたの?」 ずっとここにいたんだけどね、と千石。 「………う〜ん?」 千石はとぼけるように空をあおいだ。 「もしかして、室町の素顔………知ってるんですか?」 「んー、どうかなー? 知ってるのかもしれないし、知らないのかもしれないし」 あくまでとぼける気でいる千石に、は 「いいです、自分で調べますから」 とむくれた。 「わかったわかった。そうだな、ちゃんがチューしてくれたら思い出すかも」 「じゃ、行こうか太一くん」 「そうですねセンパイ!」 「オイオーイ無視かい?!」 ■■■ はあっ、とは肩で大きく息をした。 これで、部員全員に訊いてまわったことになる。 「結局、収穫なしね………部内では、一人も室町の素顔を見たことがある人はいなさそう」 「まあ、でもそれはそうですよね。それが不思議なんですから」 ハハッ、と無邪気に笑う壇。 はハッとした。 「………! ひらめいたわ!」 「なんです?」 「クラスの人よ! 室町のクラスの生徒なら、彼の顔をみてるハズだわ! だって、部活以外ではサングラスは外してるって話だし!」 「………あー、はい」 その言葉に微妙な顔をした壇に、は訊いた。 「………もしかして、元々気付いてた?」 「………ええと、まあ、その」 いつ言ったらいいか、困ってたです、と壇。 はちょっと打ちひしがれた。 ・証言9 室町のクラスの女子 「え、室町くんの顔? 顔………顔ね。うん。顔。 ………あら? ごめんなさい、今思い出して………、 ダメだわ。なんでかしら。彼の顔、おもいだせない」 ・証言10 室町のクラスの男子 「室町? ああ、結構クラスでも一緒に話すほうだけど。 顔? そーだなー………。アレ? ………顔、どんなんだっけ?」 ■■■ 「これよ!」 は、すでに会議室と化したテニス部部室の机を、バンっと叩いた。 壇はその勢いにひるむ。しかしかろうじてもちなおし、彼女に訊いた。 「な、なんですか?」 「これ、これよ! これぞオカルトロマンよ! 必ず見ているはず、なのになぜかおもいだせない! 世界の怪奇、ブラックボックス! これこそが、私の求めていた不思議っ!!」 壇はふと思い出した。そういえば彼女は最近そういったものに興味を示していた。 たとえば彼女の蔵書には『世界のUMA』とか、『超自然科学ナントカ』が最近とみに増えている。 ………しかしここまでとは。 壇はちょっぴり腰がひけた。 「ダレが世界の怪奇だって?」 は振り返った。いつのまにか部室の扉を開けて、よりかかっている人物を視認する。 その人こそ、渦中の人、室町十次だった。 「なんだかオレのこといろいろかぎまわってる奴がいるって聞いて、 もしかしてと思ってきてみれば………なんだよそれ? そんなにオレの顔が見たいのか?」 あきれた顔の室町の言葉に、は悩んだ。 ――― ………見たい!! いや、しかし。ここで見てしまっては世界の怪奇が一つ減ってしまう! なんてもったいない! ………いや、しかし! 自分は純粋なる知的好奇心のためにこのことを調査していたのではないのか?! ――― そうだ、おそれていては前には進めない! ――― 今こそ扉をあけ、未知なる前途を拓こう!! 「………見たい」 は、室町の顔をはっきりと見つめ、うなづいた。 場がしずまる。 壇が、興味津々で体を乗りだす。 室町はためいきをついて、サングラスに手をかけた。 ばたばたばたばたばたっ。 ばたーん。 「ちゃん、ちゃん! ココ?! どうだろう、それじゃあ、それじゃあほっぺにチュー! それならどう?!」 「千石さん」 「あれ?」 騒々しい音を立てて部室にやってきたのは、千石だった。 どうもお呼びでないらしい空気に、千石はひとり取り残されたようになる。 完全に場は白けてしまった。 室町は気まずそうにサングラスに掛けた手をはずす。 そして、は言った。 「………そういえば太一くん。これも、ひとつの不思議よね」 「え、なんですか、センパイ?」 「千石清純の、飽くなき女の子好き」 はあっ、と気を吐いては遠い目をした。 「サングラスの件は、また後日ね」 「まだ言うのかよ」 の、その飽くなき好奇心もまた、山吹中テニス部の謎であった。 *あとがき* 永遠の秘密主義者、室町十次ドリーム? (半疑問系) 可愛いです、室町。アナタが愛しい。 その出番のなさが。(失礼だオマエ) あきらかにマンガより ゲームの方が出番が多いというのはどういうことだ。 そんなところが大好きです。(偏愛) 2004.04.19 石蕗柚子 <<戻る |