そりゃね、 「夏休み使って日本縦断☆一人旅」 なんてやってるんだから どっちかっていうと、試練があれば逃げるよりは立ち向かっていく方だと思ってますよ。 でもね。 ……こういう試練はどうかと思うわけで。 *Green Labyrinth*「えーっと……」 右を向いても左を向いても木・木・木。 それ以外はなんもなし。あ、時々動物の気配はするか。 夜中にフクロウの鳴き声って不気味で、いつまでたっても慣れないなー。あははー。 「迷ったぞコンチクショー!!」 思わず現実逃避しちゃったヨ。 暗闇の中地図とコンパスを見ても、現在位置は全然わからない。 次の街まで明るい内につけないとわかった時に、近道を選んだのが駄目だったか。 明るい内どころか、どっぷり暗くなっても人っ子一人見かけないよ。ははん。 一人旅を見守ってくれるカミサマってのはいないのかー? まぁ一応寝袋とか一式は持ち歩いてるから、重大な問題はないけど。 とりあえず少しでも野宿に向いてる場所を探すために、MTBを押しながら歩く。 ……すると、木の陰から少し遠くに明かりが見えた。 やったね、やっぱり信じてたよカミサマ! たどり着いたそこは、最初に見たとき考えていたのよりもずっとでかい建物だった。 えーっと、これは民宿とかだろうか。看板とかは見あたらないんだが。 個人所有の別荘とか言ったらちょっぴし怒るぞ。 まぁとりあえず屋根があるところは見つかった。 あとはどうやって泊めてもらうかだ。 これが宿だとしたら、こんなに大きな所だし、宿代高そうだなぁ。 お金はあんまり持ってない自分は、 泊めてもらうときは大概皿洗いとかの肉体労働してまけてもらってるんだけど。 ここ、そういうのOKかな。 「あのー、すいませ」 「アンタ誰」 声をかけつつドアを開けようとしたところで、後ろから声がかかった。 驚いて、でもそれを外に出さないようにしながら後ろを振り向く。 そこには少し小柄な男の子。たぶんさっきの声はこの子だろう。 泊まり客かな。家族連れで旅行中とか。 またはここの従業員……にしては若すぎるだろうから、住み込みで働いてる人の息子さんとかかな。 なんかちょっと半眼で睨んでるようにも見える。 まぁこんな真夜中に来る人なんてそういないだろうから、不審に思われてるんだろうな。 こんな時は人当たりの良い、少しだけ困ったような笑顔で話しかける! うまく話を持っていけば、宿泊費の節約なんかも出来たりする。 セコいとかズルいとか言うな。これも処世術だ。 「あの、といいます。夜遅くにすいません。実は道に迷っちゃいまして。 できれば今日一晩泊めてもらいたいんですが、チェックイン受け付けてもらえますか?」 「check-in? ……ここ、lodging じゃないよ」 lodging = 宿、ではない。 ナヌ。ではここはお金持ちの別荘ですか。てことはキミはおぼっちゃま!? さっきの英語の発音も良かったしね。英才教育って凄いなぁ。 しかしそうすると、中に入れてもらうにはこの子のお父さんとか呼んでもらって頼む方がいいのかな? 「ここは部活の training camp。空き部屋はなかったと思ったけど」 少し横向いて考え込んでたら、少年が近づいてきて教えてくれた。 training camp ……えーっと、合宿所、だっけか。……合宿所ってこんなでっかいもんなのか? あ、いろんな部活合同で使ってるとか。 ま、細かいことはどうでもイイや。問題は空き部屋はない、というところ。 ……合宿所なら、大きな食堂とか練習場とかないかな。 「センセーとか他のみんなはもう寝ちゃってるから、勝手に入るのはダメだと思うけど」 ……小さな望みをうち砕いてくれてありがとう、少年。 そーだねー。草木も眠る丑三つ時ってな真夜中だもんねー。眠ってるよねー。 キミが起きてることの方が不思議なくらいだし。 よくよく見たらなんか持ってる。テニスのラケット? 練習でもしてたのかな。 ううぅ、仕方ない。軒先借りて寝袋か〜? そのっくらいならたぶん文句も言われないだろ。 でも布団で寝れると少しでも思った後だから、気持ち的にものすごく辛いなー。 「何やってんの、早くこっち来たら?」 肩を落としてどこが一番雨風しのげるか探してたら、少年がまた声をかけてきた。 呼んでいるのは裏に回る方への道。 「えっと、ここの軒先借りようかなと思って……」 「そんなんしなくても中入れてやるって言ってんの。ほら早く」 「え、だってさっき勝手に入るのダメって……」 「関係者のオレが入れるって言ってんだから勝手にじゃないだろ」 いや、それはどうかなー? そう思ったけど、せっかく入れてくれるって言ってるから厚意に甘えることにする。 「ありがとう、助かる」 「別に、毛布くらいならあるし。女が一人で野宿って良くないと思っただけ」 …………え゛ 自慢じゃないが、体格・顔共にどっちかっていうと男っぽい私は、 昼間の日差しの中でも男に間違われることは日常茶飯事だ。 それをこの暗闇の中、女だと見破った!? いや、暗闇の中だからどっちかというと聞き破ったと言うべきか。 でも声も低音男声なんだけど。 ……慣れてるとはいえ、自分で言っててちょっと哀しくなってきた。 「ぼーっとしてないで。オレももう眠いし」 「あ、ちょっと待って。これ、そこの自転車置き場に置いてくるから」 相棒で足でもある大事なMTBを指し示す。