女は3人寄るとかしましいらしい。 それじゃ、男が9人集まったら? *きっかけは些細なこと*的見解。 A.男も充分やかましい 「おーいー! 食いモン足りねーぞー!!」 「うっさいわバカ猫! 少しは遠慮して飲み食いしなさい!!」 「やっぱりさんは料理上手だね。頼んで正解だったよ」 「お褒めアリガト大石君。悪いけどそっちの空いたお皿ちょうだい」 「あ、さんこっちも空いたみたいだよ」 「サンキュ河村くん。おにぎりそろそろ次の持ってきた方が良さそうね」 「相変わらずの料理は味・栄養共に優れているな。数も申し分ない」 「乾に事前にもらったデータも重宝してるよ。正直数は多めに作ったつもりだったんだけど」 「まりれうまいっひゅよこれ、ほんひょ」 「桃、とりあえず口ん中の物飲み下して手を止めてから話して。じゃないと食べ物無くなっちゃうから聞く暇もない」 「ちゃんもそろそろゆっくり食べたら?」 「不二がも少し食べるペース落としてくれればそうできるんだけどね!」 「あの、先輩。やっぱり俺も運ぶの手伝います」 「ありがと、海堂くん。正直助かる……あ、そっちの皿も空いた?」 「ハイ、先輩。コレうまかったからおかわりしたいんスけど」 「えーっと、この皿は確かミニハンバーグか。まだあったかな……ちょっと待っててね、越前」 「、運ぶのは後はオレ達に任せて、お前も少し食べろ」 話ながらも料理を運んでいた私だったけど、 手塚に新しく料理の乗った皿を渡されながら言われて、周りを見渡す。 どうやらピークは過ぎたようで、確かにそろそろ私も座って食べても良さそうだ。 さすがにおなかも空いてきたから、手塚に一つ頷くと、 お言葉に甘えてその皿をテーブルにおき、そのまま食事を始めた。 今日は男子テニス部のレギュラーが集まってのテスト勉強会。 私は陸上部なんだけど、まぁいろいろあってお呼ばれした。 その際料理係を任されたんだけど……いやホント参った。 先に作っておいたから料理は運ぶだけだったってのに、 運ぶだけで時間とられて自分が食べる暇がほとんどないとは……。 菊丸・桃なんかは言うに及ばずとにかく食べる。 両手に物を持って食べるのはお皿やコップが汚れるからはっきり言ってやめてほしい。 言っても無駄だったから途中からあきらめたけど。 不二・乾・越前はけっこう黙々と、しかし着実に食べている。 特に不二は、ゆっくり食べているようでいてけっこうスピードが速い。 きっちり見ていたわけじゃないけど、お皿の交換頻度から考えれば自ずと答えはでる。 大石くん・河村くん・海堂くん・手塚は運ぶのを手伝っていてくれたこともあって 私と同じく、丁度今からゆっくり食べられるようだ。みんなご苦労様。 ただ他の人がスピードが落ちてきたとはいえ食べ終えたわけじゃないから、まだ気は抜けないんだけどね。 陸上部の合宿なんかで料理は作ってたりするから、量を作るのはそんなに苦じゃない。 だけど、合宿の時は男子と女子でテーブルが違うから、食べる時ははっきり言って対岸の火事だったんだ。 まさかその渦中はここまでもの凄いとは。 「あ、それもーらいっ!」 「甘いっ!!」 目の前のハムロールに伸びた菊丸の手を間一髪で防いでその手を軽くひっぱたく。 ふう、油断も隙もあったモンじゃない。 「痛ってぇ〜。いいだろ一個くらい! もっと食わせろ!」 「あのね、私はまだほとんど食べてないの。逆に菊丸はもう充分食べたはずでしょ!」 「午前中あんだけ勉強して頭使ったから栄養補給しないとやってらんないの!」 「あんまり食べると午後からキツくなるよ」 「まだ食べられるから言ってんだろ。あ、不二それ食わないんだったらもらうよん」 「「あ」」 菊丸は私の隣にいた不二の前から唐揚げを一個取って、止める間もなく口に放り込む。 私は慌てず騒がず自分の後ろに置いてあった水差しから紙コップに水を注いだ。 「…………ってなんじゃこりゃー!?」 「何って、唐揚げだよ。特製チリソース付きの」 「勝手に人が取っといた分食べた罰でしょ、ほら水」 私の手から紙コップを奪い取って菊丸は水を飲み干している。 たぶん付いてる赤いのをケチャップか何かだと思ったんだろう。 