不二家 妹 小学2年生 −おだいりさまとおひなさま− ちょっと前までお正月だった気分が、雪解けと共に消えてゆく。 春の訪れ。 雪解け水のにおいが、学校にむかう道で薫っていたのは、もうだいぶ前。 梅は咲いたぞ、桜は、もうちょっとしたら、ね。 「ひなまつりって、ちょっと悲しい音楽じゃない?」 友人のが突拍子もないことを言うので、朝から呆けるハメになった。 「………ああ。うん、まあそうかもしれないけど」 急に何を言うのか。 「ね? そうだよ。 おだいりさまとおひなさまはぜったい不倫してるね」 なぜそんな話になるのか。 ちょっと最近がわからない。 ま、なにはともあれ。 スーパーやデパートなんかでは、BGMに『ひなまつり』が流れる時期。 すっかり雛祭りムードなのだった。 ■■■ 授業が終わって、家に帰ると、そこには裕太兄ちゃんがいた。 今日は久しぶりにうちに泊まるみたい。 嬉しくって、いろんなお話をしていると雛祭りのお話になった。 「おひなさまって、なんで飾るんだろう?」 「え? えーと……」 素朴な疑問だった。 裕太兄ちゃんはちょっと考え込むと、こたえた。 「………可愛いからじゃねえのか…?」 お兄ちゃん、それは結果。 私が言っているのは理由だよ。 私がふにおちない顔をしていると、横から周助兄ちゃんが言った。 「三月の上巳の節句は、女の子の幸せを祈る日だからね?」 そっか。じゃあ、こういうことかな、と思った。 「女の子のためのお祭りなんだね」 「うん、そういうことになるかな」 周助兄ちゃんは微笑んで言う。 「でも男の子は?」 「え、それは五月にあるだろ?」 裕太兄ちゃんが当然のように言う。 私はびっくりして反論した。 「ええ? だって五月にあるのは『こどもの日』でしょう? 男の子だって女の子だって、こどもだよ?」 「あ………あれ?」 裕太兄ちゃんは二の句をつげなくなってしまって、困る。 「うん、それは昔から決まってたことだからしょうがないかな」 周助兄ちゃんが眉を下げて言う。 私は、ちょっと憤った。 「昔の人は女の子をちょっととくべつあつかいしすぎだよ」 「それはともかく。ひなまつりには雛人形を出すよね?」 周助兄ちゃんが話題を変えた。 私はまだちょっと言いたいことがあったけど、それをやめた。 雛人形。おひなさまか。 「今日、学校の帰り道でにそっくりな雛人形を見つけたんだけど」 「へ?」 私はすっとんきょうな声をあげた。 周助兄ちゃんはなおも言う。 「ちょっと高いんだけど、買いたいなって思って。どうかな、姉さん」 周助兄ちゃんがとなりの部屋にいる由美子お姉ちゃんにむかって言った。 「………あら、うちにはもう七段の雛人形があるじゃない」 由美子お姉ちゃんはどうやらファッション雑誌を読んでいたみたい。 そうだ、そういえばうちにはもう雛人形があったっけ。 「うーん……でも、すごくそっくりだったんだよ」 周助兄ちゃんはまだ食い下がる。……そんなにそっくりだったのかな? 「そうだよな………兄貴、たまにはいいこと言うな! どうだろ姉さん、その七段飾りは姉さん用として、 用にもうひとつ雛人形買ってもいいんじゃねえか?」 ゆ、裕太兄ちゃんまで! 「もう………うちだって、そんなになんでも買えるうちじゃないのよ?」 由美子お姉ちゃんは困った顔をした。 「でも意外ね? 周助たちだったら、むしろおひなさまを出さずにおこうとか言い出すんじゃないかと思ったわ」 由美子お姉ちゃんが微笑む。 なんでだろ? 私がそんな顔をしたんだろう、こう説明してくれた。 「ほら、よく言うでしょ? 雛人形をださなかった家の女の子は、お嫁に行くのが遅くなるって」 「兄貴、やっぱ買うのやめよう」 裕太兄ちゃんが即座に言った。 おだいりさまとおひなさま。 私も、おひなさまのように。 いつか、どこかのだれかと。 ふたり、ならんで。 ■■■ 「おだいりさまとおひなさまは浮気してなかったのよ!」 学校の帰り道。 がまたよくわからないことを言うので、私は頭が痛くなった。 またなにを言い出すのか。 「………そう、よかったね」 私はお茶を濁す。しかし、の話はそれで終わりではなかった。 「うん、でもね! わかっちゃったの! クラスの男子がよく替え歌うたってるでしょ、ほら」 ああ、あのなぜかおひなさまがバクハツする替え歌ね? 「あれよ! あれはきっと、じつは昔本当にあったことなのよ! だから、おだいりさまとおひなさまは永遠の世界で愛し合うの! ああっ!! なんて悲しい歌なのかしら」 …………… ……………空が青い。 息をもらすと、空気が、小さく軽く、飛んだ。 今日は楽しいひなまつり。 *あとがき* ひなまつりです。 女の子のお祭りなのです。 テニプリ三人娘のシングル、買います。 むしろ朋ちゃんのために!! いや。女の子はみんな好きですよ。杏ちゃんも桜乃んも好きですよ。 いい。 女の子はいい。(重複による強調) 以上、どうも女の子のことになると見境がない石蕗柚子でした。 2004.03.03 石蕗 柚子 戻る |