*お互い様*




 さみしいときはさみしいって言えばいいのだ。


「なんかあったか?」

 放課後の教室で、内村がめずらしく気を遣う風に訊いた。
 なんだか、ぶっきらぼうにも聞こえるけど。
 私より身長の低い内村の顔は、帽子のつばに隠れてよく見えないけど、
 それでもそれが精一杯の言葉なんだっていうことはわかる。


 なんでもないよ、と言うのはたやすくて。
 そうすれば、いつもの時間はまた流れて。
 誰も傷つかないし、誰も救われない。


「ちょっとさみしくなっただけさ」


 私は顔中で笑ってかえした。
 その表情を見て、内村がうつむき舌打ちしたのが聞こえたけれど、
 それがなんでなのかはわからなかった。

 帰り道、途中で別れるはずの分岐点で内村が立ち止まる。
 時間が遅いから、もう周りは真っ暗だ。
 街灯が内村の背中を照らす。


「オレはそんなにたよりないのか」


 私はなにを言われたのかよくわからなかったので、


「ほぇ?」


 とか間抜けな声をだしてしまった。
 内村はまた舌打ちをして、制服のズボンのポケットに乱暴に手を突っ込んだ。
 心底あたまに来ているときの癖だ。


「……ごめん」
「あやまるな!」


 内村が怒ると、その背丈が本当に私よりも小さいのか、疑問に思えてくる。
 想像よりすこし高めの声は、怒ると急に男味を帯びて、存在を主張してくるから。

 それでも、私はわからないふりをした。
 微笑って言う。


「内村だって自分だけで解決しちゃうでしょ」


 問題ごとがあったときはいつもそうだ。
 内村はそれを言われてぐうの音もでない。


 ね。どんなにつらいのか、わかるでしょうに。
 何も言われないことが、どんなにつらいのか。


「それじゃ帰るね」
「お、おい!」


 私は道を歩きながら、振り返って叫んだ。


「気持ちは、嬉しかったよ!」



*あとがき*

日記より抜粋。


2004.10.26 石蕗柚子




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