不二に言われて作った特製ソース、私は味見してないけどものすごく辛いだろうなというのは想像付く。 作ってもらえる? ってにっこり笑って渡されたレシピを見たときは、 ホントにこれをつけて食べるのかとその紙をじっくり眺めてしまったさ。 「うーえー、まだ口んなかピリピリする〜」 「まぁ丁度良かったんじゃないか。英二はそろそろ食べ過ぎだったからな」 「あ、やっぱりそうなんだ」 こちらは食べ終えたらしい乾が、菊丸の横からノートを取りながら話しかけてきた。 勉強の時とは違うノートだから、噂のデータノートだろうか。 ……全員の食事の量やスピードを計ってたとか? なんだかなぁ……。 「は時間内に食べきるには少しスピードアップした方がいいな」 「ゆっくり食べたほうが消化には良いと思うけど」 「だが、が普段から食べる分量と食休みを入れての時間を考えると、今のスピードで食べきるのは少しむずかしいぞ」 「人の食事量勝手にデータに取らないでちょうだい」 上目遣いでにらみつけてやったら、その隣で菊丸が笑い転げた。 くそう、さっき水を差しだした恩を忘れてるな。 「ってホント良く食うモンな。俺らとあんまり変わんないんじゃねーの?」 「だって食べなきゃおなか空くもん」 「一つのデータとして食べるのが好きな人間は料理上手だというのがあるな」 「あ、それはあるかも。私料理は食べるのも作るのも好き」 「それはあるかもなー。俺も卵料理作るの得意だし。でもは食い過ぎじゃねー?」 「いーのよ。私だって運動部なんだから。いっぱい食べていっぱい動くのが私のモットーよ」 「すっぱり言いきるって所がちゃんらしいよね」 にっこり爽やか不二参戦。彼もどうやら食べ終わったらしい。 ていうかなんか食べ終わった人私の周りに集まってない? 食事の後なんだから食休みしてなさいよ。私からかって遊んでないで。 「だってちゃん達が食べ終わるまで暇だし、キミが一番反応楽しいから」 「ハイそこ、勝手に人の考え読まないように」 「表情見りゃわかるっての。すんげー迷惑そうにしてんだもん」 「失礼だよねー。私は静かにゆっくり食事したいんだってば」 「だからゆっくり食べてる時間はないぞ、」 「あーもーうるさーい!!」 大体今日は勉強会なんだから、勉強しなさいっての。 さっきまでの復習しててもいいし、午後の勉強の予習でもいいから! そう言ったら、3人は 「今は休憩時間だから」 と声を揃えて言った。 そんなところでチームプレーを発揮しなくてよろしい。 「そういやさ、何では苗字呼びなん?」 「は? 何いきなり」 半ば諦めて3人に囲まれつつおにぎりを頬張る。 突然の菊丸の言葉に私は首を傾げた。 「英二って呼ばれたいわけ?」 「違う違う。俺じゃなくて、手塚のこと」 急に自分の名前を呼ばれて驚いたんだろう。向こう側で手塚が顔を上げるのが見えた。 しかしいきなり何を言い出すのか。 「手塚とって幼なじみだろ? なのに何でお互い苗字呼びなワケ?」 「……特に理由はないが」 「んー、なんとなく? 昔っからこうだったし」 手塚も少し首を傾げて答えてる。うん、わかるよ。質問の意図がよくわかんないってことは。 とりあえず、思い返してみてもそうだったと思う。良く覚えてないけど。 「えー、普通さぁ、こう、名前呼び捨てとかあだ名呼びとか……わかるだろ!?」 「…………菊丸が幼なじみという物に幻想を抱いてるのはわかった」 「ちっが〜う!!」 目の前で菊丸が興奮して力説している。 とりあえずテーブルに乗っけている片足をおろしなさい。 まぁつまりは幼なじみという立場の私と手塚をからかってみたくなったんだな。 ちらっと手塚に視線をやり、小さく笑ってこっちはまかせろ、と合図を送る。 こういうのは流すのに限る。手塚まで入ってきたら、菊丸を喜ばせるだけだし。 ま、グラウンド10周でも20周でも明日以降に走らせてあげなさい。 「まぁ菊丸が言うことも一理あるな。幼なじみが同性の場合83%、異性の場合でも57%が成長しても名前呼びだという確率が出ている」 「どっから引っ張ってきたの、そんなうさんくさい確率」 「ホントに小さい頃から苗字呼びだったの?」 「覚えてる限りでは。いいじゃん別に呼び方くらいどうだって」 「よくないっ! 