*それは日だまりのようなモノ*






 大切な事ってのは無くなってから気付くことが多いと思う。


 普段は身近にありすぎるから、あって当たり前っていうか。
 無くなってはじめて、 「あ、アレって大切だったんだな」 ってわかるというか。

 例えば、友達との挨拶とか、部活で良いタイムが出たときの嬉しさとか

 いつも通る道に咲いてる花とか、学校帰りに飲むジュースがおいしいこととか。

 まぁつまりは日常ってのは大切なことの寄せ集めなんじゃないかなー、と私は思うわけ。

 で、結局何が言いたいのかというと、
 健康って大切だよなー、と今しみじみ思ってるんだって事なんだけど。

 手塚はどう思う?




「独り言は終わったか? 


 見上げてくるに、隣に座っていた手塚は持っていた本を閉じて視線を合わせた。


「何その気のない返事。っていうか返事にすらなってないじゃん。人の話はちゃんと聞きましょうってちっちゃい頃教わらなかった?」
「俺がさっきから言っている 『病人は静かに眠っていろ』 という言葉は、いつ聞き入れてもらえるのか聞きたいな」

「そりゃね? 帰り道にいきなり母さんに捕まって私の見張りなんか頼まれたら、ヤな気分にもなるだろうけどさ? 話くらい聞いてくれても良いじゃない!?」
「大声を出すな」

「まぁただの風邪だし。ほとんど治ってるし。明日は学校に出れると思うし? あー、早くみんなに会いたーい!」
「健康が大切だというなら、ちゃんと安静にしていろ」


「…………なんだ、聞いてんじゃん」




 振り上げて布団から出たの腕を手塚は溜息をつきながら布団の中に戻してやる。
 まだぶつぶつと口の中で文句を言っていたも、そのまま静かに瞳を閉じた。

 昔からそうだった。
 この幼なじみは、変なところで意地っ張りで、
 病気や怪我をすると、必要以上に大丈夫なように振る舞って。
 そのくせ、見舞いの客が帰ってしまうと落ち込むのだ。
 やはり、病は気を弱くさせるらしい。

 確かに、手塚がここに来たのはの母親に帰り道であったのがきっかけだが、
 が言っていたような見張りとかではなく、本当は見舞いに来たのだけれど。




「お前がいないだけで、ここ数日はやけに静かだった」
「悪かったね、いっつもやかましくて」


 手塚の言葉には薄目を開いて睨み付けるが、
 くしゃ、と髪をかき混ぜる手の温かさに、ゆっくりと眠りに落ちていった。

 寝息を立て始めたに、我知らず手塚は小さく笑みを零す。
 明日からはまた元気な幼なじみの挨拶が朝から聞けるだろうと想像しながら、
 先ほど閉じた本を再び読み始めた。





*あとがき*

健康って、病気になってから改めて大切だな、と気付くモンだと思うのです。


2005.04.15 伊織




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