不二家 妹 小学2年生 −おつかいと えがおと おくりもの−


 今日は裕太兄ちゃんの誕生日。

 私はひとり、裕太兄ちゃんの住んでいる寮まで来ていた。

「じゃ、まあ、散らかってるけど、どうぞ」

 裕太兄ちゃんはどこか気恥ずかしそうにして、私を招き入れる。

「おじゃまします」

 なんだか緊張する。
 うーん、ここが裕太兄ちゃんのすんでる部屋かあ。

「………………」

 私は部屋をみわたした。
 むん。なんというか。その。

「ここが男の人の部屋なんだね」

「どこでそんな言いまわしおぼえてきた、

 裕太兄ちゃんは、持ってきた麦茶をテーブルにどんっ、とおいた。





「え、でも、なんだかウチとにおいがちがうなって」

 私はきょとんとした。
 なにかへんなことを言っただろうか。

「あ、ああ………におい、な。たしかにそうかもしれないな」

 べつに、汗くさいとかそういうんじゃないんだけど。
 なんていうか、そう。
 別の家なんだよなあ。

 へんなの、裕太兄ちゃんがいつも寝たりしてるところなのにね。
 それがなんだか新鮮で、でもちょっぴりさみしかった。



 私は、メモに書かれたことづてを読み上げる。

「えっとね、まず由美子お姉ちゃんから伝言。
『急に取材のお仕事が入ってキャンセルできなくなっちゃった』って。」

「あー、姉さんも大変だよなあ。
占い師として売れてるのはいいんだけど、
働きすぎて倒れたら一大事だかんな。
から、そんなことないようにいっといてくれよ」

 メモの二枚目。

「あと、周助兄ちゃんが」

「あいつはいい」

 止められて、私はちょっと困った。

「でも、いいの?」

「いいんだよ。おおかた、テニス部の用事かなんかだろ」







 うーん。
 私はちょっと困ってしまったけれど、まあ、裕太兄ちゃんがいいならいいか、と思った。

 それから、裕太兄ちゃんとゆっくり話した。

 ふだんは電話でちょっとしかはなせないからね。

 さいきんの家のこと。学校のこと。
 他愛もないことばかりだけど、裕太兄ちゃんはとてもうれしそうに話をきいてくれた。






「あ、そろそろ門が閉まるな」

 もうそんな時間?

 時計を見て、急にいつもの時間にもどされた気がした。

 裕太兄ちゃんといると、時間が特別な速度で進むみたい。

、遅くならないうちに帰れよ。夜道はあぶないんだから」

「えー、もうちょっと裕太兄ちゃんとはなしてたいよ」

「だめだ。はなしだったら、電話でもできるだろ?」

 裕太兄ちゃんはやさしく私をさとす。
 うーん。
 裕太兄ちゃんや、寮の人たちに迷惑はかけちゃいけないよね。
 私はなごりおしいけど、なんとかふんぎりをつけた。












「おじゃましました」

 寮の人たちにあいさつをする。
 みんないい人で、また来てね、と言ってくれた。

 ここは私の家じゃないけど、すごくあったかい。
 裕太兄ちゃんの家。もうひとつの家。
 いいなあ。私も住みたいなあ。
 あ。でもそうすると、
 周助兄ちゃんと由美子お姉ちゃんは、どうするんだろ?



、むかえにきたよ」

 玄関に行くと、そこには周助兄ちゃんがいた。
 由美子お姉ちゃんも。車で来たんだ。

「裕太、お誕生日おめでとう。これ、気に入ってもらえるといいんだけど」

 そういって由美子お姉ちゃんは、一抱えもするプレゼントを差し出した。















「うわ、ありが………姉さん、これ何」

「クマのぬいぐるみ。かわいいでしょ」

 由美子お姉ちゃん………
 一抱えもするクマのぬいぐるみを、男の人が、寮で、どこに飾るというの。





















「それから、これも」

 由美子お姉ちゃんからもうひとつ差し出されたのは、さっきよりもいくぶんか小さい包み。

「あ、これは?」

「洋服。裕太に似合いそうなもの、選んだんだけど……気に入るかしら?」

 包装を開けると、動きやすそうで、裕太兄ちゃんにぴったりの服が。
 デザインもかっこいい。裕太兄ちゃんはすごくうれしそうに笑った。

「ありがとう」
















「で、次はボクの番」

「兄貴はいいや」

 そういって裕太兄ちゃんはそのまま寮の部屋に帰ろうとする。

「ま、待って。裕太兄ちゃん」

 ひきとめたのは、私だった。

「………なんだよ、?」

「あの………これ」

 私は周助兄ちゃんからそれを受け取って、裕太兄ちゃんに渡す。















 裕太兄ちゃんは面食らって、それを受け取る。
 包みを開ける裕太兄ちゃん。

「………これ」

 中には、木彫りのオルゴール。
 手作りだから、ちょっと不格好な天使が、
 雪景色の中で踊っていた。

 どうしても天使の羽がうまくくっつけられなくて、
 専用の接着剤を買いに行くために、周助兄ちゃんは今日、遠くのお店まで行っていた。
 だから、今日はこられなかったのだ。

「あのね、周助兄ちゃんといっしょに作ったの。
うまくできなかったかもしれないんだけど」

「いや………そんなことない。
うれしいよ、

 ありがとう、と裕太兄ちゃん。

 よかった。喜んでもらえた。
















「兄貴も。ありがとな」

 すこし照れたようにして裕太兄ちゃんは言った。

「ううん、どういたしまして。誕生日おめでとう、裕太」

 周助兄ちゃんも、うれしそう。
















 はたからみてると、この二人って。
 なんだかすごくぶきっちょだなあ。
 二人ともうまくはなせれば、
 もっと仲のいい兄弟になれるのにね。

 でも、私もひとのことは言えた義理じゃないっていうのはわかっているので、
 そのことを言うのはやめておいた。










「裕太兄ちゃん、誕生日おめでとう」
 今日一番の笑顔で言えたかな?












「ね、ところで裕太」

 周助兄ちゃんが帰り際に一言。

「せっかくだから、今日はこっちに泊まってもいいかな?」

「やめてくれ」



 だから、周助兄ちゃん。
 そういうことを言わなきゃいいのにね。




















*あとがき*

裕太誕生日! ということで、
おーめーでーとーう!! ドリーム? (半疑問系)です。

よいですね、誕生日。
二月十八日、バレンタインデーと四日違い。
ファンのコは二月が大変ですね。

奇しくも兄と一緒の月にうまれてしまったあたり、運命なのでしょうか。
閏年の兄とは印象の残り方が………
………だいじょーぶ裕太、あっちは四年に一個しか年をとらないんだから、
すぐに上になれるはずさ! (あるいみ精神はもうすでに上になってるとも)

2004.02.18 石蕗 柚子



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