くじ引き 射的 金魚すくい 君と二人で楽しもう *時間共有*「おぅ、遅かったなリョーマ」 花火大会会場入り口付近。 待ち合わせ場所での横に当然のような顔でいた南次郎を見て、 リョーマは激しい脱力感を覚えて崩れ落ちた。 今日ここに来ることを話した覚えはない。 だが、バレている可能性も考慮して、家を出るときは細心の注意を払ったつもりだった。 ここへ来る途中も視線を感じて、何とかそれを振り切ってきたはずだったのに。 「あの……越前くん、大丈夫?」 具合悪いの? としゃがんでのぞき込んでくるに、へーき、と返して立ち上がる。 そのまま相変わらずにやにやとこちらを見る南次郎を睨み付けた。 「………… 一応聞くけど、なんでここに?」 「ふっ、甘いなリョーマ。この俺の108の特技を使えば、お前がどこで待ち合わせてるか位」 「もういい、帰れ」 「聞けよ最後まで」 軽く拗ね気味になるなった南次郎から視線を外し、中へ入ろうと立ち上がったに目を向ける。 南次郎はその背へ腕を伸ばし、リョーマの首元を軽く締めた。 「っ、何を」 「こんな人混みで待ち合わせるくらいなら迎えの一つもしろってんだ」 「は?」 「気のきかねーヤローだな。こんな可愛い子が一人でいたらあぶねーだろーが」 抑えた声で言われた内容に改めてを見る。 周りの喧噪でこちらの会話が聞こえていないは、小首を傾げてリョーマ達を見ていた。 浴衣を着て髪をあげているは、確かに一人で立たせておくには危機感を覚える姿だ。 渋々ながらも南次郎に同意し、軽く頷く。 「次からは、気を付ける」 「よし、素直は良いことだ。というわけで褒美をやろう」 軍資金だ、と手の内に何枚かの紙幣を渡し、南次郎が腕を放す。 それこそ素直すぎる態度にリョーマは訝しげに南次郎を見上げるが、 楽しんでこい、という言葉と柔らかな笑顔に一つ頷き、に声をかけて歩きだした。 ■■■■■ 「は、ここの花火毎年見てるの?」 「うん、特等席あるんだ。秘密の場所」 「へぇ、どこ?」 「ここからそんなに離れてないよ。案内するね」 だが、花火が上がるまでまだ時間がある。 リョーマとは何件か屋台を覗いた後で、金魚すくいに挑戦してみた。 「へたっぴ」 「……ううぅ」 始めてものの数秒でポイに穴をあけてしまったをよそに、 リョーマはひょいひょいと金魚を掬っていく。 「なんでそんなに上手にできるの?」 「タイミング、かな。あと手先の器用さ?」 「……どうせ不器用ですー」 ふくれて横を向いてしまったを横目で見る。 気配に気付いて振り向き目線で問うと、リョーマは口元をほころばせた。 「拗ねた顔もカワイイ」 「…………っ!!」 言葉が出ずに口をパクパクさせているを楽しそうに見ながら、 袋に入れた金魚を受け取って立ち上がり、少し移動する。 「あ、あれ、金魚すくい……」 「とっくに終わった。の家ってコレ飼える?」 リョーマの持つ袋の中で泳ぐ二匹の金魚をじーっと見て、少し考えてからうん、と返す。 それじゃこれ、と手渡された袋を、持っていた巾着とぶつけないように逆の手に持ちかえた。 目の高さに袋を持ってきて軽く微笑むに、リョーマがあぁ、と呟いた。 「何?」 「なんか見たことあるって思ったけど。それだ」 指さされて、ヒラヒラ、と形容されたのはの浴衣。 気恥ずかしさからうつむいて浴衣の裾をひっぱるの横で、 リョーマはつかえが取れてすっきりした顔をしていた。 「良かった。ウチじゃ多分飼えないから」 「そうなの? あれ、そういえばもっとたくさんとってなかった?」 「返した。あんなにいっぱいは飼えないだろ」 「うん、まぁ……でもなんで二匹?」 軽く首を傾げて問うに、一人じゃ淋しいだろ、と答えて歩き出す。 きょとん、とした後で慌てて追いかけるに、リョーマは振り返って止まる。 一拍置いた後で、ポケットから手を出した。 「人混みではぐれるとマズいから」 「あ、うん」 慌てて差し出してつないだ手から温もりが伝わる。 相手に聞こえないだろうかと心配になるほどの動機の中、 は必死にリョーマの後ろを着いて歩いていた。 (うわ、越前くん足早い!) 実際にはそんなに早くはないのだが、 浴衣を着ているは歩幅が追いつかず駆け足気味だった。 「?」 あっ、と思ったときにはもう手遅れで。 つないだ手が離れ、は前のめりに倒れかけた。 「ご、ごめんなさい」 とっさに謝って見上げれば、ぶつかった相手は見知らぬ相手。 急いで離れて周りを見渡しても、リョーマの姿はない。 「……はぐれちゃった」 ぽつっと呟き、肩を落とす。 そのまま道の真ん中にいては邪魔になるので、端に寄った。 丁度屋台の間にスペースがあり、そこに所在なさげにたつ。 (どうしようかな) 心細さもあったが、さっきまでつないでいた手を見て、うん、と一つ頷く。 (きっと探してくれてる) 顔を上げて、リョーマを見過ごさないように、と人混みに目を向けると、 背後から視線を感じては眉を寄せた。 先程まで何もいなかったはずの後ろをおそるおそる振り返ってみるが、 そこにはやはり暗闇のみ。 腑に落ちない物を感じながらも視線を戻そうとしたの足元に、柔らかい感触が走った。 「うひゃぁ!?」 「ほあら」 思わず声の出た口元をおさえて下を見れば、見覚えのある白い猫。 その丸い目は、じーっとの手元を見ていた。 「あれ、君たしか……って、これはダメだよ!?」 金魚の入った袋をかばうように持ち上げると、 逆に興味を引いてしまったのかしっぽがぱたぱたと揺れる。 まずい、と思いが一歩後ずさると 袋ではなく、その拍子に揺れた浴衣の袖に飛びついた。 思わぬ標的にはバランスを崩し、転ぶ! と覚悟して目を閉じる。 「っセーフ」 間一髪駆け寄ったリョーマに支えられ、は目を開ける。 からだをすっぽり抱きかかえられた形になっていたは、 慌ててバランス取り戻してリョーマから離れる。 「あ、ありがとう」 「いや……あれ、カルピン?」 足元の愛猫を見てリョーマは首を傾げる。 だが、家から着いてきていた視線を思い出して、顔をしかめた。 そのまま未だにの方に興味を示すカルピンを抱き上げる。 「ついて来ちゃったのか」 「あ、やっぱり越前くんの家の猫、だよね」 「ん」 これからどうしようか、と抱きかかえたまま考えていると、 いきなりカルピンが暴れ出し、リョーマは驚いて手を放した。 慌てて追いかけようとした先に見つけた物は、木の陰から覗く揺れるねこじゃらし。 リョーマは、の手を取ると人波の中へ進んだ。 「え、越前くん、つれて帰ってあげないと」 「いや……大丈夫、ちゃんと、帰るから」 少し悩んでいる雰囲気のリョーマに首を傾げつつ、 慌てていたはそうなの? と落ち着く。 「自分で帰れるなんて、偉いね」 「いや、うん、まぁ……あ、これ」 見なかったことにしよう、と自分の中で結論づけたリョーマは、 手に持っていた巾着をに差し出した。 「あ、私の!」 「さっきオレが持ったまんまだったから」 「あ、ありがとう」 そういえばはぐれてから巾着を持っていなかった。 今更ながらに気付いては恥ずかしさで顔が赤くなる。 リョーマはそれに気付かぬ振りをして、そのまま進んだ。 「そろそろ時間も良いんじゃないかな」 「あ、そうだね。ここからだともう少し奥の方だよ」 「りょーかい」 今度は離れないようしっかりと手をつなぎ、二人は目的の方へ向かった。 先程よりも、ゆっくりと。 ■■■■■ 「ここ?」 「うん。結構綺麗に見えるんだよ」 案内されて着いた場所は橋の下。 確か花火が上がるのはこの上流の河原のハズ。 「川の近くだと障害物あんまりないからね。案外近く見えるよ」 「なるほどね」 「橋の上だと人通りがあるけど、ここなら邪魔にならないし」 確かに橋は通行量が多いらしく、上の方からは人の声などが聞こえてくる。 だが、河原に降りてきているのは周りを見渡してもほんのわずかだった。 花火が上がるまでのまだわずかに時間がある。 上がる方向を確認した後、の方を振り向いたリョーマは、 が軽く足元に手をやっていたのを見て、の足の状態に気付く。 今まで夜目で気付かなかったが、そこには数カ所の傷があった。 「、それ」 「……あ、その、大丈夫だから!」 慣れない履き物で歩いていたので、の足の指は赤くなり始めている。 その上草の生い茂る堤防を降りたため、膝下や足の甲に数カ所擦れた跡があった。 「あはは、いつもここに来る時はズボンに靴だから……」 「切り傷甘く見ない方が良いよ。急いで手当……」 「あ、傷テープとか少しならあるから。酷くなる前にちゃんとするよ」 巾着を軽く持ち上げて言うに、リョーマは眉を寄せる。 「なんでそこまですんの。花火ならここでなくても見えるだろ」 「うん、そうだけどね。でも、ここで見たかった。越前くんと二人で」 ひゅっ、と音が聞こえてから、辺りが明るく照らし出される。 リョーマの背後に花火が見えたはずのは、視線を外すことなくリョーマに話しかける。 「花火、一緒に見よう?」 周りの歓声も花火の音も全て消えて聞こえた声にリョーマは頷き 夜空に咲いた大輪の花を、二人は手をつないだままずっと見ていた。 *あとがき* 夏祭り、リョーマくん。 リョーマくんとお祭りに行きたいです。私が。 人混みは苦手です。必ず酔う。しかもはぐれるのが得意技です(笑) それでもお祭りの雰囲気は好きです。そこにいるだけでワクワクしてきます。 後は体力と先立つものがあれば大好きになれるんですが。 ゲスト様はもう定着してきました。 そこの会話だけぽんぽん浮かびます。話の内容関係なしに浮かぶのが困りものですが。 書きやすいのでかなり頻繁に出てくるのではないかと。…頑張れ、リョーマくん(笑) 2004.07.08 伊織 <<戻る |