わたあめ たこ焼き リンゴ飴 甘くて おいしい 去年の思い出 *夏の思い出*「……よう」 「……ウス」 花火大会会場入り口付近。桃城とはお互い顔をあわせて手を挙げる。 なんだそりゃ、と笑う桃城にはいや別に、と返す。 笑いも何となくしぼんで、間が空いた。 「あー…… とりあえず、行くか」 促して、屋台の方へ歩き出す。 が歩き出したのを見て桃城は顔を前へ向けた。 ―― 人数が違うだけでこうも勝手が違うモンかな 周りの店を覗きながら、桃城は考える。 去年の花火大会は結構大所帯で回った。 それこそ、仲間内から 「俺達ウルセー!」 と笑いが起こるほど騒がしい一行だった。 今年は人数は二人。最初は去年と同じ人数の予定だったが、いつの間にか二人だけになっていた。 ―― いや、相手がコイツだから、だな 横目でをのぞき見て、桃城は後ろ頭を掻く。 結局の所、彼女と二人きりだから。 周りにいくら人がいようと頭はそう考えてしまって。 軽く頭を振って、無理矢理意識を切り替えようとした。 ―― あーあ、やっぱりなんかぎこちないし は心の内で小さくため息をこぼす。 花火大会の話が出たとき、は去年と同じくや荒井達も一緒に行くと考えていた。 ところが、に待ち合わせの相談をしに行ったら、 「何言ってんの!」 と驚かれてしまった。 そして、あれよあれよという間に花火大会へは桃城と二人きり、と決まっていた。 今日などは家を出る時間にから 「頑張って♪」 とメールまで来た。 ―― 一体何をどう頑張れと いつのまにやらたこ焼き・焼きそば・わたあめなどを買い込んだ桃城を横目で見てみる。 絶妙のバランスで一つも落とさずそれらを食べている桃城がの視線に気付く。 差し出されたたこ焼きを一つもらい、は小さく笑ってさんきゅ、と言った。 「うーし、次は何食うかな」 「まだ食べんの」 「何言ってやがる、まだまだこれからだろーが」 「はいはい」 花火が上がるまでまだ時間があるので、店を冷やかしつつ道を歩く。 腹ごしらえを少し済ませた桃城は、少し落ち着いた気分でいた。 後ろを着いてきていたもいつの間にか隣に並び、一緒に店を覗いていく。 ―― なんだ、去年と同じじゃねーか そんな気分で。 「あれ?」 ふと気付いた去年との違いに思わず声が出て、顔を上げたに慌てて手を振る。 ―― そういや、去年って確かこいつ浴衣じゃなかったっけか 記憶にあるのはと二人でひらひらしたイメージのある姿。 だが、今のはTシャツにスラックスという姿だった。 ―― 祭りに浴衣って定番だよな。あれ? 何で今日は違うんだ? 別に普通の服装がダメだというわけではない。桃城だって今日はシャツとパーカーにジーパンだ。 ただ、去年と違う。今年が浴衣じゃない。 そのことが妙に引っかかってしまった。 「あのさ、」 名前を呼ばれて見上げれば、そこには少し困ったような桃城の顔。 思わず足を止めると、横合いから出てきた人にぶつかってしまった。 「うわっ。ご、ごめんなさい」 「おい、大丈夫か?」 「あ、スンマセ」 聞こえた声に目を丸くしてよく見れば、そこには見知った姿。 相手は気付いていないらしく、そのまま人混みに消えようとする。 「なんだ、越前も来てたのか」 「は? ……桃先輩、なんでここに?」 名前を呼ばれてやっとこちらに気づいた後輩に、 桃城は花火見に来たに決まってんだろーが、と頭を小突く。 リョーマはそんな桃城と隣のを見て、ふーん、と呟いた。 「人の話聞いてっか? 花火、見に来たんだからな」 「別に、なんも言ってないッスよ」 「いや、なんかお前勘違いしてそうだからよ」 「そういうことにしときますって」 「人の話聞けっちゅーの」 言いつつ周りを見渡しているリョーマに、はひょっとして、と閃く。 「リョーマくん、人探してるの?」 「んあ?」 「……まぁ、その」 歯切れ悪く答えるリョーマに、桃城も納得する。 「それなら、待ち合わせ場所か……はぐれたんならその場所行った方が良いぜ」 「そうそう。お互い探して歩いてたら、行き違いになるし」 「あ……そっか」 素直に頷き、それじゃ、と離れようとするリョーマに、 はちょいちょい、と手招きして耳打ちする。 話を聞いて驚いた顔のリョーマに、更に二言三言が言うと、 頷いてドーモ、と離れていった。 「……何言ったんだ?」 「え? あー、うん。ちょっとね」 「何だよ、教えらんねぇのか?」 一人仲間はずれの気分の桃城は少しふてくされてそっぽを向く。 は桃城のそんな姿に肩をすくめ、 リョーマの去った方向にゴメン、と一言置いてから桃城に向き直った。 「リョーマくんが持ってた物、気付いた?」 「は? ……あー、何か袋持ってたな」 「巾着だよ。多分、探してる相手のだろうね」 確かに言われてみればリョーマには違和感のある小物だった。 しかし、それがなんだろう? と桃城は頭をひねる。 