*思い出プレゼント*




 朝、起きて登校の準備。
 家族に挨拶をして朝食を摂る。
 母に今日の帰宅時間を聞かれ、少し考えてから部活の終了時刻を告げた。

 部活を引退した今も、テニス部に顔を出す者は多い。
 高等部への進学が決まっているから。
 今までの練習に身体が慣れているから。
 後輩への指導があるから。
 いろんな理由を付けてはいるが、
 結局の所、テニスが好きだからという理由にたどり着くと思う。

 朝練の無い今も、慣れた身体は当時と同じ時刻に目が覚める。
 規則正しい生活と考えれば、これで悪いことはないと思う。
 家族も同じような生活リズムで、朝食を皆で摂ることが出来るのだからこれで良いだろう。

 時間を見計らって家を出る。
 途中で大石と会い、お互い未だに少し早い登校時間に苦笑する。
 歩きながら、大石がそうだ、と軽く笑った。

「手塚、今日誕生日だったよな。おめでとう」
「……ありがとう」

 言われてそういえば、と気付いた。
 忘れていたというのが顔に出ていたんだろう、大石に 「手塚らしいな」 と笑われた。

 誕生日と言えばいろいろな思い出があるが、中でも強烈なのは幼なじみのだ。
 彼女は 「どのように祝いの言葉を伝えるか」 に力を入れてる節があり、色々な意味で気が抜けない。
 昨年などは朝の出会い頭に、いきなり背中を思い切り叩かれながら言われて、
 バランスを崩してもう少しで転びそうになった記憶がある。
 ちなみに一昨年は紙吹雪を目の前でばらまかれた。
 その前は……と考えに耽っていると、気付いた大石が苦笑した。

さん、今年は何やってくるのかな……」
「あぁ……」

 大石も昨年のことは印象に残っているのだろう。
 彼女に言わせるとあれは 「幼なじみとしてのコミュニケーション」 らしい。
 出来れば普通に伝えてほしい、とも思うのだが。


 朝練中に部の仲間達にも口々に祝われた。
 慕われているのだと思うとやはり嬉しい。
 その後教室の机に山積みにされたプレゼントの山を見たときは、少し困ってしまったが。

 休み時間ごとに来る人の群に対応するのは少し疲れる。
 はっきり言ってしまうと、こういうことにはいつまでたっても慣れない。
 祝いの言葉と一緒に渡されるプレゼントを、感謝の言葉を伝えると共になるべく断る。
 しかし断り切れない物が増えていくことに我知らずため息が出た。
 授業が終わり、部活に出るときには内心ほっとしてしまった。


 家に帰ってからは家族に祝われ、部屋に戻って一息つく。
 時計を見ると後数十分で日付が変わるところで、唐突に今日一日に会ってないと気付いた。


 ……特に変なわけではない。
 青学は広い。
 行き違いもあるだろうし、お互い違う部活に入っているのだから、会わないことも珍しくない。
 ただ、毎年の恒例行事がなかった。そう、ただそれだけ……。

 その時携帯の音が鳴って、相手も確かめずに出た。

「もしもし」
『あっ、手塚? だけど、今大丈夫?』
「……ああ」

 間が空いたことは自覚している。
 考えている相手から電話が来たのだから、動揺したらしい。

『遅くにゴメン。忙しいなら……』
「いや、大丈夫だ。それより、どうかしたのか」
『あぁうん。えっと、ちょっと待ってね』

 電話の向こうでがさがさとなにかしている音がしたと思ったら、
 パーン! といきなり破裂音が響いた。
『手塚、Happy Birthday!!』

 どうやら、クラッカーでも鳴らしたらしい。
 電話に向かってではなかったようで、幸い大きすぎる音ではなかったが、
 続いて電話口から聞こえてきた足音やの家族の非難の声に思わず苦笑がこぼれた。

『ゴメンゴメン、母さんに怒られちゃった。なるべくうるさくないの選んだんだけどなぁ〜』
「断ってなかったのか」
『うん、驚かせちゃったみたい。あ、そっちにちゃんと聞こえた?』
「あぁ、聞こえた」

 全部、と付け足すとのくぐもったうめき声が聞こえた。
 どうやら枕に突っ伏してでもいるらしい。
 声に出さずに笑っていると、しばらくして立ち直ったがそれに気付いたらしい。

『手塚、笑ってるでしょ』
「いや……」
『ま、いいけどさ。何とか今日中に言えて良かったよ。学校では言えなかったからさ』
「珍しくもないだろう、会わないのは」
『いや、会いには行ったんだけどね……』
「何?」

 なんでもない、と言葉を濁されて首を傾げる。
 はそのまま話を続けた。

『ホントはちゃんと会って言いたかったけど、帰ったら結構遅くなってたからさ』
「こちらとしてはありがたいな。また叩かれては敵わない」
『……昨年のこと〜? まだ根にもってんのか〜』

 根に持っているのとは違うが、印象強く残っている事を伝えると、
 改めての軽い謝罪の言葉が来た。
 あれらは確かにコミュニケーションの一環なのだろう。
 証拠に思い返してみれば、苦笑と共に楽しいという感情が浮かぶ。


『あ、そうだ。今度の休み、暇?』
「休み? 特に用事は入れてないが」
『それならさ、手塚の好きそうな映画の割引あるんだけど、行かない? プレゼント代わりって事で』

 承諾の返事をして、当日の行動を少し話す。
 祝いの礼を言い、がそれじゃおやすみ、と電話を切った所でふと時計を見たら日付が変わっていた。
 なんだか胸の支えが取れたような感覚がする。
 無意識のまま口元に笑みを浮かべ、眠りについた。



 電話越しのクラッカーと祝福の言葉
 それが今年の思い出でプレゼント





*あとがき*

手塚部長、誕生日おめでとうございます!
部長の一人称は難しかったです。ほとんど偽物……(汗)
ちなみにヒロインさんの「印象に残るようなお祝いの伝え方」はわざとです。
プレゼントを山ほどもらってるだろう部長の記憶に残るには色々大変じゃないかな、と。
手塚部長は最初から最後まで無自覚です。そんなところが大好きです(笑)


2004.10.07 伊織




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