名前呼びは男のロマンだ!」 「……そうなの?」 「さぁ。僕は別に」 「あっ、裏切んのか!? 不二はのこと名前呼びしてるクセに!!」 何か矛先が変わったので、今の内に食事再開。 やっぱり口に物含みながら喋るのはヤだからスピード落ちてたからな。 「僕も呼び方は気にしない方だから。気になるなら苗字呼びに変えるけど」 「…………いや、別にいいや。問題はそこじゃねーし。えっと、そうそう、手塚と!」 もう矛先が戻ってきてしまった。やっぱ簡単には見逃してもらえなかったか。 ていうかこいつらはひょっとして私に昼食を最後までとらせない気だったりするのか。 「お前らってさ、一緒に風呂入ったとか隣で眠ったとか、そういうこっ恥ずかしい話ねーの?」 「菊丸、それ微妙にセクハラ」 「手塚とは幼稚園時代同じ組だったからな。隣で眠る位はあっただろう」 「だからそういうデータはどっから来てんの、乾」 「そうだなぁ……他にも幼なじみだったら、小さい頃に結婚の約束、とか」 「そーそ、そういうの! 不二分かってんじゃん」 「あんたらホントにヒマなんだね……」 付き合いきれないって感じでため息ついたら、菊丸がなんだよーって口を尖らせた。 不二と乾は軽く肩をすくめてる。 まぁ全員が確信犯で遊んでるわけだ。わかってたけどね。 小さい頃の思い出かぁ。 そんなことを考えながらお茶を飲んでいたら、手塚と目があって。 あ、そういえば、って、記憶が、刺激 さ れ て 「ふう、ごちそうさま。それじゃ私勉強中につまむお菓子とか持って来るよ」 「おや、にしては食事の量が少ないんじゃないか?」 「運びながらもつまんでたからね。そろそろ片づけないと午後の勉強にも差し支えるでしょ」 「えー、まだいいじゃん。ほら、さっきの話の続き……」 「全員食べ終わったな。それじゃあそろそろ休憩は終了だ」 話を切り上げようとしたのが分かったのか、手塚が机の上の片づけなんかをみんなに指示し始めた。 結局最後まで食べてたのは私だったらしい。ま、あれだけ話してればね。 大石くん達はまだ残っていたお皿を片づけてくれてる。 不二や乾は、さくっと話を切り替えて教科書なんかを用意してる。 ぶーぶー文句いいながらも菊丸も手伝ってる。 私は一人台所まで行って、今持ってきたのと後ほんの少しの汚れ物を洗う。 今まで運んでいた分はほとんど手塚のおばさんが洗い終えてくれていた。 おばさんにお礼を言って、洗い物を終えた後で、 家で焼いて持ってきたスコーンとクッキーを新しくお皿に盛りつける。 それらの甘い香りで、さっき引っかかった記憶がまた引っ張り出された。 思い出したのは、幼稚園くらいの時のこと。 ウチのお母さんも料理が好きで、その日私ははじめておかしを作って。 私がやったことと言えば簡単なことだけだったけど、できあがった時はとても嬉しくて、 思わず自慢したくなって、手塚に見せに行ったんだ。 そしたら。 『おいしい!』 って。 『すごい』 って褒められて。 それが目当てで行った私の心は、嬉しさと誇らしさでいっぱいになってしまった。 その時から私は料理が大好きになった。いっぱい練習するようになった。 この時言われた言葉と、満面の笑みがとても嬉しくて。……なんて単純な理由。 だけど私にとってはすごく大切な思い出。 「? そろそろ午後の勉強を始めるぞ」 「え!? あ、うん。ゴメン、先行ってて。すぐ行くから」 「…………そうか」 呼びに来てくれた手塚の顔を見れなくて、下を向いたまま手を振る。 手塚が部屋の方に戻って行ってから、素早く手持ちの鏡で顔の赤みがひいたのを確認。 少しでも隙を見せたら、あの連中は勉強を放り出してでもからかいに走るだろうから、油断は出来ない。 私の武器は、全員まとめて 「とってもおいしい」 と言わせる自信のあるお菓子類。 さぁ、本日のお味はいかがですか? *あとがき* まず最初に菊丸くんファンの方ゴメンナサイ。 なんだか書いてるウチにどんどん壊れていってしまった……。 「お弁当会談」後日談。勉強会当日。 書きたいなと思いつつ、もやもやとしていただけだった物が形になって少しすっきり。 2005.01.28 伊織 <<戻る |