キミはさながら風のよう


*疾風吹く日々*





「それでリョーマ様、ってどんな風に告白したんですか?」



「何、突然」
「……」
「やーもう、何度聞いてもが白状しないもんで、
視点を変えて今度はもう一人の当事者のリョーマ様に聞いてみようと思って」
「別に変わったことは言ってなかったと思うけど」
「そこの所をもうちょい詳しく聞きたいんですー」
「…………!!」

「らしいけど。大丈夫?」


 喉に物を詰まらせて苦しんでいたは、なんとか水で流し込む。
 背中をさすってくれていた桜乃に礼を言って、リョーマにうなずき、
 朋香を涙目で睨みつけた。



「朋ちゃん! いっきなり何を言い出すのよ!?」
「別にいきなりでもないでしょ。
が何度聞いても教えてくれないからリョーマ様に聞いただけじゃない」
「何でそうなるのよ。いつも言ってるでしょう、普通だって」



 天気がいいから屋上でお弁当にしよう! という朋香の提案に乗り。
 先に行ってて、という言葉に桜乃と2人で待っていたら、
 屋上に現れた朋香はリョーマを連れ立っていて。
 リョーマ様も一緒の方が楽しいでしょ、という言葉に
 一抹の不安を感じてはいたのだが。



「場所も同じだし、再現して見せてくれれば私も満足するんだけど」
「そもそもの目的はそれ…? ていうか何でそんなに執着するわけ?」
「物事って、隠されると余計気になる物なのよ」
「だから、なんにも隠してないんだってば」
「だって、真っ赤な如何にも何か隠してますって顔して言われてもさ〜」
「恥ずかしいからだって。いい加減信じてよ…」


 相変わらずの朋香の言葉には先ほどとは違う涙をながす。
 背中をさすってくれてる桜乃の手に、
 安らぎを求めてしまうに罪はないだろう……多分。


「ごちそーさま。んじゃオレ次移動だから」
「あ、リョーマ様、今日の放課後応援行きますね!」

 一人マイペースに昼食を食べ終えたリョーマは
 立ち上がりドアに向かいかけたが、
 続く朋香の言葉に足を止め振り向いた。


「…も?」
「あ、うん」
「…ふーん」
「…その、邪魔にならないよう、気を付けるから」
「あ、あの、私たちも付いていくし大丈夫だと思うよ」
「そうそう、だーいじょうぶですって!」


 微かに不満げに見えるリョーマに、
 練習の邪魔はしないから、とは小さくなる。
 逆に朋香は満面笑顔だ。

 じゃ、後で。と言い残し、リョーマは屋上をでていく。
 その背中を見送るの寂しげな表情に、
 桜乃は慌てた顔でに話しかける。


「リョーマ君、少し不安なんだと思うよ? ファンの人に絡まれたら大変だし」
「……やっぱり、そう、かな」
「リョーマ様ものことちゃんと考えてるって事よ! さすがリョーマ様!!」

 目を閉じて思いに耽ってしまった朋香には小さく苦笑する。


「少し寂しいな。なるべく近くにいたかったのに、駄目って言われて」
「ほ、ほら、それはちゃんを守るためだし」
「そーよ、。贅沢言っちゃ駄目じゃない」


「私、守られるために越前くんのそばに行きたかったわけじゃないよ」


 風に乗って消えそうな声に、朋香はの頭を抱きしめる。
 泣くんじゃないわよ、という朋香に、泣いてないよ、とは返す。
 その声が涙に濡れてないことにほっとしつつ、
 朋香はの髪をくしゃっとまぜた。

 朋ちゃん! というの抗議の声を遮って、朋香はの顔をのぞき込む。


は、『負けない』って決めたんでしょ?」
「…うん」
「じゃ、今日はいっぱいリョーマ様を応援しよう!」


 顔を上げ、二人の目を見るに朋香と桜乃は笑顔を返す。
 ありがとう、という言葉は風に消されることなく二人に届いた。



■■■■■



 放課後。
 心配していた嫌がらせなどもほとんどなくテニス部の練習は終了。
 (朋香が周りを凄い顔で威嚇したため、それを止めるための一波乱はあったが)

 女子の練習が終了した桜乃も合流して、3人で男子の後かたづけを待つ。
 無事に見学できたので、たちは少し興奮気味。
 久々に間近で見た練習だったので、当然といえば当然かもしれない。


「くうぅ、やっぱりリョーマ様カッコイイ〜!」
「今日も男テニの練習、キツそうだったね」
「桜乃ちゃんもお疲れさま。やっぱり、間近で見ると熱気が違うね」


「あ、ウワサの彼女はっけーん!」
「へー、なかなか…越前の奴、やっぱすみにおけねーな」
「菊丸先輩に桃城先輩! 練習お疲れさまです!」


 横合いからかけられた声に振り向けば、帰る途中らしい菊丸と桃城。
 よく見ると、他のレギュラーもその後ろに見える。

「ん、オレらの名前知ってんのかぁ」
「当たり前ですよ。ウワサの先輩方の名前くらい知ってますって」
「それに、エージはよく手塚や大石に名前呼ばれてるしね」
「不二、うるさーい」

