小さな世界。
 それがなくなるのにはちょっとした理由がある。


  不二家 妹 小学2年生 −滅亡する世界−




 それをうけとって数秒経ってから後悔やいろんな気持ちがふってきた。

 テストの答案にはマルばかりだった。
 ただそのマルというのは一番上、名前欄の横にもあって
 つまりそれは 『正解』 という意味ではなくて
 数字の 『ゼロ』 ということなのだったけれども。

 驚異の0点答案というものをTVや漫画の中ではなくて
 そこにあるものとして初めて目にして友人のは多少興奮気味だった。
 パニックだったのかもしれない。
 それからなんとかして 「どうして?」 という疑問を持つまで数分。
 回答欄はすべて正解だ。


「名前をかきわすれたの」


 答案にはかならず名前を書くこと。
 それは担任の教師が毎回言っていたことで、落ち度はにあった。

 誰にでも間違いはあるもの。

 けれどもそういったときになにをするといいのか、
 『間違わないこと』 ではなくて 『間違ってしまった後』 にどうしたらいいのか、
 それがわからなくては途方に暮れた。

 こんな場合じゃないんだよね。




 せめてあとにあとにしようとして
 は家に帰ってから机の総入れ替えをした。
 うさぎの消しゴムも未開封で束になったままの鉛筆も前とは違う棚にある。
 そして一番大きな棚の中に 『それ』 を入れた。

 だからどうなるわけでもない。
 わかっているのだけれど。




、具合悪いの?」


 夕食時に母が声をかけた。
 好きなはずのおかずに少しも口をつけていないことが気にかかったらしい。
 人一倍妹好きの兄もどうやら気になっていたらしく薄目を開けて耳を傾けた。
 姉はなにか察しているのかいつもの調子のまま。


「ううん、だいじょうぶだよ」

「なにか悩み事でもあるのかい?」

「ないよ」


 はあきらかにおかしい様子だが強情になにもないというので
 そこまでいうのなら、と母と兄はひとまず退いた。


「そうだ、そういえば」


 せめて夕食は楽しくしようと兄は話を変えた。


、前にたしかテストが近いって言ってたよね」


 カシャン、とお碗が落ちて熱い汁がの腕にかかった。


「だ、大丈夫!?」


 家の者全員が騒然となっているのをはいっぱいいっぱいの頭で認識した。


「やけどしなかった? 怪我しなかった? お兄ちゃん何か嫌われるようなことしてた!?」

「周助、ちょっと多いわよ」


 はうん、うん とうなづくのに精一杯。

 そのあとのことはよく覚えていなかった。




 ―― 布団の中にもぐりこんでみても事態は解決なんかしないのに。







 翌朝、寝ぼけた頭でただ一言いうだけで済むことなのに。
 全部解ってしまった兄も
 最初から察していた姉も母もそれを快く許してくれるのに。
 その夜、は取り返しのつかないことをしてしまったと感じているのだ。
 それだけでまるで世界が滅亡してしまうかのように。
 そして自分の力不足を恥じて世界中に謝罪してしまうのだ。

 ただ 『世界』 が望むことは
 これからも元気なままで夕食を食べて
 次に答案を書くときは名前の欄を書き忘れないことなのにね。





*あとがき*

ひさしぶりの妹ドリーム。
ちょっと前と、自分の文体というか、長さがずいぶん変わってしまっているなと思いました。
今回は少し短めです。

2005.01.07 石蕗柚子



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