ウェブ拍手用 ミニSS

【おうちにおともだちがきた】




「………おじゃまします」

 夕暮れすぎ。
 そう言って家に入ってきたのは
 バンダナをした、ちょっと目つきのこわい男の人だった。

「………ここがセンパイのうちっすか」

 周助兄ちゃんは、にっこり笑ってこたえる。

「うん。何もない所だけど、ゆっくりしていってね」

 いけしゃあしゃあとこの兄は。

 いくら小学生の私でも、うちが、ごく一般のお家とは違うことくらいわかっている。
 なにもないはいいすぎだ。シャンデリアくらいしかありませんけど、だ。
 そんなこといわないけど。

「あ、妹さんですか」

「うん。ボクの妹の、あいさつは?」

「はじめまして。不二です」

「いえ、ご丁寧にどうも。自分は海堂薫。青春学園2年でテニス部をやらしてもらってます」

 うひゃあ、これまた丁寧なお兄ちゃんだなあ。
 かおるお兄ちゃんかあ。










「………自分の部屋があるのか」

「うん。たけしお兄ちゃんにかわってるって言われちゃった」

「………まあアイツんとこも兄弟が多いからな」

 かおるお兄ちゃんはたけしお兄ちゃんの名前を聞いて、すこし顔をしかめた。
 あれ? あんまり仲よくないのかな?








「……………あ」

 かおるお兄ちゃんは、つぶやいてある一点に目を留めた。
 それは私のぬいぐるみ。

「あっ。これ、すごいでしょう? 本物のネコさんみたいなの。
 まえに由美子お姉ちゃんに買ってもらったんだ」

 まるで生きているようなネコのぬいぐるみ。
 さすがに動いたりはしないけど毛の一本一本まで植えられている
 手の込んだぬいぐるみなので、ちょっとふつうのぬいぐるみよりも高かった。

「………………っ!!」

 私はそのぬいぐるみを持ってきて、かおるお兄ちゃんに見せた。

 ………なんだろう? かおるお兄ちゃん、なにかをすごくガマンしている。

「………どうしたの?」

「い、いや! どうもしねえよ」

 あきらかにどうかしているかおるお兄ちゃんはチラッチラッと私のぬいぐるみをみる。

 ………もしかして?




「かおるお兄ちゃん。もしかしてこのぬいぐるみ、ほしいの?」

「なっ、バッ、そっ!! そんなんじゃねえよ!!」

 ………そうか。そんなにほしいんだ。

「うーん。あげるのは由美子お姉ちゃんにわるいから、むりだけど………
 ほら、さわるくらいならいいよ。このぬいぐるみ、すごくさわりごこちがいいんだ」

「だ、だからべつにほしくなんか……!

 ………さ、さわっていいのか?」


「うん。はい、どうぞ」

 ぬいぐるみを渡すと
 かおるお兄ちゃんは、とてもうれしそうにぬいぐるみをなでた。
 ああ、とってもしあわせそう。
 なんだか、このぬいぐるみ、あげちゃってもいいような気がしてきた。


「ハハッ、ハハハッ。なんだかホンモンのネコみたいだな」

「そうでしょ? このヒゲのところなんかね……」

 そのとき後ろになにか気配を感じた。







「………周助兄ちゃん」

「不二先輩!!」



「………………たのしそうだね海堂………………
 も…ああ! べつにいいんだよ。ほら、そのネコのぬいぐるみで遊んでて」

 なんだかうちひしがれてる周助兄ちゃんはボソッとひとこと言うのだった。

「海堂………じつは可愛い物好きか………」


 かおるお兄ちゃんは一人、後悔にさいなまれるのだった。




*あとがき*

海堂受難の巻。

動物好きの人は可愛い系のぬいぐるみよりもリアル系のぬいぐるみが好みだそうです。
ぬいぐるみだと、いいですよね。海堂も逃げられたり咬まれたりしなくて。


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