*トマト*





 はトマトが好きである。

「内村ー、ほい」

 は片手につかんだトマトを内村に手渡す。

 そしてもう片方の手に持ったトマトをおもむろにほおばった。

 内村は真っ赤に熟したトマトを、しぶしぶ口に運ぶ。




 は内村の小学生からの知り合いである。

「一人、一個。男女平等!!」

 まだ小学校に通っていたころ、ある日幼なじみはのたまった。
 妙な奴だとは思っていたがこれほどまでか、と内村は少し戦慄した。

「男女平等?」

「ん。不公平じゃないっしょ。私はトマトが好き。あんたもトマトが好き」

 にかっと笑って言う

「ちょっと待て。これよりオマエのが大きいぞ」

「それはしゃあないじゃんか。
このトマトはこのトマト、そのトマトはそのトマトでしかないし」

 …なんて無茶苦茶な理由だ。
 内村は憮然としたが、まあとりあえず良しとした。
 …こういうやからには何も言わずに従って見せた方がいい、
 と。

 そんなこんなで小学生のころから彼らの間では、
 一人一トマト、であった。




「なあ、なんで最近楽しくなさそうなん?」

 完熟したトマトの果肉は容易く噛み切ろうとする歯を拒む。

「……なんだそりゃ」

 内村は無感動にかえした。
 トマトの皮をぺりっと剥いで、は訊く。

「楽しい?」

「それなりに」

「テニスは?」

 少しの間。

「………………それなりに」




 葉の色は碧。

 未だ成長しようとしていた実を刈り取った跡が生々しく見える。





「最近のトマトはなんだか舌がピリピリする味だねえ」

「そうか?」

「あれ? しない?」

「それはが不健康で、舌がヘンになってるんじゃないのか」



 ずびーっ、とすする音。

「おい」

「んあ?」

「すするな、トマトを」

 内村が眉間にしわを寄せて不作法をたしなめる。

「だって汁がこぼれるし」

 は悪びれる様子もない。

「オマエはバカか」

 こぼれないように食う方法があるだろう、と内村。

「バカです」

 がっついて食べるからね、と
 それも胸を張って言うので、内村はもう何も言えずためいきをついた。





 真っ赤なトマトを食べ尽くす。

 あとに残るのは、碧の葉だけ。




「やっぱりトマトは美味いねえ」

「そうか?」

「あれ? 美味くない?」

「そんなには」

「でも、好きなんでしょ?」



「………これ、捨てといてくれ」

 『へた』 をに手渡して、内村は背を向ける。

「お、おーい?」

 うけとったそれを握りしめて、は内村に声をかけた。







「ね、好きなんでしょ?」







 内村はの問いかけに少し振り向いて、軽く右手を挙げた。








*あとがき*

ある日の石蕗は、ショックを受けました。
なんてこった! 我らのウッツィー(誰)のドリームがこんなに無いだなんて!
そして思ったのです。無いなら書こうと。(目に光を携えて)

しかしらぶらぶはムリでした。無念。
そもそも私がらぶらぶ向きではないというのは禁句です。

アウアヒーロー・ウチムラ。
いつからぶらぶな内村ドリというのも、見てみたいものです。

2004.03.25 石蕗柚子




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