*Very Merry Happy*




 本日12月24日。
 リョーマと二人で約束をしていただったが、
 どこから聞きつけたのか待ち合わせ場所に南次郎が現れ、
 半ば強引に越前家のパーティに招待された。

 しかも着いた先で、まだ料理の準備が終わってないと聞き、
 はそちらの手伝いに行ってしまった。
 リョーマは、こちらも終わっていなかった部屋の飾り付けにかり出されている。


 よって、リョーマの機嫌は現在、すこぶる悪い。




「いやぁ〜、実際助かったぜ。飾り付けオレ一人でやらされるとこだったからなぁ」
「……このクソ親父」
「ん〜? なんだ青少年。今宵は聖なる夜だぜ? 仏頂面はいけねーなぁ」
「誰の所為だと……」
「まーまー、ほれ、あれ見てみ?」


 作業の手を止めてしまっている南次郎に溜息を付き、指差す方向を見る。
 そちらには、料理の準備に奔走するの姿。
 ―― 服が汚れないようにエプロン付き。


「白のエプロン姿が似合うオンナノコってのは、それだけで貴重だよなぁ」
「…………」
「いでぇっ!!」


 ぐき、と首を無理やり横に向けられ、南次郎は痛さに思わずしゃがみ込む。
 なにしやがる、と顔を上げれば、そこには冷たい表情で見下ろすリョーマ。


「見んな、変態クソ親父」
「お、おい。あのな?」
「オレのだ。減る」


 お前だけの物じゃあるまいし、ましてや減るモンじゃないだろう、という言葉を封じられ、
 南次郎の動きがピタリと止まる。
 だが、次にニヤリと笑うと、立ち上がってリョーマの頭をぽんぽんと軽く叩いた。
 リョーマはそんな南次郎を見て一転イヤそうな顔になり、飾り付け作業に戻る。


「そーかそーか。はっはっは」
「……飾り付け、早く終わらせるよ」
ちゃーん! 今リョーマがねー!!」
「いいから喋ってないでさっさと働けクソ親父っっっ!!」




 楽しそうな大声で伝えられようとした言葉は
 リョーマの手にした飾り付けの星が南次郎に見事にクリーンヒットした事により、闇に葬り去られた。

 なお、そんな騒ぎの一部始終も台所にはあまり伝わっておらず、
 残りの飾り付け作業はリョーマ一人の手で静かに行われることとなった。




 ■■■■■




「Merry Christmas!!」


 パーン! と大きな音と共に金銀の紙が舞い飛び、は瞳をぱちくりとさせた。
 クラッカーを鳴らした張本人である南次郎は、手にしたクラッカーをぽいっ、と放り投げると、
 用意されている料理の攻略へと取り掛かっていた。


さん、お疲れさまでした。あとはゆっくりなさってくださいね?」
「あ、ありがとうございます」


 菜々子に笑顔でシャンメリーの入ったグラスを渡され、
 は軽く笑顔を返す。


「おーぅちゃん、ちゃんと食ってるかい?」


 既にシャンパンを何杯か飲んでいるらしい南次郎の顔はかなり赤い。
 ニコニコ笑っている様子はかなりハイテンションな様だ。
 とんがり帽子を被って手にした山のように盛った料理を渡そうとする南次郎に、
 は困ったように笑って、手にしたグラスを見せた。
 そんなに楽しそうに笑いかけると、その隣のリョーマに目を留める。


「なんだなんだ、リョーマ。パーティだってのに辛気くせー顔しやがって」
「……うるさい、バカ親父」
「こういう明るいイベントの時くらい、笑顔の一つも見せてみろっての」
「…………」


 いつも以上にとりつく島もないリョーマに、南次郎は肩をすくめる。
 そのままくるっ、と振り向くと、に、にかっと笑いかけた。


「さーて、本場英語の発音講座、いってみようか。Happy Merry Christmas! さん、はい!」
「え、あ、は、Happy……?」
「そんなん付き合わなくていーから」


 グラスを持たない方の手をぐいっとひっぱられ、の動きが止まる。
 南次郎はピュ〜♪ と口笛を吹き、ニヤニヤ笑いをリョーマに向けた。


「なになに、リョーマくんはご機嫌ナナメでちゅか〜?」
「今度はグラスぶつけてやろうか?」
「……まぁ冗談は抜きにしてだ。少しは楽しめよ、せっかくのパーティなんだから」


 酔った顔を少し青ざめさせ、ほれ、とリョーマとのグラスに飲み物をつぎ足すと、
 南次郎はそそくさと料理の方へと戻っていった。
 その背を見送り、がちらり、と横をのぞき見れば、未だ少し不機嫌そうな表情のリョーマ。
 グラスを持つ指を何度か組み替えて、はおずおずと口を開いた。


「あの、ゴメンね? 勝手にお手伝いするとか決めちゃって」
「いーよ。母さん達、あのまんまだったら今日中に間に合わなかったっぽいから、助かったんじゃないかな」
「……その、今日の予定ダメになっちゃったし」
「親父の責任。は悪くないよ」
「…………えっと……」
「別に怒ってるワケじゃないから」


 ふう、と溜息を付くリョーマにの体がびくっ、と強ばるが、
 リョーマの口元に浮かんだ小さな笑みに、少し肩の力を抜く。


「しょーもない事だけどね。誕生日前夜のヤツと一緒くたに祝われてちょっと楽しくないだけ」
「……あ」
「もう慣れたけど」


 それでもふてくされた表情で料理を口にするリョーマに、
 は少し困ったように考え、言葉を探す。


「料理、ね」
「え?」
「その料理、今日はリョーマくんのお祝いだから、どうしても私もお手伝いしたかったの」
「…………」
「今日は確かにクリスマスイブかもしれないけど、私にとってはリョーマくんの誕生日って事の方が大事だから」
「……サンキュ」


 キン、とグラスをあわせて、リョーマはそのままグラスに口を付ける。
 も一口飲んだところで、あ、と気が付いた。


「そうだ、リョーマくん」
「ん?」
「Happy birthday」


 ふんわりとした笑顔で言われ、リョーマは瞳をぱちぱちと瞬く。
 単純な祝いの言葉なのに、改めて言われて礼も言えずに返事に詰まり、視線を彷徨わせる。
 そこで、ふと目に付いた物に口の端をあげた。


「あぁ、今日が誕生日で、一つだけ良いことあった」
「え? 何?」
「プレゼント、貰いやすいよね」




 ああそうかも、とが小さく笑ったところで、唇に柔らかい感触を感じた。




「っ☆×△%&□$◇※!?」
「kissing under the mistletoe ―― クリスマスは特別、だよね」


 ばっ、と上を見てみれば、確かにそこにはクリスマスツリーに宿り木の飾り。


「だ、だからって!!」
「Merry Christmas 。お望みならクリスマスプレゼント、もっと贈るけど?」
「いいいいいい、いらない!!」


 ぶんぶんと首を振るを横目で見ながら、リョーマは楽しそうにグラスを空けていた。







 Happy birthday Ryoma & Merry Christmas.
 Wish well to a everyone today!





*あとがき*


・kissing under the mistletoe:
1.クリスマスにヤドリ木の下にいる女性にはキスをしても良い。
2.クリスマスにヤドリギの下でキスすると将来幸せになれる。
2はともかく、1は 「そんな無茶な!」 と言いたくもなるんですが。

なんかもういっぱいいっぱいな感がひしひしと。
好きすぎてリョーマくんうまく書けないんです。
愛情だけはめいっぱい込めて。リョーマくん、ハッピーバースディ!!


2004.12.24 伊織




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