ウェブ拍手用 ミニSS

【おうちにおともだちがきた】




「ウィース。おじゃましまーす。
 ひゃあッ、ここが不二先輩の家っすか!
 すっげー! 広ぇー!」

 ばんごはんのちょっと前。
 そうやってさわがしく家の中に入ってきたのは
 つんつん頭の元気そうな男の人だった。

「お、この子が不二先輩の妹さんっすか?
 はじめまして! 不二先輩と同じテニス部の後輩で
 桃城武でっす!」

「はじめまして。不二です」

 ふかぶかとおじぎをする。
 あいさつはきちんしないと由美子お姉ちゃんにおこられちゃうからね。








「おっ、ちゃんには自分の部屋があるのかー。
 いいなあ。家の弟たちなんか一緒の部屋だぜ?」

 そうなんだ。

 私は他のおうちとくらべてちょっといい環境で暮らさせてもらっているみたい。
 それは本当に幸せなのかどうなのかはさておき。

「な、な。ところでちゃん。
 ここだけの話なんだけど………」

 たけしお兄ちゃんは声をひそめて私の方によってくる。

「不二先輩ってお家ではどんな感じ?」

「え、どんなって………あんな感じです」

 そういってキッチンでなにか用意している周助兄ちゃんを指さす。

「そうじゃなくって。ほら、彼女とか……
 女の人から電話かかってきたりとか、しない?」

「えぇ? えーっと………」

 周助兄ちゃんに彼女?
 そんな。あんなひとの毒牙にわざわざかかりにいく女の人なんているんだろうか。
 いたとしたら速攻で女の人を説得するけれど。

「たぶん……いない、とおもいます」

「そうかー………くっ」

 そんなくやしそうにしなくても。









 なんだろう。たけしお兄ちゃんは周助兄ちゃんの弱みでもにぎるつもりなのだろうか?
 たしかにあの人の弱みをにぎれたなら、そんなにたのしいことはないだろうけども。

「そうだ! じゃ、ちゃん。お兄さんのベッドの下とか調べてみてくれる?」

「ベッドの下?」

 急によくわからないことをいわれて私はすっとんきょうな声をあげてしまった。

「わわっ、ちゃん! シーっ、シーっ!」

「ボクのベッドの下がどうかしたかい?」

「うわっ、不二先輩!」

「ちょうどよかった。おなか空いたろう? 桃城。これボクの手作りだけど食べてみてよ」

 そう言って周助兄ちゃんがたけしお兄ちゃんに渡したお皿の上には
 鳥ササミのワサビマヨネーズ和えサンド
 辛子明太子ポテトサラダサンド
 ローストビーフサンド(マスタード30倍)が。

 それは周助兄ちゃんの大好きな激辛サンド三拍子だった。












「………オ…オレ、辛いのあんまり好きじゃないんで」

「まあそう言わずに。ボクからの気持ちもよーく塗っておいたからさ」

「塗って?!」

 ああ、ワサビのにおいがツンとする。


 私の止める声もきかず周助兄ちゃんはたけしお兄ちゃんに無理矢理それを食べさせる。

 声にならないたけしお兄ちゃんの叫び。


 ああ。

 たけしお兄ちゃんごめんなさい。

 こりずにまたおうちにきてね。



*あとがき*

桃ちゃんの受難。

激辛サンドイッチ三重奏は、10.5巻・不二のお弁当からでした。
オニオン・レタス・トマトのサラダサンドは案外おいしそうですよね。
たまねぎが辛いのか。

激辛フルコースの激辛サンドイッチ、あれはやりすぎだと思います。
具が香辛料だけって。ちょっとそれは、あの。


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