「菊丸、騒ぎを起こすな」
「あ、手塚先輩、すみません!!」
「いや、キミが悪いわけじゃないのはわかってるから」
「なんだよ大石、俺が悪いってのかぁ?」

 ふてくされてしまった菊丸から離れ、桃城がに寄ってきた。

「なぁなぁ、聞いていいか?」
「はい? なんですか?」
「結局、どっちが告ったんだ?」
「え゛」
「あ、それはからなんですよ!」

 思わぬ所からの攻撃に固まるを横目に、朋香は嬉々として話し始める。


「へー、キミちゃんっていうんだ。よろしくね〜」
「え、あ、は、」
「エージ、名前知られてても挨拶はちゃんとしたほうがいいよ。
はじめまして、河村隆といいます」
「は、はじめまして。です」
「んじゃ次オレー。えっと、改めまして菊丸英二でっす!」

 固まったままのに菊丸が横合いからひょこんと顔を出し、
 そのまま挨拶大会が始まってしまう。

 その間にも桃城と朋香の話題は進んでいて。


「へー、そうなんか〜」
「えぇもう、ってばなかなか白状しないんですけど」
「なになに〜、オレもまぜて〜」
「わー! と、朋ちゃ〜ん!!」

 は顔を真っ赤にしながらなんとか止めようとするのだが、
 二人は全然話をやめる気がない。
 桜乃やレギュラー陣は苦笑したり我関せずと言った感じで止めようとはしてくれない。
 そこに菊丸も入って、ますます歯止めが利かなくなりそうな流れに、
 は頭を抱える。


「で、ここから先は是非とも本人の口から詳しく聞きたいと思ってるんですけど」
「ふーん、なーるほど〜」
「そりゃ気になるよな、気になるよ」

 3人に、にや〜っと見られ、
 思わず後ずさるの肩を、がしっとつかむ2人の腕。

「ぅえっ!?」
「逃げるのは良くないと思うけど?」
「俺も是非知りたいデータだしな」

 不二と乾に微笑まれ、は顔を引きつらせる。
 びくともしない腕に、どこか逃げ道はないか、と顔を巡らせる。
 と。



!」
「あ、え、越前くん」

 声に振り向けば、そこには帰り支度を整えたリョーマ。


「ほう、また記録更新か。なかなかキミの越前に対する影響は大きいな」
「残念、お迎えが来ちゃったか。それじゃちゃん、また明日」


 解放されたの腕をとり、リョーマはずんずんと歩き出す。
 あまりにいろいろなことが立て続けに起こり、は軽く混乱中。
 とにかく、と思い、挨拶をする。

「と、朋ちゃん桜乃ちゃん、また明日! みなさん、お疲れさまでした!」
「明日こそ覚悟してきなさいよ、ー!」
「越前も明日は楽しみにしてっからなー!」

 ぶんぶんと腕を振る朋香には力無い笑みを返す
 聞こえた内容にリョーマは思わず顔をしかめた。

「…何話してたの、
「え、あの、話してた訳じゃなくて聞かれてでも答える前に越前くん来てくれてそれで」
「わかった。もういい」
「…ご、ごめんなさい、その、騒がしく」
「あやまんなくていいよ。別に」
「…ごめんなさい」

 今から考えるだけでリョーマは気が重くなる。
 明日の部活ではさぞかし集中攻撃を受けるだろう。
 それに


「…何でいきなり名前呼びなんだよ」

「え、何?」
「なんでもない」


 だから、しばらく練習は見に来るなって言ったのに。
 声にならない言葉を胸の奥でつぶやく。

 そんなリョーマを小さくなりながら見ているは、
 どうしたら許してもらえるだろうと見当違いのことを悩んでいた。




*あとがき*

「君は優しい人だから」続編。
単品でも読めるようにはしたつもり、ですが。
この二人はほのぼの青春路線で行ってほしいと思っています。
というかそれでがんばれ私。
ちなみに、タイトルは「はやてふくひび」と読んでください。

何も隠してないのに勘ぐられると、
誤解を解くのって難しいですよね。
ムキになればなるほど怪しまれる。むぅ。


リョーマくんは書くのに時間かかります。
当社比2倍。下手すりゃそれ以上。
…愛の差? (笑)
書きたいのに言葉がでてこないのです。
しかもなんだか読み返すとリョーマ君の出番がす く  な   い?
ぐはっ(吐血)
リョーマくんの決めぜりふが聞こえてきそうです。
ホントがんばれ、自分。


2004.04.05 伊織




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