なによりも、その気持ちがいちばんの贈り物。



    不二家 妹 小学2年生 −まっしろなきもち−




「ホワイトデーってホワイトチョコを贈るからホワイトデーなのかな?」

 部活が終わり、部室で着替えをしながらおもむろに訊いてきた不二周助に
 乾貞治はおののいた。


 ―――不二周助が真剣に訊いている確率87%………!!


「乾、どうしたの?」
「い、いや……ホワイトデーの語源には諸説あるが……誰かに贈るあてでもあるのか」
「うん、妹がバレンタインデーにプレゼントをくれてね。なにか贈り物をしようと思ったんだけど」

 妹と聞いて乾はああ、なるほどとうなづいた。

「それで、バレンタインにはチョコレートって言われているけど、
ホワイトデーはホワイトチョコなのかなって。違うのかい?」
「いや、特にそういったきまりはないようだ。
最近では名前にかけてホワイトチョコを贈る男性もいるようだが」
「そうなんだ。じゃあ、これといったものはないのかな?」
「そうだな……」

 乾は少し宙を見つめてから説明した。

「たとえばクッキーや飴玉、マシュマロなどはそれぞれ意味がある贈り物だと言われるが」
「意味?」
「ああ、それぞれに『義理』『友達』『本命』などの意味をもたせているらしい」

 乾が言うと、不二は興味深げに訊いた。

「へえ。どれがどういう意味なんだい?」
「……困ったことにそれは製菓業界のそれぞれの争いもあってはっきりとした区切りはないんだ。
また、ハンカチなどの後に残る物を一緒に渡すと喜ばれるなどのデータもあるな」
「……なんだかむずかしいんだね……困ったな」

 眉尻を下げる不二に、乾は口の端を上げて言った。

「なに、結局のところは厚意には厚意で返せばいい。
なにか気持ちのこもった物をあげれば喜ばれるんじゃないか?」
「そうか」

 そうだね、と不二。

「ありがとう、乾」
「どういたしまして」

 晴れやかに微笑んで部室から出る不二を見送った乾は、
 さて、とひとりごち、

「不二周助が、ホワイトデーの贈り物で悩む……か。これは良いデータがとれたな」

 ニヤリ、と笑うのだった。







「ホワイトデーってホワイトチョコ渡すんじゃねえのか?」

 弟がそう訊いてきたとき、さすがに兄は苦笑するしかなかった。

「………なに笑ってんだよ」
「いや………ボク達って兄弟だな、と思って」
「なんだそりゃ」

 憮然とする弟に、兄は特に何も言うでもなく微笑んで事を済ませた。



 繁華街。
 不二周助と不二裕太は妹・のホワイトデープレゼントを買いに来ていた。
 大抵の物は揃う店の並びの中で、ある店を指して兄は言う。

「あ、あの店。いいんじゃないかな」
「ちょっとまて」

 肩をつかまれ、ん? と振り向く兄。

「宝石店はないだろ兄貴」

 でも、とまだ何か言いたげにしている兄に、裕太はゆっくりと言い聞かせた。

は、まだ、小学生だ」

 あんまり高価な物はダメだろ、と。



「………うーん………あ、じゃああの店」

 そう言って今度兄が指さしたのは、
 なんとも可愛らしげなぬいぐるみがウィンドウに鎮座しているファンシーショップだった。

「裕太、どうしたんだい固まって? ほら、行こうよ」
「あ、兄貴が一人で入れよ…」

 男だけで入るにはかなりの勇気を要する店構えに、躊躇して裕太は言った。

「え、でもいいのかい? 裕太も見なくて」
「う………」

 裕太は悩んだ挙げ句、言った。

「な、なんかよさそーなもんあったら教えてくれよ。オレもあとで行くから」

 そうだそれがいい、と裕太。

「………いいの、本当に? へのプレゼントだよ?」

 最愛の妹の名。
 リーサルウェポン、伝家の宝刀を出された裕太は、
 大いに揺らぎ、そして結論を出した。

「…………入るぞ…………!」

 まるで敵討ちに行くかのような気合いの入れようである。

「はいはい」

 対して兄は、柳に風であった。







「おかえりなさーい。あれ、裕太兄ちゃんがいる」

 所かわって不二家。
 が出迎えたとき、裕太は何とも言えず嬉しそうな顔をした。

「今日はうちにとまるの?」

 期待しては訊いたが、裕太は答えた。

「いや、どうしても明日ははずせない用事があるから…」

 言いながら、心底残念そうである。
 は小さく「そっか……」とつぶやくと、明るく笑った。

「じゃあ今日はできるだけおはなししよう」

 周助兄ちゃんも一緒にね、と付け足した。







 幸せな時間はとても早くすぎていく。

 今しかない時を惜しめば惜しむほど。



、これホワイトデーのプレゼント」

 二人の兄に同時に渡され、は面食らった。
 の手にもすっぽりと収まる大きさのプレゼントだ。
 小さいながらも可愛らしいリボンがついている。

「あけていい?」

 訊ねるに、兄たちはうなづいた。


 包みを開けると、は感嘆の声を漏らした。

「かわいい!」

 小さな箱の中から出てきたのは、ウサギのぬいぐるみのマスコット。
 のお気に入りのぬいぐるみによく似ている。

「選んだのはボクね」

 いけずうずうしく言うのは一番上の兄。

「見つけたのはオレだ」

 すでに予測していたように言うのは二番目の兄。

 は楽しそうに笑って言った。







「周助兄ちゃん、裕太兄ちゃん。

ありがとう」







 はふっと静かになり、おずおずと前に出る。

「あのね、お礼があるの」

 大きな声では言えないんだけど、と口のまわりに手を当てる。
 兄たちはなんだなんだと耳を近づけた。


 その拍子に、
 兄たちの頬に軽いキスをした。


「私の、感謝のきもち」







「………今日、お風呂に入れないかもしれないや」

 一番上の兄はのたまった。

「………ううん、はいった方がいいと思うよ」

 は冷静に忠告した。



「………裕太兄ちゃん?」

「………………!!!」

 裕太は口づけされた頬をおさえて感極まっている。
 一番上の兄は言った。

「…じゃ、そろそろ寮に帰った方がいいんじゃない?」
「コラ、兄貴ちょっと待て」







 一ヶ月遅れの、ありがとう。

 一番の贈り物は、その気持ち。







*あとがき*

ホワイトデーです。
春はいいですねえ………。(ほのぼの)

ヨーロッパではバレンタインデーの日に男女関係なく贈り物をするので
ホワイトデーというのはないそうです。

ホワイトデーの語源には本当に諸説あります。
とりあえずのところ純真をあらわす白からきているというのが有力だといえるのでしょうか。
砂糖の白からきているという説もあり。ロマンチックじゃない……

どうも裕太兄の背中が見えなくなってきました。
場所的には周助兄と同じハズなのですけれど。
や、やりすぎじゃないです?


2004.03.14 石蕗 柚子




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