はだから、と続けた。 「そーゆーの持ってきてるって事は相手は浴衣なんじゃないかなーって思ってさ」 「は」 「で、それなら歩幅とか気を付けてあげな、って言ったの。浴衣って結構足元キツいから」 少し苦笑交じりで話すの言葉に、桃城は目を瞬く。 去年の達は別にそんな素振りは一切見せなかったのに。 「そんなキツい、のか?」 「んー、まぁそこそこね」 「わりぃ、前かなり無理させてたんだな」 「へ? あ、去年? はは、だからゆっくりだったでしょ?」 自分たちのペースで歩いてたから、と笑うに桃城は軽く落ち込む。 言ってくれたら良かったのに、とも思うが、言われなくても気付けよ、と自分に思う。 「それで今年は浴衣じゃないのか?」 「あー、まぁね。人数いないのにトロトロ歩いてはぐれたらマズいし」 「それでも、あっちのが良かったな」 歩くのくらい、合わせるし。 思いの外まじめな声で言われて、の耳が熱くなる。 覚えとく、と小さく答えて、話を変えた。 「の、ノドかわいたな。どっかでジュース、売ってないかな?」 「ジュースか? あ、あそこかき氷売ってんぞ」 「え、ラッキー!」 私ブルーハワイね! と屋台に近づきながら嬉しそうに言うに 桃城はお前ホント良く食うよな、と少し呆れる。 「なに。あんだけ食べてた桃に言われたくないよ」 「いやー、かき氷っていえばおまえそればっかだよなーって」 「いいじゃん、好きなんだから。分けてあげないかんね」 「いや、その色に関しちゃノーサンキューだ」 軽く顔を青ざめさせて言う桃城にヘンなの、と返して は屋台のおじさんからかき氷のカップを受け取る。 その時、タイミング悪く人混みから押されたは、手を滑らせた。 「ぅわたっ、とっ」 「あっ!」 かしゃん、と軽い音がしてカップが下に落ちる。 の胸元には鮮やかな碧。 「……つめたー」 「あー! わりぃな嬢ちゃん」 「おじさん! 近くの水場どこ?」 「あ、そうだな。ウチの裏の使ってくれ」 くしゃっと顔をゆがませていたは、桃城に手を引かれ裏に回る。 そこで拭く物拭く物、と自分のポケットを慌ててまさぐる桃城の姿を見て、少しは落ち着く。 自分のあるから、とハンカチを水で濡らして色をふき取り始めた。 早めに対処したのが良かったのか、何度も叩いているうちに色もめだたなくなってきた。 店の方から先程の人が出てきて心配そうに声をかける。 「どうだい、色は落ちたかい?」 「あー、はい。大分マシになったみたいです」 「すまなかったね。これ、さっきの代わり」 「え、いいんスか?」 人好きのする笑みでカップを渡され、桃城はありがとうございます、と厚意に甘える。 に向き直り、そのままもう半回転する。 うーん、と唸った後、パーカーを脱いでの方へ放り投げた。 「え、桃?」 「そんなカッコじゃ風邪ひくだろ。着とけ」 そのまんまじゃ透けるぞ、とそっぽを向いて言う桃城の言葉に慌ててパーカーを着込む。 袖の余り具合にくすぐったくなり、思わず笑みがこぼれた。 「んじゃ、帰っか」 「え? なんで?」 「……お前、そんなカッコで歩き回るつもりかよ」 確かにパーカーを着込めば外見は大丈夫だが、中のシャツが濡れたままでは心許ない。 残念な気持ちはあるが、このままでも気持ち悪いのでも納得する。 「でも、花火どうしよう」 「遠くからでも少しぐらい見えんだろ。どうせならどっかで花火買ってそれやろうぜ」 持っていたカップを手渡しながら明るく言う桃城にそうしよっか、と返した。 「どっちみち早くちゃんと洗った方が良いしな。気に入ってんだろ、それ」 「……何で知ってんの」 「前言ったろーが、お前」 「そうだっけ?」 Tシャツ1枚のこと、言ったかどうかなどは覚えていない。 しかし、確かに気に入っている物だったので、きちんと色を落とせるならそうした方が良い。 歩きながら、自分以上に花火を楽しみにしていたはずの桃城を見上げる。 溶けるぞ、とカップを指さされて一口いる? と聞いたら ホントにダメそうな顔でいらない、といわれて笑った。 人波から外れ家へ向かいながら、は今年の思い出はかき氷になるかな、と考える。 まだしまっていないはずの浴衣はどこに置いといたっけ、と思い出しながら。 *あとがき* 夏祭り桃ちゃん編。祭りの似合う男だと思います。 お付き合い後第一段。なるべく甘くを目指したつもりなんですが。 内容は、幸せに……なってる、かな? 浴衣は余り着た事がないのですが(汗) 数少ない思い出の中ではいつも歩くのに苦労していた覚えが。 歩幅はいつもの半分くらいだし、下駄はバランス悪いし。 ヒラヒラは好きでしたけどね。 ゲストはいつもの彼。定着してきた模様。 少し「時間共有」ともリンクしてたり。 こういうちょっとした遊びが好きです(笑) 2004.07.23 伊織 <<戻る |