不二家 妹 小学2年生 −すなおになれたら〜すれちがい〜−



「裕太、裕太ー!! 荷物届いてるだーね! なんかチョコっぽいだーね!!」

 2月14日。聖ルドルフ寮。
 昼頃、柳沢が騒がしく裕太の所までやってきた。
 裕太はちょうど昼食を食べていたところで、ものを飲み込みかけたところだったので、
 軽くむせながら振り返った。

「あ、ありがとうございます、柳沢先輩」

「なあ誰から、誰から?!」

 完全に野次馬状態で興奮しきりの柳沢に、遠くの席から観月がとげとげしく言い放った。

「なんです騒々しい。今はランチタイムですよ。たかがチョコくらいで。まったく下賤な」

「たかがとはなんだーね!! バレンタインでチョコといったら、落ち着いてなんかいられないだーね!」

「だからその安易な発想が下賤だというのです!」

 だいたいバレンタインデーというものは、と観月がバレンタインデーの歴史から説明しはじめたとき、
 裕太が「あれ」と声をあげた。

「これ、妹からです」

「妹……」

「ああ、ちゃんだーね?」

 一度会ったことのある柳沢は、幾分落ち着いた様子で言った。

「いいなー……バレンタインデーにチョコをくれる……オレもそんな妹がほしい」

 柳沢はあさっての方向をむいて言った。こころなしか目に涙が浮かんでいたような気もする。
 裕太は、そこのところばかりは丁重に視線をずらし、包みをあけた。

「………あ」

「どうした、裕太?」

 柳沢がのぞき込む。かたまった。
 なんだなんだ、と昼食をとっていたみんながやってくる。

「あちゃ、これは」

 野村がつぶやいた。やってしまった、というかんじだ。



 チョコは、ハート形。ホワイトチョコで書かれた『いつもありがとう』の言葉。
 そしてそのハートは、キレイに、とてもキレイに。



 割れてしまっていた。





 依然かたまったままの裕太に、木更津がとどめを刺した。

「ご愁傷様」

 輝かんばかりの笑顔で。

「いや……これ、もともとこうなってたわけじゃないよね?」

 その横で野村がフォローらしきものを入れる。

「そう………だと、思います」

 多分、と裕太。

 ─── わかってる。わかってるよ。きっとオレの取り越し苦労だろうってことくらいは。
 ただ、今はそっと、一人にしておいてくれ……



 そして、
 電話口から、「ごめんなさい!!」と可愛らしい謝罪の声が聞こえたのは、そのしばらく後であった。
















 ・今日の教訓:割れ物を郵便に出すときには、きちんとショック材などを入れておきましょう。




















*あとがき*

バレンタインデー、後日談。
後日というか当日ですけれども。
がんばれ裕太兄。
ルドルフ寮は不二家からどれくらいの距離なんでしょうね?
歩いていけるくらいの距離ならば、郵送もしないかな、と思ったのですが。
しかし歩いていける距離ならば兄が部活帰りに通ってしまいそうな気もします。
(そしていやがられる)

2004.02.14 石蕗 柚子



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