ましろいゆきが ふりつもる おとをすいこみ しんしんと ぼくのこころに しんしんと *つらなり あふれて*「うーっ、寒っ!! こんな日ぐらい、朝練中止にしてもいーじゃん。なぁ、不二」 「確かに寒いね」 手塚や大石がそれを言うとは思えないけど。 放課後の部活は体育館の使用予定もあるから中止になるだろうけどね。 そんなことを考えながら、でも口には出さずにエージに返事をする。 今朝は珍しく雪が降っていた。 エージなんかは 「こんな日も朝練かーっ!!」って怒ってたけど。 でも多分、彼女なら。 「あー! おっはよー、不二くん、菊ちゃん!! 朝練お疲れー」 「おはよう、さん」 「うーっす、。朝っぱらからテンション高いなぁ」 「あったりまえでしょー? 雪だよ、雪・雪・雪!!」 彼女は僕の想像通り、ものすごく嬉しそうな顔をしている。 それこそあの有名な歌の犬のように、 雪の中を今にも駆けて行きたそうな感じだ。 「も、寒くって今日は休もうと思ったんだけどさー、 母さんから 『ゆきが降ってる』 って聞いたら嬉しくって飛び起きちゃったもん」 「こっちはその雪の降る中、部活だぜぇ。キッツいっつーの。 今日はずっと布団の中でぬくぬく寝てたかったなー」 「なに菊ちゃん、ホントに猫だったわけ?」 「にゃにおー?」 「あはははは! ねこねこ!!」 エージとじゃれ合ってる(からかってる?)彼女は、とても自由で、明るくて。 「でさでさ、みんなで話してたんだけど、放課後に雪合戦しよう!」 「ゆきがっせん〜?」 「そー! ついでにかまくらと雪だるま作るの!!」 「雪だるまは、小さいのならともかく……かまくらは無理じゃないかな」 「えー? そんなことないよぅ、絶対作るの!」 「つか、そんなん作ったら邪魔だろ」 「ぶー」 ふくれっ面で拗ねる君。 その表情もくるくる変わって。 僕の中に、また君が増える。 「ぃよーし、そんじゃ菊ちゃんの上に雪山乗っけて中から掘ってもらおー!」 「『そんじゃ』 じゃねー!!」 「だめ? じゃ菊ちゃんを芯にして特大雪だるま作るとか」 「お前はそんなに俺を埋めたいのか」 「うん」 「…………即答かよ」 「ねーねー、不二くんも手伝ってくれる?」 「面白そうだね、いいよ」 「……ふ〜じぃ〜」 「やだなぁエージ、冗談だよ」 「いんや、目がマジだった!」 「あははははっ!!」 瞳がキラキラしてる君。 いたずらっ子の顔の君。 あ、と声を上げて彼女は僕に紙を差し出す。 「これ、参加希望者名簿。名前書いたら、他の人にも回してね」 一目で見つけた君の名前。 その文字をじっくりと眺めた後で。 ゆっくり名前を書き込んだ。 * ましろいゆきが ふりつもる ぼくのこころを すいこんで ぼくのことばを すいこんで ■■■■■ 放課後。 ほぼクラス全員が参加となった雪合戦大会。 思ったより積もってくれた雪は今はやんでいて、 みんな思い思いにぶつけたりぶつけられたり。 そんな中、僕の目はどうしても彼女の行方を捜してしまう。 さっきまでエージと猛烈なぶつけ合いをしていたハズだけど。 「さん?」 「うひゃう!?」 校庭隅の木陰。 彼女の姿を見つけて声をかける。 その前には小さな雪だるま。 と、雪玉がいくつか。 「あー、不二くんか、びっくりしたー」 「雪だるま、作ったんだ」 「うん! なかなかの力作なんだ、どう?」 「可愛いね」 「えへへ、でしょでしょ?」 上手に凹凸をつけられたそれは、 雪だるま、というよりはミニ雪像に近い。 僕は瞳に当たる部分に、用意しておいた小石を入れた。 「ちょっと大きいかな?」 「ううん、そんなことない。ありがと、不二くん」 「どういたしまして。ところで、ひょっとして休んでたの?」 「うん。さっき菊ちゃんの背中に当てたら服ん中入ったらしくてね…」 「あぁ、それで…」 ものすごい叫び声があがったと思ったら、校舎に全力疾走するエージが見えた。 恐らく、戻ってきたらなんとしても仕返しを、と考えているだろう。 「今のうち戦力蓄えておかないとね。負けるわけにはいかないし」 むん、と握り拳で決意している彼女。 そんな彼女に目を奪われていた僕は、 横からかかった声に内心とても驚いてしまった。 「見っけたぞ〜ー! くらえ!!」 「げ、菊ちゃん」 その時 急いで立ち上がろうとした彼女がバランスを崩して。 倒れそうになったところにエージの投げた雪玉が迫ってて。 とっさに、僕は 「…大丈夫?」 「…………うん」 僕の腕に彼女を抱き寄せた 「え、あ、えーと、その、…わりぃ。だいじょぶ?」 危うく彼女の顔に雪玉が直撃しそうだったエージは、 顔を青くして訊いてくる。 うん、とうなずこうとした彼女は一瞬こわばり。 …ゆっくりとエージに向き直った。 「き ・ く ・ ちゃーん?」 「な、何?」 「なんってことすんのよー! 私の雪だるま返せー!!」 「へ?」 そう。 エージの投げた雪玉は彼女が逃れたため、 その背後にあった彼女の雪だるまに直撃し。 雪だるまは見るも無惨にぐしゃぐしゃになっていた。 「もー怒った! やっぱ菊ちゃん雪だるまの芯になれー!!」 「いや、ちょ、それオレの所為!?」 僕の腕からすり抜けた彼女は 置いてあった雪玉をぽいぽい投げ始めた。 「じゃ、約束通り僕も手伝うよ」 「ようし不二くん、敵討ちいくよ!」 「裏切り者ー!」 再びちらつき始めた小雪の中 僕は彼女を追いかけた ましろいゆきが ふりつもる ぼくのこころが あふれだす ぼくのことばが あふれだす 「ずっとキミの側にいるよ」 ――――――― 僕の声は、届いてますか? *あとがき* 一人称玉砕。だめだ、名前が呼べない…! 菊ちゃんとはお互い友達で、不二くんからひっそり片思い。 そんな感じで書いたんですが、…伝わってますかね?(びくびく) てゆか説明しなきゃ関係分かんないって ドリームとしてキツいですね。反省。 ちなみに不二くんの声は、本文を反転すると見えるかもしれません(笑) 東京の方は雪って少なそうですけど、 雪合戦できるくらい積もる事ってあるんでしょうか …まぁ頑張ってもらおう(何に) 2004.03.14 伊織 <<戻る |