*幸せカウントダウン*






 秋も深まり、寒さがきつくなってきた平日の放課後。
 部活で打ち合いの練習中、いつも以上にはね回っている菊丸の姿があった。
 ここ数日機嫌の良いダブルスパートナーに、
 理由を何となく察している大石は苦笑気味だ。


「英二、調子良さそうだな」
「ん〜、今オレってば元気モリモリ絶好調だかんね〜!」


 とてもはずんだ口調の菊丸は、確かに言葉通り動きが良い。
 そのうち小声で歌い出した菊丸に、さすがに心配になった大石は眉をひそめた。


「……英二、ひょっとして忘れてるのかもしれないが、当日は試合予定が入っているからな?」
「もち、わかってるよ?」
「本当に分かってるのか? 練習試合とはいえ気は抜けないし、朝早くから部活があるんだぞ?」
「うん、だからいいんじゃん」
「は?」


 軽く上がったボールをきれいにスマッシュで決め、
 菊丸はラケットをくるんと回して、にっこりと笑った。













 コートの反対側のベンチ付近。
 打ち合いの練習に一区切りをつけ、不二と桃城は休憩に入っていた。
 はその二人にタオルやドリンクを渡した後、
 その側で他の選手の試合状況を見ていた。


ちゃん、最近ご機嫌だね」
「……えっ。そ、そうですか?」
「そうだなー。なんつーか、浮かれてるっぽい」


 二人に指摘され、は軽く頬を染める。
 表に出さない様気を付けてたつもりだったが、
 浮かれているのは自覚していたので。
 そんなを見て、桃城がニヤリと笑う。


「なになに。ついに英二先輩とキスでもしたか?」
「……桃のドリンク、野菜汁と換えておくね」
「うわっ! スマン、マジ勘弁!!」


 ホントにゴメンナサイ、と頭をさげ、必死に謝る桃城に、
 ため息を付きつつ肩をすくめて、は了承のサインを出す。
 ちなみに不二はその間中、柔らかな笑みをくずさず楽しそうに二人を見ていた。


「まぁ、ちゃんが落ち着かないのも無理ないかな。もうすぐだしね」
「……不二先輩にはお見通しですか。敵わないなぁ」
「え、もうすぐって……あー、そっか」


 不二の言葉で気付いた桃城も、納得の声をあげる。
 その表情は、揶揄も多少含まれていたが、
 大半が苦笑と、仲間に対する優しさに溢れていた。


「今月入った辺りからずっとこんななんです。
 何をしててもプレゼントとかお祝いのことばかり考えちゃって……」


 少し顔をしかめつつ、赤くなっている頬を手の甲で押さえるに、
 不二と桃城は顔を見合わせて肩をすくめた。


「プレゼントはもう決まったの?」
「はい、一応。まだ少し迷ってるんですけどね」
「お前ならリボン一本用意すりゃいーだろ」


 きしし、と人の悪い笑みを浮かべながらなおも懲りずにをからかう桃城を、
 今度は不二が軽く頭を小突くことで諌める。
 当のは、首を傾げてきょとんとしていたが。

 話題の変更の意味も込め、不二はそういえば、と疑問を口にした。


「でもちゃん。当日って確か練習試合の予定だよね?」
「はい、そうですよ」
「んじゃどうすんだよ。まさかサボってどっか行ったりすんのか?」


 がサボるとは本気では考えていない桃城だったが、
 やはり練習試合が入っているということは
 時間的余裕が一日通してないということなので、
 思わず心配になって聞いてしまう。
 だが、その言葉には怒ることはなく、むしろ驚いた顔をした。


「何でそんなことしなきゃいけないの?」
「え、なんでって……」
「試合の後にどこか行く約束でもしてるの?」


 不二の言葉に、は首を振り、にっこりと笑った。







「「部活で朝一番で逢うことが出来て、一日中一緒にいられるじゃない (です) か」」









 いっぱい活躍しちゃうもんねー! と張り切る菊丸と、
 当日が楽しみだな、と呟きながら仕事に戻るは、
 自分達が発した言葉が周囲に及ぼした影響には気付いていなかった。





 菊丸英二の誕生日まで、あと数日の昼下がり。
 青学テニス部は、今日も平和だった。





*あとがき*


天然お惚気話。
11月入ってから、浮かれてるんです。私が


2004.11.23 伊織




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