”どこが好き?”ときかれたら とても困ってしまうんだ *好みのタイプ*「不二くん、手ぇ貸してくれる?」 「いいよ、何?」 の言葉に、何を手伝うのか、と聞いたつもりだったが、 そのまま手をとられしっくりと眺められてしまい、不二は口を閉じた。 どうやら、言葉の通り 「手を貸して」 ほしかったらしい。 そのままは不二の手をひっくり返したりまじまじと見つめたりしていたが、 しばらくして、ふむ、と一息ついた。 「気はすんだ?」 「んー……うん、とりあえずは」 「それで、何だったの?」 「不二くんって、手ぇキレイだよねー」 「そう?」 不二の手を見ながら話していたは、 軽く返された返事に 「そうだよ!」 と強く返した。 「見た目ほっそりしてるのに実はがっしりしてるし、指細くて爪も整ってるし、 日に焼けてて不思議じゃないはずなのに色白いしっっ!!」 がう! とかみつきそうな勢いで話すに、 不二はやはり 「そうかな?」 と、あまり気のない返事を返す。 その様子には不二を納得させるのは諦め、 両手でつかんでいた不二の手を自分の掌と重ね合わせた。 自分の手の甲の向こう側に不二の指が見えてるのを見て、はふむ、と頷く。 「おっきいよねぇ。やっぱり男の子ってカンジ」 「男子じゃ普通の大きさだと思うけど」 「そうなの?」 「そうなの」 ふーん、と少し首を傾げて、自分との差がどのくらいかを計っているに、 不二は同じく首を傾げて笑った。 「それで、いきなりどうして僕の手を研究しようと思ったりしたの?」 ぴく、と一瞬は動きを止めたが、少し目を泳がせた後で不二に眼を合わせた。 「あー、うん。不二くんが指が綺麗な人が好きだって聞いてね?」 「……誰から?」 「乾くん」 即答された情報源を聞いて、なるほど、と納得する。 その姿を見ながら、は続けた。 「それで、私の周りで一番指……ていうか手がキレイな人って誰かなーって考えたら、不二くんが思い浮かんだの。 でも不二くんが基準て考えるとレベル高いなー」 考え込んで、むぅ、と唸るの言葉に、不二は少し目を丸くする。 だが、すぐに口元に笑みが浮かんだ。 気配に気付き、何? とが顔を上げた瞬間、 不二は重なった指をずらし、がっしりとの手をつかんだ。 今まで散々触っていたクセに、は突然のことにほどこうと慌てて手を振る。 しかし、掴まれた手はちょっとやそっとでは離れないと言わんばかりに堅固に繋がっていた。 「いきなり何!?」 「嬉しいなぁって思って」 「は?」 伝わる温もりが気恥ずかしくてつい強い口調で聞いたに、 不二は満面の笑みで答えた。 「つまりは僕の好みを知ってそれに近づこうとしてくれたんでしょう? だから嬉しいなって」 幸せでたまりません、といった不二の表情に、はつかの間ぽかんとする。 だが次の瞬間 「そんなんじゃない!」 と叫び、 真っ赤になってより激しく手をふりほどこうとするが、不二の力は強まるばかり。 そのうち暴れすぎては下を向いてぜーはーと軽く息を切らした。 不二も、大丈夫かな、と少し心配になったが、 そのまま恨みがましくうー、と唸って上目遣いで睨んでくるの顔に差す赤みに、 思わず、くす、と笑いが零れた。 その声に、むっと口をとがらせたは、不意に顔を上げて繋がれた手に顔を近づけた。 そして。 ちゅっ 「!?」 手首に感じた柔らかい感触に驚いた隙をついて、はするっと手をほどいた。 「えへへー、くすぐったかった? くすぐったかった?」 私の勝ち〜! と、してやったりといった顔のに、 しばらく呆然としていた不二は、やがてくすくすと笑いはじめた。 「って大胆だなぁ」 「え?」 「今の意味、知ってる?」 「意味?」 不思議そうに聞き返すに、不二は笑みを深めて頷く。 「手首へのキスはね、欲情をあらわすんだよ」 は!? と言ったきり固まってしまったを、笑ったまま不二が腕を取って抱きしめる。 はたと状況に気付いたは、 「知らなかった! 全然知らなかった!!」 と暴れるが、 不二の拘束は緩まない。 「ねぇ、他の意味も知りたくない?」 「いらないいらない! ノーサンキュー!!」 必死に首を振るに、そう言わずに、と不二は顔を覗き込んだ。 至近距離の不二の顔に思わず動きを止めたの唇に、すかさず不二はキスを落とす。 「今のが愛情のキス。また知識が一つ増えて良かったね」 「良くなーーーい!!」 の叫び声をよそに、心底楽しげな不二の笑い声はその後もしばらく続いた。 ”どこが好き?”ときかれたら ”君が好き”と答えてしまう そのくらい僕は、仕草も声もなにもかも 君のすべてが、好きなんだ *あとがき* 20.5巻ネタ。 時々甘い話が書きたくなると、大概それは不二先輩だったりする。 私の中で現在甘担当らしいです。彼。 2005.08.05 伊織 <<戻る |