「カルシウムが不足している、と?」 部室にて、が乾に問う。 夕方なので、部室はすでに薄暗い。 乾は頷いた。 「海堂の特別練習メニューは筋肉の組織を一度破壊して再生させる運動だ。 結果、タンパク質、カルシウムや鉄は通常よりも多く取らなければいけない。 その点、海堂は………」 は眉根を寄せ、頷き返した。 「はい………盲点でした。これは………」 乾の眼鏡が光った。 は言った。 「早急に対処します」 *愛情と食生活*「カレーとそばではどちらがお好きですか」 夏の帰り道は、涼しげな風が通り抜ける。 唐突に言われたの言葉に、海堂は一拍間をおいて訊ねた。 「………なんの話だ」 「他意はありません。純粋に、先輩の嗜好をお尋ねしたくて」 海堂は深呼吸をして、考えをまとめた。 ――― 落ち着け、海堂薫。 この状況は、彼女に 「食べ物では何が好き?」 ときかれているということだ。 つまり、セオリー通りいけば……… 彼女の手料理を食べられるかもしれないのだ! その彼女が、どこかのデータテニスプレイヤーじみていようが! 現に今その質問をしながら 『ノート』 を広げていようが! これは喜ぶべき状況なのだ! ………多分。 そこまで考えて、海堂は振り返った。 「オレは、洋食より和食の方が好きだ」 「ということは、そばですね」 「ああ………」 「とろろそばはお好きですか?」 「ああ、嫌いじゃないな」 どちらかといえば好物だ。 だが海堂はそんなことは口にできない。 そこまで話した後、はノートを閉じ、顔を上げた。 「話は変わりますが、今度我が家へいらしてください。 大したおもてなしもできないことと思いますが」 その一言だけで。 海堂薫は、その日、実にこの世の春を感じていた。 休日、海堂は約束した昼前に家に着いた。 「お昼はすませてしまいましたか」 出迎えたが言う。 「いや」 もちろん、そんなもったいないことはしない。 は小さく安堵のため息をもらした。 海堂は気が付いたが、見ない振りをした。 「あの、おそばをお作りしたんです。お口に合うかどうか」 海堂薫は空を飛んだ。 比喩表現である。 「インターネットで、体によいそばを見つけたので取り寄せてみました。 今、つゆをお作りしますね」 未だ空を飛んだままの海堂は、目の前でつゆをつくるをじっと見た。 今、女神とはかくや、といわんばかりのまばゆさを放つ彼女に、 海堂は一人、自分の目がおかしくなったのでは? と思ってしまう。 しかし、女神はそこにいた。 海堂の目の前にいたのである。 女神はすり鉢でとろろをする。 「ミキサーよりもすり鉢の方がアミラーゼの働きを良くするんです」 その口調がやたら科学的で説明的なのもこの際、良い。 その細腕ですりおろされた大和芋。しょうゆ、塩をまぜる。そして。 女神はおもむろに牛乳をとりだす。 そしてそのままそれはつゆの中へ……… 「ッッッ待て!!」 「なんですか」 牛乳は、どぼどぼと音を立ててつゆに混じってしまった。 「なんでそこで牛乳なんだ!!」 海堂は恍惚から抜け出すと、現実をまじまじと見た。 現実は、白かった。 「海堂先輩はカルシウムが不足しているのではないか、と乾先輩が」 「………それで、牛乳なのか………」 「はい」 海堂は頭を抱えた。 「………ちなみに、カレーだと、どんなカレーだったんだ」 それでもやはり、牛乳が入るのだろうか。 海堂はそう思ったが、はその少し斜め上をいった。 「はい、納豆カレーのレシピを手に入れたので」 大豆はカルシウム・鉄分を多く含む食材ですので、と。 納豆カレーと牛乳とろろそば……… の愛情は、フラットしていた。 「海堂先輩?」 今度は花畑を彷徨っていた海堂は、の声で現実に舞い戻る。 できれば夢であってほしいと思わないでもなかったが、 の手料理、という響きを反芻し、夢であっても嫌だと頭を振る。 そして目の前にはきちんと用意されたそば一式。 「お口に合うかどうかわかりませんが…」 微かにうつむくを海堂は見つめる。 否 それはそばの横に置かれたつゆから目をそらす行動だった。 ―― 何故に、汁なのだろう ―― 俺はこの名の液体から逃れることはできないのか しかし、これはの作ってくれた昼ご飯である。 不安げな眼差しを向けるから目をそらし、 海堂は覚悟を決め、おそるおそるそれを口に運んだ。 ――― あ、これ、結構いける……… 海堂は、それが某汁のような破壊力を持つモノではなくて安堵したが、 しかし、なぜか純粋に喜べなかった。 今回のことを乾に報告していたを見て、 複雑な気分になったのと同時に 次を考えて某汁のようにパワーアップするのでは、と 海堂が戦慄したとか。 *あとがき* 伊織:はい、連携ドリーム第2段、海堂君であります(ぱちぱちぱち/拍手) 彼らは記念すべき柚子がドリームに入ってくれたきっかけですからね。 柚子:うん、ひきずりこまれたねえ。 伊織:二人の共同作業。言わば愛の創作?(笑) 柚子:共同製作四コママンガみたいだと思います。 伊織:…スルーされたな(笑)まぁ私はオチ担当で。 柚子:はい、前作もね、オチがどうしても思い浮かばなくて、 困り果てていたところに女神光臨でした。 伊織:… (照)えーと、つまりは今回も8割方柚子が書いてくれたわけで。 柚子:いや、ぶっちゃけ私も伊織がいないと書けないわけですが。 伊織:感謝してるよ、いやホント。 柚子:いやー、照れるね。 今回は資料に頼りっきりになっちゃったかなあ……… 下の方に参考資料を書いておきます。面白い本です。 よくあるファンブックとはちょっと違った観点、 心理学などの切り口でテニプリキャラの魅力を分析した本です。 興味のある方はご一読あれ。 (類似品注意! 同じ感じの本でちょっと酷いのを見かけたので) 伊織:…語ると長いね、相変わらず。 えっと、柚子的お気に入りのところは? 柚子:………敢えて言うならお花畑かな。 (やっぱ語ると長いか! 自粛自粛) 伊織:私は白い現実が好きです。…見事にお互いのパートだね。愛だ。 柚子:いや、あんまりいちゃいちゃしても見てる人が困るからね! 伊織:おっと。それでは、ここまで読んでいただいてありがとうございました!! 柚子:これからもこのシリーズ、よろしくお願いします! 伊織:柚子、ネタ出しお願いねー(ぼそ) 参考資料:テニスの王子様 熱血キャラ解析書 2004.04.07 <<戻る |