一歩まえへ。






 青学テニス部副部長、大石秀一郎のカノジョ、は。
 学級委員で副委員長であった。

「ふくぶちょー」

 は大石をさして言った。



「うん?」

「部員じゃないんだから、その呼び方はちょっと」

 大石がうーん、とうなるのでは返した。

「じゃ、委員長」

「うん」

 大石は現学級委員長であった。



 書記から渡されたプリントを黙々と読みすすめ、時々なにかを書く大石。
 それを見て、はぽつりともらす。

「なんでだろうなあ」

「え?」

「私のこと呼んでみて」

「……副委員長?」

「ほらやっぱり」

 そう言ってはむくれる。
 プリントの手をやすめて、大石は疑問の声をあげた。

「なにが不満なんだい?」

「わからいでか」

「いや、言ってくれないとわからないよ」





「もういい。やっぱりあなたは委員長だ」

「いや、元々だろ?」

 とまどってあたりまえのことのように言う。

「いいから貸して!」

 はむくれたまま、大石からプリントをひったくった。
 そして機械的に記入項目を埋めていく。

「おーい……?」

 なにやらが怒っているらしいということだけはわかった大石は、
 気持ちやさしめに声をかける。

「なにかあったか?」

 その言葉を聞いては、はぁっと怒りのため息をつく。



「別にね、いいんだけどさ。もう一度言わなくちゃならないのかなあ」

「なにを?」



「私たちつきあってるんじゃなかったっけ」



 は大石の目を見つめて言う。
 大石はそれを聞くと耳まで真っ赤にした。

「いや、うん、それは。でも今はこのプリントを」

「ずっと」

 は視線を外して、プリントに物をかきながら話した。

「名前で呼んでもらってない」

「そ、そうだっけ?」

「うん。そう」




 二・三日前、は大石に告白をした。
 大石がおなじ気持ちであったと言うことを聞いて、は天まで昇る気持ちだったのだ。

 しかし、それから。
 それまで特に気にせずに「」と呼んできていた大石が、
 急に「副委員長」と呼ぶようになったのだ。

 それがどうもは気に入らなかった。

「いーです。私はどうせ副委員長です。あなたは委員長です」

「だ、そ、そういう」

「ふくぶちょーめ」

「おーい?!」







「………

 大石が呼んだ。

「………………」

 プリントの手を止めて、が顔を上げた。

「………とんだ」



 真顔でよくわからないことを言う。大石は面食らった。

「へ?」

「名字から。したの名前になった」

「………あ」

 ああ?! と声をあげて、大石はどぎまぎし始めた。





「………そーか」

 うんうん、と頷いては一人合点している。
 大石はもうなにがなにやらわけがわからないといった調子で訊いた。

「な、なにが、そう、なんだ?」



「秀一郎」

 は目と目を合わせて呼んだ。






「好きだよ」




 ――― 今度は私からゆずらなくちゃね?







 ――― 順番に埋めていこう。私たちの距離。



 とりあえず、この項目から。ね?















*あとがき*

大石学級委員長仮定ドリーム。
大石は気がついたらそういったものになっていそうです。
めんどいですよね学級委員長。
委員長なのに損な役割ぽいと思います。なんとなく。

2004.03.18 石蕗柚子




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