*銀色*




 は内村京介がおそらく中学生活でもっとも身体的に辛かったであろう時期に
 彼のそばにはいなかった。

――― それはつまり橘桔平が部にくるまえのテニス部生活のことだ。


 と内村は小学生からのつきあいだが
 中学に入ってから一年とすこしは家の事情で別の土地にいた。
 そのときのことがにとっての一生の悔いでありトラウマだ。

 は内村の誕生日に銀のものを贈ることにきめている。
 それはなんとなくきめたことであったし最初の頃はとくに意味もなかったのだが
 そのことがあってからの中では銀が”魔除け”という理由をもつようになったようだ。
 プレゼントをえらぶときはたいして気にも留めていないが。



「毎年この日はおまえのほうがはしゃいでるようにかんじる」

「えっそう?」

「ああ。いいけどな」




 内村はシルバーの首飾りをうけとってその手で無造作につけた。
 銀がにぶく光った。





「おれがおまえにもらった誕生日のおくりものでうれしかったのは」


 少しの沈黙のあと唐突に口をひらいた内村はつづけた。


「あっちのほうにがいっていたとき。電話口に渡してくれたものがいちばんうれしかった」

「あのときに渡したもの?」

「おぼえてないのか?」

 そのときには彼のおかれていた状況をまったく知らなかったので
 急に電話をかけ祝いの言葉を言ったあとすぐにきってしまった。
 贈ったものがなんだったかおもいだせずはしばらく考え込んだ。




 そのころは橘も部に来ていて二年にうけた傷はだいぶ癒えていた。
 かわりに部のたてなおしにいそがしかった時期でもある。
 さんよ、と母親に受話器をわたされて内村は
 「はて今日はなにかあっただろうか」 と思案した。


「誕生日おめでとう内村!」


 電話越しの勢いに内村はけおされた。
 0.5 秒で体勢をととのえると 「ああ」 とひとことかえす。


「この言葉だけ言えてよかった。
贈り物はとどけられなかったけど今、外みられる?」

「外?」




 内村は窓の方に視線をうごかした


「うえのほう。きれいな銀色のお月様がでてるよ」

「………ああ」


 見上げて 「ほんとだ」 と内村はつぶやいた。




「おもいだせないのか」


 にやにやとする内村にはふくれつらでかえした。


「何。おしえてくれてもいいじゃない」

「絶対おしえない」


 言い捨てて内村は逃げるようにした。
 は内村を追った。






*あとがき*


というわけでハッピーバースディドリームでした。


2004.10.28 石蕗柚子




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