置きっぱにしといて雨ざらしになったら大変だ。 少し離れたところにある自転車置き場の方を見て、少年はあくびを一つついた。 「んじゃ先行ってる。この先にある裏口から入ってすぐの階段上って3階すぐの部屋だから。 あ、裏口は入ったら鍵掛けて」 「え? う、裏口入って鍵掛けて階段……」 「……ドアの横に nameplate かかってるから。オレの名前。越前リョーマ」 名札。それなら間違えないだろう。 その言葉を聞いて、自分がちゃんと名乗ってないと気付いた。 「わかった。私は。一晩よろしく、リョーマ」 「ん」 歩きながら手を挙げてさっさと行く後ろ姿をちょっと見た後で、 MTBをちゃんとしまい、荷物を手早く降ろしてリョーマの後を追った。 裏口の方に回ったら、その向こうに大っきなグラウンドが見えた。凄い施設だな、ホントに。 建物の中に入って、しーんとしてる廊下を歩く。 入ったところで待っててくれないかな〜とちょこっと期待してたんだけど、それはあっさり裏切られた。 リョーマが入れてくれたとはいえ、やっぱり不審人物に変わりはないし、他の人に見つかったらヤバい。 かといって戻って外で寝るのはやっぱヤだ。 というわけで、こそこそと階段を上っていく。入れてもらった身だけど、不法侵入っぽくてちょっと後ろめたい。 3階すぐの部屋。ドアの横にある名前を確認する。 うん、越前リョーマ。間違いない、ここだ。 ちょっと深呼吸してドアをノックする。 ……反応なし。 名札をもう一度確認してから、声を掛けつつそっとドアを開けてみる。 突き当たりの所の壁に、さっきの少年……リョーマが毛布にくるまって寝てるのが見えた。 部屋は間違ってないのがわかって、静かに入ってドアを閉める。 さっき眠いって言ってたし、先に寝ちゃったんだろう。 でもなんで布団とかで寝てないんだろう。もしかして譲ってくれてるとか。 そう思ってリョーマの所まで行ったら、入り口からは見えない位置にあったベットが見えた。 ……月明かりの下、その手前や上にごっちゃりと置かれた荷物も一緒に。 これはベットで寝ることは出来ないだろう。 というか、ここで合宿してるんじゃないのか。毎晩ここで寝るんだろう? 何故にここまでぐちゃぐちゃにしてるんだろう。 男の子ってのはこんなモンなのか? リョーマの横にもう一枚毛布があった。これで眠れってことか。でもなー。 3秒考えて、ベットの上の片づけを始める。 やっぱりベットがあるからにはこっちで眠りたいよね〜。 こう見えて片づけは得意だし。てきぱきっとね。んでもって静かに静かに。 いや、もしベットがあいたら部屋の使用者であるリョーマを起こして移ってもらうべきなのかもしれないけど。 ……でも、もしも声掛けても起きなかったら、使わせてもらってもいいかな〜とか考えたり。 ふかふかベットで眠るのは魅力的なのだよ。うん。 そうこうしている内に片づけが終わって、一息。 一応やっぱり声を掛けるかと後ろを振り向いたら、真後ろにぬぼーっとリョーマが立っていてびびった。 「うわっ! ……あ、リョーマ起こしちゃった?」 「、だっけ? ……ここ片づけてくれたんだ、thanks」 「いえいえ〜、泊めてもらうお礼です〜」 はっはっは、ふかふかベッドで眠ろう作戦失敗〜。 倒れるようにベットに潜り込んだリョーマにちゃんと布団を掛けて、ため息一つ。 足下にさっきまでリョーマが使っていた毛布が落ちている。 それを拾おうとベットに腰掛けたまま手を伸ばしたら、上半身がぴん、と引かれた。 ん? と後ろを振り向くと、リョーマが上着をつかんでこっちをぼーっと見てる。 「どこいくの」 「…さっきリョーマがいたとこ。毛布借りるね」 「なんで。ここで寝ればいいじゃん」 「ここでって……」 キミが寝てるここでですか、少年。それはさすがにどうでしょう。 やっぱりこう、オトシゴロの男女が一緒の布団にってのはちょっと。 なんて内心葛藤していたら、リョーマはそのまま眠ってしまった。 私の上着をつかんだまま。困った。ホント困った。どうしましょう。 「う〜〜〜〜〜ん…………………………ま、いいか」 ふかふかベットの誘惑には勝てません。もぞもぞっと暖かい布団に潜り込む。 一応、リョーマとは逆方向を向いて。やっぱり向かい合って寝る勇気はちょっとありません。 背中の方を捕まれてたし、そこら辺は好都合だネ。 布団はちょこっと汗のにおいと、緑の香りがした。 さっきまでいた森の中よりも伸び伸びとした、青葉のような……。 そんなことを色々考えながら横になったベットはとても寝心地が良くて、 疲れた体はさくっと眠りに落ちてくれた。 起きたらすぐに責任者の人に挨拶しに行こうと思ってたのに、 次の朝起きたら、リョーマに抱き枕よろしく抱きしめられた。 それを抜け出せない内にリョーマを起こしに来たらしい男の子達に見つかって、 しかもその子達が大騒ぎしちゃって。 恰幅の良いおばさん (顧問の先生らしい) に事情を説明したら、泊まったことは許してもらえたんだけど、 性別がわかった後でリョーマ共々ものすごく怒られちゃいました。 一人旅のカミサマ、ひょっとしてベットの誘惑は試練だったんでしょうか? *あとがき* 突発リョーマくん。元ネタは夢です。寝てるときに見るやつ。 自分の脳に永久保存機能を付けたくなりました。 とりあえず記憶力に自信はないので、文字にして残してみました。 2004.11.02 伊織 <<戻る |