*含有比率48.3%*「三世紀ごろに殉教した聖バレンタインの祭日です」 「よく言われる 『St.』 『セント』 とは 『SAINT (セイント) 』 の略。 つまり聖人という意味だな。聖人バレンタインの祭日ということだ。 ………どうした?」 『………………いえ何も』 二月は上旬から中旬の変わり目に、部活動が始まる前にに集められた青学テニス部員たちは 一体なにがあるのかと思っていた。の、だが。 青学テニス部マネージャーであるとデータマン乾貞治。 両理論コンビによってまずはじめにこの説明をされ、彼らは各々に空をみあげることになった。 「それで結局その祭日とテニスに何が関係あるっていうんですか」 海堂が手を挙げた。 「的を射た質問だな」 乾が言うが早いかが横手に丸めて持っていた模造紙をひろげ応じた。 「……すごいコンビネーションだな」 それを見て、この集まりに不安を感じていた副部長はそっと胃を押さえた。 「チョコレートの成分は」 ぼそりとつぶやかれた独り言は意に介さずに、 は、ぴし、と表の円グラフを指で示して説明する。 「脂質、糖質。 エネルギーを多く消費するスポーツマンにとって必要な栄養素が入っています。 しかしこれらは多く取りすぎると中性脂肪が多くなり 却って不健康な状態になりかねません」 そこにいた全員が青学レギュラー陣の今日の下駄箱の状況を目撃していた。 詳細はご想像におまかせしよう。 「短期間に過度の摂取は禁物です。そのことをふまえて 各メンバーのこれからの摂取と消費の配分を表にしておきましたので お渡ししたくみなさんをおよびしました」 一人一人に手渡されるプリントを見て、部長の眉間にいっそうしわが寄った。 「ちょっと待て。何故今日貰ったばかりのチョコの数までわかっている?」 「あらかじめとっておいた過去のデータ等から推算しました」 なお、返却率など性格による物の変動により多少の過不足はあるかもしれませんが、と言いつつも は微かに満足そうに頷く。 「こんなことまでお見通しってわけぇ? なんかプライベートの侵害ってカンジするんだけど〜」 「……オレのも当たってるんスけど」 「あぁ、越前をはじめとする一年は、事前に全校女子に採ったアンケートを元にしている」 「……そこまで、したんだ……」 データ収集には余念がないよ、と笑う乾の眼鏡が逆光に光った。 「それに加えて今日は私のほうからささやかな気持ちをみなさんにお贈りしたく存じます」 それを聞いて青学テニス部員はほのかな歓声をあげた。 ただし、ある人物のこの言葉を聞くまでの間だったが。 「ありがとう。 でも、これ……もしかしてなにか入ってたりしないよね?」 彼はにっこりと笑ったままの目でそのチョコレートをじっと見つめていた。 は無表情のまま言った。 「もちろんです」 「それはどっちの ”もちろん” なの?」 「俺、もう食っちゃったんですけど」 「あ、桃。どう、味はどんなかんじ?」 「……………う、うまいっす」 「味は保証します」 自信に満ちた声で応えつつ、は暗に原材料の事をぼかした。 「それではみなさん、頂いたチョコレートは大切にしてください。 今日お伝えしたかったことはこれだけです」 は模造紙を手早く片づけると小脇に抱えた。 「乾先輩、アシストしていただきありがとうございました」 「いや、こちらこそ」 乾は片手をあげて返した。 帰り際から貰った小さなチョコを包装紙から出してほおばる。 「うん、うまいな……。 ……次回の乾特製汁の参考になるかもしれない」 ■■■■■ 部室からは人が居なくなり、レギュラーでも海堂を残すのみとなった。 「海堂先輩」 「な、なんだ」 「何故、動揺を?」 「動揺なんかしてねえ!」 そうですか、とは置いていたカバンの中身を確かめる。 「おい」 「なんですか」 「あのチョコレートは全員分同じなのか」 「………いえ。各人に必要と思われる栄養素を補おうと味に変化をきたしにくい材料をいくつか」 「ああ、やっぱりそうなのか……。いや、そういうことじゃあねえ」 「海堂先輩の分ですが、もし体調が悪くなるようならば言ってください」 「………何を入れた」 「特別な感情が入ってしまっているかもしれません」 カバンを肩に掛け、は部室を出ようとした。 心持ち足早になっていたようだ。 「」 「………はい」 「チケットがある。今度、動物園に行くか?」 「はい」 二月は上旬。春はこれから。 *あとがき* 爬虫類館でおおよろこび。 48.3%はスイートチョコレート(外国産)のしょ糖の平均含有比率です。 ……まぁ、甘い物の含有比率ってことで。 2005.02.14 石蕗柚子・伊織 <<戻る |